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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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13/17

声の主

煙の中で、笑い声がもう一度だけ響いた。


「やっぱ配信、面白いね」


……軽い。余裕がある。

“こっちが必死だって知ってる”声だった。


若い男が震えながら言った。


「それ、俺じゃない。マジで……!」


女が即座に周囲を確認する。

屋根上は煙で見えない。倉庫街の路地は音が反射して、方向が掴みにくい。


管理局の男が低く言った。


「声の発信源を探せ。近い。……この距離で言えるなら、視界にいる可能性がある」


宮本さんがタブレットを握りしめたまま、俺のスマホ画面を見る。


《遅延:00:30》

《イベント保護:有効》


「遅延が落とされた。敵が“今”を見てる」


俺の喉が乾く。

セーフモードに逃がしても、敵は追いついてくる。


そのとき、バンの中の“工作端末”の一台が、ピロン、と鳴った。


女が反射で端末を掴む。


「……通知」

画面には、短いテキスト。


「撤収。証拠は捨てていい。

配信者だけ追え。

――黒田」


黒田。

さっき現場班が吐いた名前。


管理局の男が、即座に言った。


「その端末、回線生きてるか?」

女が頷く。

「生きてる。……VPNっぽいけど、今なら繋げる」


宮本さんが歯を食いしばる。


「遅延を落としたのも、そこ経由かもしれない。運用権限じゃなく、配信者端末の“設定”を奪ってる可能性があります」

「奪ってる?」

「ログインセッション。認証トークン。……要するに、あなたの枠に入る“鍵”を持ってる」


鍵。

また出た言葉が、胃の奥を冷やす。


女が端末の通知履歴を開いた。

そこに“音声”が一件、残っていた。


再生ボタン。

女の指が止まる。


「……さっきの声、これだ」


女が押す。


スピーカーから、同じ声。


「やっぱ配信、面白いね。

君、隔離とか煙とか、いい反応する。

——壊れる寸前が一番きれいだ」


背筋が凍る。

冗談みたいに軽いのに、言葉が刃だ。


管理局の男が、氷みたいな声で言った。


「……黒田だな」


女が端末を掲げる。


「ここに発信元が残ってる。通話履歴もある」

管理局の男が言う。

「かけろ。今すぐ。録音しろ」


宮本さんが青い顔で首を振る。


「通話したら位置が割れる可能性が——」

「逆だ。こっちが割る」


管理局の男は迷いがない。

俺はスマホを握り、遅延が30秒のままなのを思い出す。


……敵に見られてる。

でも、ここで逃げるだけなら、また同じだ。


女が通話ボタンを押した。


——ツー、ツー。


一回で繋がった。


「はい」


黒田の声。

さっきの“軽い笑い”と同じ。


女が言う。


「黒田。D-ストリームの現場統括」

黒田は笑った。


「へぇ。管理局? それとも運営? どっちでもいいけどさ。

その端末、持ってくれたんだ。ありがと」


管理局の男が、低く言う。


「現行犯で機材押収。偽公式、通報爆撃、追跡タグ、狙撃。

全部揃った。終わりだ、黒田」

黒田は、鼻で笑った。


「終わり? それはないね。

現場班は切り捨て。機材は替えが効く。

……でも配信者は替えが効かない」


女の視線が、俺を刺す。


黒田が続ける。


「君たち、勘違いしてる。俺らの目的は“配信”じゃない。

配信はただのインターフェース。

本命は――彼の能力だ」


管理局の男が言う。


「能力?」

黒田は楽しそうに言う。


「コメントで物が出る。隔離ができる。盾が出る。

あれ、すごいよ。

しかも“支持率”で出力が変わる」


その言葉で、俺の心臓が跳ねた。


「……支持率、知ってるな」

黒田は笑う。


「当たり前じゃん。

上げたら枠が一時解放されたの、覚えてる?

79%から32%に落ちたやつ。

あれ、テストだよ。過負荷の反動を見たかった」


……あの痛み。

あれは、実験。


俺の喉から声が漏れた。


「ふざけんな……」

黒田は軽い口調で言う。


「ふざけてない。真面目。

君の能力は“制御できる”。

つまり商品になる。

スポンサー? 利権? そんなのは前菜。

本命は——君を“装置”にすることだよ」


管理局の男が、一段低い声で言った。


「どこにいる」

黒田が笑う。


「探してみなよ。

追跡タグ、今度は“逆”に使えるんでしょ?

……あ、でもさ」


黒田の声が、少しだけ冷たくなる。


「遅延、30秒にしたのは俺。

君の“セーフモード”がどれだけ強いか、見たいんだ」

宮本さんが息を呑む。

「……やっぱり、枠の鍵を持ってる」


黒田が続ける。


「内通者? いるよ。もちろん。

でも君たちが思ってるより近い。

“この場”にいるとは限らないけどね」


女が言う。


「脅し?」

「ヒント。

君たち、焦って疑い合うでしょ? それで勝手に壊れる。

配信者と同じ。支持率と同じ。

……崩れる瞬間が一番好き」


管理局の男が言った。


「通話は記録した。お前は終わりだ」

黒田は、ため息まじりに言った。


「じゃ、次。配信者くんに伝えて。

“現実で落とす”って言ったよね?

——今、外。見て」


女が即座に倉庫の外へ目を向ける。


煙の向こう。

街灯の下に、黒い影が一つ。

手を振ってる。


……近い。

さっき逃げた狙撃手とは別だ。人影が増えてる。


管理局の男が叫ぶ。


「撤収! 今すぐ!」

女が俺の腕を掴む。

「走る!」


宮本さんがタブレットを抱えたまま続く。

若い男が口を押さえて頷く。


スマホの投票が一気に動く。

【煙】が伸びる。

【隔離】が伸びる。

視聴者は状況を分かってる。遅延30秒でも、恐怖は伝わる。


俺はマイクに向けて短く言った。


「押すなら【煙】。次【隔離】。今だけでいい!」


投票が確定。


《採用コマンド:煙》

《具現化枠 消費:1》

《具現化 残り:0/3》


煙が、もう一段濃くなる。

外の影がぼやける。距離が消える。


女が叫ぶ。


「右!裏路地!」

管理局の男が無線に怒鳴る。

「本隊、倉庫A-17撤収! 接触あり! 増援!」


俺たちは走った。

煙の中、視界は最悪。

でも、盾がある。隔離がある。コマンドがある。


投票が【隔離】で確定する。


《採用コマンド:隔離》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


音が遠くなる。

ライトの反射が鈍る。

“追うための情報”が削られる。


背後で、黒田の声がスピーカーから聞こえた。

通話はまだ繋がっている。


「ほらね。面白い。

逃げながらコマンド押させるの、最高」

俺は叫んだ。


「——お前、絶対潰す」

黒田は笑った。


「潰せるならね。

でも君、理解したでしょ?

支持率が揺れる限り、君は揺れる。

君が配信する限り、俺は触れる」


通話が切れた。


——ツー、ツー。


残ったのは、風の音と自分の息。


管理局の男が息を切らしながら言う。


「今の通話、十分だ。黒田は自白した」

宮本さんが震える声で言った。


「でも……遅延を落とされた。鍵を握られてる。

次の配信枠も、同じやり方で触られる可能性がある」


女が短く言う。


「つまり、内通者の問題は“人”じゃない。

“鍵”だ。どこかに、奪われている」


若い男が泣きそうな声で言った。


「じゃあ、どうすんの……」

管理局の男が、冷たく言った。


「鍵を捨てる。

——新しい鍵を作る。敵が触れない形で」


俺はスマホを見た。

セーフモードのボタン。投票。


視聴者はまだ押している。

俺はまだ生きている。


そして、画面の端に小さく表示が出た。


《支持率:計測=投票(安定)》

《外部干渉:検知》

《干渉源:—》


干渉源は、まだ見えない。

でも“検知”できるようになった。

隔離と鍵で、境界が作れたからだ。


俺は息を吐いて言った。


「……次は先手。

黒田が触れない“場”を作る。

視聴者も、敵も、運営も、管理局も——全員が見てる場所で」


女が眉をひそめる。


「公開裁判みたいにする?」

「そう。逃げ場を消す」


管理局の男が頷いた。


「なら“公式”を使う。管理局の公式発表と、運営の公式発表を同時に出す。

黒田が偽公式を投げても、信じる土俵がなくなる」

宮本さんが言う。


「僕がやります。LIVの“本物の公式”で出します。

ただし——内部の鍵が奪われてるなら、先に“認証”を固めないと」


俺はスマホのマイクに向かって言った。


「聞いてる人。次の配信は“公開検証”にする。

合言葉は現場で変える。

コマンドは増やす。——敵が混ぜられない形にする」


投票が揺れる。

【盾】が伸びる。

【煙】が伸びる。

視聴者の“意思”が見える。


そのとき、管理局の男の無線が鳴った。


「黒いバン、もう一台。こちらに接近中」

男が短く言った。


「……まだ終わってない。走れ」


俺は歯を食いしばって、走った。


——次は、逃げながらじゃなく、

こっちから“場”を指定して戦う。


黒田が触れない場所で。

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