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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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12/21

逆探知

追跡タグは、小さな袋の中で淡く光っていた。

管理局の男がその袋を持ち、無線を握り直す。


「本隊、タグ確保。逆探知を開始する。……周辺カメラを回せ。黒バンを洗い出す」


女が俺のスマホを見て言った。


「配信はセーフモード。視聴者投票は生きてる。……ただし、情報は出しすぎない」

「分かってる。場所は言わない。作戦も言わない」


若い男が震え声で言う。


「でも視聴者、今も見てるんだよな……? 相手も見てるんじゃ」

管理局の男が即答した。

「見てる。だから“見せ方”を選ぶ」


宮本さん(LIV運用)がタブレットを操作する。


「配信に“遅延”を最大に入れます。5分。

それと、位置情報遮断は強制。音声も一部マスクします。

——これなら相手が見てても現場には追いつけない」


俺は頷いた。


「遅延でいい。今は勝つのが先」


スマホの画面。

投票ボタンは静かに揺れている。


【隔離】が多い。

【煙】が次。

【ライト】は少ない。


視聴者も怖いんだ。

ライトを点けたら、敵にも見える。


管理局の男が耳の無線に触れた。


「……きた。カメラ、二件ヒット。黒いバン、同型二台。

一台は今、南側の幹線道路。もう一台は——」


一拍。


「——倉庫街だ。停車。エンジン稼働中」


女が言った。


「発信元が近い。タグの受信基地があるはず」


管理局の男が頷く。


「行く。……配信者、車に乗れ」

「俺も?」

「お前が狙いだ。お前がいれば、相手は動く。動けば押さえられる」


若い男が青い顔で言う。


「囮じゃん……」

「囮でも、守る。逃げるよりマシだ」


俺はスマホを握った。

囮。最悪だ。

でも、逃げて“次”を待つほど余裕はない。

相手が先に動けば、俺はいつか刺される。


「やる」


短く言った。


管理局の車に乗り込み、倉庫街へ向かう。

窓の外が流れる。街灯がまばらになり、空が暗くなる。


スマホの画面には、セーフモードの表示。


《イベント保護:有効》

《遅延:05:00》

《支持率:計測=投票》


そして、追跡タグの表示が変わった。


《追跡信号:送信中》

《発信先:A-17(近距離)》


「A-17……」

女が即答する。

「倉庫街の区画番号。発信先の基地がそこにある」


管理局の男がうなずく。


「相手の現場拠点だ。……押さえる」


宮本さんが小声で言った。


「これ、配信で全部見せると危ないです」

「見せない。音だけ。必要なら“コマンド”だけ使う」


女が言う。


「視聴者は、今は“作戦”じゃなく“生存”を押すべき」

「そうする」


俺はマイクに向かって短く言った。


「聞いてる人。今から危険な場所に行く。

画面は見せない。投票だけ使う。

——押すなら【隔離】か【煙】で頼む」


投票が、静かに【隔離】へ寄っていく。


倉庫街。

シャッターの並ぶ道路。人気がない。

遠くで犬が鳴いて、風が鉄の匂いを運ぶ。


車が止まった。

ライトを消す。エンジン音が小さくなる。


管理局の男が合図した。


「徒歩。静かに」

女が先に降り、周囲を確認する。

俺も降りて、盾を構える準備だけする。


目の前に、黒いバン。

シャッターの前に停まっている。

中に人影がある。二人か三人。


女が耳元で囁く。


「ここが基地。……タグの発信を受けて、位置を集めてる」

管理局の男が低く言う。

「証拠を押さえる。現行犯だ」


宮本さんが震える声で言う。


「配信は遅延。今見てる敵がいても、現場には間に合わない」

「でも現場班はここにいる」

女が言う。

「だから早い」


スマホの投票が確定する。


《採用コマンド:隔離》

《具現化枠 消費:1》

《具現化 残り:0/3》


空気が“膜”になる。

音が少し遠くなる。ライトの反射も鈍る。

こっちの存在が薄くなる感覚。


管理局の男が囁いた。


「行く」


三人が一気にバンへ近づく。

女がスライドドアに手をかける。


――ガラッ。


ドアが開いた瞬間、中の男が目を見開いた。


「なっ……!」


管理局の男が叫ぶ。


「管理局だ! 両手を見せろ!」

男が反射で手を動かす。

腰のあたり。何かを掴む。


女が即座に蹴りを入れ、手を弾く。


「動くな!」


バンの中には、機械があった。

アンテナ、モニター、バッテリー。

配信妨害の箱。追跡タグの受信機。

そして——スマホが何台も並んでいる。


若い男が息を呑む。


「……工作端末」


端末の画面に、見覚えのあるものが一瞬映った。

“偽公式通知”の送信画面。

テンプレの文章。送信ボタン。


「やっぱり……」


管理局の男が機械を写真に撮り、証拠袋を広げる。


「押収。現行犯で確保する」

バンの男が叫んだ。


「俺らはただの下請けだ! 指示されたんだよ!」

「誰に」

「D-ストリームだ! 神崎じゃねえ、現場の責任者がいる!」


女が男の顎を押さえ、冷たく言う。


「名前」

「……“黒田”だ。現場統括。電話もメッセも全部、黒田から来る!」


管理局の男が無線に叫ぶ。


「現場班確保。機材押収。

“黒田”の指示系統を追う。今すぐ身柄を——」


その瞬間。


――パスッ。


乾いた音。

空気が裂けるような音。


女が反射で身を伏せた。


「狙撃!」


俺の背中が凍った。

倉庫の屋根の上。影が動いた。

ライト。スコープの反射。


管理局の男が叫ぶ。


「伏せろ! 煙!」


スマホの投票が一気に【煙】へ振り切れる。


《採用コマンド:煙》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


白い煙が、倉庫前に爆発する。

視界が一気に消える。

狙撃のラインが切れる。


同時に、バンの男が叫んだ。


「だから言っただろ! 俺らは切り捨てだって!」

管理局の男が歯ぎしりする。

「……上がいる。確実に」


煙の中で、足音。

誰かが走って逃げる音。屋根の上だ。


女が無線に叫ぶ。


「逃走者、屋根上! 西へ!」

管理局の男が返す。

「追うな! まず確保! 配信者を守れ!」


俺のスマホが震えた。

セーフモードの画面の端に、ひとつだけ新しい通知。


《内部情報:遅延設定が変更されました》

《遅延:00:30》


……は?


宮本さんが顔色を変えた。


「そんな、触ってない! 遅延は私が固定した!」

女が低く言う。

「内通者」

管理局の男の目が、鋭くなる。


「——誰だ」


遅延が30秒に落ちた。

つまり、今の“現場”がほぼリアルタイムで流れる。


敵が見ていれば、増援が来る。

俺がまた現実で落とされる。


宮本さんが震え声で言った。


「……運用権限にアクセスした人間がいる。私じゃない。

この場に、LIVの操作ができる端末を持ってる人間が——」


視線が、若い男に向いた。

若い男は目を見開き、首を振る。


「ち、違う! 俺じゃない! 俺、そんなの触れない!」


管理局の男が言った。


「なら、管理局側か」


女が俺のスマホを見て、即断する。


「遅延を戻せないなら、配信を“切り替える”。

いまの枠を捨てる。視聴者を新しい枠に飛ばす。

合言葉も変える。敵が追いつく前に」


管理局の男が短く言った。


「やれ。今すぐ」


俺は息を吸った。

視聴者を信じるしかない。


スマホに向かって言う。


「聞いてる人。今の枠は捨てる。敵が入った。

次の合言葉は——『塩・青・倉庫』。

今から10秒だけ言う。——行け!」


投票が揺れる。

視聴者が動く。

敵も動く。だから時間がない。


そして煙の中で、管理局の男が俺に言った。


「今日、ここで勝てば——D-ストリームは終わる。

だが内通者を見つけないと、明日また殺される」


俺は頷いた。


「見つける。……次は、こっちが先手だ」


煙の向こうで、誰かが笑った。

神崎じゃない。もっと若い、軽い笑い。


「やっぱ配信、面白いね」


その声に、背筋が凍った。


若い男が、震える声で言った。


「……それ、俺じゃない」

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