表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/21

路地

裏口を出た瞬間、冷たい空気が肺に刺さった。

夜。路地。湿ったアスファルト。遠くにサイレン。


背後では、拠点の正面口が破られる音。

金属が鳴って、人が怒鳴る。


「裏だ! 逃げたぞ!」


速い。

こいつら、段取りが良すぎる。


女が先に走り、角を曲がる前に俺の腕を引いた。


「ライトは使うな。位置が割れる」

「分かってる」


スマホの画面は、セーフモードのまま。

コマンドボタンと投票だけ。


【ライト】

【盾】

【煙】

【楔】

【隔離】


右上に小さく表示。


《イベント保護:有効》

《通報影響:無効》

《支持率:計測対象=コマンド投票》


……よし。

ここでは“言葉”が刺さらない。

代わりに、投票が命を支える。


画面の投票が一気に【隔離】へ寄っている。

視聴者の判断が、俺と同じ。


俺は息を吐いて言った。


「採用、隔離」


投票が確定する。


《採用コマンド:隔離》

《具現化枠 消費:1》

《具現化 残り:0/3》


空気が、また“膜”になる。

路地の音が遠くなる。街灯の光が少しだけ鈍る。

……完全な透明壁じゃない。位置の“手がかり”を削る感じ。


管理局の男が背後を振り返り、無線で怒鳴る。


「本隊、裏路地方面! 黒いバン一台、他二名。追跡中!」


追ってきてる。

黒い影が二つ。確かに動いていた。


角を曲がると、細い通路がさらに細くなる。

ゴミ箱、フェンス、段差。逃げるには最悪。追うには最適。


「こっち!」


女が手招きし、フェンスの隙間を抜けた。

俺も続く。盾を前に。

若い男が「うわっ」と声を上げて転びそうになるのを、管理局の男が引っ張った。


「声出すな!」

「む、無理だって……!」


そのとき、後ろから軽い足音がした。

人間の足音。走り慣れてる。しかも近い。


次の瞬間、フェンスの向こうにライトが差し込む。

眩しさじゃない。狙うための光。


「止まれ」


低い声。

同時に、金属が鳴る。スタンガンみたいな高い音が混じった。


女が即断する。


「煙!」

俺が言うより早く、画面の投票が【煙】に振り切れた。


《採用コマンド:煙》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


白い煙が、路地全体に薄く広がる。

さっきより濃い。視界が二、三メートルに落ちる。

ライトが拡散して、相手の位置がぼやける。


「チッ……!」


敵の舌打ち。

近い。煙でも距離は消せない。


管理局の男が叫ぶ。


「走れ! 交差点まで出ろ!」

女が言う。

「交差点は監視カメラが多い。逆に安全」

「なら出る!」


俺たちは走った。

煙の中、盾を構えながら。


画面の投票が【盾】に寄る。

俺は息を切らしながら言った。


「採用、盾」


《採用コマンド:盾》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


透明な盾が強く“固定”される感覚。

腕に吸い付くようにフィットして、走ってもブレない。


次の瞬間、背後でパスッという音。


――何かが飛んだ。


俺は反射で盾を後ろに向けた。


――コンッ。


小さな衝撃。

金属片が盾に当たり、地面に落ちた。


「針……?」


女が吐き捨てる。


「追跡用のタグ」

管理局の男が無線に叫ぶ。

「追跡タグ、使用! 回収しろ!」


若い男が叫ぶ。


「配信でこんなことしていいのかよ……!」

「いいわけねぇだろ!」


俺は歯を食いしばった。

D-ストリームは、“現実”で落とすと言った。

本当に来た。


画面の投票が、次は【楔】に寄る。

楔? 路地で?


コメント欄はない。説明はない。

でも視聴者は、何かを見てるのかもしれない。

俺は視線を上げた。


路地の先、古いシャッターの下に、細い隙間。

その奥が暗い。――人が通れそう。


「……隠し通路か」


女が同時に気づいた。


「入れる!」


投票が確定。


《採用コマンド:楔》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


手の中に、金属の楔。

俺はシャッターの隙間に突っ込み、盾の縁で叩き込んだ。


――カンッ!


楔が噛み、シャッターがわずかに持ち上がった。

十分だ。人が潜れる。


「入れ!」


俺たちは順に潜り込む。

中は狭い倉庫みたいな通路で、奥に非常口の表示。


背後で足音。

敵が煙の中から追ってくる。


「そこだ!」


ライトが差し込んだ瞬間、俺は盾を正面に向けた。

また、パスッという音。

今度は二発。


――コン、コン。


盾が受ける。

床に金属片が落ちる。


敵の男が、煙越しに笑った。


「盾、便利だねぇ。けどさ——」


言葉が途切れた。

次に来たのは、言葉じゃない。


――ドンッ。


重い衝撃。

煙の中から突進してきた影が、盾ごと俺に体当たりした。


「っ……!」


身体が壁に打ち付けられる。

肺の空気が抜ける。


女が叫ぶ。


「格闘型! 近い!」

管理局の男が叫び返す。

「押し返せ! 出口へ!」


画面の投票が【隔離】に戻る。

視聴者は冷静だ。


俺は咳き込みながら言った。


「採用、隔離!」


《採用コマンド:隔離》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


空気の膜が厚くなる。

“外の情報”が削られる。

敵のライトが弱くなる。音も鈍る。


突進してきた影が、一瞬だけ動きを止めた。


「……何だこれ、視界が——」


今だ。


管理局の男が敵に組み付き、壁に押し付けた。

女が手早く腕をひねる。

若い男が震えながらも、落ちた追跡タグを足で蹴って奥へ飛ばす。


「これで追えない!」

「ナイス!」


非常口のドアを女が開けた。

外は細い階段。上へ続く。


俺たちは階段を駆け上がった。


背後で敵が叫ぶ。


「逃げても無駄だ! 配信者! お前の配信、止められる!

お前が“合言葉”を出すたび、こっちは学習する!」


……学習。

そうだ。敵は視聴者と同じように学習してくる。

合言葉は万能じゃない。


階段を上り切った先は、ビルの裏口。

人通りのある通りに出た。車のライト。コンビニの明かり。


ここなら、さすがに手は出しづらい。


管理局の男が息を切らしながら無線を入れる。


「確保失敗。だが接触は確認。D-ストリーム関係者、暴力行為あり」

女が俺を見る。

「大丈夫?」

「……死んでない」


スマホを見ると、セーフモードの表示が出ている。


《イベント保護:有効》

《追跡タグ:検知(近距離)》


検知?

まだ近くにいる。

さっき回収したのは二つだけ。撃たれたのは二発以上だった。


俺の喉が乾いた。


「……まだタグ、刺さってる」

女が即座に俺の背中を確認する。

裂けた服の下、肩のあたりに小さな針が刺さっていた。


「くそ……」

管理局の男が低く言う。

「これで位置を追われる。拠点に戻れない」

宮本さんが青い顔で言う。

「配信、どうする……?」

「切らない」


俺は歯を食いしばり、スマホに向かって言った。


「聞いてる人。俺は今、現実で襲われた。

D-ストリームは本気だ。

——だから次は、“先手”を取る」


画面の投票が揺れる。

【隔離】が伸びる。

でも、もう隔離だけじゃ足りない。


管理局の男が俺に言った。


「今夜中に、証拠を押さえる。相手の“現場班”を逮捕できれば勝てる」

女が頷く。

「タグを追えば、相手の拠点に繋がる可能性がある」

若い男が震え声で言った。

「え……逆に追うの?」

管理局の男が冷たく言う。

「そうだ。逃げたら終わりだ」


俺はスマホを握った。

視聴者の投票ボタンが、じわじわ【ライト】に寄っていく。


暗い夜道で、追うならライトは必要。

でもライトは敵にも位置を教える。


俺は言った。


「……ライトは最後だ。

今は、追跡タグを抜く。証拠として確保する」


女が頷き、ピンセットを取り出した。

タグを慎重に引き抜く。


――スッ。


小さな針。先端に微かな光。

確かに“追跡”の匂いがする。


管理局の男がそれを受け取り、袋に入れた。


「これで勝てる。……ただし」


男は俺を見た。


「内通者がいる」

「……は?」

「拠点の裏口を即座に押さえられた。

移動も、面談も、タイミングが良すぎる。

管理局か、運営か、どっちかに“漏らしてるやつ”がいる」


空気が凍った。


宮本さんが顔を上げる。


「……僕らの中に?」

女が低く言う。

「そう。だから次の作戦は、誰にも漏らさない」


管理局の男が言った。


「配信者。視聴者にも言うな。合言葉も、次は現場で変える」

俺は頷いた。


「分かった。……じゃあ、次はどうする」


管理局の男が短く答えた。


「タグの発信元を追う。

D-ストリームの現場班の車を特定して、押さえる。

今夜中に、決着をつける」


俺のスマホが震えた。

セーフモードの下に、新しい表示。


《追跡信号:送信中》

《発信先:—》


まだ見えない。

でも繋がっている。


画面の投票が【隔離】から【煙】へ移る。

視聴者は、次の追跡に備えている。


俺は息を吸って言った。


「……行くぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ