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視聴者の“指示コメ”が全部スキル化するので、ソロでも攻略できる  作者: ゆうと


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10/22

セーフモード

会議室の空気が、まだ熱を持ったまま冷えていく。

神崎が去ったあとも、スマホの上の赤い帯――《通報件数が急増しています》だけが消えなかった。


宮本さん(LIV運用)が、机に肘をついて言った。


「このままだと、配信は“システムで”止まります。偽公式じゃなくて、本物の自動制限」

管理局の男が眉をひそめる。

「運用が止められないのか」

「止められません。機械は“多数の通報”を安全側に倒す仕様なんです。事故が起きたら終わるから」


女が短く言った。


「じゃあ、“通報”が効かない形に変える」

若い男が口を挟む。

「え、でも配信切ったら……」

「切らない。形を変える」


俺はスマホを握り直した。

《隔離:固定》はもう切れている。

だけど、さっきの【鍵】のおかげか、コメント欄はまだ二層に見える。


上:機械の洪水。

下:人間の言葉。


《支持率:72%》

針くらいの痛みで済んでいる。今なら動ける。


「宮本さん、できる?」

「何を?」

「コメント欄を“投票”にする。文字を自由に書かせない。コマンドだけにする」

宮本さんの目が動く。すぐ理解した顔。

「……できます。イベント配信の“コマンドモード”。普段は使わない機能だけど」

管理局の男が言う。

「そんな機能があるなら最初から——」

「普通の配信者には要らないからです」


女が俺を見る。


「コマンドが少なすぎると戦えない」

「必要なコマンドだけでいい。今の俺の武器は“多さ”じゃない。混ざらないこと」


宮本さんが、タブレットを開いた。


「じゃあ手順。今の配信は“継続”したまま、裏でミラーを立てます。

LIV公式が主催する“検証配信”として枠を作る。通報耐性が上がる。モデレーターも付ける」

「通報耐性?」

「公式イベント枠は自動制限の閾値が違う。悪用されないように、逆に強いんです」


……なるほど。

D-ストリームが“多数決”で止めるなら、土俵を変える。


女が言った。


「URLは?」

宮本さんが即答する。

「リンク限定。合言葉がないと入れない。配信内で合言葉を言うと敵も入るから——」

俺が続ける。

「合言葉は“毎回変える”。 しかも短時間で。固定しない」

宮本さんが頷いた。

「よし。視聴者には“移動”を案内しましょう。今の配信は“残す”けど、制限が来る前に避難させる」


俺はスマホのマイクに向かって言った。


「聞こえてる人。今から“安全版”に移動する。

コメント欄は自由入力じゃなくなる。選択式になる。

合言葉は——今から30秒だけ言う。『角砂糖・青・七』。これをメモして」


コメント欄(下側)に、人間の文字が走る。


【メモした】

【角砂糖青七】

【了解】

【応援】


上側には、すぐに模倣が出る。


【角砂糖・青・七】

【角砂糖・青・七】

【角砂糖・青・七】


……でも関係ない。

コマンドモードでは、自由入力は通らない。


《支持率:72%》

少しだけ上がる。痛みが薄れる。


「移動先は今から貼る。入れない人は無理しない。

入れた人だけでいい。俺は生きる」


宮本さんがリンクを送る。俺はそれを読み上げる形で案内し、数十秒のうちに、視聴者の空気が変わった。


“荒らし”が追ってこない。

追ってきても、暴れられない。


新しい配信枠に入った瞬間、画面が変わった。


チャット欄がない。

代わりに、五つのボタン。


【ライト】

【盾】

【煙】

【楔】

【隔離】


下に小さく表示。


《コマンドは投票で決定します》

《信頼度の低い反応は集計から除外されます》

《通報の影響:低》


俺は思わず笑った。


「……これがセーフモードか」


《支持率:—%》が、一瞬で安定して表示された。


《支持率:69%(安定)》

《悪意反動 軽減:小》

《具現化枠 回復:1》


左腕の痛みが、さらに減る。

針が一本抜けたみたいに、軽い。


女が肩を落とした。


「やっと息ができる顔になった」

管理局の男が言う。

「だが、敵はこれで引かない」

「引かせる」


俺はマイクに向けて言った。


「ここは“検証配信”。

俺を潰そうとしてるのは運営じゃない。

D-ストリームだ。偽公式、通報爆撃、支持率工作——全部やってる」


画面の右上、視聴者数は表示されない。

でも“反応”は増えていくのが分かる。投票が動く。


【応援】ボタンはない。

でも、投票が“応援”になる。


宮本さんが横で小声で言った。


「ここで“証拠”を出しましょう。さっきの神崎の画面、記録できてる」

「出す」

管理局の男が低く言う。

「名指しは戦争だ。覚悟はあるな」

「ある。逃げたら死ぬ」


俺が話している最中、画面の端に小さな通知が出た。


《外部からの通報:急増》

《影響:低》


……効いてない。

D-ストリームの“多数決”が通らない。


その瞬間、スマホが別の通知を受け取った。

知らない番号からのメッセージ。


「場所、分かってる」

「次は現実で落とすって言ったよね」


背筋が冷えた。


女が俺の顔を見て、すぐに気づく。


「来た?」

「……来た」


管理局の男が立ち上がり、無線を取る。


「警備、周辺確認。今すぐ」

若い男が青い顔でつぶやく。

「マジでリアルで来るのかよ……」


俺は深く息を吸った。

セーフモードに入っただけじゃ、終わらない。

でも――今度は“戦える”。


画面の投票が一気に動いた。

【隔離】が伸びる。


視聴者は、分かってる。

攻撃が来る。


俺は短く言った。


「コマンド、押して。今は【隔離】」


投票が確定する。


《採用コマンド:隔離》

《具現化枠 消費:1》

《具現化 残り:0/3》


空気が少しだけ“遠く”なる。

さっきの隔離に近い感覚。

この部屋の外と、内が切り分けられたみたいに。


女が窓のカーテンを少しだけ開け、外を見る。


「……車。黒いバンが一台、止まった」

管理局の男が即答する。

「避難ルート。今すぐ」

宮本さんが歯を食いしばる。

「配信、どうする」

「切らない」


俺はマイクに向かって言った。


「聞こえてる人。今、リアルに来てる。

でもここは“検証配信”。

俺は逃げる。逃げながら、証拠を出す」


宮本さんがタブレットを操作し、神崎が見せた“管理画面”の一部を配信に重ねた。

視聴者の反応が跳ねる。投票が揺れる。


【煙】が伸びる。

【盾】が伸びる。


女が言った。


「時間がない。外に出たら危険」

管理局の男が頷く。

「煙で視界を切れ。盾で守れ。——配信者、指示を出せ」

俺は息を吸って、言った。


「次、【煙】。その次【盾】。押して」


投票が確定する。


《採用コマンド:煙》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


白い煙が、室内に“薄く”広がる。

さっきの煙幕ほど濃くない。

でも、窓の外から見えづらくなる。十分だ。


外で、ドアを叩く音。


ドン、ドン。


「管理局さーん。安全確認でーす」


……同じ言い回し。

D-ストリームの連中だ。


管理局の男が低く言う。


「ここは施設だ。武装侵入は罪になる。だが——」

女が続ける。

「罪になる前に“事故”にする」


最悪だ。

こいつらは事故を作る。


俺はマイクに向かって言った。


「見てる人。今から俺は“逃げる”。

逃げながら、もう一回言う。

偽公式は運営じゃない。D-ストリームが使ってる。

通報爆撃も、支持率工作も——」


ドアが、ガン、と鳴った。

錠が揺れる。


管理局の男が叫ぶ。


「裏口へ!」


俺たちは走った。

煙の中を、壁沿いに。


その瞬間、画面に表示が出た。


《コマンド:盾(投票中)》

視聴者が勝手に押している。

判断が早い。


投票が確定。


《採用コマンド:盾》

《具現化枠 回復:1》

《具現化 残り:0/3》


透明な盾が、俺の腕に現れた。

走りながらでも、軽い。守れる。


裏口のドアが開いた。

冷たい夜の空気が流れ込む。


外に出る直前、俺のスマホが震えた。

今度は、見覚えのある通知。


《公式:LIV運用》

《緊急:あなたの配信を“イベント保護”に移行しました》

《通報による自動制限は無効化されます》


宮本さんが叫ぶ。


「間に合った! 公式で守れる!」


——守れる。

でも、敵も引かない。


裏口の先、路地の向こうに、黒い影が二つ動いた。

ライトが一瞬、こっちを舐める。


そして、聞こえた。


「見ーつけた」


俺の左腕が、針じゃない痛みで刺された。

支持率じゃない。現実の恐怖だ。


画面の投票が、狂ったみたいに【隔離】へ寄る。


視聴者も分かってる。


俺は歯を食いしばって言った。


「——次、隔離。押して」

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