第五十八章 星雲の幻影と謎の住人
未知の星雲に不時着したノヴァ・リュミエール号。外に広がるのは、美しくも不気味な光の世界。そして艦外で蠢く“何か”の影。果たしてそれは敵か、味方か――?
「ご、ご、ごごごごご……ごめん、キャプテン。外で人影みたいなのが動いた気がするんだけど」
リーナが青ざめた顔でアストラに報告する。
「ひ、人影!?うそでしょ!?ここ、誰もいない未確認星雲じゃなかったの!?」
アストラは全力で首を振った。
マリナは銃を手にし、冷静にモニターを切り替える。
「生命反応……確かにあるわ。少なくとも二つ、いや三つ以上」
「未知の住人!?これは大発見だぞ!」カイが目を輝かせる。
「キャプテン、外に出て調査しよう!」
「なんで僕が先頭!?いやだよ!僕はここに隠れてる!」
しかし、船体の外殻を叩くような音が響き、抵抗も虚しくアストラは半ば引きずられる形でエアロックへ。
――外へ出ると、そこには幻想的な光景が広がっていた。
地面は淡い光を帯びた苔状の植物で覆われ、空には霧の粒子が舞い、まるで星の海の中に立っているかのようだった。
「き、きれい……」リーナが息を呑む。
その時、霧の中から影が現れた。
背丈は人間ほどだが、体は半透明で、光をまとっている。まるで星雲そのものが人の形をとったような姿。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」アストラは即座に後退し、転んで尻もちをついた。
しかし影は敵意を見せず、淡い声で語りかけてきた。
『……旅人よ。なぜ我らの眠りを乱すのだ』
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!」
マリナが一歩前に出る。
「私たちは偶然、この星雲に迷い込んだだけ。あなたたちは……この地の住人?」
光の存在はゆっくりとうなずいた。
『我らは“幻影の民”。星雲と共に生き、霧と共に在る』
リーナが恐る恐る問いかける。
「幻影の民……?本当に実体があるの?」
『あるとも、ないとも言える。我らは星雲の一部。幻影にして現実……』
「え、なにそれ怖い!ホラーなの!?SFなの!?どっちなの!?」アストラは涙目になった。
するともう一体の幻影が前に出てきた。
『お前たちの船から……異質な影の匂いがする』
全員が凍りつく。
「影……まさか、“影の艦隊”のこと?」マリナがつぶやく。
『その名は知らぬ。しかし確かに、お前たちは影に触れた。危険を連れ込みし者よ……』
「ちょ、ちょっと待って!僕らはただ巻き込まれただけで!影の仲間とかじゃないよ!」アストラは必死に手を振る。
だが幻影の民は問いかけるように視線を向けた。
『ならば証を示せ。ここに伝わる“星雲の試練”を越え、影を払う力を示せ』
「試練!?また試練!?なんで僕ら、いつも試練ばっかりなんだよぉぉぉ!」
カイは逆に大喜びで拳を握った。
「試練だって!?よし!新発明を試す絶好の機会だ!」
「やめろカイィィィ!」
幻影の民はゆっくりと霧の中に消えていった。
『夜が明けると共に試練は始まる。覚悟せよ、旅人たちよ』
残された一行は顔を見合わせる。
「試練って、なにするんだろ……?」リーナが小声でつぶやく。
「どうせまた、僕らが右往左往してドタバタになるんだよ……」アストラはぐったり。
しかし――彼らがこの星雲を生き延びるためには、逃げることはできなかった。
星雲に暮らす“幻影の民”との遭遇。そして告げられた「星雲の試練」。影の艦隊との因縁をも暗示するその言葉に、アストラたちは再び振り回される。




