第五十四章 同盟議会の混乱と新たな陰謀
辺境宙域で“影の艦隊”と遭遇したアストラ一行。花火によって辛うじて退けたものの、その存在は銀河同盟にとっても無視できない脅威だった。緊急招集された同盟議会では、混乱と非難が渦巻き、やがて陰謀の影が見え隠れする。ドタバタの中でアストラたちは、銀河の裏側に潜む巨大な思惑を知ることになる――。
ノヴァ・リュミエール号は急ぎ銀河中央議会へと帰還した。
ホールには各惑星代表が集まり、議長席に座るセレスが厳しい表情で開会を宣言する。
「本日、辺境宙域で確認された“影の艦隊”について報告を受ける」
代表者たちがざわついた。
「やはり噂は本当だったのか!」
「銀河全体の安全保障が揺らぐ!」
「なぜ辺境に野放しにしていた!」
アストラは壇上に立たされ、居心地悪そうに手を挙げた。
「えっと……僕ら、たまたま遭遇しちゃっただけで……」
「たまたま遭遇で影の艦隊を退けたのか!?」
「英雄だ!」
「いえ、偶然です!ほんとに偶然で……!」
マリナが小声でささやく。
「キャプテン、もう何を言っても伝説扱いよ」
「伝説の方だから!」アストラが小さく反論した。
その時、議場の扉が乱暴に開かれた。
「待て!アストラの証言など信用できぬ!」
現れたのは、軍部の有力者バリオン将軍。屈強な体格に鋭い目を光らせていた。
「影の艦隊の存在を大げさに騒ぎ立て、我ら軍への権限拡大を狙っているのではないか? あるいは――同盟内部に裏切り者がいるのではないか?」
「裏切り者……?」リーナが小さくつぶやいた。
議場は一層混乱に包まれた。
「内部に影と通じる者が?」
「まさか、そんな……!」
「議会の誰かが裏で糸を引いているのかもしれん!」
アストラは慌てて手を振る。
「ちょ、ちょっと待ってください!僕らはただ、花火を打ち上げただけで――」
「花火!?」
「そんなもので艦隊を撃退したというのか!?」
「だから偶然だって言ってるでしょ!」
しかしカイが堂々と割り込んだ。
「偶然じゃない!僕の“花火二号”のおかげだ!」
「お前は黙ってろぉぉぉ!」アストラが絶叫する。
セレス議長が杖で床を叩き、場を静めた。
「諸君、落ち着け。事実はどうあれ、影の艦隊が存在するのは確かだ」
「では、次に狙われるのはどこだ?」誰かが問う。
議長は険しい表情で答えた。
「情報によれば……彼らの影は、すでに我々の議会内部に潜んでいる可能性がある」
どよめきが広がる。
「なに……!?」
「つまり、同盟議員の中にスパイが……」
その瞬間、議場の照明が一斉に消えた。
暗闇の中、冷たい声が響く。
『……よくも我らの存在を晒したな』
「ひっ……!?」リーナが悲鳴を上げる。
再び明かりがついた時――議場の中央に、黒い仮面の人影が立っていた。
まるで影そのものが具現化したかのように。
「影の艦隊……!?」
「なぜ議場に……!」
アストラは思わず腰を抜かし、床にぺたんと座り込む。
「ど、ど、ど……どうするのこれ!?」
マリナは冷静に銃を構え、カイは得意げに工具箱を開いた。
リーナは涙目で叫ぶ。
「キャプテン、立って!リーダーでしょ!」
「僕、立ちたくないぃぃぃ!」
だが仮面の人物は、戦闘を仕掛けるわけでもなく、不気味に一言だけ残した。
『次の標的は……お前たちの船だ』
次の瞬間、影は煙のように消え失せた。
――騒然とする議場。
セレス議長は震える声で宣言した。
「やはり……奴らは我々のすぐ傍にまで迫っている。キャプテン・アストラ、君たちは直ちに調査にあたれ」
「えっ!?また僕らぁ!?」アストラが絶叫。
「正規軍じゃなくて!?」
「君たちだからこそ、奴らも油断するのだ」
「……そんな理由で銀河の命運を託されていいの!?」
リーナは頭を抱えた。
「キャプテン、もう覚悟決めなきゃ……」
「ぐぅぅぅ……僕の休暇はどこ行ったの……」
こうしてアストラ一行は、同盟内部に潜む陰謀と影の艦隊の真実を暴くべく、再び渦中へ放り込まれることになった。
ついに“影の艦隊”は議会の場に姿を現した!同盟内部に潜むスパイ、そして彼らの次なる標的はアストラたち自身。
果たしてノヴァ・リュミエール号の行方は――?




