第五十三章 影の艦隊、動き出す
辺境宙域で奇妙な無法者“スクラップ団”と遭遇したアストラ一行。花火ショーによって勝利(?)を収めたものの、その光の信号は広範囲に拡散していた。そしてついに――噂に聞いた「影の艦隊」が動きを見せる。果たして彼らは敵か、それともただの伝説か。銀河の暗黒に潜む脅威が、ゆっくりと姿を現し始めていた。
「キャプテン……やっぱり、あの花火はまずかったわ」
リーナが真剣な表情で報告した。
「広域センサーに反応が出てる。未知の艦影がこちらに向かってるわ」
「未知の艦影……?」アストラは喉を鳴らした。
「やっぱりかぁ……僕、こうなる気がしてたよ」マリナが深いため息をつく。
「でも、敵かどうかまだ分からないでしょ?」カイが呑気に言った。
「いや、こんな真っ暗な宙域にわざわざ近づいてくる時点で怪しいでしょ!」リーナが即ツッコミ。
数分後――視界いっぱいに、漆黒の艦隊が現れた。
「うわ……」
アストラも思わず息をのむ。
それは通常の軍艦とは違っていた。艦体は光を吸い込むように黒く、星々の光に溶け込んで輪郭さえ曖昧。まるで“宇宙そのものが形をとった”ような異様さだった。
「影の艦隊……」リーナの声はかすれていた。
やがて通信が入る。画面に映ったのは、仮面で顔を隠した人物。
『……銀河同盟の犬どもめ。我らの静寂を乱すな』
「えっと……犬って、僕らのこと?」アストラが恐る恐る聞く。
「いやいや、僕らまだ同盟に雇われたばかりで――」
「キャプテン、そこじゃないでしょ!」リーナが全力でツッコむ。
仮面の人物は冷たい声で続けた。
『花火など愚劣な光を撒き散らし……存在を知られたくば即刻立ち去れ。さもなくば、この宙域を貴様らの墓場とする』
「ひ、ひぃっ……!」リーナが小さく悲鳴を上げる。
だがマリナは腕を組み、冷静に画面を見つめていた。
「――花火を愚劣と言ったわね。私はあれ、美しいと思ったけど」
「マリナ!挑発しないで!」アストラが慌てて止める。
だが時すでに遅し。影の艦隊の艦首砲門が一斉に光を帯びた。
「うわぁぁ!やっぱり戦闘モードだ!」
「キャプテン、どうするのよ!」リーナが叫ぶ。
「えっと……えっと……」アストラは頭を抱える。
するとカイがにやりと笑った。
「実は“切り札”を作っておいたんだ」
「なにそれ!?また妙な装置?」
「名付けて“花火二号・超拡散モード”!」
「やめてぇぇぇ!」リーナの絶叫もむなしく、花火二号が発射される。
バシュッ!――宇宙全体を覆うほどの光の粒が四方に散り、鮮やかな閃光が広がった。
影の艦隊の艦体がその光を浴びると……奇妙なことが起きた。
黒い艦体の一部が、一瞬だけ透けて見えたのだ。
「キャプテン!あれ……艦が“光”に弱い!」リーナが叫んだ。
「ほんとだ!まるで影が消えるみたいに……!」
しかし影の艦隊も黙ってはいない。
『愚か者どもめ……その光、長くは続かぬ!』
艦隊の砲火が一斉に襲いかかる。
ノヴァ・リュミエール号は必死に回避するが、衝撃で船体が揺れる。
「きゃあぁぁ!」
「キャプテン、シールド残量50%です!」リーナの声が響く。
アストラはぐっと拳を握った。
「みんな、ここは踏ん張るしかない!僕らのドタバタが、銀河を救うんだ!」
「そんなスローガンでいいの!?」マリナの冷静なツッコミ。
花火二号の残弾はあと一発。
「キャプテン……どうする?」カイが尋ねる。
アストラは短く息を吸い込み、決断した。
「撃て!これで道を開くんだ!」
最後の花火が炸裂し、宇宙を虹色に染め上げる。影の艦隊の艦影は光に溶け、軌跡を残して後退していった。
『……次はないぞ。銀河の愚者ども』
通信が途絶え、影の艦隊は静かに姿を消した。
――静寂。
だが確かに、銀河の闇に潜む存在が“実在”することが明らかになった瞬間だった。
アストラは大きく息を吐き、ソファに倒れ込む。
「……もうほんとやだ……平穏が欲しい……」
「キャプテン、これからが本番よ」マリナが冷たく笑った。
「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
こうして、影の艦隊の脅威はついに表舞台へ。
アストラ一行の冒険は、ますます混沌とした銀河の渦へと呑み込まれていくのだった。
ついに“影の艦隊”が動き出した!その存在は単なる噂ではなく、銀河を脅かす現実の脅威だった。
だが彼らが“光”に弱いことを偶然にも発見したアストラ一行。ドタバタの中に、ほんの少しだけ希望の手がかりが見えた。




