第百五十七章 見えない敵の正体
見えないものは、恐ろしい。
だが――
見えないままでは、戦うこともできない。
エコー・ベルトで遭遇した“曖昧な存在”。
それは敵なのか、現象なのか、
あるいは――別の何かなのか。
記憶を繋ぎ続けた先に、
ついに“輪郭”が浮かび上がる。
◆パターン
「また来るぞ」
アストラの一言で、
艦橋の空気が引き締まる。
前方、右舷、後方。
これまでバラバラだった出現が、
少しずつ“規則性”を帯びてきていた。
リーナが分析を進める。
「出現間隔……
微妙に短くなってる」
「つまり、
近づいてきてるってことか?」
カイが眉をひそめる。
「もしくは――
こちらに“寄せてきている”」
マリナの言葉に、
誰も軽口を叩けなかった。
◆ドタバタ強化観測
「よし、作戦アップデートだ!」
カイが勢いよく立ち上がる。
「今度は叫ぶだけじゃなくて、
動きも記憶する!」
「無茶言うな」
リーナが即ツッコミを入れる。
「でも、
“感じた方向”とか
“速度っぽいもの”なら共有できる」
マリナが少し考え、頷く。
「……ありね」
プクルが元気に回る。
「ぷくる!(ぐるぐるみる!)」
◆同時出現
「来た!」
今度は全員が同時に声を上げた。
前方に揺らぎ。
右舷に影。
後方に歪み。
「速い!」カイ。
「形が……変わってる」リーナ。
「いや、“形が固定されていない”」マリナ。
アストラが低く言う。
「……一つじゃない」
◆重なり
影は、
複数存在していた。
だがそれは、
独立した存在ではない。
「重なってる……?」
リーナが呟く。
「いや、違う」
アストラが否定する。
「同じものが、
違う位置に“同時にいる”」
「は?」
カイが固まる。
◆仮説の更新
マリナがゆっくり言う。
「この宙域は、
情報を固定しない」
「つまり――
“位置”も固定されない可能性がある」
リーナが理解する。
「だから、
一つの存在が複数に見える」
「観測するたびに、
別の場所に現れる」
プクルが震える。
「ぷくる……(ひとつなのにいっぱい)」
◆正体
アストラは、
全ての情報を頭の中で繋ぎ合わせる。
記録が残らない。
位置が固定されない。
観測ごとに変わる存在。
「……分かった」
全員が彼を見る。
「これは敵じゃない」
「“現象”でもない」
「じゃあ何だよ?」
カイが叫ぶ。
アストラは、静かに言った。
「“未確定の存在”だ」
◆未確定
「存在しているが、
確定していない」
「だから、
観測するたびに形が変わる」
リーナが息を呑む。
「量子的な……いや、
もっと大きなスケールでの曖昧性」
マリナが続ける。
「この宙域自体が、
“確定を拒んでいる”」
カイが頭を抱える。
「意味分からんけど、
ヤバいってことだけは分かる」
◆接触
その時、
影の一つが――
ゆっくりと、
艦へと近づいてきた。
「来るぞ……!」
だが、
攻撃の気配はない。
ただ、
“存在を押し付ける”ような圧力。
プクルが震える。
「ぷくる……(みられてる)」
◆選択
アストラは、
迷わなかった。
「逃げない」
「観測を続ける」
「ここで引けば、
この宙域の正体は永遠に分からない」
リーナが頷く。
「データは残らない。
でも、
私たちは覚えている」
マリナが静かに言う。
「それが、唯一の武器ね」
カイが深呼吸する。
「よし……
覚えてやるよ、全部」
◆輪郭
影が、
ゆっくりと形を持ち始める。
それは――
艦のようでもあり、
生物のようでもあり、
ただの歪みのようでもあった。
だが確かに、
“何か”としてそこにいた。
アストラは、
その姿を目に焼き付ける。
「……見えた」
見えない存在は、
記憶によって輪郭を得る。
エコー・ベルトの“未確定存在”は、
ついにその姿を現し始めた。
だがそれは、
敵とも味方とも言えない存在。
ノヴァ・リュミエール号は、
未知の領域へとさらに踏み込む。




