第百三十八章 虚無宙域の彷徨
禁忌領域の“門”をくぐり抜けたノヴァ・リュミエール号。
そこに広がっていたのは、星も光もない無の宙域――“虚無”だった。
方向も距離も意味を失う空間で、アストラたちは出口を求めて彷徨う。
影の艦隊はこの虚無を住処とするのか、それともさらに奥へと誘う罠なのか。
答えは闇の中に隠されている。
◆虚無の空間
「……真っ暗だ」
艦橋の窓から見えるのは、光を吸い込むような深い闇。星の一つも存在しない。
「宇宙っていうより……何もない部屋に閉じ込められたみたい」マリナが呟く。
「センサーも反応しねぇ。距離も速度も測れねぇ……こんな空間、俺の頭じゃ処理できん!」カイは半泣きで叫んだ。
リーナは冷静に端末を見つめ続ける。
「波長ゼロ……座標データも壊れてる……“虚無宙域”の名は伊達じゃないわね」
「ぷくるる……(くらいのイヤ……ピザ食べたい……)」プクルは完全にしがみつき状態だ。
◆方向感覚の喪失
ノヴァ・リュミエール号は航行を続けるが、どの方向へ進んでも同じ闇が広がるだけ。
「本当に進んでるのか?」カイが不安を漏らす。
「座標が無意味だから確認できない。だが、停止しても危険だ」アストラは苦い声で言う。
すると、突如として艦内にアラームが鳴り響いた。
「衝突警報?」マリナが叫ぶ。
だがスクリーンに映し出されたのは――真っ白な“壁”のようなものだった。
「な、なんだこれ!?」カイが操縦桿を引く。
しかし船は壁をすり抜け、再び闇に包まれた。
「幻影……?」リーナが眉を寄せる。
「いや、違う……。虚無が俺たちを試しているのかもしれない」アストラは呟いた。
◆心の揺らぎ
虚無は船だけでなく、心までも侵食していた。
マリナはふと自分の家族の幻影を見て立ち尽くす。
カイはピザ屋時代のバイト仲間の笑い声を聞いた気がして涙ぐむ。
リーナは冷静さを失わぬよう、必死にデータを解析するが指が震えていた。
「ぷくるる……(みんな変だよぉ……)」
小さな声が艦橋に響き、全員がはっと我に返った。
アストラは強く拳を握った。
「惑わされるな! これは影の艦隊が仕掛けた罠だ!」
◆出口の兆し
その時、リーナの端末にかすかな波形が映った。
「……エネルギー反応! ごく微弱だけど、人工的なパターン!」
「出口か!?」カイが声を上げる。
「もしくは影の艦隊の拠点だな」マリナは冷静に応じた。
アストラは力強く頷いた。
「どちらにせよ進むしかない。虚無に呑まれる前に!」
ノヴァ・リュミエール号は微かな光の点を目指して進み始めた。
だがその光は、近づけば近づくほど形を変え、やがて“門”のような輪郭を描き出す。
「また……門?」マリナが息を呑む。
「いや、これは違う……。まるで“誰かが迎えている”みたいだ」アストラの胸に不穏な予感が広がった。
◆影の気配
門の向こう側から、低く響くような音が艦を揺らした。
それは言葉ではなく、しかし明らかに意思を持った声だった。
――ようこそ、虚無の門へ。
プクルが震え上がり、カイは顔を青ざめさせる。
「い、今の声……誰だよ!?」
リーナは端末を睨みつけた。
「信号じゃない……直接、艦の意識に干渉してきてる……!」
アストラは立ち上がり、前を見据えた。
「影の艦隊……ついに姿を現すか」
ノヴァ・リュミエール号は、闇の中の門へと突き進んでいった。
虚無宙域を彷徨う中、ついに現れた第二の門。
そこから響く声は、人か、AIか、それとも艦そのものか――。
影の艦隊との本格的な邂逅は、もはや避けられない。




