第百三十七章 禁忌領域の門
外縁宙域のさらに奥に広がる“禁忌領域”。
そこは時空が歪み、古来より航行禁止とされた危険な宙域だった。
だが影の艦隊の痕跡は、その奥に眠っている。
ノヴァ・リュミエール号のクルーは恐怖と不安を抱えながらも、真実を求めて未知の門へと挑む――。
◆準備と不安
「禁忌領域か……」
アストラは艦橋で星図を見つめながら小さく呟いた。
そこに広がるのは、無数の赤い警告マーク。航路は乱れ、重力は不安定。下手に突入すれば船ごと引き裂かれる。
「いやー、やっぱり帰ろうぜ! 影の艦隊なんて放っておけばいいんだ!」
カイは両手を振って必死に抵抗する。
「ぷくるる……(プクルも帰ってピザ焼きたい……)」と、マスコットのプクルまで弱音を吐いた。
だがマリナは腕を組み、冷ややかに言い放つ。
「放っておけば銀河そのものが危険にさらされるわ。そんな簡単に逃げられる話じゃない」
リーナも端末を叩きながら付け加えた。
「艦のAIを調整して航路を安定させれば、突入の可能性はゼロじゃない。ただし……リスクは計り知れない」
艦内の空気は重く張りつめ、だがその中に微妙な期待感も漂っていた。
◆ドタバタの準備
「よし、とりあえず食料補給を――」
そう言った矢先、冷凍庫が開いて内部のピザ生地がすべて発酵しすぎて膨れ上がっていた。
「ぎゃーっ! こ、これはまさかのピザ・バルーン!」カイが叫ぶ。
「ぷくるる!(ふくらんでるー!)」
「……何をどう管理したらこんな惨状になるのよ」マリナは額に手を当てる。
さらに追い打ちのように、リーナの航路計算が狂い、シミュレーションの艦がぐるぐると同じ宙域を回り続けた。
「……どうやら禁忌領域は“航路ループ”を仕掛けているようね」リーナは冷静に結論を出したが、その画面には堂々巡りする船のマーク。
アストラは深くため息をついた。
「本当に俺たち、禁忌領域に突入できるのか……?」
◆境界線
数時間後。
ノヴァ・リュミエール号は禁忌領域の境界に到達した。
視界の前方には、まるで水面に石を投げ入れたように、空間が波打ち揺らめいている。星々が歪み、光がねじれ、音のない雷鳴が艦を包んだ。
「こ、これが……禁忌領域……」マリナの声は震えていた。
「すっげー、目が回る!」カイは両手で頭を押さえた。
「ぷくるる……(帰りたい……)」
リーナは端末を強く握りしめる。
「重力波、時空の捻じれ、どれも通常値をはるかに超えてる……でも、この先に確かに“門”がある」
「門?」アストラが問い返す。
「影の艦隊が通過したと思われる、人工的な“時空の穴”よ。自然発生じゃありえない規則性を持っている」
スクリーンには、巨大な楕円形の光の渦が映し出された。
中心は真っ黒に沈み、そこへ吸い込まれるように時空そのものが流れ込んでいる。
◆決断
「つまり……あの穴に飛び込めってわけか」カイは青ざめた顔で言った。
「その先に影の艦隊の巣がある可能性が高い」リーナは頷く。
艦橋に沈黙が走る。
プクルがアストラの足にしがみつき、
「ぷくるる……(やだやだ! プクルは生きてピザ食べたい!)」と必死に泣きついた。
アストラは深く息を吸い、仲間たちを見渡した。
「恐怖はある。だが真実を確かめずに引き返せば、俺たちは一生“影”に怯えることになる。行くぞ。禁忌領域の門へ!」
カイが叫ぶ。
「隊長ぉぉぉ! 俺の胃が死ぬぅぅ!」
マリナは苦笑しながらも頷いた。
「もうここまで来たら、腹をくくるしかないわね」
リーナは冷静に操作を続けた。
「突入準備完了」
ノヴァ・リュミエール号は進路を“門”へと定めた。
歪んだ空間が迫り来る。
次の瞬間、視界が光に包まれ、船は闇の中へと飲み込まれていった。
禁忌領域の境界を越え、ついに“門”へ突入したノヴァ・リュミエール号。
その先に待つのは影の艦隊の巣か、それともさらなる未知か――。




