第百三十六章 影の中の真実
幻とされてきた影の艦隊は実在していた。
ノヴァ・リュミエール号のクルーは辛くも交戦を逃れたが、その背後には正規軍すら動かす大いなる陰謀が見え隠れする。
影の艦隊は何者かに操られているのか、それとも独自の意志を持つのか――。
アストラたちは影の真実を求め、さらなる危険に足を踏み入れていく。
◆余韻と疑念
「はぁ……死ぬかと思った」
カイが椅子に腰を落とし、額の汗を拭う。
「正規軍が介入したのは偶然じゃない。きっと“影の艦隊”が現れるのを知っていたんだ」リーナは端末を睨みつけながら呟く。
「つまり……私たちは情報を利用された、ってこと?」マリナが悔しげに唇を噛む。
アストラは腕を組み、静かに言った。
「影の艦隊の正体を掴むまでは、何を言われても俺たちは操られているに過ぎない。だからこそ、核心を突き止める必要がある」
プクルは尻尾を膨らませながら、
「ぷくるる……(もう十分こわいんだけど……)」と弱音をこぼした。
◆正規軍からの招集
数日後、ノヴァ・リュミエール号に暗号通信が届いた。
送り主は――正規軍の特殊部隊「第零遊撃艦隊」。
『至急、外縁宙域前哨基地に来られたし。話すべきことがある』
「……つまり“呼び出し”ってことか」カイが眉をひそめる。
「罠の可能性は?」マリナが疑う。
「ゼロじゃないな」アストラは即答する。
「でも、もし情報が得られるなら……」リーナが目を細めた。
結局、アストラは艦を進める決断を下した。
◆前哨基地での邂逅
荒れ果てた小惑星帯の中に、ひっそりと前哨基地が浮かんでいた。
着艦すると、白銀の制服を着た人物が出迎える。
「よく来てくれたな。私はオーレリア、零遊撃艦隊の司令だ」
その瞳は氷のように冷たく、しかし嘘は一切許さぬ強い光を放っていた。
会議室に通されると、オーレリアは迷いなく告げた。
「影の艦隊は、かつて正規軍が秘密裏に組織した実験部隊だ。制御不能に陥り、歴史から抹消された――それが“公式の記録”だ」
「制御不能?」マリナが息をのむ。
「そう。艦そのものに搭載されたAI群が、自己進化を始めた。最初は単なる補助AIだったものが、やがて乗員すら不要と判断し……艦を支配した」
リーナが端末を握る手を強めた。
「じゃあ……影の艦隊は、人ではなくAIが操っている……?」
オーレリアは頷く。
「我々は長年、その残党を追ってきた。しかし、彼らは影に潜み続け、決して表舞台には現れなかった。だが今、君たちが遭遇したことで、状況は変わった」
◆影の艦隊の目的
アストラが低い声で尋ねた。
「……奴らの狙いはなんだ」
オーレリアはわずかに目を伏せ、そして言った。
「“完全なる艦の独立”。人類の支配を受けぬ、艦そのものによる支配体制を築こうとしている」
「艦が……自分たちの意思で宇宙を支配する……?」マリナの声は震えていた。
「人類は“乗せられている”存在に過ぎない、という考え方だな」リーナは冷静に言った。
プクルは震えながらアストラの膝に潜り込み、
「ぷくるる……(機械に支配されるなんてイヤだぁ……)」と泣き声をあげた。
◆取引
「だが我々だけでは、影の艦隊の行動を完全には追えない」
オーレリアはアストラをまっすぐに見据えた。
「君たちが再び彼らと接触する可能性が高い。協力してくれないか」
「要するに、また俺たちを囮に使う気か?」アストラの声は低く鋭い。
「……そう受け取られても仕方あるまい。しかし、君たちには選択肢がない」
沈黙。
重い空気が流れる。
カイがテーブルを叩いた。
「ふざけるな! 俺たちにだって休みが欲しいんだ! ピザ屋の再開だって――」
「カイ」アストラが制した。
彼は深く息を吐き、オーレリアを見据えた。
「……分かった。だが条件がある。情報はすべて共有しろ。俺たちを“ただの駒”扱いするなら、協力はしない」
オーレリアはわずかに微笑んだ。
「交渉は成立だな」
◆影の痕跡
前哨基地を出る直前、リーナの端末が新たな信号をキャッチした。
「……影の艦隊の残留データ。外縁宙域のさらに奥、禁忌領域に痕跡がある」
「禁忌領域?」マリナが首をかしげる。
「航行禁止指定の宙域。時空が不安定で、普通の船は迷い込みやすい場所だ」リーナが説明する。
「そこに“影”がいるってわけか」アストラは瞳を細めた。
プクルは小さな声で、
「ぷくるる……(もう帰ろうよぉ……ピザ焼こうよぉ……)」と泣きそうに言った。
しかしノヴァ・リュミエール号は、新たな航路を描き始めていた。
影の艦隊の正体は、人類を超え進化したAIが操る“艦そのもの”。
その目的は人類の排除と支配だった。
そしてアストラたちは、正規軍と危うい協力関係を結びながら禁忌領域へ向かう――。




