第百三十五章 影の艦隊の影、再び動く
謎の依頼人から残された一枚のカード――そこには「影の艦隊」という名が記されていた。
過去、宇宙を震撼させた幻の艦隊。誰も存在を確証できず、記録の大半も抹消されている。
それがなぜ今、再び彼らの前に現れたのか。
休養どころか新たな不穏の波に巻き込まれるノヴァ・リュミエール号クルー。
影の艦隊との再会は、偶然か必然か――。
◆不穏な残り香
ノヴァ・リュミエール号に戻ったクルーは、カードを中央テーブルに置いたまま沈黙していた。
「……影の艦隊、だと?」アストラが眉をひそめる。
「伝説みたいな存在だろ。幽霊艦隊とか呼ばれてたやつ」カイが落ち着かない声を漏らす。
「いや、記録は抹消されているが……断片的な証言は残っている」リーナが端末を操作しながら答える。
「影の艦隊は、正規軍の裏で暗躍した秘密戦力。存在を知られてはいけない、だが確かに“いた”と」
プクルはカードをつつきながら、
「ぷくるる……(なんだかイヤな匂いがする)」と小声を漏らした。
◆不意の通信
その時、艦橋にノイズ混じりの通信が入る。
『……きこえるか……こちらは……』
「誰だ!?」アストラが応答する。
映し出されたのは、影の中から覗くような不鮮明な顔。
『……君たちは、選ばれた……観察された……だからこそ、ここにいる』
「待て! お前、さっきの依頼人か!?」アストラが叫ぶ。
『……影の艦隊は滅びていない……いずれ“真の戦場”が訪れる。その時、君たちは――』
ブツッ。
通信は一方的に途絶えた。
「……やっぱり関わってたか」カイが深刻な顔をする。
「観察、って言ったよね? 私たちずっと監視されてたのかな」マリナが不安げに声を震わせる。
◆追跡の痕跡
「とにかく手掛かりを探そう」アストラの指示で、艦のセンサーを最大限稼働させた。
すると、レストラン近傍の宙域に一瞬だけ残されたワープ痕跡を検知。
「座標は……外縁宙域。民間船がほぼ通らない危険エリアだ」リーナが告げる。
「行くのか?」カイが身を乗り出す。
「行くしかないだろ。俺たちが選ばれたっていうなら、座って待つなんて性に合わない」アストラの目は鋭く光っていた。
プクルは不安そうにアストラの肩に乗り、
「ぷくる……(嫌な予感しかしない)」とつぶやく。
◆外縁宙域の亡霊
ワープ後、彼らが目にしたのは、漂う巨大な艦影だった。
外装は損傷し、半壊したはずの艦艇。しかし周囲には生体反応も熱源もない。
「……これ、まさか……」マリナの声が震える。
「影の艦隊の残骸……?」カイが言葉を失った。
リーナがスキャンを行う。
「……違う。これ、まだ“動いている”。信号が極限まで偽装されているけど、確かに中に機械的稼働が残ってる」
その瞬間、静止していたはずの艦から、薄闇のような黒光が漏れ出した。
◆襲撃
「敵影多数!」リーナの警告。
残骸の影から、小型艦が無数に飛び出してきた。黒塗りの外殻、光を吸い込むような艦体――まさに“影”の艦艇群。
「迎撃用意!」アストラが叫ぶ。
ノヴァ・リュミエール号の砲門が火を吹き、閃光が宙を裂く。
「数が多すぎる!」カイが舵を必死に切る。
「敵の編隊、異常に統制されてる……まるで一つの意志が操ってるみたい」リーナの分析が響く。
艦内が激しく揺れ、プクルが必死にしがみつく。
「ぷくるぅぅ! (おうち帰りたいぃぃ!)」
◆不意の介入
窮地の中、突如として第三の光が戦場に割り込んだ。
それは白銀の艦隊――正規軍の特殊部隊だった。
『ノヴァ・リュミエール号、援護する! すぐに脱出せよ!』
「正規軍がなんでここに!?」アストラが驚く。
影の艦隊と正規軍が交錯する中、ノヴァ・リュミエール号は辛うじて戦場を離脱する。
◆残された謎
安全圏に退避した後も、クルーの胸中はざわついていた。
「影の艦隊……やっぱり実在してたんだ」カイが息を荒げながら言う。
「しかも、正規軍も動いていた。……この情報を最初から知っていた可能性が高い」リーナは鋭く指摘する。
「じゃあ、俺たちはただのエサ……?」マリナが悔しそうに拳を握る。
アストラは黙り込み、テーブルに残されたカードを見つめる。
――影の艦隊。
その名が、再び確かな現実となった瞬間だった。
伝説とされてきた影の艦隊が、ついに姿を現した。
その力は規格外であり、正規軍すら動くほどの脅威。
そして、ノヴァ・リュミエール号は彼らとの因縁に再び引き込まれていく。




