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SF作家のアキバ事件簿218 ブルーヲタフライ

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第219話「ブルーヲタフライ」。さて、今回は大正浪漫時代のお宝ブルーヲタフライをめぐりトレジャーハンターが殺されます。


捜査線上に浮上した呪われた青い宝石の伝説、1世紀に渡り、ヲタクが紡いで来た夢と欲望は、物欲の街と化したアキバを舞台に萌え上がって…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 ハードボイルドなJAZZにしてくれ

 

大正浪漫のアキバ。蒸気は経済に革新的な発達をもたらし、地には機関車、空には飛行船が浮かぶ。

スチームパンクを地で逝く時代に上陸したJAZZは忽ちモボ・モガを魅了し、クラブ文化が花開く。


紫煙たちこめる”社交喫茶OH間違いだホール”。ピアノトリヲをバックに歌姫ベツィが歌うブルース。

肩の張ったスーツ姿のモボにモガが寄り添う。未だハードボイルドだった100年前のアキバの話だ。


「バーボンだ。どんどん注いでくれ…女を探してる」

「男ですからね」

「この女だ。知らないか?」


バーテンダーは、セピア色の写真をチラ見。グラスを拭く手を休めずに、鼻で笑う。


「知ってるかって?目の前にいますよ」


振り向けば、真っ白なミンクのコートをベルボーイに渡しカクテルグラスを手にホールを睥睨スル女。

女王様の降臨に誰もがひれ伏す中、その遠慮のない視線は、俺と絡むやたじろいで、彼女は息を飲む。


「やっと出会えた気がする」


その瞬間だ。俺達が恋に落ちたのは。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


2025年、謹賀新年。正月早々、スーパーヒロイン殺しだ。万世橋(アキバポリス)のラギィ警部と現場で合流スル。


「”OHマチガイダ・サンドウィッチ・ハウス”。ココは歴史的な場所だ。大正浪漫が咲き誇った昔、偉大なミュージシャンがココで演奏した。壁に語って欲しいよ」

「どーせ語るなら、真犯人の名前にして」

「ラギィ、遅かったわね。スタン・バクス。”blood type BLUE"。胸部に銃創。殺害時刻は恐らく今朝の6時から8時の間。右手に持ってる青い木製の窓枠みたいな棒で抵抗したけど、殺られた」


僕のタブレットから声がスル。車椅子の超天才ルイナがラボから”リモート鑑識”してくれてる。


「強盗目的?」

「違うわ、ラギィ。カードにスマホ、ホテルのカードキー…」

「あら。何も盗られてナイの?」


ビニール袋入りの証拠品を次々と示すエアリ。因みに、彼女はメイド服だ。ココはアキバだからね。


「でも、スーパーヒロインの遺体には犯人が何かを探した形跡があるわ」

「インバウンドにウケてる”妙なホテル”のキーを持ってるけど、免許証の住所は東秋葉原の34丁目。ちょっと調べて来る」

「頼むわね、エアリ」


エアリは、相棒のマリレと出かけて逝く。因みに、マリレもメイド服だ。なぜなら…(以下省略)。


「テリィたん。今から飲みたいの?そのバーは、もう閉店みたいょ」

「捜査してる。手がかりを探してルンだ。しかも、見つけた。カウンターの中にホームレスの段ボールハウスがアリ、朝刊が読み捨てられてる」

「”ワラッタ・ワールドワイド・ニューズレター”?ホームレスにしては世界的な視野の持主なのね。とにかく、彼だか彼女だかが"何か"を目撃した可能性がある。界隈の聞き込みを始めるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「スタンが死んだ?」


薄い木の扉を開けるコンシェルジュ…というよりも昭和の頃によく見かけた下宿屋の親父風情の男だ。


「最悪なニュースだ。このガラクタをどう片付けろってンだ。だから、スーパーヒロインに部屋を貸すのは嫌ナンだ」

「ご協力をどうも。1部は捜査のために持ち帰ります。彼女は誰かに脅されてませんでしたか?」

「そんなコト、知らねぇよ。俺は彼女のパパじゃねぇんだ」


ニベもナイ。


「最後に彼女を見たのはいつですか?」

「今朝は、ヤタラ上機嫌で、金が入ると勇んで出て行ったぜ」

「お金が入るって何?」


思わず身を乗り出すエアリ。


「だから、俺は何も知らねぇよ。とにかく、大金だとは言ってたな」

「何か思い出したら連絡して下さい」

「俺に期待するなょベイベ」


エアリは、下心アリアリ風の下宿屋にウィンクされてゾッとする。横目で見たマリレがクスクス笑う。


「どうやら好かれたみたいね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


一方、僕達は万世橋アキバポリスの捜査本部で元夫から事情聴取。コチラはイケメンだ。ラギィが浮ついてるw


「見当もつかない。彼女と別れてもう1年だ。俺にはもうわからない」

「では、最後に彼女と話したのは?」

「2ヶ月前だ。言葉少なで…いつも際限なくお喋りしてた昔とは大違いだ。何もかも徳川埋蔵金のせいだ」


え?徳川埋蔵金?


「1867年の大政奉還。明治新政府は江戸城を占領、勇んで金蔵をのぞくと中はカラで、そのお宝は何処かに秘匿された。恐らく今も…」

「YES。お台場ビーチで四文銭の寛永通宝を見つけて以来ヲ宝探しにハマり、世界的な徳川埋蔵金ハンター、アカギ・ヤマ子の番組を見て完全に俺の声の届かない世界へ行ってしまった」

「アカギ・ヤマ子?10年前に利根川で沈没船を見つけた人だ」


徳川埋蔵金は、落城寸前の江戸城を脱出、利根川を上り群馬の赤城山に埋められたとスル説が有力だ。


「彼女は触発されて、天職と言ってたメイドカフェのバイトも辞め、宝探しに没頭した。最後に話した時も、彼女の話題はもっぱら”ブルーヲタフライ”だった」

「”ブルーヲタフライ”?ソレってコンビニのレジ横の揚げ物?新製品?」

「わからない。確かに美味そうだが」


なワケないでしょ…溜め息をつくラギィ。


「誰か知り合いとモメてた人はいませんか?」

「しょっちゅうだ。彼女は、金の問題で常にモメてた。2日前も、女の声でスタンに100万円貸してるが、今すぐ返せ、返せないなら覚悟しろ、と脅してきた」

「100万円?埋蔵金を狙うにしちゃ微妙な額ね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

万世橋アキバポリスに捜査本部が立ち上がる。証拠品のコンテナが続々運び込まれ、片っ端から中身を確認w


「スタンの所持品の中に”揚げ物”関連のモノはナイわ」

「お。大正浪漫の頃のアキバのストリート風俗やギャングに関する本だ。珍しいな」

「ラギィ。スタンに借金返済を迫った電話だけど、八百屋からだとわかった。何か裏があるのかも。調べてみるわ」


八百屋?今時そんなビジネス、生き残ってるのか?


「thank you。頼むわね、ヲタッキーズ」

「ふふふ」

「何?何がおかしいの?テリィたん」


怪訝な顔で振り向くラギィ。


「スタンが持ってた日記さ。どうやら大正時代の私立探偵の日記らしい。聞いてくれ…"旦那の浮気調査でクロとわかると、泣き出す女は多い。だが、彼女は即、復讐を始めた。早速、俺は彼女と関係を持ち、探偵としての報酬も請求した"」

「自慢話?素敵な描き出しね」

「マジか?まるで”小説家に苦労(なろう)”掲載のベタなハードボイルド小説みたいさ。しかし、何でスタンはこんな日記を持ってルンだ?」


ソコへエアリが駆け込んで来る。


「向かいのコンビニ店主の話だけど、ココ3日間、白のキューベルワーゲンがクラブの外に停まってたンだって」

「じゃナンバーを見た人がいるカモ。調べて…何?」

「なぁラギィ。この日記、持ち帰って吟味精読しても良いかな?」


呆れ顔のラギィ。


「面白そうだからネタ本にしたいンでしょ?」

「ソレもアル」

「あのね。大事な証拠品なの。必ず…」


既に僕は背中を向けてる。ラギィの声は聞こえない。


「…明日の朝には返して」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿、経営を圧迫中だ。

特に今宵はオーナーの僕自身がカウンターと(メイド長)を独占、不気味にニヤニヤしながら読書中w


人の日記を読む時って誰でもニヤからょな?


「1917年6月18日。いつもと同じ朝だ。デスクにつっぷしたママ、安いバーボンの瓶と共に目覚める。喉はカラカラに渇き、頭はガンガンと痛む。忌々しい二日酔いを直すには、迎え酒が1番だ…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


世は大正浪漫だ。束の間のデカダンスに太平の逸民は酔いしれ、帝都アキバには大衆文化が咲き誇る。


「全くフリンさん。貴方って人は、毎晩ココで酔い潰れてる。ココで寝るんだったら、アパートメントハウスは必要ないでしょう」

「大家のミユイさん。ココで寝れば、遅刻せずに済むだろう?」

「ヲ客様がお見えです。さ、フリンさん。感じ良くしてください」


バーボンの瓶と、未だ底から1㎝残ってたグラスは、秒でデスクの1番下の引き出しに消える。


「さ、シッカリ稼いで来月分のヲ家賃もキチンと払ってくださいませね」

「コレで良し…ミユイさん。僕はどんな感じかな」

「まるで大人の七五三です」


きっと、今日も昨日と同じつまらない日常だ…しかし、彼女の登場が何もかもを一変させてしまう。

メリージェーンシューズにパープルの野暮ったい服だ。田舎者丸出しの緑髪の女子に椅子を薦める。


「私は、サリモ・スピアです…あ、モルクだったわ。未だ新しい姓に慣れてなくて…」

「不倫・ショーです。どういったご用件で?」

「あの…」


サリモは横目で傍らに立ったママの女給姿のミユイさんを見る。しかし、彼女は全く去る気配が無い。


「…秋葉原には新婚旅行で来ました。でも、秋葉原ヒルズに登ったり、東秋葉原の四叉路ブロードウェイのショーを見るのが目的ではありません。私には別の理由がありました。姉のヴェラを探しているのです。地元でイザコザがあって、姉は2年前、秋葉原でショーガールになると言って、北千住を出ました」

「その後、姉さんから連絡は?」

「ありません…姉を見つけてもらえますか?母さんが病気でもう長くないんです」


ハンカチで目頭を拭う田舎娘。面倒クセーと思った時には、もうミユイさんがシッカリ請け負ってる。


「是非お任せください。1日1万5000円プラス経費です。明朗会計」


うなずく田舎娘。商談成立?おい、探偵は俺だぞ。


「ただし、この件は内密にお願いします。イザコザのせいで家族が探していると知ったら、姉は身を隠してしまうかもしれません」

「御安心を。私は、非常に慎重な人間です」

「モルクさん、彼は秘密は厳守します」


まるで、ボス気取りのミユイさんを横目で見ながらセピア色の写真を受け取り…俺は肝を潰す。

まるで、宝塚のスターブロマイドを見ているような完全無欠の美人だ。計算しつくされた美貌。


俺は圧倒される。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


当時のアキバに未だヒルズはなく摩天楼が何本か、気まぐれに乱立している。

ヴェラはショーガールになったろうか。アキバ。この街では何でもあり得る。


「回しておいてくれ」


キューベルワーゲンで"OH間違いだ"に乗り付ける。ホールのドアボーイにキーを預ける。

好きなサッチモは聞けなかったがベツィの歌なら文句は言えない。彼女の歌声は天下一品だ。


「バーボンをくれ」


カウンターに肘をつく。散々歩き回って古傷が痛んだが、酒で回復出来る。出された酒をグイと飲む。


「どんどん注いでくれ…女を探してるんだ」

「男ですからね」

「彼女はspecialだ。知らないか?」


バーテンダーはグラスを拭く手を休めず鼻で笑う。


「知ってるかって?目の前にいますよ」


振り向くと、真っ白なミンクのコートをベルボーイに渡して、カクテルグラスを受け取る女がいる。

ゴージャスな彼女がホールを睥睨するや誰もが視線を落とす。が、俺と視線が絡み彼女は息を飲む。


「やっと出会えた気がする」


俺はどうかしてる。彼女は災いの元だ。何しろ冷酷なマフィアのボス、トムデ・プンシの女なのだ。

彼女は、遅れて入って来たトムデに耳打ちをすると彼は軽く舌打ちし指を鳴らす。女達が振り向く。


「ボスがお呼びょ」


トムデの手下が2人やって来る。1人は魔法使い系、もう1人はミリタリー系だ。スタスタと歩み寄る。


「明日にしてくれ。少し忙しいんだ」

「アタシはお願いしてルンじゃナイの」

「おや?音波銃か?」


ミリタリー系が太腿ホルスターをチラ見せ。銃口がラッパ型に開いたスチームパンク銃がのぞく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


壁に叩きつけられる。アバズレ2人のツープラトン攻撃だ。目の前にトムデが現れ、俺の胸倉を掴む。


「俺を知ってるか?」

「ウェイターか?お嬢さん方にはレモネードを…」

「生意気な奴だ」


トムデのパンチが腹にメリ込む。


「ヲタクに俺の女をジロジロ見られるのは気に入らねぇんだょ」

「ボスに話す時は口に気をつけな、ヲタク野郎。舌を抜くぜ」

「エアリにマリレ。このヲタク野郎に礼儀を叩き込んでやれ!」


勇んでつかみかかって来るアバズレ2人組。


「さぁヲタク野郎。授業の開始ょ」


先ずミリタリー系をクロスカウンターで壁に叩きつけるが、次の瞬間魔法使い系の膝蹴りが腹に入る。


「そら、出てけ!」


扉から蹴り出されると、通りかかったボーイと衝突し、派手な音を立て俺はフロアにひっくり返る。

そのママ左右から掴まれ店の出口から路地裏に放り出され頭からゴミ箱に突っ込み見事に汚物塗れw


「2度とツラを見せるな、ヲタク野郎」


俺は、残飯塗れになって考える。こんなコトをスル価値があるのか?

ブロック塀の崩れた穴に手をかけ、やっと立ち上がり自問自答スル。


その答えは、白ミンクのコートを着て"OH間違いだ"の裏口から飛び出して来る。さっきの女だ。


「ケガは?」

「こんなの大したコトは無い。俺の顔でアイツの拳を殴ってやった」

「タフなヲタクさん。お名前は?」


帽子を被り直す。名乗ろうとすると裏口から顔を出したアバズレが叫ぶ。


「ねぇ!何してるの?!」

「ボスのブレスレットをつけたママ、勝手に姿を消さないで!」

「…ソレ、良く見せてくれ」


彼女の右腕には"青いダイアモンド"を散りばめられたブレスレットが輝いている…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


潜り酒場(スピークイージー)"のカウンターで、思わず叫ぶ僕。


「"ブルーヲタフライ"は、ブレスレットだったのか!だから、スタンは殺されたンだな?」


バーボンを1口飲んで…俺は溜め息をつく。


「何で俺がナレーターを?」


第2章 ハードボイルドな女達


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。ホワイトボードに情報を描き込んで逝く。


「マリレ、例の八百屋はどうだった?」

「ブルーヲタフライもスタンも知らなかった。でも、八百屋の奥を間借りして賭場を開いてる奴がいたわ。レイク・バクヤ。仮釈放中」

「ふーんスタンは賭場でレイクに借金の返済をしてたのかしら」


僕は首を横に振る。


「スタンが賭場にいたのは借金のためじゃナイ。ソレはブルーヲタフライのためだ」

「あら。ブルーヲタフライって…」

「ブレスレットだった。ブルーダイヤをあしらったブレスレット」


僕は画像を示す。時価1700万円。


「レジ横お惣菜じゃなかったの?」

「何の話だ?例の探偵の日記を読めばワカルさ」

「スタンはトレジャーハンターだった?しかも、お目当ては徳川埋蔵金じゃなくて」


ドヤ顔で大きくうなずく。


「そうだ。調べてみたらブレスレットは1910年代に紛失。専ら"OH間違いだクラブ"の何処かに隠されたって噂だ。スタンは、ソレを発見し殺された可能性がアル…マリレ、ask herと挑発してみてくれ」

「プロレス?…ask her」

「おおっgive upだ!」


ミユリさんからプロレスごっこの話を聞かされてるラギィは、ウンザリ顔をして無遠慮に会話を遮る。


「続きはミユリ姉様も交えてリングでどうぞ…で、昨夜の読書感想文はソレでお終い?」

「未だ続きがアル。と逝うのもブレスレットには呪いの噂があって、いっときは月面ナチスが所有していたが"神々の黄昏作戦"が失敗して破産、"OH間違いだ"オーナーのトムデの手に落ちた。だから、も1度クラブに行ってみよう」

「待ってょテリィたん。マジその必要があるの?」


あくまで疑り深いラギィ。


「モチロンだ。スタンは緑色の棒を握っていただろう?実はクラブの地下にあるオフィスは内装が緑色ナンだ。スタンは、きっと地下オフィスにいたに違いない」

「マジ?」

「日記によれば、ブレスレットは地下オフィスの金庫にあったとされる。きっと、僕達は何かを見逃してる」


ラギィは溜め息。どーやら説得は成功だ。


「わかったわ。ヲタッキーズは、金庫屋を探して。私とテリィたんは現場に行ってみるわ」

「ROG」

「マリレ、も1度ask herって逝って」


その場の女子全員に睨まれるw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


真昼の中央通り。ラギィ運転の覆面パトカー(FPC)の中。僕は、得意になって日記の話を語る。


「で、姉妹の方はどーなったの?」

「マフィアと聞いてサリモは尻込みした。で、探偵が連絡係を買って出た」

「下心見え見えね」


鼻で笑うラギィ。クラブの前にFPCを停めて、僕達は狭い階段を地下のオフィスへと降りて逝く。


「美人相手じゃヲタクとしては当然だ」

「とにかく、サリモは申し出に乗った。ただし、彼女が探してると伝えないコトが条件だ」

「ヴェラは地元の北千住で色々あったからな…」


僕は、灯り取りの高窓を指差す。


「スタンが握っていたのは、この灯り取りの窓の棒だ。きっと金庫を開けるのに使ったんだろう」

「テリィたん。夢を壊して悪いけど、残念ながら金庫は何年も使われてナイ。扉が空いてるってか…そもそも扉がナイわ。きっとスタンは空振りね」

「コレが日記に出て来る金庫ならな」


ラギィは身を乗り出す。


「この金庫じゃないっていうの?」

「この時代、金庫は2つある場合が多い。1つは重要性の低いモノ用。で、も1つは極めて重要なモノ用で、大抵見つけにくい秘密の場所にアル」

「ソレは何処ょ?」


僕は、オモムロにタブレットを取り出して、夜鍋してデータ化した日記を声高らかに読み上げる。


「まぁ聞けょ…"出会いから5日が過ぎ、俺とヴェラは恋仲になった"」

「待って!たった5日で恋仲?」

「そーゆー時代ナンだ。"…お互いを深く愛し合う。最早2人に恐れるものは何もナイ。探偵とギャングの女。2人は全てを賭ける"」


早くもウンザリ顔のラギィ。


「ねぇ金庫と何の関係がアルの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


逢引きの場所は狭いバックステージの暗闇だ。白い肩を出したドレスで駆け込む女。

ギャングの情婦としては自殺行為だ。夢中で見つめ合う俺達。ラギィの胸は高なる…


「ちょっと待った、テリィたん!今、何て言った?ラギィですって?もしかして、テリィたんが探偵で私がマフィアの女って妄想してるワケ?」


当たりだ!


「まさか!ラギィじゃないょラッキーって言ったンだ。余りのラッキーに胸は高なった。な?詩的表現だよ。とにかく!話を続けるぞ。2人がキスをしようとしたその時だ…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再びback to the 大正浪漫。


「誰?」

「ねぇ!ちょっと待って」

「ヴェラ。未だ懲りてないの?ask her?」


アバズレ達が割り込み僕は拳を固める。ソコにカーテンを開けて歌姫ベツィが顔を出して…僕にキスw


「私のダーリン!大好きょ」

「べ、べツィさんの連れですか?」

「YES。この前は、よくも彼をボコボコにしてくれたわね」


歌姫の貫禄でアバズレにスゴむ。


「スンマセン。しかし、理由があるんです」

「べツィさんも気をつけた方が…ボスは、自分はリア充だと勘違いしてて、自分の女がヲタクと交際スルのが大嫌いです」

「なら秘密にしておいてょ。もう消えて」


追い払われるアバズレ。最後の瞬間に振り向き、自分の両目を指差し、次に僕の両目を指差して威嚇。


「ヴェラ。貴女、マジどーかしてる。トムデに殺されたいの?確かにキスの上手い男だけど、命を賭けるほどの価値はある?」

「あるわ。最愛の人よ」

「まるで歩くオトギ話ね。呆れちゃうわ」


堂々の貫禄で歩き去る。


「アキバを出よう。彼女の言う通り、俺達の仲がトムデにバレたらお終いだ」

「私をアキバから連れ出して。もう何もかも投げ出して逃げ出したいの」

「何処へ逝くってンだ。直ぐに文無しさ」


すると、ゾッとするような微笑を浮かべるヴェラ。


「大丈夫よ。このブレスレットがあれば、一生暮らして行ける」

「マジで逝ってるのか?だが、ソレをつけてる時は、常に手下(アバズレ)が目を光らせてルンだぞ」

「不思議ね。タバコ売りをしてた頃、トムデの女がつけてた青いブレスレットに憧れて、どうしても欲しいと思ってた。だから、彼の女になって手に入れたの。ところが、手に入れてからコレはブレスレットじゃなくて手錠だと気付いたの」


絶望して天を仰ぐヴェラ。


「その手錠を命綱に変えよう。でも、どうすれば良いンだ?」

「私が着けてない時、トムデはブルーヲタフライを秘密の金庫にしまってる。その金庫の場所を知ってるの」


世にも恐ろしい笑顔を浮かべるヴェラ。


「その場所を今から貴方に教える」


男を犯罪者にハメる狡猾な女の眼差し。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「続きは?」


暗い地下オフィスでベケットは身を乗り出す。


「続きは…ないんだ。これが日記の最後のページ」

「何で?!どーゆーコト?ショーとヴェラはどうなったの?結末のない話をしないで」

「結末のある話をお望みなら、僕のベストセラーが27冊も出てるからソッチを読んでくれ」


溜め息をつくラギィ。


「で、秘密の金庫はどこにあるの?」

「さぁ。でも、スタンは見つけた。金庫をこじ開けるために、緑の棒を使ったんだ」

「木の棒で頑丈な金庫が開くの?」


僕は、灯り取りの高窓の折れた窓枠を指差したが、どーやらラギィへの説得力には欠けていたようだ。


「これを見て、テリィたん!」


振り向くと、ラギィは暖炉に歩み寄るトコロだ。


「なにこれ?」


果たして暖炉の奥には古い金庫が…


「開いてるわ」

「やはり、スタンは宝を発見して殺されたんだ」

「でも、誰に?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。ヲタッキーズのメイド2人が賭場主を取り調べ。


「レイク・バクヤ。暴行の次は八百屋の奥で賭場?考えたわね」

「おい、メイドさん。待ってくれ。仮保釈中の身で開帳スルはずがないだろう」

「じゃスーパーヒロイン殺しはどう?」


エアリがタブレットでスタンの死体画像を示す。


「スタン?一体誰が殺した? 」

「貴方でしょ?」

「俺が何で商売相手を殺す?」


ホンキで驚いてるレイク。


「スタンを相手に商売してたの?」

「YES。スタンは何とか言うブレスレットを探すため、俺は新しいビジネスを始めるため、金が必要だった。奴は、何でも探偵の古い日記を買いたいとかで100万円を貸した。儲けの半分は山分けの約束だ」

「あらあら。じゃ何でスタンの元夫を脅したの?」


レイクは椅子の背にもたれ、天を仰ぐ。


「スタンが俺を避けたからだ。騙されたのかと思ってつい…だが、2日前に奴が現れて状況を話してくれた。鍵を握る人物を見つけたと言っていた」

「その人物の名は?」

「知らん。だが、大方スタンはソイツに殺されたんだろう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。ホワイトボードの前。僕はラギィに語る。


「スタンは、探偵の日記を探偵の秘書気取りだった大家の孫娘ルスアから買ったらしい。さすがは、お宝ハンターだょ良く調べてる」

「それで?」

「早速ルスアに連絡してみた。日記の他にも何か資料があるかもしれないと思ってさ。息子さんが出て探してくれるコトになってる」


溜め息をつくラギィ。


「テリィたん。探偵とギャングの女の物語はとてもロマンチックだけど、当時の出来事はスタンの事件とは関係がないと思うの」

「そーかな?」

「テリィたんの言う通りカモょラギィ」


現場から戻ったマリレが割り込む。


「レイクには残念だけどアリバイがあった。でも、問題は凶器となった音波銃ょ。何とスタンを撃った38Hz口径の音波銃は、ショーとヴェラが殺された1914年の未解決事件で使われたリボルバーの改造銃だった」

「ほーら。やっぱりつながったろ?」

「被害者の名前、も1度教えて」


マリレがデータを確認。


「ヴェラ・モルクと不倫ショー、じゃなかった、不倫(フリン)・ショー」


僕とラギィは、顔を見合わせる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ホワイトボードに死者の名前を描く。


「ヴェラ・モルクにフリン・ショーか。残念だな。萌える2人はハッピーエンドになって欲しかったのに」

「そうね。私もがっかりだわ」

「しかし、そんな昔から弾道分析ってあったの?」


うなずくラギィ。


「銃が発明された時からアルわ…ショーとヴェラの遺体はクラブの裏に止めてあったショーの車の中から発見された。2人とも38口径で撃たれ、車ごと萌やされてた。唯一の容疑者、トムデ・プンシは証拠不十分で釈放」

「ふーん駆け落ちを試みた2人を嫉妬に狂ったトムデが撃ち殺したワケか。しかし、なぜその銃でスタンが殺されるのかな。そもそも50年前の銃を、トムデはどうやって手に入れたンだ?そもそも、奴は生きていたらトンでもないお年寄りだけど」

「嫉妬に年齢は関係ナイわ。だけど、トムデはヴェラ達が殺された事件の4ヶ月後、心臓発作で死んでるの」


やれやれ。容疑者がいなくなったょ。


「なぁ1914年の報告書を調べたら、何か手がかりがあるンじゃナイか?倉庫に行って古い資料を探してくるよ」

「待って。テリィたん」

「エアリ?何だょ」


入れ違いにエアリが入って来て、ラギィのデスクに腰掛ける。


「トムデの銃を調べたンだけど、アカギ・ヤマ子ってお宝ハンターが彼の銃を全部買い占めてるわ」


モニターに映るアカギは、緑のジャケットに青いシャツ。金髪に染めててまるでアー写(アーティスト写真)みたいだ。


「アカギ・ヤマ子って、お宝ハンターの?スタンは彼女の番組を見て、お宝探しの世界にのめり込んでいったのよ?」

「しかも、ソレだけじゃなくて、アカギ・ヤマ子はアキバに来てブルーヲタフライをもう15年も探し続けてルンだって」

「そー言えば、レイク・バクヤが言ってたわ。スタンが鍵を握る人物を見つけたって」


ラギィは頭をヒネる。


「その人物がアカギ・ヤマ子かしら」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


薄暗い資料倉庫の中。僕はガラクタ…じゃなかった、資料の詰まった段ボール箱に囲まれてる。


「あったぞ…なぜかホコリが払われてる」

「最近誰かがこの事件を調べたのね」

「まさかスタンかな」


一緒に探してくれてるマリレが箱を開ける。


「あったわ。ヴェラと探偵の殺害現場の写真ょ」


誰かの想い出のようにセピア色に焼けてる鑑識の写真。萌えた車のシートに横たわる2体の白骨死体。


「ギャングの女に熱を上げて自分も黒焦げか」

「それで何を探せば良いかしら」

「1914年の事件と今回の事件を結ぶものが銃の他にもきっとアル。この箱の中を見ればわかるカモな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の会議室では、ラギィとマリレがお宝ハンター、アカギ・ヤマ子から事情聴取。


「トムデの銃器類は確かに買ったわ。どうぞ好きなだけ調べてください」

「スタンとは、どこでお知り合いに?」

「私はマスコミ露出の多い有名人です。ヲ宝探しの素人はよく訪ねて来ますょ」


メタルの眼鏡を外すアカギ。


「仕事柄、仕方がないコトだと思っています」

「スタンの訪問の目的は何でしたか?」

「もちろんブルーヲタフライでした。私が、あのブレスレットを探してると知って、馬鹿げた話をしに来ました」


身を乗り出すラギィ。


「どんな?」

「重要な手がかりとなる探偵の日記を見つけたと言っていました」

「信じましたか?」


アカギは苦笑スル。


「モチロン信じません。日記を見せてくれと言ったら拒まれました。"OH間違いだカフェ"について私が調べたコトは教えろと言うのに、自分の情報は出さない。全く話になりませんでした」


さらに、呆れたという顔で続ける。


「挙句に、自分は車で尾行されてるから裏口から出たいとか言い出して」

「車?車種は?」

「白のマスタングだとか」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


引き続き、やたらホコリ臭い資料倉庫。


「このガラクタの山からブルーヲタフライの手がかりを見つけるのは大変だわ。干し草の山から針どころか干し草すら見つからない」

「マリレ、ボヤくな。もう干し草は必要ないょ針を見つけたから。ショーが死んだ直後の秘書気取りの大家の供述が見つかった。1914年6月24日の朝、ミユイ夫人はショーとヴェラの会話を聞いたと証言してる」

「え。どんな?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び大正浪漫。僕、じゃなかった、探偵フリン。


「トムデの金庫を開けるのは無理だ」


黒の羽付き帽をアミダに被ったラギィ…じゃなかった、ヴェラ。胸も露わなアッシュグレーのドレス。


「では、どうするの?」

「今宵、君は自由が待つ世界へ逃走スル。ブルーヲタフライをつけたママ」

「どうやって?私は常にトムデの手下に見張られてる。ブレスレットをつけてる時はなおさらよ」


真っ赤な唇がまくしたてる。


「大丈夫だ。うまくいくから信じて。俺達にはあのジミド・イールの助けがある」

「ジミド・イールって?」

「シュガ・レロビと今夜戦うキックボクサーだ」


美しい顔に不安の影。


「だから?」

「愛国心のあるアジアンはラジオにかじりついてジミドを応援するはずだ。君は試合が盛り上がる瞬間を待って席を離れれば良い。アバズレ共は、上の空だろうから、その目を盗んで裏口から逃げるんだ。ソコで俺が逃走用の車を停めて君を待ってる」

「あぁショー。完璧だわ」


一転、美しい顔はウットリ視線で僕を見る。


「いいえ。イカれてるわ!」


ソコへ嫁さん気取り、じゃなかった、秘書気取りのミユイ夫人(未亡人との設定w)が割り込んで来る。


「何を考えてるの?!不倫さん、しっかりして。この女はトンだ食わせ者よ」

「何を怒ってるんだ?俺は生まれ変わった。ヴェラに出会ってから酒を飲んでない。コレが奇跡じゃないなら何だ?」

「飲んだくれてた方がまだマシだわ。そもそも、2人の関係は何なの?盗人とウソつき?」


ドン引きするヴェラ。


「ウソつき?貴方、私にウソをついてるの?」

「どーやら、告白すべき時が来たようだな。あの日俺達が出逢ったのは偶然じゃない。俺は、君を探すよう依頼されていたんだ。ただし、誰が探してるかは明かさないと言う約束でだ」

「良いから教えて。貴方は誰に雇われたの?」


ヴェラは、俺から身を離す。


「君の妹だ」

「え?」

「君の妹のサリモ・モルク」


美しい顔で俺を直視スル。


「ショー。私に妹はいないわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


資料庫。身を乗り出すマリレ。


「で、テリィたん。その日記の続きは?」

「ソレが…コレで終わりだ」

「待ってょ!ヴェラの妹でなければサリモは一体何者なの?」


何故かドヤ顔の僕←


「彼女は探偵をハメた。まぁフィルムノワールとかならよくある手だね」

「でも…目的は?」

「わからない」

「サリーは何を?」

「わからない」

「トムデの一味なの?」

「わからなーい」


僕はニヤリと笑う。


「超面白いょな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。ホワイトボードの前。


「ラギィ。"OH間違いだカフェ"にいたホームレスが割れたわ。通称ウェストサイド・ストリ。対目(といめ)の雑貨店主が見てた。手配済み」

「ありがとう、エアリ。犯人逮捕の重要な鍵になるわ」

「おっと失礼…もしもし?え?いつ?わかったわ。ラギィ警部と急行スル」


既に駆け出してるエアリ。


「白いマスタングに乗った男がスタンの部屋に入って行ったそうょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署(アキバP.D.)万世橋警察署(アキバP.D.)!」


既に蹴破られてたドアを蹴り開けて、拳銃を構え突入するラギィ。続くエアリは音波銃を抜く。


「アキバP.D.!手を挙げなさい!」


洗面台の前にいた男が両手を挙げる。


「ゆっくり振り向いて。ゆっくり!」


やたらオドオドと振り向いたのは…


「貴方は… トムデ・プンシ?」


アキバの地下を牛耳る帝王だ。思わぬ面会に息を飲むラギィとエアリ。


「そんな…もうとっくに死んだハズょ?」

「何の話だ?」

「マジなのコレ?」


第3章 3世がいっぱい


万世橋(アキバポリス)の取調室。


「トムデ・プンシ3世?」

「いかにも」

「どーりで生き写しだわ」


ボサボサの髪。古着なのかボロ着なのか判然としない粗末な身なり。しゃべりまで似ている(多分w)。


「まるでドッペルゲンガーね」

「DNAが一緒なんだから不思議は無い…孫だし。押し入って悪かった。ドアは弁償するから、帰らせてくれ」

「お祖父さんからは、容姿の他にも何か引き継いでないの?…貴方がスタンの殺害に使った38口径のリボルバーとか?」


取調室内を歩き回りながら、時折立ち止まっては鋭く質問を繰り返すラギィ。


「おまわりさん、妙なコト言うな。俺は殺してない。奴はナサル・ジキスと名乗って、俺に接触して来た。自分は伝記ライターで祖父の伝記を描きたいとか言ってた。裏社会のコトは描かないし、良いコトだけを描く、未だ野菜市場があった頃の秋葉原を支えた祖父の功績を称える内容にスルと言って来たンだ」

「待てょ。お前のお祖父さんは殺し屋だろ?」

「だから、貴方は彼女の提案を聞いて、家族の汚名を注ぐために協力したワケね?」


変な感心をして畳み掛けるラギィ。


「悪いか?とにかく!お祖父さんの資料は全部見せてやった。でも、全部がウソだった!」

「なぜわかったの?」

「祖父のクラブで大人気だった歌手がいた。べツィ・シレアさ。数週間前に亡くなったので、俺は葬式に行った。そしたら、何とソコにナサルがいたンだ。しかも、俺を見て逃げ出そうとした!変に思った俺は、芳名帳を見て納得した。奴の本名はスタン・バクスだった」


半分呆れ顔の僕とラギィ。


「で、やっと伝記の話はウソだとわかったの?」

「そーだ。鋭く見抜いたのさ。しかも、奴は自分こそブルーヲタフライの正当な継承者だと思っていたンだぜ」

「ソレで、君はスタンを尾行し、ブルーヲタフライをゲットした彼女を音波銃で射殺した?」


マジで怪訝な顔をするデプシ。


「俺は奴を撃ってないぞ…おいおい!スタンはマジでブルーヲタフライを見つけたのか?」

「ソレを貴方に聞こうと思ったの。知らないの?」

「知らないさ。俺はネットで事件を知って、彼女の部屋に推し入っただけだ」


ドロボーは、謎のドヤ顔で胸を張る。


「俺は殺しちゃいない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。メイド服のエアリが駆け込んで来る。ラギィは白ブラウス黒パンツ。


「悲報と朗報ょ。どっちから聞く?」

「悲報から」

「デプシにはアリバイがあった」


たちまち溜め息と怨嗟の声に包まれる捜査本部。


「朗報も聞いて!まもなく、ウェストサイド・ストリが連行されて来るわ。コレでスタンに何があったかがわかるカモ」

「あと、ジェリ・マドクもいるぞ!」

「誰ソレ?美味しいの?」


ベストタイミングで特ダネを持ち出した僕だが、ラギィの塩反応で空振る。しかし、僕は負けない。


「なぜスタンがべツィ・シンクの葬式に行ったかが気になってたンだ」

「で、誰にリサーチしたの?」

「葬儀場の受付姐さんだ。すると、ベツィの友人だったジェリ・マドクの存在が浮上した。つまり、葬儀場でスタンと話してたのはジェリ・マドクだったのさ。そして、そのジェリ・マドクは"OH間違いだカフェ"のバーテンだった。つまり、ブルーヲタフライを知る最後の男だ」


ココでドヤ顔。全員が平伏し拍手スル。


「でかした!テリィたん」

「だろう?」

「さすがは私の元カレだわ」


第4章 青メイドに気をつけろ


青いメイド服の女子が老夫婦に声をかける。


「御主人様。ラギィ警部とお供の方です。ヲ2人に何かお話しがあるとか…」

「いらっしゃい。スープを飲む?」

「うわぁいただきます。素晴らしい香りだ!」


ドアから上品な顔と美味しそうな香りが溢れる。


「いいえ。捜査中なので結構です。お構いなく」


ラギィの塩反応。ダイニングテーブルにつく4人。


「おや?この曲は"捧るは愛のみ"ですか?ジュディ・ガーランド…ではナイですね?」

「その通りだ。コレが蓄音機で聞く最高のバージョンなんだ。early JAZZ談義をしにおいでかな?」

「いいえ。スーパーヒロイン、スタン・バクス殺害の捜査です。ベツィの葬式でスタン・バクスに会いましたか?」


相変わらずラギィの質問はニベもない。


「スタンは殺されたのか。気の毒に」

「彼女は、ブレスレットのブルーヲタフライの話をしてませんでしたか?」

「あぁしていたょ。何処にアルかとか、色んな質問をされたが、私はただのバーテンダーだ。大した役には立てなかった」


老バーテンダーに寄り添う老妻。


「変な質問で悪いんですが、ヴェラ・モルクとフリン・ショーの事件を覚えてますか?」

「もちろんさ。当時は大騒ぎだった。クラブオーナーのトムデが駆け落ち寸前の2人を見つけて路地裏で虫ケラみたいに撃ち殺したんだ」

「サリモは?亜麻色の髪で当時は18才ぐらいだったと思いますが」


暫し考え込む老バーテンダー。


「あぁ思い出したぞ。あの頃、私は未だ駆け出しのバーテンダー見習いだった…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


大正浪漫の"大間違いだカフェ"。


トランペットのhigh note。壁にはべツィのブロマイドが飾られ、全ては煙草の紫煙の中で語られる。

黒サテンのバニースーツに身を包んだ煙草売りが、ホールで愛想笑いを振り撒いてはチップをねだる…


ん?煙草売りはラギィ…じゃなかった、ヴェラ?


「当時のトムデの愛人は、ヴェラではなく、プリラ・キャンだった。プリラには、サリモと言う亜麻色の髪の娘がいた…」


トムデと腕組みカフェに現れたプリラの腕にはブルーヲタフライが輝く。傍らには、ワンショルダートップスのミニドレスに身を包んだサリモ…キャン?


「ところが、ヴェラのバニー姿に目を奪われたトムデは、プリラとサリモを冷たく捨てた。ブルーヲタフライは持ち主を代え、可哀想にプリラは薬を飲んで命を絶った。当時は、ブルーヲタフライの呪いだと囁かれたモノさ」

「て、サリモは?」

「ヴェラと探偵が殺された数ヶ月後、トムデは呆気なく病死した。彼の葬式の夜、着飾ったサリモがバーに現れ、ウイスキーを注文して一気にあおると、コレで自由だと私に笑いかけた。そして、優雅な身なりでドアから出て行ったのさ。ソレ以来、彼女は2度と戻らなかった」


元バーテンダーは溜め息と共に話を終える。


「つまり…サリモは復讐したってワケ?」

「そして、復讐の仕上げにヴェラを殺すため"不倫"探偵を使って罠にハメたのか」

「でも…結局スタンを撃った犯人は誰なの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。


「OK。貴女がウェストサイド・ストリね?」

「ストリと呼ぶわけど、OK?」

「いやょ。ウェストサイドと呼んで。メイドさん」


注文の多いホームレス女子。


「わかったわ、ウェストサイド。2日前"OH間違いだ"カフェにいたわね?」

「貴女の段ボールハウスを見つけたの」

「ちょっと待って。2日前はいなかったわ。あの女に地上げされたから」


地上げ?あの女?


「数日前、アタシの縄張りにホームレスがやって来てバーに(段ボール)ハウスを作り出したから、アタシは出て行けと言ったの。そしたら4万円あげるから場所を譲れと言われた。だから、アタシは2日前にはいなかった。そう調書に記録してチョンマゲ」

「チョンマゲって…彼女の名前は?」

「聞いてない」


風向きが変わる。マリレがギャレーのコーヒーを出すと、カップごと飲み込む勢いで一気に飲み干す。


「容姿は?それぐらいは覚えてるでしょ?」

「中肉中背。50代のアジアン。話し方が気取ってるからアタシは彼女をプロフェッサーと呼んだ」

「ちょっと待って」


今度は、エアリがホワイトボードから写真を剥がして来てホームレス女子に見せる。うなずくストリ。


「あぁプロフェッサーだわ。この人ょ」

「アカギ・ヤマ子だわ」

「徳川埋蔵金ハンターの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


1時間後。徳川埋蔵金ハンター、アカギ・ヤマ子は仏頂面して取調室にいる。取調担当はラギィ警部。


「アカギさん。貴女は"OH間違いだ"カフェにいたわね。そして、ソコで寝泊まりしてたホームレスを地上げしたでしょ?」

「何と。秋葉原ヒルズに億ション、ボルドーにはシャトー、チューリッヒにシャレーを持っています。そんな私が、何で金を払ってまで神田リバー沿いの廃ビルで寝ると思いますか?私は、お宝ハンター、アカギ・ヤマ子ですょ?」

「おい、ラギィ。何か眠たいコト逝ってるぞ」


僕は溜め息をつき、ラギィはファイルを閉じる。


「私も午後からネイルの予約が入ってるの。じゃアカギさん、ヲ望み通り、量刑審理でお会いしましょう。次の特番は蔵前橋(けいむしょ)から出演ね」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って!待ってください。わかったわ…認めます。確かに、スタンが殺された時に私は"OH間違いだ"クラブにいました。でも、殺してはいません。彼女は、ブルーヲタフライの資料を見せろと迫ってきました」

「断ったんですか?」


ラギィは、再び正面に着席。


「当然です。15年間探し続けてきた私が、なぜ彼に協力しなくてはならないのです?ブルーヲタフライを発見すべきは私です」

「しかし、彼女の存在は脅威だった」

「確かに…スタンは"OH間違いだ"やブレスレットについて、私も知らない情報を持っていました」


わかりやすい僕の突っ込みは話の円滑油だ。


「だから、クラブを張って待ち伏せして殺したのね?背中から撃ったのね?何発?」

「だから!私は撃ってません。確かにトレードマークのリボルバーもムチも持ってます。しかし、あくまで私はブルーヲタフライを脅して横取りしようとしたのです」

「で?どーなったの?」


既に身を乗り出してるラギィw


「私がバーカウンターに隠れて待っていると、地下オフィスから戻ったスタンの手には、ブルーヲタフライがありました。あの(まばゆ)いばかりの輝き…素晴らしかった。早速脅し盗ろうと踏み出した時、口を甘い香りのスル布で覆われました。恐らくクロロホルムを浸した布だと思います」

「クロロホルム?マジ?」

「マジです。私は気を失い、目覚めたらスタンが死んでいた。遺体を探ったけど、ブルーヲタフライはありませんでした」


僕達を直視して明言するアカギ・ヤマ子。


「私を気絶させた奴が、ブルーヲタフライを持ち去ったに違いありません」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。カウンターを挟んでメイド長に粘着スル僕。困った客だ。


「ラギィも奴を逮捕しちゃえば良いのに」

「テリィ様、ムリです。自白ナシで状況証拠しかナイのでしょ?」

「じゃ最高検察庁の知り合い(元カノ)に頼んで捜査令状を発出してもらおう。ついでに、ボルドーのシャトーとスイスのシャレーも見に逝こうょ」


ミユリさんは微笑む。


「しかし、何かガッカリだな。ショーとヴェラの真相がもっとわかると思ったのに」

「あら。でも、何が起こったかはわかったじゃナイですか。ギャング王が探偵と情婦を殺したのでしょ?」

「そうだけど、サリモは?彼女は、なぜ探偵を雇ったんだろう?」


ミユリさん、テヘペロ。最強に可愛い。


「ソレは永遠の謎ですね」

「どーやら何かを見落としてるようだ。捜査本部のホワイトボードを写メって来たから、描かれた単語を1つずつ声に出し反芻してみよう…メリージェーンシューズ、パープルの野暮ったい服、田舎者丸出しの緑髪…」

「…待って、テリィ様。今、何と?」


ミユリさんが何かに気づく。


「え。ショーがサリモのコトを日記に描いた文章だけど、何か?」

「テリィ様。先程お示しいただいた、ヴェラとショーの2人が折り重なるように写ってる焼死体の画像ですが、横に靴が写っています。コレ、どうお考えですか?」

「げ。メリージェーンシューズだ。まさか…」


僕は息を飲む。


「ヴェラは、夜の帝王の情婦だ。クラブに出掛ける時は、ゴージャスな服に当然ハイヒールだろう。ってコトは、この焼死体は…まさか、サリモ?」

「でも、テリィ様。元バーテンは、事件後にサリモと会ったと証言しているのでしょ?」

「つまり…彼はウソをついているのか」


僕とミユリさんは鼻と鼻がくっつくホドに最接近。


「昔の話なのに、なぜ元バーテンさんはウソをつくのでしょう?」

「ミユリさん。今、あるコトに気がついた。"捧るは愛のみ"さ」

「まぁ素敵」


何か勘違いしてるミユリさんw


「違うょ。元バーテンの家で流れてた曲さ。最高のバージョンって話だったけど、アレはルイ・アームストロングのバージョンだ。日記にも"お気に入りのサッチモ"との記述がアル」


僕は"何か"を確信スル。


「全部を考え合わせれば答えが出るな」


ミユリさんは…何か期待外れな様子w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「まぁムーンライトセレナーダーさん。スープをお飲みになる?」

「いただきますわ、ヴェラ・モルクさん」

「え…」


再び元バーテンダー宅を訪問スル。今度はスーパーヒロインに変身したミユリさんが一緒だ。心強い。


「貴方…」

「わかった…どうやら"その時"が来たようだ」

「はじめまして。ショー・フリンさん」


老妻の横から顔を出す元…探偵w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ビックリです。貴方達がヴェラ・モルクにショー・フリンだとは。まさに死者の復活ですね」


青いメイド服の女子が紅茶を淹れてくれる。僕達は再びダイニングテーブルを囲む。


「身代わりに2人殺し、ブルーヲタフライを持ち逃げしたコトがスタンにバレたのですか?ソレでスタンを廃ビルに誘き出して殺したのですか?」

「いいや。ソレは誤解ですょムーンライトセレナーダー。私は、スタンに葬式でベツィとの関係を聞かれ、咄嗟にバーテンだとウソをついたまでだ」

「そうなのです、ムーンライトセレナーダー。しかし、スタンは騙されなかった。私達の正体を調べ上げていて、ブルーヲタフライの在り処を言わないと、私達の正体をバラすと執拗に迫ってきたの」


老夫婦は、寄り添うようにして主張スル。ウソでは無さそうだ。元探偵は、話を続ける。


「だから、仕方なく彼女にはブルーヲタフライの在り処を教えてやった。でも、殺してはいない」

「しかし、スタンは1914年の事件で使われたモノを音波銃に改造した銃で殺されました」

「え。なぜ?あのリボルバーなら、ずっと食器棚の引き出しに…」


次の瞬間、メイド服を着た2人のスーパーヒロインの指先が光を放ち、片方が黒焦げになり崩れ落ちるw


「バカな真似はしないで!」


勝ったのはムーンライトセレナーダーだ。老婦が叫ぶ。


「フシス・ジキス。貴女は何をしたの?」

「ジキス?スタンに探偵の日記を売ったのは、貴女の母親なのか?」

「日記?私の日記か?」


狼狽える元…探偵。


「YES。貴方の探偵日記だ」

「フシス・ジキス。貴女も日記を読んだのね?そして、ヲ宝ハンターに身を落とした」

「そうょ。だから、こんな老夫婦の介護メイドになったの。半年かけてエロ親父のセクハラにも耐えて信頼関係を築き、情報を聞き出した。なのに、突然推しかけて来たヲ宝ハンターにブルーヲタフライの在り処を教えるナンて!」


ムーンライトセレナーダーの"雷キネシス"に直撃され黒焦げピクピクになりながらも呪詛を吐く。


「だから、今しかないと思ってスタンを殺しブルーヲタフライを奪ったの?」

「まさか奴もスーパーヒロインだとは思わなかった。音波銃は念のために持っていっただけて、マジでクロロホルムで眠らせて盗むつもりだった」

「でも、クロロホルムはバーに隠れてたアカギ・ヤマ子に使ってしまったのね?」


黒焦げメイドは、ピクつきながら舌打ち。


「スタンは、いきなり目からデス光線を撃って来た。私も殺す気はなかった。事故だった」

「秋葉原デジマ法に拠り、貴女の身柄は南秋葉原条約機構(SATO)が拘束します。貴女には、弁護士を呼ぶ権利はありません。さ、逝くわょ」

「待ってょ黒焦げなのょ?」


よろよろ立ち上がるフシス。メイド服のあちこちがプスプスと燻っている。老夫婦は顔を見合わせる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


解散が決まり、後片付けが始まった万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「テリィたん。フシス・ジキスのアパートに何があったと思う?…コレがブルーヲタフライょ」


ビロードの布に包まれたブルーヲタフライを僕に見せるラギィ。証拠品袋に入ってない?


「おおぉ信じられない。メッチャ美しいな」

「でも…フェイクだった」

「マジかょ」


ドン引きスル僕。


「鑑定してもらったら模造品。御参考までにオープンざプライスの鑑定結果は¥2500」

「おいおいおい。その¥2500のためにスーパーヒロインが2人も殺されたり黒焦げになったりしたのか?そんな…あ。未だ裏がアルとか。月面ナチスが陥落寸前のベルリンでモノホンとすり替えてるとか?」

「どっちにしろ、未だ事件が1つ残ってるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び老夫婦のダイニング。今度は介護メイド抜き。


「スタンの殺害犯はわかりました。でも、未解明なコトがあります。サリモともう1体の焼死体です」

「1914年6月24日。お2人が駆け落ちした夜に何があったのかをお話しください」

「貴方。お話しして」


老妻は老夫を見遣る。


「…話そう。あの日、誰もがラジオを囲み、ジミラ・イールvsシュガ・レロビのキックボクシングの試合の実況を聞いていました」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


大正浪漫の"大間違いだカフェ"。着飾ったヴェラは1人勇気を奮い起こす。腕に輝くブルーヲタフライ。


「…疲れてきたジミラ。もう1発カウンター!」


ラジオの実況に一斉に頭を抱えるギャング達。


「すかさずシュガが反撃。ワンツーで左右のバストを潰す…あ、また左胸に入った!」

「ねぇ。私、化粧室に行きたいわ」

「え。マジ?後にしてょ!」


白熱の試合実況にブルーヲタフライの見張り役であるアバズレ達も一喜一憂だ。


「トイレ?フザけないで!」

「嫌ょ」

「ボス、どうします?」


トムデ(1世)を振り向く。もちろんボスも上の空だ。


「あぁ構わないからサッサと行って来い!」

「早く行って来て。直ぐ戻ってょ!」

「…満員のアリーナが総立ち状態です。シュガのパンチ、左右また左!ジミラのパンチは届きません!」


裏口に直行するラギィ、じゃなかったヴェラ。僕、じゃなかった不倫、じゃなかったフリンが車を停めて待っている。


「あぁフリン!私を自由にして!」

「コレがブルーヲタフライか!何て麗しい輝きをしてルンだ!」

「待って…誰なの?」


ブルーヲタフライをつけた美しいヴェラを抱き寄せるフリン。拳銃片手に近づくサリモに気づかない。


「手を挙げて!」


拳銃をつきつけるサリモ。もう1人は彼女の夫だ。


「サリモ?」

「YES。探偵さん、私が貴方を雇ったのはヴェラをトムデから引き離すためだった。そして、ヴェラ。貴女は苦しめば良いわ。母さんと同じだけ苦しめ」

「待て、サリモ。先にヲ宝をもらおう」


サリモの夫がヴェラの腕からヲ宝を盗ろうとした瞬間、探偵はその腕を掴み激しく揉み合う。動転したサリモが撃った弾丸に貫かれて、夫は崩れ落ちる。


「レナラ!」


絶叫するサリモ。探偵に拳銃を向けるが、今度はヴェラが彼女に飛び掛かって激しく揉み合う。銃声。


「え。」

「銃を離して!」

「どーして…」


暴発弾に貫かれ後退りしながら崩れ落ちるサリモ。

2人の遺体をどうにかしなくては。探偵が(ひらめ)く。


「2人を車に乗せルンだ」


車にガソリンをかける。マッチを投げる。たちまちメラメラと萌え上がり逃走用の車は焔に包まれる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「結果として、私達が姿を消すのに、この2人の遺体は好都合でした。でも、もっと遠くへ逃げるべきでした。ソレで…私達を逮捕するの?」


老妻は僕を見る。逮捕は…ラギィの仕事だ。ラギィは明るい表情で首を振る。


「逮捕?しませんょ。だって、コレは正当防衛でしょ?ソレに警察が探してるのはヴェラとフリンで、元バーテンとその奥さんではありません」

「警部。何と御礼を言って良いのか」

「ありがとう、警部さん」


うーん流石は僕の元カノだ。


「えっと。ソレでは僕から2つ質問があります。なぜブルーヲタフライを盗らなかったのですか?そして、ソレは今まで何処に眠っていたのです?」

「自由を確信した時、彼女が私に言ったんだ。このブレスレットは呪われているって」

「呪われている?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「呪われている?」


萌え上がる車を前に探偵は聞き返す。


「青いダイヤがついた、タダのブレスレットじゃナイか」

「いいえ。コレは不幸をもたらす手錠ょ。この先の人生にコレは持ち込めないわ」

「俺が欲しいのは君だけだ。ブルーヲタフライじゃない」


見つめ合う探偵とギャングの情婦。


「かと言って、トムデの手には返したくないぜ」


探偵は、ブルーヲタフライをハンカチで包んで、煉瓦壁に空いた穴の奥に隠し、上から煉瓦をハメる。


「トムデや欲に目が眩んだ奴等には、ヲ宝が近くにアルとは気づかずに一生探し続ける人生を過ごさせてやろう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「でも、取りに戻ろうとは思わなかったのですか?」


僕の質問を老夫婦の柔和な笑顔が包み込む。


「貴方は何にもわかってないのね」

「子供が4人いる。孫が7人、曾孫は2人だ。そして、人生には最高の伴侶がいる。ブルーヲタフライなど必要ナイのだ」

「そうですか…おい、ラギィ。黙ってろ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


老夫婦宅を辞し、夕暮れのパーツ通りを歩く。


「テリィたん、何で?あのブルーヲタフライは模造品だったと2人に言うべきだったと思うわ…本官としては」

「ヤメてくれょラギィ。ソレを逝えば全てが台無しさ。ブルーヲタフライ。アレはヲタクの夢と物欲の塊なのさ。いつも、いつの世も」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


俺達は、萌える車の前で誓う。


「ねぇ。私を愛してる?」

永遠に(always)

「…キスして」



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"ハードボイルド"をテーマに、大正浪漫を舞台に華開く、モボモガの世界などを描いてみました。日頃、縁のないハードボイルドですが、大好きなearly JAZZの時代と定義すれば、楽しく描けたのは幸いでした。


主人公や元カノ達を大正浪漫の世界でサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、年末年始もしっかりインバウンドで経済が回ってる秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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