パチパチたのしいプラモをつくろう! サイレントオカ県サイレントオカ市プラモデル工場より夢をとどけて
本作はひだまり童話館様企画「ぱちぱちな話」参加作品です。
他の参加者様のすてきなおはなしが同日投稿されておりますので、そちらもぜひお楽しみください。
このたびはすてきな企画へ参加させていただき、また拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
それでは、楽しい夢と魔法の国サイレントオカへようこそ!
◯
パチパチパチ。
パチパチパチパチパチ。
もいっちょおまけにパチパチリ。
拍手? のんのん。
焚き火? のんのん。
これはプラモデルのパーツをランナーから取り外したり、組み立てる音です。
ランナーとは、プラモデルのパーツが収まった外枠のことです。
ここは夢と魔法の国、サイレントオカ。
ここでは日夜、世界中のこどもたち、および、おとなたちのためのプラモデルがつくられ、おみせやおうちにとどけてくれます。
もっとも、おとどけするのはまたべつのひとたちなのですが、そこはそれ。
今回はこのサイレントオカ県サイレントオカ市にある夢のある工場のおはなしです。
しかし単なる社会科見学ではつまらないでしょうから、ここは大怪獣の出番です。
ガオーンガオーン!!
さぁたいへんです!
とーとつですが、夢と魔法の国サイレントオカに大怪獣がやってきました!
大怪獣……えーと、そうですね、大怪獣ドジダとでもしておきましょう。ドジダは身長55m、体重550トン、とってもかわいいもふもふお狐様のドジっこメイドさんです。
「がおー! がおー! ご主人様のだいじにしてたプラモデルをうっかりこわしちゃったからこっそりバレないように同じものとすりかえてやるー! プラモデルをよこせー!」
おやまぁ、なんて悪いドジっ子もふもふメイドでしょうか。
ちゃんとだれかの大事にしているものを壊しちゃったらごめんなさいをしましょうね。
しかしこまりました。
このままではサイレントオカ県サイレントオカ市のだいじな工場がぺちゃんこです。
ここはあなたのでばんですね!
さぁでっかいプラモデルをその手で組み立てて、大怪獣ドジダをやっつけましょう!
おや? プラモデルなんてよくわからない?
そうですよね、そうでしょうとも。
そうでなければここではなしはおしまいです! 大怪獣ドジダはあなたの超絶すごすごプラモにこてんぱんにのされてばったんきゅーでしょうとも。
ちゃんとせつめいをきいて大怪獣ドジダをやっつけたいあなたはさぁつぎへどうぞ。
「なにっ! なまいきですね! ドジダにつくれないプラモがつくれるってんだったらつくってみやがるがいいですよ!」
ドジダもこのようにしっぽを立ててかかってこいと待ってくれています。
ちなみにこのしっぽでうっかりおそうじ中に「ガチャンッ!」とプラモをはじきとばして落下させ、見るもむざんな姿にしてしまったそうです。
「わたしじゃないもん! しっぽがやったんだもん!」
おやおや、ホントにわるい怪獣ですね。ぜひともこらしめてあげましょう。
◯
そもそも、プラモデルとはなんでしょうか。
プラモデルとは、プラスチック素材でつくる模型/モデルのことです。
プラスチックってなに? というところからはじめるとキリがないので、そこはみじかなおとなにたずねてこまらせてあげてください。まるなげします。
プラモデルとプラスチック製のおもちゃの主なちがいは、パーツから組み立てるかどうか、だといわれています。
完成品のプラスチックのおもちゃとちがって、プラモデルは未完成品です。
あなたの手で、ひとつひとつパーツを組み立て、完成させなければいけません。
めんどくさい? それはそうですね。
けれど自分で組み立てるこのプラモデルには、二つの良いことがあります。
ひとつは、安い!
安い、というのは素晴らしいことです。組み立てる手間暇の分だけ、同じものの完成品を買ってくるより安くて済むのでなにかとたすかります。
もうひとつは、面白い!
自分でなにかを作るということには、ただ買うだけでは得られない楽しみがあります。
お料理にしても何にしても、自分で作ることのめんどくささとおもしろさはどちらもみなさん経験がおありでないでしょうか?
では、大怪獣ドジダをやっつけるための特大プラモデルをつくっていきましょう。
「ふん! どうせニッパーや接着剤がひつようなんでしょ? むずかしいんでしょ?」
大怪獣ドジダがいうように、実際むずかしいプラモデルもたくさんあります。
ずっとずっと昔の、三十年から四十年くらい昔のプラモデルはまだまだ工具や接着剤がいっぱい必要でとてもとてもつくるのがたいへんなものでした。
きっとドジダが作ろうとしたら、もふもふのおててに接着剤がくっついて大変なことになってしまっていたことでしょう。それはそれで見ものですが、ご安心ください。
今時のプラモデルは、スナップフィットモデルというものが大半です。
接着剤でパーツをくっつけなくても、パーツとパーツをくみあわせるとくっつくのです。
「スナップエンドウならドジダも好きですよ! あれおいしいよね!」
ろこつに話を脱線させにきましたね。
さすが大怪獣、あなどれない攻撃です。
スナップとはここでは『下準備がいらない』という意味です。
手軽で素早くぴたっと組み立てられるので『スナップフィット』なわけですね。
「スナップエンドウは?」
そちらは「ポキっと折れる」という意味の「スナップ」なのですが、そういう意味ではプラモデルのスナップモデルも「ポキっと折れる」点は同じかもしれません。
今時のプラモデルは、工具をつかわずに指先だけでパーツをポキっと外せるのですから。
パチパチ、パチポキ。
パチパチリ。
「かんたんっ! かんたんっ!! あはははは! かんたんにとれちゃうね!」
あわわわ、大怪獣ドジダはすぐにランナーからパーツを取り外してしまいました。
プラモデルにはちゃあんと説明書があります。
説明書の手順を読まずにでたらめにパーツを外してしまうと困ったことになります。
不慣れなうちはお料理だって、レシピの通りにつくらないと失敗しちゃうように。
「あ、あれ!? このパーツどこのやつだっけ!?」
こんな風になってしまいます。
プラモデルは説明書をよく読み、わからなければおとなのひとに読んでもらいながらいっしょに組み立てましょう。
いいですね、ドジダちゃん。
「ご主人様に読んでもらったら壊したのバレちゃうからやだもん!」
あー、本当に困った大怪獣さんですね。
ひとをだましたり、ウソをついてごまかす悪い子はきっと痛い目をみますからね。
◯
プラモデルにはとてもいろんな種類があります。
おおきな分類として、実物を元にした「スケールモデル」と架空の物を元にした「キャラクターモデル」のふたつがあります。
「スケールモデル」は実際にある建物、乗り物、動物などさまざまなものを縮尺――本物より小さく、それでいてそっくりに形作ったものが人気です。
けれども、スケールモデルはとても精巧に作ろうとすると先ほどのスナップフィットモデルや工具のいらない初心者向けのものでは、本物そっくりにしづらいといったところがあります。初心者には難しいプラモデルキットも多いことでしょう。
もし、作りたければ、大怪獣ドジダをやっつけるのにちょうどいいスケールモデルはどんなものかいっしょに考えてみましょう。
建物は――大怪獣ドジダから工場を守れてもやっつけるのはむずかしそうです。
乗り物か、動物ならどうでしょうか。
「このゴツゴツとした強そうなのはなんですか?」
それは◯◯式戦車ですね。これはあっちの国の戦闘機、こっちの国の航空母艦もありますね。
これだったら大怪獣ドジダをやっつけるには十分すぎるかもしれません。
あまりにも十分する鉄の雨が降り、大火力の轟音にドジダが泣いてしまうかも。
「うぎゃあ! リアルでミリタリーなプラモデルは禁止! 反則! ダメー!」
では動物はどうでしょう。
ライオンの群れなんていかにも強そうですね。
「戦いは数だよ! じゃないですよ! 一対一で戦えひきょーものー!」
仕方ありません。卑怯もらっきょうもありますからね。
どのみち精巧なプラモデルはつくるのがたいへんですから、ここは「キャラクターモデル」のかんたんなものを選んでみましょう。
キャラクターモデルは架空のものを題材にしたプラモデルですが、架空というのはなんでもあり、本当にいろんなものがあります。
「ドジダさんはこのお寿司をつくってみたらいいと思うのですよ!」
いっぱいならんだたまごやマグロやいくらのお寿司も一対一ではありませんね。
それによくできていてもプラスチックの模型ですから食べてはいけません。
「しょんぼり」
大怪獣ドジダをやっつけるには、やっぱりプラモデルの中でもとりわけ人気の、ロボットものが最適でしょうか。
かっこいいロボットのプラモデルは今も昔も大活躍です。
「あーっ! ドジダがこわしたのもこれだ! ガンダむぐぐぐぐ」
おっとそれ以上はいけません。
ドジダちゃんが余計なことを言いそうなのでロボットのプラモデルはあきらめましょう。
かわいい女の子やかっこいい男の子といった人間のキャラクターモデルや、どうぶつやマスコットのキャラクターモデルも人気がありますね。
ここは初心者向けで作りやすいどうぶつキット「雪の妖精オコジョン」にしましょう。
なぜオコジョ?
そこはまぁ大人の事情というものです。
パーツが目に見えてすくないのでこれなら安上がりでかんたんなことでしょう。
では、さいごに実際に作っていきましょう。
「むむむ、オコジョかぁ。ビームやミサイルぶっぱなしてこないならゆるす!」
大怪獣ドジダも油断しているようですね。
◯
さて、大怪獣ドジダが暴れ疲れてすやすやお昼寝している間に作業開始です。
特大サイズのプラモデルですからサイレントオカ県サイレントオカ市のプラモ工場も全面協力してあなたといっしょに組み立ててくれますよ。
プラモデルをつくるときは、まず広くてきれいな作業空間を用意しましょう。
ランナーから取り外したパーツがあっちこっちとんでって行方不明にならないように。
今回は「雪の妖精オコジョン」のふたを開け、説明書と内容物のチェックをしましょう。
ちゃんと揃っているようですね。
パーツのハマった枠、ランナーは数個に分かれています。
このオコジョンは初心者用なのでパーツがどれも大きく、見失いづらいので安心ですね。
パチパチ、パチパチ。
プラスチックパーツをランナーから外して。
パチパチ、パチパチ。
パーツをひとつずつ、丁寧に組み上げていきましょう。
パチパチポキパチ。
パチッ! パチッ! パチンッ!
はじめはバラバラだったパーツがどんどんと真っ白な雪の妖精オコジョに近づきます。
バラバラにされた動物なんてちょっと怖い気もしましたが、組み上がってみれば素敵な仕上がりではありませんか。
成形色という、はじめから白いパーツを全体につかっているので、プラモデルを白く手塗りしなくても良い色合いをしているのもありがたいです。
さぁこれで雪の妖精オコジョンの完成ですね。
せっかくですから記念撮影もパシャっとしておきましょう。
愛くるしい見た目ですがイタチの仲間の肉食獣ですから、こうみえてすばしっこくて強いのですが、しかし相手は大怪獣ドジダですからこのままでは心配です。
では、オコジョンを改造してみるのはどうでしょうか?
プラモデルはただ完成させたらおわりではありません。
完成品に手をくわえて、自分だけのプラモデルに改造することもできます。
「すぴー、すぴー」
さぁ大怪獣ドジダが目覚める前に改造してしまいましょう。
どんな風にいじるか、発想は無限大です。自由です。
とはいえトラトラ戦車の上にオコジョンを乗っけたり痛そうなトゲ鉄球をもたせたりするとドジダが泣いてしまいそうなので、なにか弱点をやんわり突くような……。
あ、いなり寿司のプラモデルがありますね。
これをオコジョンといっしょに並べて、気を引いてみるのはどうでしょうか?
さきほどと同じようにいなり寿司を組み立てましょう。
パチパチパキパキ。
パチパチリ。
『オコジョン@いなり寿司』の完成です! さぁ戦いの準備が整いました!
オコジョン起動!
キュオオオーーーン! キュピピピーン!
オコジョン、大地に立つ。
「むにゃむにゃ。うわ、なまいきにもプラモがもう完成してる! しゃーおらー!」
大怪獣ドジダvsオコジョン@いなり寿司。
いよいよサイレントオカ県サイレントオカ市の工場の命運をかけた戦いのはじまりです。
ん? プラモデルがなんで動くのか?
そこはそれ、ここは夢と魔法の国サイレントオカですからそういうものなのです。
ズシン! ズシン! ズドドドドド!
大怪獣ドジダがとてとて歩くたびに、地表の自動車――のミニカーが揺れます。
「がおー! がおー!」
迎え撃つのはあなたの作ったオコジョンです!
しなやかなからだでプラモデルらしからぬ可動領域のおかげでぬるぬるうごきまわり、ドジダを翻弄してしまいます。
「うわあすばしっこい! でもこれでどうだ!」
大怪獣ドジダはおとなげないことにまんまるな全自動掃除機を召喚しました。
ウィー――ンと床を掃除しながら迫ってくる全自動掃除機とドジダのはさみうちにあい、オコジョンぜったいぜつめいのピンチです!
ああっと! しかしここでいなり寿司! すかさず全自動掃除機の上へ飛び乗ります。
「ああ、いなり寿司!! わーい!」
ぴょーんといなり寿司ごと全自動掃除機につっこむ大怪獣ドジダ。
今です! オコジョン必殺のまるかじり!
「ぎゃーーー!! こうさんこうさんですっっ!」
あわれ、ドジダはふさふさしっぽに噛みつかれて白旗をあげてしまいました。
あなたの勝利ですね!
「うう、もうサイレントオカ県サイレントオカ市の工場はあきらめますぅ……」
大怪獣ドジダも観念したようです。
ようやくサイレントオカ県サイレントオカ市に平和がおとずれました。
しかしドジダは半べそをかいています。
「すんすん、すんすん。ご主人様に怒られちゃうよう……叱られるのやだよう……」
そこはちゃんと叱られましょう。
でもそれだけではかわいそうですね。
どうでしょう? ここにはたくさんのプラモデルがあり、あなたがいます。
ドジっ子お狐メイドのドジダちゃんといっしょに、壊れちゃったプラモデルの代わりを、いっしょにつくってみませんか?
形あるものはいつか壊れるものです。
壊れたプラモと同じものはできなくても、ちゃんとごめんなさいと謝って、みんなで楽しく作って遊べば、きっとなんとかなるはずです。
「でもあれ35周年限定プレミアムサイオカWebのゴールドレア仕様ガンダむぐぐ!?」
なんとかなるはずです、ええ。
さぁ、ドジダちゃんの口を塞いで余計なことを言わないうちに早くいきましょう。
パチパチパチ。
パチパチパチパチパチ。
プラモデルの組み立てる、あかるい明日を信じて。
―おしまい―
おまけ。
後日。
大怪獣ドジダちゃんはうっかり壊しちゃったプラモデルをネットで注文しました。
konozamaというあやしげなウェブサイトで。
「77%オフ! これは安い! 買っちゃお!」
そして届いたのは――。
パチパチと組み上げて楽しいサイレントオカのプラモデルではありませんでした。
一見それっぽい表紙ですが、よくみるとこう書いてあります。
『起動せんし残念がる』
それは世にも恐ろしい――、とある夢と違法の国産のパチモンでしたとさ。
みんなも気をつけようね!
―今度こそおしまい―
お読みいただきありがとうございます。
お楽しみいただけましたら、感想、評価、いいね、ブックマーク等お引き立てをよろしくお願い申し上げます。
なお、今回はもう一作「雪の妖精オコジョと鈴ヶ森音楽隊」も投稿いたしましたので、そちらもぜひご覧いただけると幸いです。