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戦略級英雄の討伐論  作者: 犬山テツヤ
虐殺の準備期間
6/8

第五話 何者



 立ち上がった者こそが平民である。そう感じのは宰相だけではないだろう。格好や背筋、体型と服装の凸凹した珍妙な姿、今では見ることさえ稀になった平民である。移民の増加によって治安は悪化の一途を辿っている。このなかに平民街まで行って接しようとする者など皆無だった。平民の容姿にある者は懐かしさを覚え、またある者は嫌悪感を抱いた。

 彼が口を開くより先に議長は述べる。


「平民に発言権は認められていない。この度はラングレス公爵家の推薦人と伺ったが、平民は言葉すら発せないことを、然と受け止めよ」


 驚愕したのはハルバートただ一人である。滑稽な姿に皆が嘲笑を浮かべ、商人などは恥ずかしくて侮蔑した。エリナローゼは当然といった態度を取り、第二王女シルフィーナも違和感はなかった。


「この会議には言論はないのか」

「言論は権威の上に成立するものよ」


 彼女は落ち込む相棒の肩を叩いた。勢いよく立ち上がって何の知恵もない、ではより一層恥を欠くだけだ。ならば推薦人として、堂々とした態度で助言をすれば良いのである。それがハルバートを連れてきた最大の理由なのだから。


「あなたは見えているのでしょう。答えを、ならば私が会議を動かすわ。信じてくれる」

「……そうだな。目的は変わらない」


 彼は知らない。この会議が開催されるにあたってエリナローゼがした苦労と責任を。公爵家の権力を駆使してまで動かした力の大きさを。だからこそ彼女を信頼し、その小さな耳に口を寄せた。


「まあ……」


 エリナローゼとハルバートの距離はまるで恋人のようであった。彼女は髪をかき上げて素肌と耳を晒すばかりか、平民の口を至近距離に置いている。シルフィーナは赤面した。あんなものは婚約してからする性交渉か、愛人との弄りである。いずれにせよ羞恥を感じて目を逸らした。少女が恥ずかしがる横で貴族たちも無礼な平民に顔を赤くした。


「では発言を再開します」

「待て。エリナローゼ嬢と平民は、愛人なのか」

「強いて言うならば、彼は忠臣です」

「そうか。……場を弁えよ。ここは議会である」


 公爵令嬢は耽美な礼をした。ややあって議会は再開する。エリナローゼは冷静沈着な顔で、けれど額に汗を浮かべていた。宰相はあらゆる可能性を模索したが、どれも矛盾を否定できなかった。この時点で宰相は弁論の勝利を確信したのである。


「騎士団総隊長に質問します。騎士団が国王の剣であり、盾であるならば、移民は制限すべきでは」

「我々は数十年前から一貫して主張しているが人族同盟の根幹、陛下の王命、そして王国の繁栄を優先した結果に現在がある。変える理由はない」

「では不満であることに変わりはないと」

「王の勅命である。発言を訂正せよ」


 視線は交差する。彼女は流れるように謝罪を繰り出して総隊長に会釈をした。だが顔を上げた先に騎士団総隊長はなく、代わりに宰相がいた。総隊長の隣に立つ宰相は背が小さく、格好も薄いが、身に纏う迫力は会議のなかでも王女を超えている。


「では宰相に質問します。王国規範第三章の国王代理では任期は五年までと制限がついております。ちょうど来週で任期が切れるはずです。その点については、どうお考えなのでしょうか」

「任期は続投する方針で王命を授かっている。数日後に開かれる任命式典において、再度五年の代理を努めることを決定する。またその際、王女殿下には代理権限内で規範改正をするものとする」


 再び議会は混乱につつまれた。内容を知っていたのは元老院と一部の貴族のみである。王朝の存続は重要事項だ。それを会議で発表したばかりか、代理で規範の改正をするという。誰もが越権行為でないかと訝しみ、宰相は予定していた言い訳を述べた。


「王国規範には国王の勅命、または王の使命であっても元老院の全会一致があれば、撤回または停止することが可能である。同時に規範の改正は国王でなくとも、皇太子でなくとも、国王代理であれば元老院の全会一致があれば一部修正できる」

「つまり元老院は全会一致をした、と?」

「そうだ」

「王女殿下も賛成されたのですか」

「国王代理に権限はない。運命が決められた」


 つまり代理である第二王女シルフィーナは埒外にあった。彼女は不満そうな顔を見せずに、自分が見つめられていることを自覚して笑みを撒いた。続投すると意思表示しているようであった。何もかもが準備された舞台で一人踊る王女、そこに小さな違和感を抱いたのは議長のみであった。うっすらと忘れた何かを思い出そうと静かに目をつむった。


「では王女は賛成されているのですか」

「王女に諮問はできない」

「発言権はあるはずです。答えてください。国王代理シルフィーナ、あるいは第二王女殿下」


 彼女は笑みを隠して顔をそむけた。議長は後ろを向くことなく、新しい規範写本をしまって、王国で最初に発行された規範の写本を取り出した。重たい表紙を開いて、古びた紙を慎重に捲っていく。


「私に意思はありません。元老院の決定と宰相の合意によって、王配を決定したと見做します」

「異議を唱えます」

「私も異議を唱える」


「われらは国王の剣であって宰相の剣ではない。宰相や元老院が勝手に決めたとこに従う義理はない」

「宰相、そんな話など聞いていない。元老院からもだ」

「法を無視することはたとえ宰相であっても許されない。まして前例を批判したのであれば、あなたは規範にしたがって、次の代理誕生を忌めなければならない」

「次の代理だと?」

「まさか、宰相が代わるとでも言うのではあるまいな?」


 エリナローゼの言葉に議会は停止した。静寂が広がる中で議長だけが動いていた。宰相は訝しむように彼女を見据え、シルフィーナはじっと考え込むように、何かを思い出そうと平民を見据えた。


「王国規範には専権事項があります。それは元老院や宰相の合意でも覆せないはずです。ましてや国王陛下が不在の状況で、王の勅命だといっても、どこまで効力があるかは未知数のはずです」

「貴様。王に反旗を覆す気か?」

「そうではなく、理屈を述べています。国王代理とは何を以てしての国王代理なのか。そうして与えられた権限は、なぜ維持されているのか。王朝の合意は元老院の合意と直結するのかと言う点です」


 第三章第十三条。第一項。

 国王が不在または不能に陥ったとき、後継者たる皇太子は直ちに戴冠式を開催しなければならない。そのさい元老院、宰相、五公爵家の同意を得た時点で教会は儀式を円滑に進める義務を与える。ただし後継者が不足した場合に、王政は国王代理を王族ないし五公爵家に任命する義務が生じる。

 第二項、前文。

 王族や五公爵家が権利不順となり、元老院や教会が暴走することはあってはならない。王朝とは王族のみが存続できる最高の権力だからである。

 第二項。

 国王代理は戴冠式と同様の合意を以てして選ばれる。代理は一代に限り、任期は五年とする。この条項はいかなる理由があっても改定することはできない。王朝の存続は国王の統治が前提である。


「第十三条第二項にはこう書いてあります。この条項はいかなる理由があっても改定することはできない。つまり規範改正は不可能なはずです」


 宰相は血相を変えて目を泳がせた。そうして古い写本を開いていた議長のそばに寄って規範をのぞき込んだ。あるいは貴族や商人たちは慌てて秘書を走らせた。規範の乗っている本を探して。また元老院の重鎮たちも首を傾げるばかりであった。


「規範とは王朝が円滑な統治を行うための聖典に過ぎない。しかし、なんだこの条文は。私は初めて見たぞ。なぜ最初の写本にだけ書いてある!」


 答えたのは議長と王女であった。


「聖典に過ぎぬからだ。王命で合意すれば規範を改正することができる」

「この条文を写本に書かないように決定したのは第二代の国王陛下でした。初版だけに乗っている、王国でもっとも奇異な条項です。王歴は三百年を越えましたが、誰も想定していなかったのでしょう。国王も皇太子もなく、ましてや教国が崩壊する事態など。だからこそ、代理は五年で終わる。それは王朝の崩壊を意味します」


法制長官クライス・ロマヌス

「……それが“王政再編に関する不可視条項”であるならば、なぜ写本に記されながらも、三百年にわたり改正も抹消もされなかったのか。答えていただきたい」

「すべて知っていて傀儡になっていたのか⁉」

「さあ、どうでしょうね」


 土台はすべて崩れた。そうしてエリナローゼが語っていたことを誰もが思い出そうとする。最初は部隊創設の話であった。それを総隊長が否定して人族同盟の話になった。国王と皇太子は同盟の掟によって五年間の不在を余儀なくされている。そして延期するはずであった国王代理は継承が不可能という珍事が現れた。あるいは国王の王命として強引に進めることも可能であるが、元老院発案による任期続投は単なる延命手段に過ぎないのである。

 全ての者がエリナローゼを捉えていた。


「ラングレス公爵家より王女殿下に具申いたします。正当なる王朝は機能不全に陥りました。よって国王代理の地位を放棄していただきたい。そうして専制公に授任してくださいませ」


 第三章第十三条。最終項。

 王朝が崩壊する事態があってはならない。王政は健全な状態で継承され、王国は安寧と繁栄を謳歌する義務がある。しかし何らかの緊急事態がおこり機能が不完全となったとき、王族は自らが律して統治する義務を負う。彼らには専制公の地位を与えるものとする。この専制公は国王と同等の最高主権での王朝の代理統治が可能となる。任期はなく、新たな国王が立てられるその日まで、任務を全うしなければならない。全てを王国の為に捧げるために。


「そうそう思い出したわ。国王陛下である父は最後に専制公の条文を削除しようとしていた。この事態を予見したのかもしれない。あるいは国王代理の限界を知っていたのでしょう」


「その記録は⁉」

「父の書斎にあるはずよ」

「つまり条文はまだ――生きている!」


 シルフィーナは笑みをこぼした。宰相や元老院議員たちからの野次を無視すると決めていた。彼女は幼い頃から王女として育てられ、どこかの国に嫁ぐ運命にあった。けれど嫁いだ長女が王国もろとも滅亡してから嫁ぐ機会は無くなった。代わりにやってきたのは国王代理という名誉ある、とても退屈な日々であった。何も決められず、誰かの意志のままに動き、外交を任せることが仕事であった。唯一自我を出せたのはパーティーでのスピーチだけである。

 第二王女は自らの手を見つめていた。とても小さく儚い手が、今は小刻みに震えていた。


「殿下。専制公の前例はありませぬ。このような危険な制度など受任されてはいけない。これまで通り我々にすべてを託されれば良いのです!」


 そのとき悟ったことがある。シルフィーナは初代国王と規範に携わった法学者ベルナール・ドートネスの遺言や残滓を思い出した。

『このなかに絶対に使われてはいけない条文を入れてしまった。だが私は後悔していない。その条文を受け入れる王族こそが、真の統治者だからである』

『一度も使われぬ法律は二つある。第十三条第二項と最終項である。これが発動されるとき、王朝は滅亡の一歩手前にあるだろう。滅びの刃か、それとも継承の楔か……いずれ、選ぶのは王族自身である。実に笑えない話だ』

『王が法であるなら、法も王であるべきだ。王国が千年続くために、我々は規範を残すのだ』

 シルフィーナはつぶらな瞳を開いた。


「国王代理!」「第二王女殿下!」


シルフィーナの演説(中世調口調)

「……王国の民よ。かつて、そなたらに語りかける王族など、ただのひとりもおらなんだ。

わたくしとて、その例に漏れぬ王朝の末子なり。されど――」


「――国王はおらず、皇太子は行方知れず、教会は神を失い、元老院は法に眠りぬ。

では問おう。誰がこの王国を救うのか?」


「王政とは、そなたらの血と汗と祈りの上に築かれたもの。

ならば王族とは、その祈りに答える者でなければならぬ。

わたくしは王の血において、王女として、ひとつの選択をなす」


「我が身に、専制公セント・レガスの名を与えよう。

王の不在を埋めるため、そなたらとともに歩むため。

この名は、奪い取るものにあらず。そなたらが拒むなら、我が名もまた消えよう」


「さあ、王国の民よ。目を開き、耳を澄まし、問いに答えてほしい。

王とは誰か? 法とは誰のためにあるのか? 統治とは誰に属するのか?」


「我ら王族は、法に縛られ、祈りに導かれ、民に支えられる者なり!

その証として、わたくしは今ここに、新たなる諮問院を開設する。

そなたらの声を、わたくしの法とするために!」


【政治的影響・続く展開】

効果内容

元老院の狼狽「民を政治に巻き込むなど…王政への冒涜だ!」と一部保守派が反発し、王女排除を画策。

下級騎士・平民層の支持拡大若き騎士団や都市民から熱狂的な支持が生まれる。「我らの姫」として新たなカリスマに。

諜報勢力の動揺他国の諜報員や内部の裏切り者が、「この革命的行動は制御不能」と判断し、動きを変える。

新設機関:王民諮問院(The Voice Council)民間代表・下級貴族・法学者で構成。議会と元老院に対抗する新たな「声の府」となる


 そうして静かに言葉は紡がれた。

 あの条文こそ、かつて法学者ベルナールが『王族を試すための毒杯』と呼んだ最後の選択肢


「私は、第二王女シルフィーナは今この時をもって国王代理の権利を放棄し、自らが専制公に君臨することを宣言します。王が法である限り、私は新たなる法として王になる」


 エリナローゼとハルバートは真っ先に臣下の礼をとった。議長が立ち上がると貴族や商人たちも次第に腰を上げていく、そうして誰もが新しい君主に左膝を着けて頭を垂れる。元老院議員も負けを悟って重い腰をあげ、忠誠を捧げる。

 宰相だけが立っている議会で、彼は目を左右させながら、ようやく第二王女を視界に収めた。そこには深い闇が広がっていた。感動や勝利、正気などはなく今後訪れる苦肉を、深謀遠慮で理解していたのである。彼女は国に捧げることを覚悟していた。


「だが、忘れてはなりません。ベルナール・ドートネス殿が遺した教えを――『法を王とせよ』と。ゆえに、この「専制」の地位に、法の枷を我が手に嵌めます」


 この王国に国王と皇太子はいない。


「これより制定される「統治令」において、私は次の制限を自らに課す」


【シルフィーナ統治令(専制令)案】

第一条:任期制限

「専制公たる地位は三年の任期とする。以降の延長は、元老院および教会、五公爵の三分の二以上の信任によってのみ可とす。」


第二条:軍事行使の制限

「非常戦時を除き、軍の編成・派兵には宰相および議会の承認を要する。」


第三条:戴冠式の期限

「戴冠式は、専制公任期満了の年内に必ず挙行されなければならぬ。

されぬ場合、専制公の地位は自然解消とし、元老院に統治権を移譲する。」


第四条:法制会議の招集

「規範改正に向けた法制再編会議を一年以内に召集する。

目的は王権と議会権の明文化、元老院と教会の機能統一である。」


第五条:統治諮問院の設立


勅命抜粋

《専制公直属特務部隊の設立令》


任務:非常事態の軍事的治安行使および政治・外交上の特殊任務。


指揮権:専制公に帰属。ただし軍事行動は「諮問院」の承認が必要。


人事:諮問院が推薦した人物を専制公が任命。


《統治諮問院 設立令》


目的:専制公の決定を補佐し、法案・予算・軍務を審議。


構成:五公爵家から一名ずつ、元老院より二名、教会から一名、法制官僚一名。


議長:専制公。だが表決権は持たず、合意を導く「監督者」にとどまる。


 最後に礼をとったのは最大の忠臣であった。


「ここに王女シルフィーナは、専制公を授任したことを感謝する。諸君らは立派である。王朝はまだ続くでしょう。我々の栄光が地上を照らす限り」


 王国の歴史はその日、動いた。

 三百数十年使われることのなかった幻の規範は正当な形で行使された。ただ一人、シルフィーナは拳を震わせ、その重責を受け止めようとしていた。

 王国歴354年。10月中旬。

 第二王女シルフィーナは専制公に就任する。


 【歴史記録としての描写】

王国第七紀三百六十二年。

王女シルフィーナ・エル・フロルヴァインは、“専制公”の条文に基づき、正統なる代理統治者として立った。


このとき使用された「第三章第十三条 最終項」は、初版写本にのみ記された幻の規範であり、実に三百余年、誰一人として行使しなかった条文である。


王国史において、これを“再編の宣誓”と呼ぶことになる。

 私は王ではない王になったのだ


 「――我は、王の名において語る者ではない。

我は、王なき時代にその座を守る者にすぎぬ。だが今、王国は変わらねばならぬ。」


風が吹き抜け、民衆の衣を揺らす。


「この国は長く、貴族と教会の手の中にあった。

だが農夫も職人も、商人も吟遊詩人も、皆がこの王国を支えてきた。


よって我、シルフィーナ・エル・フロルヴァインは、都市民代表を諮問院へ招き入れることをここに宣言する!」


ざわめき――いや、怒号と歓声の混じった嵐。


【改革の骨子(王命布告書より抜粋)】

一、都市三市(王都ランベル、交易都市セスタ、港都ヴァレント)の市民より代表三名を選出し、諮問院に列席させる。


一、代表は課税・徴兵・軍制改革等の議題において、発言と投票の権を持つ。


一、諮問院の新議決制は、貴族・教会・都市民の三部構成とし、いずれかの二部による賛成をもって可決とする。


「民よ、聞け――

我が名はシルフィーナ・エル・フロルヴァイン。

王家に生まれし者として、王なき今、国を預かる者なり。」


「三百年、我らの王国は剣と冠と祈りによって保たれてきた。

だが、今やその王冠は空席となり、剣は納められぬまま、祈りは届かずにいる。」


(民衆、静まり返る)


「わが父王は賢王と呼ばれた。

されどその王の手ですら、すべてを救うことは叶わなかった。

故に我は、王の名ではなく――人々の名においてここに立つ。」


「諸君、聞け。

貴族は土地を持ち、法を掲げる。

教会は神の名を唱え、魂を導く。

だが、日々の食を担い、街を築き、剣を鍛え、言葉を運ぶのは――汝ら、民である!」


(ざわつく人々。王女の声が強まる)


「我は問う。

汝らの声は、今までこの国の法に届いてきただろうか?

汝らの願いは、議場の石壁を越えて響いてきただろうか?


もし否であるならば――我が使命は明白だ。」


(王女、右手を天に掲げ)


「我、シルフィーナは専制公としてここに宣言する!


王国諮問院に都市民の声を招き入れる!

商人、職人、学者、兵士――彼らこそこの王国を支える柱なれば!」


私は王に代わる者ではない。ただ王国を維持する者だ


「王は法を定め、法は民を守る。

ならば法は、民の声を聴かねばならぬ。


王国は貴族の物でも、神官の物でもない。

王国は、すべての者が生きる大地である!」


(ここで数瞬の沈黙。王女は胸に手を当てて深く一礼し、最後の言葉を紡ぐ)


「王政は変わるだろう。

だが、王朝は終わらぬ。


王の血は王を作らず。思考と責任こそ、王を戴冠させるのです」

「私は王ではない。ただ、王国を存続させる者としてここに立つ」


汝らと共にある王政こそが――未来を拓くと信じるからだ。」


「栄光あれ、王国に。栄光あれ、我らが民に!」


私はこの王朝が滅ぶことを望みません。

そして、王国が貴族の争いに蹂躙され、民が飢え、敵に割れるのを看過できません」


シルフィーナ(前を見据え)

「ゆえに、私は専制公となる。されど独裁者ではなく、民と法と共に歩む統治者として。

その責を担うために、私はここに立っています」


「民よ、我が声を聞け。

王は沈黙し、玉座は空を仰いで久しい。

我が父なる国王は遠征の地より戻らず、国は、我らの手から崩れ落ちようとしている。」


「王国の歴史はその日、動いた。

三百年封印されていた規範の幻条文が、ついに行使された。

シルフィーナは拳を震わせながらも、玉座なき王として、その重責を受け止めようとしていた。」


(民衆、重い沈黙。王女の目が熱を帯びて燃え上がる)


「されど我らは生きている! 血を流し、汗を流し、飢え、働き、それでも希望を抱いている!

王が不在でも、王国は死なぬ。なぜなら――王国とは、お前たちのことだからだ!」


「三百年、王家は秩序を保ち、貴族は法を守り、教会は神を称えた。

だが今日、我が告げる。その秩序はもはや、正義ではない!

貴族たちの机上の議決は、飢える子の声を届かせなかった。

聖職者たちの祈りは、凍える母の手を温めなかった!」


(ざわめき。王女は手を振り上げ、続ける)


「我が名はシルフィーナ――王女にして、今は専制公。

王朝の血を引きし我が身は、栄光の継承者であると同時に、苦悩の証人でもある。

私は知っている。王の血だけでは民は救えぬ。

私は悟った。王が民の声を聞かぬなら、王はただの偶像だ。」


「ゆえに我は、宣言する。

今日より、諮問院に民の代表を迎え入れる!

街を築く者たちよ、剣を鍛える者たちよ、病を癒やす者たちよ――

そなたらこそ、我が治める王国の礎なり!」


(拍手、戸惑い、熱気が入り交じる)


「この決断は、伝統を壊すかもしれぬ。

この道は、血と炎を呼ぶやもしれぬ。

だがそれでも我は進む!

なぜなら、我が剣は王冠のためではなく、民のために振るわれるべきだからだ!」


(王女、剣を抜き、天に掲げる)


「この国に新たな夜明けを!

王はただ一人にあらず。

王国は、民とともに歩む時代へと入る!


我は専制公として、すべての権限をもって誓う。

王国を変える。いや――共に変えてゆこう、そなたらと!」


「我らが声が、石壁を越え、玉座へ届く日まで。

我らが汗が、法となり、誇りとなる日まで。

王国に栄光あれ! 民に正義あれ! 未来に希望あれ!!」


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