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第70話 奴隷の子供の喧嘩




 夜、寝るときは俺の左に兎のココノ、右に猫のタマ、上に狐のフォンというポジションが定着した。


 この3人の午前の選択科目はココノはヒルデビアと一緒にゴロウズラボへ、フォンはゴロウズ牧場だ。

 唯一タマだけはやることが決まっていなくて毎日フラフラ遊んでいる。


 3人ともまだまだ子供で、ココノは最近、乳歯の生え変わりで前歯が歯抜け状態だし、フォンは寝る時に親指をしゃぶらないと眠れない。一番お姉さんぶっているタマは今までに2回おねしょをした。


 俺は3人のそんな子供っぽいところが可愛く思えてしまうわけで、既に父さんになってしまったのかもしれない。



 8月9日の朝――。


 数日前、ガイアベルテがうちのペットになった。

 それ以外は変わったことはなく皆、服や私物などが揃ってきて、この家の生活に慣れてきた。


 そうなると、ちょいちょい喧嘩が起きる。

 といっても、やらかすのはフォンとタマだけなのだが……。


「タマ!それ脱いで!アッチの服は着ないでって言ったよね!?」


「なんで?別にいいでしょ!ニャーこれ好きだから今日はこれ着るの!」


 はぁー、また始まったよ。最近こんなやり取りをよく目にするようになった。


「脱いでよ!アッチの服なんだからぁー!」


 フォンがタマのワイシャツを強く引っ張る。


「いたいっ!」


 フォンは華奢なのに力が強い。タマが転んでワイシャツのボタンが取れてしまった。


 この2人は3ヶ月前、病気で飯を食べれなくてガリガリに痩せていた。しかし、今は毎日ちゃんと食べてるからそこそこ肉も付いて、こんな感じで元気も有り余っている。


 俺は溜息を吐いてから2人に言う。


「はい、終わり!もうすぐ朝食の時間だぞ。それとタマは服を着替えて」


 そう言うとタマは拗ねた感じで服を脱いで、地面に放り投げた。

 それを外れたボタンと一緒にフォンが拾って涙目になる。


「アッチの服……」


 あらら……。泣いちゃいそうだな……。


「タマ、フォンに謝れ」


「ニャー、悪くない!フォンが自分で引っ張って壊したんだよ!」


 ダメだこりゃ……。本格的に躾ける必要があるな。

 落ち込むフォンを無視してタマは食堂に行ってしまった。


「フォン、ご飯食べよう。服は後で俺が直しておくから」


 するとフォンは俺に抱き着いた。

 俺は頭を撫でてあげる。


 朝食の後、フォンは自分の子供用自転車でゴロウズ牧場へ出かけていった。






 その日の昼食。


 時間になってもフォンが帰ってこない。ゴロウズ牧場のゴロウズが彼女を説得しているが「帰りたくない」と言っている。


 原因はわかっている。

 俺は食堂の入り口でココノと一緒に食堂へ入ってきたタマを呼び止めた。


「タマちょっといいか。朝の喧嘩が原因でフォンが帰って来ないんだが。お前、何でフォンやココノの物を勝手に使うんだ?」


「だって、二人の服の方が可愛いんだもん」


「ココノんの服、タマとフォン着ていいの」


「ニャーの服も着ていいのにフォンはすぐに怒るんだよ!フォン性格悪いよ!」


「あのな、そういうのは人それぞれだから、性格悪いとは違うんだぞ。そうやって悪口を言ったり、相手が嫌がることをする方が性格悪い」


 そう言うとタマは口を尖らせ涙目になる


「ゴロウはいつもニャーのことばっかり怒る。ニャー悪くないもん!フォンがケチなだけだもん!」


 フォンはケチではない。最初は服や靴をタマに貸していた。


 しかし、タマがフォンに言わず勝手にフォンの物を借りたり、フォンお気に入りの服に醤油をこぼして染みをつくっても謝らなかったりと、そういうことが積もりに積もった結果、タマには貸したくないとフォンが言い出したのだ。


 ココノがフォンに頼めば何でも貸してくれると思う。


「俺は悪いことをした子供を怒る。いいかタマ、常に相手の立場になって物事を考えなきゃいけないんだ。お前だって嫌なことされたら怒るだろ?フォンが嫌がってるのに勝手に服を着るのは悪いことだ。フォンの立場になって考えてみろ」


 タマは首を落して凹んでしまった。


「だって……ニャー……、フォンの服着たかったんだもん……」


 これくらいの子供は自分が世界の中心だと思ってるからな……。


「だったら先ずはお前がフォンの喜ぶことをしてあげないと。フォンがお前のことを好きになれば貸してくれるよ。このままだとフォンはお前のことを嫌いになってもう遊んでくれなくなるぞ。お前、うちの連中でココノとフォンが一番好きって言ってただろ。いいのか?」


「…………ニャー、ココノがいるからいい!」


「ココノだって、タマとフォンに仲良くして欲しいよな?」


 俺はフワッとした感じでどうでもよさそうに話を聞いていたココノにウインクした。

 それを見たココノは俺の意を察したのか真面目な顔になる。


 ココノはうちで一番頭が良い。俺が言って欲しいこと理解している筈だ。「早く仲直りするの」とか「二人が喧嘩してら悲しいの」とか、きっとそんなことを言ってタマを煽ってくれるだろう。


「なっココノ?ココノはどう思う?」


「ココノん、フォンと仲直りしなかったらタマと絶交するの!友達やめるの!」


 そ、そこまで煽ってくれるとは思わなかった。けど、タマの顔がみるみる青くなっていく……!効果絶大だ!


「フォン……、何をしたら喜んでくれるの?」


「そうだな……取り敢えず、ちゃんと謝って服のボタンを直して、それからプレゼントをあげるのはどうだ?」


「「プレゼントぉ?」」


 俺はタマに仲直りする方法を教えた。

 それから俺達3人で朝壊した服を直して、ゴロウズ牧場にフォンを迎えに行った。


 タマがいる家に帰りたくないと言って、牛舎の隅に座り動こうとしないフォンにタマは頭を下げる。


「フォン……ごめんなさい。ニャー、もう勝手に服着ない!あと……コレ、ゴロウと一緒に直したよ」


 そう言って服を見せた。フォンは服をチラっと見てプイっとそっぽを向く。


「アッチ……もうタマ嫌い!」


 フォンは少し頑固なところがある。意固地なってしまったか……。

 まぁタマが悪いんだけど。


 許してくれると思っていたのだろう。予想外の返答にタマは何を言って良いかわからず狼狽えている。

 ココノは我関せずといった雰囲気でボーっとしている。


 やれやれ。

 助け舟を出してやるか……。







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