やす子はたちんぼ 女子大生が毎日がんばっておカネを稼ぐはなし
父さんの会社が倒産した。
やす子は父子家庭の長女である。次女はいない。つまり一人っ子だ。父ひとり娘ひとりで慎ましく暮らしていたのに……
「すまない。やす子。でも心配するな。雇用保険による失業給付がもらえる。1年間くらいは学費や生活費のことは気にしなくていい」
「……」
「ああ、そうか。やす子は高校2年生だったな。来年は大学受験だから――それが不安なんだろ?」
そのとおりだった。
「おまえのお母さんが提案して始めた――学資預金があるんだ。入学金や学費はそれでまかなえる。大学進学後はうちから通えばアルバイトなんてせずにキャンパスライフを楽しめるはずだよ。だから何も心配せずにこれまでどおり受験勉強をするんだ。いいね?」
やす子の父親が話したことは本当だった。確かに――やす子が生まれたときに開設した銀行口座に数百万円の学資預金が準備されていた。
備えは万全――のはずだった。
じつは、やす子の父親がやす子が大学3年生の2学期を迎えるころには数十万円にまで激減していた。
父親がFX取引に熱中したことが原因である。数百万円の残高があっというまに溶けてしまった。
借金を負わずに住んだことが不幸中の幸いであった。残った学資預金から入学金と初年度の学費の一部を捻出することができた。
やす子は稼がねばならなかった。大学1年の後半以降の学費やさまざまな費用を捻出するためである。
だが、やす子は働きたくなかった。そもそも働きたくなかったから大学進学を選んだのだ。
というわけで、やす子はいま流行りの「立ちんぼ」で稼ぐことにした。大学の講義を終えたあと、市内の「名所」に佇んでお客を待つのである。
やす子には立ちんぼ女としてのキャッチフレーズがあった。
「お背中流します」
女子大生であるやす子が風呂で背中を流してくれるのである。提供するのはそれだけだった。
やす子には実家があったし、進学したのは国立大学である。学費を稼がねばならないとはいえ多額ではなかった。だから、ほかの愚かな立ちんぼ女たちのように春を鬻いで大金を稼ぐ必要はなかったのである。
そんなわけで、やす子は「背中流し」をやっていた。
意外!?なことに客は多かった。
やす子にお金を支払って背中を流して欲しい客がいるのだ。
「ここも洗ってよ」
客がアソコを指した。
「そこは洗えません」
「じゃあ、舐めて」
「舐めません」
「じゃあ、せめて舐めさせて」
「舐めさせません」
「じゃあ、おっぱい見せてよ」
「見せません」
「じゃあ、パンツを見せてよ」
「見せません」
「ちぇ~」
やす子が厳然とした態度で断れば、それ以上を無理強いする客はいなかった。
「じゃあ、これで」
背中を流し終えると、客の男が硬貨を投げてよこす。
やす子は硬貨を拾うために腰を屈める――手にしたのは500円玉である。
やす子は「背中流し」という商売において「500円」が最低限の料金となっていた。
「延長しませんか?」
やす子は男に訊ねる。
「延長って、おいくら?」
「10分500円」
「じゃあ、延長しようかな……」
男の視線がやす子の胸に向けられる。
「ねえ、ブラジャーを脱いでよ」
「脱ぎません」
「じゃあ、おっぱい揉ませてよ」
「揉ませません」
――のらりくらりと受け流す。やす子は達人の域に達していた。
「じゃあ、これで」
客の男から追加延長分の500円を受け取って終了――毎日こんなことの繰り返しである。
きょうもやす子は元気です。