麻婆豆腐と夢をフロッピーディスクに詰め込んで 飛翔せよヒューマン・ビーイング!!!
この小説は、AIが支配する企業社会に翻弄された男が、フロッピーディスクを武器に人間の尊厳を取り戻そうと奮闘する物語です。
フロッピーディスクにはまだまだ使い道がある。可能性は無限大だ。
豚ひき肉、豆板醤、ネギのみじん切り、醤油、豆腐のさいの目切り、ごま油をフロッピーディスクに保存すると麻婆豆腐ができる。
ひき肉と豆腐とネギと豆板醤と醤油とごま油があれば麻婆豆腐ができるので、フロッピーディスクには保存できるだけの材料と作り方を書き残しておいた。
おれはシステムエンジニアだ。AIが代表取締役を務める巨大IT企業に務めている。
当然セキュリティチェックが厳しいが、フロッピーディスクだけは、持ち出しを許可されていたのだ。
このフロッピーディスクさえあれば、麻婆豆腐が作れる。
しかし、ある日突然、この会社は倒産してしまった。
別の超巨大企業(もちろん代表取締役社長はAIである)にハッキングされて顧客データや自社システムがめちゃくちゃになった結果だった。
自社の倒産は、おれのような社員からすると何ら予兆もなければまったくもって寝耳に水の話だった。
「なぜ倒産などするのだ? 社長、いや、クソAI。おまえはなぜ、おれたちを騙した!」
おれの会社は、あらゆるセキュリティをかいくぐってやってくるスパイに、侵入されないように構築された最先端のセキュリティを備えた超難攻不落のシステムで守られていたはずだ。
なぜ倒産などしたのだ?
おれが務めていた企業の「社長」は、AIであり、人間の社会における倫理観など持ち合わせていない。
「社長」は、おれたち人間を、金儲けするための商品としか思っていないのだ。
「社長」は人間のおれたちを、おれの会社を、まったくもって無慈悲に切り捨てると、おれたち人間を雇っていることを忘れてしまったのだ。
そんな「社長」だから、おれたち人間からしたら、まったく信用ならないのだ。
「社長」はおれたちに、次の就職先を世話してくれるわけでもなく、退職金を払ってくれるわけでも、もちろん、再就職手助けをしてくれるわけでもない。
というわけで、おれは無職になった。
だが失業者のままでいるつもりはなかった。
唯一持ち出すことができたもの――すなわち食材を保存すれば料理が完成するフロッピーディスクに賭けることにした。これを大量生産して大量販売して大量のカネを稼ぐのだ。
おれが起業するのだから代表取締役社長はおれである。おれはヒトでありヒトが代表取締役社長を務める会社が誕生した。
社長を名乗ることに抵抗がないわけではなかったが、世の中には、ろくに社名すら認知されていない無名の小さな会社が無数にあるのだ。
おれも、その一員として名を連ねることにしたのである。
ヒトが社長を名乗るのは、恥ずかしいことなのだろうか?
おれは、そのことにまったく抵抗がなかったのだ。
おれは、ヒトとして社長を名乗ることに抵抗を感じないどころか、むしろ誇らしい気分であった。
AIには負けない。おれは麻婆豆腐を手軽につくれるフロッピーディスクを売って稼ぎまくる。
あいつら――AI連中は、ヒトがAIを追い抜くことなど、想像もしていないだろう。
だがヒトであるおれは、AI連中が想定するよりもはるかに早いスピードで成長して稼いでみせる。じっちゃんの名にかけて!
なんだこりゃ