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蹴球の誇り:アンチ大谷翔平を自負するサッカーボールの無惨な最期

ある日の夕方、サッカーボールが怒りはじめた。


「大谷翔平、オオタニショウヘイ――やかましいわ! スポーツは野球ばかりじゃねえんだよ!」


サッカーボールの抗議が、夜の住宅地に響き渡る。


「お前はまたその話か。いい加減に諦めろ」


「いいや、諦めるのはお前のほうだ。お前こそいつまで野球やってるつもりだよ。もう小学生じゃねえんだぞ!」


ぼくとサッカーボールがいがみ合っているのは、子供のころから変わらない。5歳のとき野球選手にあこがれてぼくはグローブを買ってもらった。地元の少年野球チームにも入ってレギュラーにもなれた。


「野球なんかよりサッカーのほうが楽しいぞー」


毎日遅くまで少年野球チームの練習をして疲れて帰ってくるぼくに対して――サッカーボールはサッカーをアピールし続けた。そのたびに、ぼくとサッカーボールは喧嘩になった。


「うるさいなぁ、サッカーなんかより野球のほうが面白いんだよ!」


ぼくはサッカーのことをろくに知らなかったが、悔しくてサッカーボールを怒鳴りつける。


「野球なんてつまらねーぞ!」


サッカーボールも負けじと叫んでいた。


「あ、そっか。サッカーがくだらないのはお前みたいな口の悪いサッカーボールがいるからなんだなー」

「なんだと!?」


ぼくが発した嫌味を聞いたサッカーボールが気色(けしき)ばむ。


「そもそもJリーグって何だよ。セ・リーグとかパ・リーグのパクリか?」

「なんだとー! Jリーグが発足して100年も経っているんだぞ!」


あきらかに嘘だった。そんなに経っていない。


「お前、喧嘩売ってんのか!!」


怒りが頂点に達して――ついにサッカーボールが燃えはじめた。Jリーグをバカにしたぼくの発言によって火がついたってわけだ。


「ぎゃあああ、火事だ! 火事!」


ぼくは慌ててサッカーボールを足の裏で踏んで火を消そうとした。しかしサッカーボールは球体なのでコロコロ転がって燃え上がる炎を消すことが難しかった。


「や、やめろー」


ぼくは火のついたサッカーボールを必死で蹴るが――サッカーボールは激しく燃えている。


「もうダメだ――このままじゃ、ぼくの家が全焼しちゃう!」


――このときのぼくは11歳の子供だった。燃え上がるサッカーボールをどうやって鎮火させればいいのか咄嗟に判断できなかったのだ。


「――蹴ってくれ」


サッカーボールの声だった。すでに高温の炎によって表面加工が溶け崩れはじめている。


「蹴ってくれ――おれを家の外に蹴り飛ばすんだ。そうすれば全焼を免れる」

「で、でも。そんなことをしたら――」


いまサッカーボールを蹴飛ばしたら、その加速度で燃え尽きるまでの時間が短縮される。すなわちサッカーボールが燃え尽きるのが確実になる。死ぬ。サッカーボールとは5年以上にわたって喧嘩しながらも、ずっとつきあってきた存在だったから――ぼくは蹴飛ばすのを躊躇(ためら)ってしまった。


「早くしろ! 家を全焼させたいのか!!」


サッカーボールの声がきつくなった。


「……わかったよ!」


ぼくは意を決して、燃えるサッカーボールを足先で蹴り飛ばした。


「ぎゃぁあああああああ!!!!!」


サッカーボールが悲鳴のような声を発しながら2階のガラス窓を突き破り、空中を舞い、燃えさかる放物線を描きながら家のとなりにある空き地へと転がっていく。


廊下にあった段ボールに火が燃え移っていたが、今度こそ足で踏んでもみ消すことができた。


そのあと、ぼくは急いで消防車を呼んだ。


「あ、サッカーボールは……!!!」


ぼくは家の外に駆け出した。

空き地には、サッカーボールの燃えカスらしきものが転がっていた。


「サッカーボール!」


ぼくは慌ててサッカーボールを拾ったが、もうサッカーボールでは無くなっていた。

サッカーボールは燃え尽き、ただ炭になっていたのだ。

ぼくはサッカーボールの焼け跡を前に膝をつき、涙した――そのとき、スマホ通知音が鳴った。


<大谷翔平49号>


「うぇぇぇえええええええええええええええええええいいいいい!」


その夜、晩飯はすき焼きだった。いっぱい食べてから風呂に入った。ぼくはぐっすり眠った。

やっぱり大谷ってすげーよなー。野球サイコーーー!!!

通訳ネタは控えざるをえない。誹謗中傷ダメゼッタイ!

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