野武士の想い人
魔術師ゲヘケモニアヌが新しい冒険者を連れて来た。盗賊と戦士。二人とも女だった。
坊さんは盗賊の女を大層お気に召した様子だった。地下迷宮に入り盗賊の女が罠を外そうとしたときにドジを踏んで毒針に刺されたら、すぐさま治療した。あのケチが、マジックポイントの消費を何よりも嫌う貧乏性が、針に刺された盗賊女を心配して解毒魔法を掛けたのだ。この前、同じような目に遭って死んだ盗賊の男が見たら、大いに嘆くだろう。
女戦士は、俺の見たところでは、冒険者になってからまだ日が浅い初心者のようだった。スピアを持った黒い髪の奇麗な女で、戦いの基礎は出来ているけれど、怪物と戦うより舞台の上で舞い踊る方が向いている気がした。
だから、俺は言ってやった。
「あんた、この商売に向いていない。悪いことは言わない。廃業して舞踊家になった方がいい」
すると女戦士は、本業はダンサーなのだと言った。元の世界つまり実際の世界ではダンスや時々は芝居の役者として働いているのだそうだ。この世界には一時的な転移で来ているだけで、こっちでは戦士をやっているけれど、慣れないから苦労しているのだと。
俺は驚いた。一時的な転移で別の世界へ来ているだなんて! そんな人間がいると話に聞いたことはあるけれど、お目にかかったのは初めてだった。
地下迷宮のラスボスと戦う前に、俺は女戦士に訊いた。
「この冒険が終わったら、元の世界へ戻るのか?」
彼女は頷いた。
「そのつもり」
「次に来た時も、俺たちと一緒に戦ってくれるよな?」
ちょっと間を置いて彼女は答えた。
「うん、もちろん」
俺は直感で分かった。そうなるとは限らないな、と。
女戦士はラスボスにやられそうになったので、俺はかばってやった。クールな野武士で通っている俺にしては甘い話だ。運が悪ければ死ぬところだったと後で坊さんに言われたから、甘いどころか甘すぎる話だった。
目覚めたとき、俺は宿のベッドの上だった。棺桶の中に入って土の下にいる運命だったのを、女盗賊と女戦士が助けてくれたのだと魔術師が言った。彼女たちは俺のために死体蘇生者へ金を出し高額な蘇生魔法を掛けさせたのだった。
俺は二人に礼を言おうとした。しかし彼女たちは元の世界へ帰った後だった。
魔術師ゲヘケモニアヌは言った。
「あの子たちは気が向いたら、こっちの世界へ遊びに来る。その時に礼を言ったらいいさ」
女盗賊にご執心だった坊さんは残念そうだったが、俺も人のことは言えない。女戦士に会いたくて、とても辛かったからだ。体の調子は次第に良くなっていったけれど、気分は本調子とは程遠かった。虚ろな心を抱え虚ろな町を行く。そんな俺を見て気が滅入ったようで、ドケチな坊さんが俺にプレゼントをくれた。チャチな指輪だった。
「要らん」
「そう言うな」
その指輪は願い事のかなう魔法の品なのだそうだ。ただし、と坊さんは注意した。
「願いがかなう代わりに、呪いや災いが降りかかると言われている。だから皆、付けたがらない」
俺は苦笑いを浮かべた。
「それを俺に譲ってくれるのかい? いやはや、幾ら感謝しても言葉が足りそうにないよ」
坊さんはニヤッと笑った。
「いいさ、私とお前の仲だ」
坊さんが立ち去ってから、俺は指輪をしげしげと眺めた。安っぽい指輪だ。願いはもちろん、呪いとも災いとも縁がなさそうに見える。俺は考えた。今の俺の願いは、一つ。女戦士と正式で皆から祝福される結婚をしたい! それだけだ。そのためなら、何だってやる。だが、指輪をつけている姿を坊さんに見られるのだけはごめんだった。
そこで俺は、その指輪をピアスにすることにした。指輪のピアスを装着した体の場所は、ここには書けない。今のところ、願いはかなっていない。小細工したのが失敗だったのか、と不安にもなってくる。だが、指にはめているのを坊さんに見られるのは死んでも嫌だ。俺はクールな野武士であることが売りなのだから。




