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婚約者は姉のように  作者: 河辺 螢
婚約者は姉のように
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5 王妃とのお茶会 (イヴリン、十七歳)

 シリル殿下の婚約者、チェルシー様の王妃教育が始まり、王城でお見かけするようになった。第一王子の婚約者は何かと大変そう。

「イヴリン様も一緒に学ばれますか?」

と誘われたけれど、あえてお断りした。王妃教育に同席するなんて、王位を狙っていると疑われても大変だもの。ラルフは王になるなんて事は全く考えていないのだから、疑われるようなことは絶対に避けなければいけない。


 時には王妃様からお茶に誘われることがあった。

 王妃様はお茶会にチェルシー様と私、そしてクライヴ殿下の婚約者候補の令嬢を数名招き、一番のお目当てはクライヴ殿下の婚約者候補の選別のようだったけれど、私のことも探りを入れようとしているのはわかった。

「あなたはクライヴのことをどう思う?」

 婚約者候補の令嬢たちへの問いかけは、口許に笑顔を浮かべながらも、その回答から何かを探ろうとしていた。

 令嬢達は口をそろえてクライヴ殿下を称えていった。

「真面目で素敵な方です」

「王立学校の剣の試合で活躍されたのを見ました。文武両道で、頼りになる方です」

「先日、暴漢に襲われた時に、ご自身で犯人を捕らえられたと聞き、さすが殿下だと…あっ」

 その「あっ」は、私に向けられたものだった。あの時負傷した私が同席しているのをうっかり忘れていたのか、あえて注意を向けたのかはわからない。私は笑顔を見せて気にしていないことを示した。

 すると王妃様は

「あなたはクライヴのことをどう思っているのかしら?」

と私に聞いてきた。そんなことを私に聞いてくるなんて、意図が掴めなかった。

「…ラルフ殿下の兄上であり、気さくな方でいらっしゃると思います」

「それだけ?」

「はい。私は学校も中退しまして、あまりお目にかかる機会もありませんでしたので」

 中退、と言う言葉に露骨に鼻で笑った令嬢もいた。出来が悪かったと思われたのかもしれない。

 それ以上の問いかけはなく、続いて次の質問に移り、以後は私に向けられることはなかった。ラルフの婚約者が学校を中退した半端者であることを思い出し、安心したのかもしれない。

 できるだけ目立たないよう振る舞い、静かにお茶とお菓子を楽しんだ。


 逆らうことのできない相手とのお茶会は決して居心地がいい訳ではなかった。一見和やかな雰囲気を装いながらも、逆鱗に触れないよう一挙一動に注意して笑顔を向けるのは息苦しく、お開きになった時にはどっと疲れが出た。

 離宮に戻ろうとした時、チェルシー様にお声をかけられ、チェルシー様の主催するお茶会にも伺う約束をした。どうやら社交辞令ではないようだった。


 叔父が侯爵家を継ぎ、王立学校をやめてから私が人と交わる機会はかなり減っていた。夜会はおろか小さなパーティも叔母とミラベルの二人が参加し、私が足を向けることはなかった。離宮に来てからはさらにお誘いを受けることはなくなり、いつしかそれを楽だと思うようになっていた自分に気がついた。

 ラルフを支える立場として、こうしたお付き合いにも積極的に参加すべきなのか…。今は離宮の居候だけど、やがてはお茶会を主催する側に回らなければいけない時も来るかもしれない。


 その後も何度か王妃様やチェルシー様のお茶会に呼ばれることがあったけれど、私にお茶会の主催を求められることはなかった。

 やがて王妃様のお茶会もなくなった。それは王妃様が身ごもり、口にするあらゆるものを警戒するようになったからだった。

 その後念願の姫様が生まれたことで王妃様の関心は姫様に移り、すっかり子育てに夢中になってしまわれた。姫様が救いの神に思え、健やかにお育ちいただけることを祈った。


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