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婚約者は姉のように  作者: 河辺 螢
婚約者は姉のように
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2 父の死 (イヴリン、十四歳)

 十四歳の時、突然父が亡くなった。

 領地から王都に戻る途中盗賊に襲われ、なんとか家までたどり着けたものの、受けた矢傷が原因で三日間苦しんだのち、天に召された。

 父の葬儀には多くの人が来てくださった。励ましの言葉を寄せられてもぼんやりとしか反応できず、泣きもしない私を可愛くないと囁く言葉も聞こえてきた。それさえも心に響かないほどに、何も考えられなくなっていた。


 アディンセル侯爵家は父の弟が継ぐことになり、父と私の二人で暮らしていた屋敷には叔父と叔母、その娘のミラベルが住むようになった。ミラベルはまだ五歳で、私が使っていた部屋は主人の部屋に近かったのでミラベルが使うことになった。私も父に近い部屋が嬉しかったので、叔父、叔母の部屋に近い部屋をミラベルが使うのは当然だと思い、三人から少し離れた部屋に移動した。


 私の立場は前侯爵の娘になったけれど、私とラルフの婚約はそのまま継続となった。

 叔父は娘のミラベルと入れ替えたいようだった。侯爵家の娘であればどちらでも大差ないだろうし、何よりミラベルはラルフの二つ下、年回りもいい。だけど王家から変更は認められなかったと聞いた。理由は判らない。婚約者をころころと替えるのが都合が悪いのか、私とラルフとの関係に問題がなかったからか、…あえて年の離れた私をラルフに当てることを誰かが望んでいるのかもしれない。年の差を理由にいつでも入れ替えが効くように。


 ある日、叔父に書斎に呼び出された。

「ずいぶん成績がいいんだな」

 突然そんなことを言われたものの、褒められているのではないことは察した。

「王城でもお勉強を見ていただける時間がありましたので」

と答えると、

「王城で学んだこと以上のことなど学べないだろう。もったいない。金の無駄だ。学問のできる女なぞ、こざかしいだけだ」

そう言われ、通っていた王立学校を中退することになった。

 せっかく仲の良い友達もでき、楽しい場所だったのだけど、家長の決定に従わない訳にはいかなかった。「もったいない」「こざかしい」と言われてしまったのにはがっかりした。父が生きていた頃は優しい叔父で、時々お土産もいただいていたけれど。もったいないだなんて、そんなに領の経営がうまくいってないのかと心配になったけれど、妻や娘のことには金払いがいいので、私のような居候に払うお金が惜しいというだけだろう。



 一月ほど経ってだいぶ落ち着いた頃、ラルフに会いに王城の離宮を訪れた。

「アディンセル侯のことは大変だったな。早すぎる死が悔やまれる」

 まだ七歳ながらも王子としての言葉をかけてもらい、成長したなぁ、と少し嬉しくなった。

「いい人はみんな早く天に召されてしまう。…イヴ、ずいぶんやつれてないか?」

 そう言うとラルフは私の隣に座り、手を私の頭の上に乗せ、そのまま頭を撫でてきた。

 びっくりしてラルフを見つめていたけれど、頭を優しく撫でられているうちに、ぽろっと一粒涙がこぼれたのをきっかけに、涙が止まらなくなった。

 その手があまりに優しくて、しまいには声を上げて、まだ幼いラルフの胸を借りて泣いてしまった。

 このところつらいことばかりだった。でも泣いてすっきりした。七歳のラルフに慰められるなんて。でもラルフがいてくれてよかった。私は一人じゃない。そう思えることが今の私には救いだった。今、私が家族と思えるのはラルフだけ。

 泣き止んだら、ここ一カ月の話や、父との思い出話をして過ごし、目の腫れが引いたのを確かめてから家へと戻った。


 学校をやめた分、できた時間をラルフのそばで過ごすようにした。離宮に行くことは叔父も止めなかった。私が下手に家にいるよりも出かけている方が家が回るのだろう。それならば、学校に行かせてくれればいいのに。

 ラルフも年齢が上がるごとに学ぶことがさらに増え、私と過ごす時間は少なくなっていたけれど、時にはラルフと一緒に先生の講義を聴くこともできた。私が質問することも許されていて、まだまだ不十分な勉強を補うことができたのは嬉しかった。

 自分の身を守るために剣を習ってみることも考えたけれど、私が剣を碌に持ち上げることもできないのを見て、ラルフに笑われた。

「人を切るというより、薪でも割るみたいだ」

 年に合わせた軽めの剣を手にしてはいても、ラルフの剣の腕前は悪くなかった。どんどんたくましくなっていくラルフを見ていると、頼もしいと思う反面、ちょっと寂しいような気持ちになっていた。


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