表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者は姉のように  作者: 河辺 螢
婚約者は弟を越えて
18/25

8 父王への相談 (ラルフ、十六歳)

 すでにイヴの夜会用のドレスは出来上がり、準備も進んでいるだろう。

 先にイヴをエスコートし、後からミラベルを…

 駄目だ。僕がミラベルをエスコートするところをイヴに見せたくない。例え、夜会の会場に連れて行くだけであっても。


 養護院から戻ってきたイヴは、僕の様子が違うことに気が付いていた。そもそも家にいるなら、僕は養護院に同行するべきだったのに、何も言わず家にいたんだ。気にならない訳がない。なのにイヴは、

「今日は早かったのね。それじゃあ、夕食も早めにいただきましょう」

と言っただけだった。

 夕食の席で、イヴは今日の養護院での様子を語ってくれた。だけど僕が家にいたことも、何をしていたかも聞き返すことはなかった。それはイヴのいたわりなのかもしれない。結局僕はそれに甘えてしまった。


「今度の夜会、…エスコートできない」

 急に切り出した僕に、イヴは食事の手を止め、

「何かあったの?」

と聞き返した。

 きちんと話せば、わかってくれるだろうか。だけどその理由を言い出すことができず、ただ

「…すまない」

と返した。

「一人で行ってみようかしら」

 おどけたように言ったその言葉が、知っている、と言われているように聞こえた。

 僕が他の誰かと夜会に行くことを。それを見届けようか、と言われているかのようだ。

 だけど僕の顔色を読んで、すぐに

「…やっぱり、ここで大人しくしておくわ」

 そう答えて、薄い笑みを浮かべた。

 いつもこうやってイヴはすべてを飲み込んでしまう。そうさせているのは僕だ。



 ミラベルを連れて行くリスクにきちんと対処しておく必要がある。今のアディンセル家はあまりに危うい。

 僕は父に事前に相談しておくことにした。


 僕が招いたトラブルでありながら、父は思いのほか僕の話をちゃんと聞いてくれた。

 代替わりしたアディンセル家がもはや中立派ではなく、傾いてきた家を立て直すこともできず、没落の道をたどりつつあることも把握していた。僕が知っているくらいだ。父が知らない訳がない。

 婚約破棄など脅しにもならないと、もっと強気で対応してもよかったのかもしれない。けれど…

「…同行を承諾したのはまずかったな」

「申し訳ありません」

「だが、事前に相談してくれたのはよかった。何の予告もなく妙な女を連れて来れば、茶番かどうかの見分けもつかん」

 父は足を組み、指先で椅子の肘掛けを数回叩きながら考えをまとめ、ぴたりと指の動きを止めた。

「令嬢の対応は、おまえに任せる。アディンセル家との婚約は現状維持だ。要望により解消となったとしても、入れ替えは認めない」

 要望により解消…。その言葉が僕の思考を奪った。

 硬直してしまった僕に気が付いたのだろう。父はそんな僕を鼻で笑った。

「家同士の約束が解消されたところで、本人に意向を聞けばいいだけだ。自信がないのか」

「自信なんて、…あったこと、ありません」

 父はしばらく僕を眺めた後、小さな溜め息をついた。

「…力で閉じ込めたところで、自分のものになるわけじゃない。おまえの母もそうだった」

 そう語った父は、僕に母を重ねて見ているようだった。

「今までイヴリンがおまえのそばにい続けたことは、それなりに意味はあるのだろう。だが、それを婚約という縛りでしかつながらないと感じているのなら、いつかは終わりが来る」

 父は、亡き母を愛していたのだろう。王という絶対的な力を使ってでも閉じ込めておきたいほどに。だけど閉じ込めてなお、心を得ることはなかった。

 僕もまた、イヴを守るつもりで結局閉じ込めていただけなのかもしれない。イヴは本当に僕といたいんだろうか。それはイヴの意思だっただろうか。ただ婚約の履行だけを考え、無理をしていたんじゃないだろうか。

 僕は一礼して父の執務室を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ