5 東の辺境領を目指す (ラルフ十五歳)
第三学年になった時、父に呼び出され、卒業後のことを聞かれた。
「東の辺境領の後継者を探しているが、興味はあるか?」
「あります」
僕は即答していた。
僕の答えはあらかじめわかっていたのだろう。父のすぐ近くに、東の辺境伯代理を務めているギャレット将軍がいた。東の辺境伯が後継を決めないまま急死し、親族からは希望者が出ず、調整が難航していると聞いた。
「彼の地は非力なお飾りの領主を求めているわけではありません。後を継ぐにふさわしい力を見せていただきたい。王立学校の剣術大会で、卒業までに三位には入っていただきましょう」
それは、決して容易な注文ではなかった。高学年になるほど有利とはいえ、全学年で三位に入れるほど強くないことくらい、自分でもわかっていた。それでも僕はあきらめたくなかった。
「稽古をつけていただけますか?」
僕が問いかけると、将軍は
「喜んで」
と言って大きくうなずいた。
将軍の厚意で、騎士団でも名をはせているヴィクターとトニーが交代で稽古をつけてくれることになった。稽古は毎日とはいかなかったけれど、毎日欠かさず騎士団の修練場へ出向き、二人が都合がつかない時でもその場にいる誰かに相手になってもらい、自分の弱いところ、活かせるところを教えてもらった。
その年の剣術大会は学年でベスト4に終わり、全学年の試合に出る権利も得られなかった。
もし東の辺境領へ行けなくても、僕とクライヴには王の直轄領のどこかが与えられ、公爵位を得て王の臣下になるのは予想できた。
だけど、自分の手で辺境伯の地位を手に入れられたなら、父に領地を与えられる「いつか」を待つ必要はなくなる。王都から離れた地で国を守る者となり、王家の邪魔者ではなく必要な存在だと思わせられたなら、これからの僕の人生は僕のものになるだろう。
東の辺境領のことを話すと、イヴはさほど驚いた様子を見せなかった。
「東だったら、今はお隣の国は友好国になっているから安心ね。もちろん、国内の有事にも備えておかなければいけないけれど」
その言葉からは、見知らぬ辺境の地に行くことなど少しも苦にならないようだ。逆に少し怖くなって
「イヴは辺境に行くの、嫌じゃないのか?」
と再度問い直したけれど
「ラルフと一緒なら、どこでも大丈夫よ。ずっと離宮にいることはないと思っていたから…」
その答えは、僕を安心させ、力づけてくれた。
僕はイヴと共に東の辺境領に行くことを目標にした。
その権利を得たなら、僕はイヴに一緒に行ってほしいともう一度問い直すつもりだった。
この先の人生を僕と共に生きてくれるか、親が決めた婚約者だからではなく、一人の男として。