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第6話

 とりあえず話を聞いていくと、作戦自体は非常に単純で、パレードに出てくる国王を奇襲する。ただそれだけだった。周囲に居るであろう兵士はここに居る全部で15人ほどのメンバーが決死の思いで止め、その隙にドーレンさんとフェイリィさんが突撃。フェイリィさんにしか使えない『独立の宝石』を国王の指輪に押し当てる。元々の作戦ではそうなっていたらしい。


 だが、それでは召喚された勇者たちをどうするのか、という話になっていたそうな。そこで、私が使ったというより、ディヴァースが使った壁を使ってほしいとのことだった。

 それで食い止めている間に……ということらしいが、私が居なかったらどうするつもりだったのか。

 勇者の力は非常に強力なようで、近くの大きな魔物を倒しただとか、兵士達を百人抜きしただとか、色々なうわさが飛び交っているらしく、そんな勇者を私達が止められるのか少し不安になる。


 ともかく、そんな作戦ともいえない蛮族のような話を聞いて、もう少し考え直したほうがいいのでは、と私は言った。しかし、詳しい話を聞くと、もはや国王は外に顔を出すことが少なくなっているとの事で、今回のパレードはその数少ないうちの一つらしい。さらに、パレード中は警備の列も縦長になり、思ったよりも手薄であること、勇者たちのお披露目も兼ねているため、国王と勇者たちの距離もそれなりに離れていることが、このパレードを狙う理由との事だった。普段だと、必ず1人は勇者を連れ歩いているというのだから、国王の用心深さがうかがえる。


 そんな用心深い国王相手に、こんな乱暴な作戦で大丈夫なのかと思わなくはなかったが、話を聞いているうちに、この人たちが、ここに賭けているということを感じ取った。

 私が思っている以上に、この国はまずい状況なのかもしれない。無理やりに働かされている人たちも、いつまでもその状態を保つことは出来ないだろう。そのうち、身体的な限界がきて、弱い人からバタバタと倒れだす。そんな未来が来るのもそんなに遠い話ではないのかもしれない。


「わかりました。 協力します」


 ここで私が協力しないと言っても、彼女たちはきっと明日と言うチャンスに動き出すことだろう。

 正直なところ、かなり怖い。相手取る兵士や勇者たちは武装しているだろう。いくら私がアルカントゥルムで身体能力が向上していても、限界はある。

 それでも、私は後悔したくはない。ここで協力せずに作戦が失敗したら、きっと私は後悔するだろう。そう思いつつ、私は彼女たちの策に乗ることとした。無事に作戦が成功することを祈りながら。


 そしてその日の夜。

 個室に通された私は、着の身着のまま眠ろうとしたが、中々寝付けずにいた。

 明日が作戦の決行日ということで緊張しているのだろうか。


「眠れないのですか? アカネ」

「うん」


 短く返事をして、ベッドから身体を起こす。

 かちゃりと、右手のアルカントゥルムが音を立てる。

 そういえば、私はこのアルカントゥルムについてあまりよく知らない。


「このアルカントゥルム……。 ディヴァースと手を繋いだあとから私の右腕にくっついたままなんだけど、何なの?」

「私が分かっていることと言えば、それは感応武具というあなたの思いに応じて、その強さを変える武具だということと、あなたの帰りたいという思いにもっとも反応する武具ということだけですね。 あと、名前は私が付けました。」

「えっ、そうなの!」


 名前を付けたのがディヴァースだったとは。てっきり、そう言う名前の武器が先にありき、だったのかと思った。ということは、この名前はあの時にポンと付けたものということだろうか?


「ねぇ、ディヴァースのことも教えてよ」


 ふと、彼女のことも良く知らないことに気づいたので、何の気はなく聞いてみる。


「私のこと、ですか?」


 不思議そうな顔をして、私の方を向く。

「そうですねぇ、教えるのは構わないんですが」


 くるりと空中で舞うように回転する。


「私の話なんて聞いても面白くもなんともないですよ?」

「それでもいいよ。 私はディヴァースの事を知りたいの」


 それでは、とディヴァースが私の隣に座る。


「私の何を知りたいですか?」

「それじゃあ、何であの神殿に居たのかについて知りたいかな」

「あの神殿に居た理由は簡単です。閉じ込められていたんですよ、私」

「閉じ込められていた?誰に?」

「この世界の神様……とでも言うべき存在でしょうか」


 神様……?

 別に私は信心深くもなければ、何かの宗教に入っているわけでもない。

 だからというわけでもないが、神様という存在が本当にいるかと聞かれたら、私はどちらでもあると答えるだろう。

 神様とは信じる人には存在して、信じない人には存在しないものだ、と。

 でもディヴァースの言い方は、まるでその神様にあったことがあるかのような言い方だった。


「私はもっと人間に寄り添うべきだって言っただけだったんですがね。そしたら、力を取り上げられた上に、あんな忘れ去られた神殿に幽閉されたんです」


 つまりは、上司に当たる人に歯向かったら左遷されたと。


「でも、そう言っただけで幽閉というのも変な話だね」

「そうなんですよねぇ。 ちょっと気候をいじくって皆が暮らしやすい世界にしただけなのに……」


 前言撤回。とんでもないことをしていた。

 まあ、私は人間側だからディヴァースがそうしてくれるのは万々歳ではあるのだけれど、上司である神様からしてみれば自分の机を荒らされたような感覚だったのかもしれない。


「まあ、そういうわけで私はあの神殿に何百年も閉じ込められていたというわけです」

「何百年!」


 それは何とも凄い怒り方だ。


「多分、忘れ去られているだけですけどね」


 そうディヴァースが苦笑してみせる。

 それでも、何百年もディヴァースをほったらかしにした事が許されるとは到底思えない。


「いよっし、分かった!」

「ど、どうしたんですか? アカネ?」

「もし、その神様とやらに会うことがあったら、私がぶん殴る!」


 シュシュシュと右手でシャドーボクシングをする。

「ふふふ、もしそんな時がきたら、よろしくお願いしますね」

「何言ってんの、ディヴァースも一緒に殴るんだよ!」

「へ?」


 ポカンと呆けた顔を見せてくれる。


「ほら、練習練習!」


 ディヴァースを無理に立たせると、2人で一緒にパンチの素振りをする。

 そうこうしている内に、楽しくなってきて。

 私とディヴァースの押し殺した笑い声が、部屋の窓から宵闇の中へと消えていった。


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