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第4話

 ―――きて。

 どこか遠くから声が聞こえる。

 ―――おきて。


「うーん、後5分……」


 正直ベタな事を言っている自覚はあるが、まだまだ眠い。私の頭がシャッキリするには時間がかかりそうだ。


「起きなさい!アカネ!」

「ひゃいッ!」


 発せられた大声に私は反射的に飛び起きてしまった。それと同時に硬いものと硬いものが激しくぶつかり合うような音がした。


「やっと起きましたか!侵入者です!」


 見ると、ディヴァースが半透明の壁を張り、黒ずくめの人間の持つナイフを防いでいる。ナイフの刃先は間違いなく小柄な人に向かっており、あと数センチ近ければその人の喉笛を切り裂いていたであろう位置であった。

 黒ずくめの人間はこれ以上のつばぜり合いを無意味と見たか、弾くように飛びのくと、今度は私の方へと向かってきた。


「いっ!?」

「アカネ!」


 ディヴァースの叫び声に、とっさに私は右手で防御する。奇跡的に突き出されたナイフはアルカントゥルムに当たり、事なきを得た。

 侵入者は、舌打ちをすると再び飛びのき、くるりと反転すると、テントの中から飛び出していく。


「何だったの……?」

「何だったの、ではありません!今後安眠したければ、奴を追って捕縛!最悪抹殺です!」

「そんな物騒な……」

「駆け足用意!」


 ピッ!という音がどこかから聞こえてきそうな掛け声をディヴァースがすると、籠手のはまった右腕が勢いよく上がり、ズルズルと私の身体をテントの出口へと運んでいくではないか。


「ちょちょちょ!わかった、わーかった!行きます行きます!」

「分かればよろしい!」


 そうして、私はまだ朝日すら昇っていない暗闇の中を駆け出していくのだった。いつの間にか目を覚まし、呆然とする同居人をその場に残して。

 飛び出していくときにちらりと見えたが、見張りをしていた人は眠りこけていた。見張りの意味をもう一度辞書で見直していただきたい。

 馬車を止めて野営していた場所が平原だったこともあってか、侵入者の姿はまだ捉えることが出来た。出来たのは良いのだが、この暗闇でなぜ見えるのか。そして何より、あの俊敏そうな相手に対してなぜ私は付いていけているのか。


「今の貴女はそのアルカントゥルムによって身体能力を底上げされている状態ですからね。 ようやく身体に馴染んできているのでしょう」


 と、ディヴァースが教えてくれる。

 それにしても凄く身体が軽い。今だったらどこまでも走っていけそうな気分にすらなってくる。グングンとスピードを上げていき、侵入者の背中もそれに伴って大きくなっていく。近づいてきているのは良いのだけれど、近づいてどうすれば良いのだろう?

 半分くらい雰囲気に流されて飛び出したが、これといった策は何も無い。


「大丈夫です。 近付きさえすれば、先ほどの壁を奴の前に出せます。 後は勝手に自滅してくれるでしょう」


 なるほど、それならいけそうだ。問題があるとすれば、そんな簡単に人って気絶するだろうか、と思わなくはないけど。最悪、倒れたところで腕をつかめば無力化は出来るだろう。

 はっはっ、と少し息切れをしてきているが、ここが踏ん張りどころ。恐怖で震える足に力を入れて、さらに速度を上げた。風を切る音がいっそう強くなる。


「げっ!」


 ここに来てようやく相手もこちらに気づいた。まさか、追ってくるとは思っていなかったのだろう。安心してほしい、こっちも思っていなかった。

 相手も速度を上げるが、こちらの速度からすると大して上がってはいない。彼我の差があと1メートルという距離まで来て、ようやくディヴァースが腕を振り上げた。

 と同時に、侵入者の前に半透明の壁が出現する。


「ふごっ!」


 痛そうな音を立てて、侵入者がひっくり返る。そこで捕まえようとしたが、あまりのスピードに止まることが出来ず、通り過ぎてしまった。

 何とかスピードを落とし、おそるおそる侵入者の元へと駆け寄る。すると、侵入者はふらふらとしながら、なんと立ち上がってきた。


「気絶してないじゃん!」

「私は自滅すると言っただけで、気絶するとはいっていませんよ」

「へりくつ!」


 そう叫びながら、侵入者が繰り出してきたナイフによる攻撃を紙一重でよける。その後も次々と振り払いや突きといった攻撃を回避していく。相手がふらふらしているとはいえ、それなりの速度のはずのナイフがかなり遅く見える。これもアルカントゥルムによる底上げ、という奴なのだろうか。

 それにしても、この状況からどうすればいいのだろう。あの壁を破壊した右手の攻撃をこの人に使えば決着はつくだろうが、おそらく、いや確実に相手は死ぬ。出来れば殺したくはない……と考えているうちに、相手の動きが見るからにその精細さを欠いていく。

 私が避けているうちに、相手の限界が来てしまったようだ。最後の一撃といわんばかりに大振りの攻撃を繰り出してくる。


「はいっ」


 と、ディヴァースが腕を振り、壁を作り出す。身体ごと突っ込んでくる攻撃をしてきた侵入者は、その壁をよけることは出来ず、またしても顔からぶつかってしまう。

 今度こそトドメとなったのか、ズルズルと壁に沿って地面へと倒れこんでいった。


「で、どうするの?この人」

「彼らに引き渡せばよきに計らってくれるでしょう」


 そういって、ディヴァースがこの人を運ぶように促してくる。

 私は何とか肩に担ぎ上げると、自分の力強さに困惑しつつも、元来た道を戻り始めた。そして、先ほどの戦いの中で感じた疑問をディヴァースへとぶつける。


「というか、なんでさっき攻撃されていたときに壁を張って助けてくれなかったの?」

「これから先のためにも、貴女は戦闘に慣れておくべきだと思ったので、というのが1つ、後もう1つは、そんなに連続して壁を作り出せないのです。」


 ひどい、と思いながらも、ディヴァースの言うこれから先がないことを祈りながら、私は足を進めた。


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