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第19話

「ああ、やっと来ましたか! まさか天井からいらっしゃるとは思いませんでした!」

「ああっ! あんた! あの気持ち悪いやつ!」


 ゆかりちゃんも中々の目に遭ったようだ。鳥肌を抑えるように両手で自分の身体を抱いている。


「気持ち悪い奴とは心外ですね。純粋な知的好奇心が故の行動ですよ」


 その時、内藤くんの手から光が漏れる。一本の光となったそれは、スレイルの頬を掠め、そこに一筋の血が垂れてくる。


「ゴチャゴチャうるさいんだよ。 さっさと漆の右腕を返しやがれ」

「まあまあ、そうあわてないで下さいよ。 短気は損気ですよ?」


 ひょうひょうとした態度に、イライラが募っていく。

 こいつは人の右腕を切り落としたことを本当に分かっているのか?


「ほら、ご覧下さい! これがアルカントゥルムのあるべき姿です!」


 そう言って手で指し示した先は、下に降りるときに見えた大量の機械だった。


「……まさか、それが」

「ええ! これぞアルカントゥルムからエネルギーを取り出すために私が構成した、『憤怒反応炉』です!」


 胸を張ってみせるスレイル。アルカントゥルムが飛んでこなかったのは、この機械に固定されていたせいか。


「この『憤怒反応炉』の凄いところは、将来的に他の人のものでもエネルギーとすることが出来る可能性があるところです! もっとも、エネルギー効率的には、アカネさん、あなたの憤怒がもっとも良いのでしょうがね。 それに加えて」

「もう、いい!」


 私の感情が爆発する。


「それは、私の右腕だ! 私のアルカントゥルムだ! あんたがそんな風に扱って良いものじゃない!」


 その瞬間、機械が音を立てて動き出す。ガタガタと動いているようにも見えるそれは、アルカントゥルムが私の元へと帰ってこようとしているためなのか。


「おお、素晴らしい! やはり、あなたの憤怒は良いエネルギー源だ!」


 こいつは……!

 私は、怒りに身を任せて足を一歩前に踏み出そうとする。


「おっと、動かないでもらいましょうか」


 そう言って、スレイルが懐から拳銃を取り出し、それを構えようとした。

 だが、その前にゆかりちゃんの右手がひらりと動く。

 機械に対して、爆発が数個連続して巻き起こる。爆煙が辺りを包み込み、部屋全体を飲み込んでいく。


「あんたねぇ、ふざけんじゃないわよ! こんなこと許されると思ってんの!?」

「それが許されるんですよねぇ。 私は」


 爆煙が明けていき、そこには無残なまでに壊れてしまった機械の姿があった。


「私の右腕がぁ!?」

「どうせ、あんたの右腕は大丈夫でしょ!」


 何だか私の右腕の扱いがひどい気がする。


「ふふふ、流石と言うべきでしょうか」


 いつの間にか部屋の奥の方にあったエレベーターにスレイルが乗り込んでいた。


「待て!」


 千住松くんと内藤くんがスレイルを捕らえるべく、走り始める。

 だが一歩間に合わず、エレベーターは上へと昇っていってしまった。


「くそ!」


 内藤くんが悔しそうにエレベーターのドアを叩く。


「そんな奴より、茜の右腕探すの手伝ってよ!」


 ピラミッドのように積み重なった機械は、私の右腕を覆い隠してしまっていた。

 私たちは機械をどかしていき、右腕を発掘する。


「あった!」


 千住松くんの手でようやく発掘された私の右腕は、力なく垂れ下がっており、本当に大丈夫か心配になる。

 前回と違って、それなりに時間が経っているため、腐っていないかどうかも不安だ。

 おそるおそるその右腕を受け取り、私の右腕と接続する。ビリっと電気が走るような感覚が右腕に走った。

 そして、右手を前回と同じようにグーパーする。私の意思どおりに動くそれを見て、私はちょっとだけ安心する。

 次に気になるのはディヴァースだ。これだけ騒いでいるのに、一向に籠手から出てくる気配がない。


「ディヴァースさーん。出てきてくださーい」


 そう私が呼ぶと、ぷはあ、とディヴァースが籠手から飛び出してくる。しかし、その姿は小さくなっており、大変かわいらしかった。


「ディヴァースさん……小さくなった?」


 ゆかりちゃんがかわいいものを見る目で、ディヴァースを見つめる。


「そりゃ、小さくもなりますよ!あんな勢いでエネルギー使われたんじゃ、たまったもんじゃありません!」


 プンプンと怒り出すディヴァース。よくよく見ると、小さかったディヴァースが少しずつ大きくなっていくのが見えた。

 どうも、アルカントゥルムとディヴァースは直結しているらしく、アルカントゥルムのエネルギーが枯渇すると、ディヴァースにも影響が出るとのこと。私の右腕がくっつき、エネルギーが供給されるまで息もたえだえの状態だったようだ。

 そんな話をしているうちに、ディヴァースは元の大きさへと戻った。


「いやー、やっぱりこの姿が一番落ち着きますね!」

「私もこの状態が一番落ち着くよ……」


 私は、しっかりと繋がった右腕を見ながら、苦笑する。


「さて、とっととこんなとこから脱出しちまおうぜ」


 内藤くんがさっきスレイルが出て行ったエレベーターへと向かう。

 どうやら、緊急脱出用のエレベーターのようで、エマージェンシーと書かれている。

 赤いボタンを押して待つこと数分、エレベーターがやってきた。

 そのまま皆で乗りこむ。


「止まってないんだね、エレベーター」


 私は疑問に思ったことをそのまま口に出して言う。


「そうだよなぁ、あの科学者だったら、俺たちを捕まえるために止めててもおかしくないよなぁ」


 内藤くんが賛同してくれる。そう、あいつは変人だがバカではないはず。そのくらいのこと分かって当然だと思うのだが……。


「出口で待ち構えてたりするんじゃないですか?」


 ディヴァースがそう言うと、空気が凍りついた。確かに、これを動かしているということはその可能性はある。脱出することに気を取られすぎて、そういったことを全く考えていなかった。


「……もう戻れないみたいだし、心の準備だけはしておこう」


 千住松くんがパキパキと首の骨を鳴らす。

 頼むから、出口で待ち伏せをしているような真似をしていないでくれと祈りながら、エレベーターの到着を待つ。

 そして、エレベーターの扉が開いたとき、そこにはとんでもない光景が待ち受けていた。

 どうやら、エレベーターは大きな車庫のようなところに繋がっていたようで、まるで飛行機

 でも止めておくような場所に出た。

 広いのは別にいい。問題はそこにあった物だ。

 二つの大小の直方体を上下に重ね、上の直方体には長い砲身が備え付けられた自走する車―――そう、戦車がそこに鎮座していた。

 戦車だけではない、機関銃とでもいうべきものが付いた車両もあれば、アサルトライフルを持つ兵士もいた。


「ようこそ、歓迎パーティーへ! 予測どおりに来てくれて大変うれしいよ!」


 スレイルの声が、戦車から聞こえてくる。

 どうやら、備え付けられたスピーカーで私達に話しかけてきているようだ。


「さあ、死ぬのは嫌だろう。 大人しく投降してくれるのであれば、ひどいようにはしない」


 あいつのひどいようにはしないの内に、私の右腕は含まれていないのだろう。


「どうする?」


 千住松くんが問いかけてくる。


「私がやる」


 それに短く答えると、私は一歩前に踏み出し、ディヴァースに壁を張るようお願いする。

 私と内藤くん達の間に、半透明の壁が張られ、不可侵の領域が形成される。


「ちょちょちょ、私もやるよ!?」


 そうゆかりちゃんが言ってくれるが、ここは譲れない。スレイルには直接手を下したいと思っていたところだ。

 私は腰を落とし、右手を構える。


「撃て! 右腕さえ残っていれば後は構わん!」


 スピーカーからそんな声が聞こえてくる。だが、兵士たちも子供相手に発砲するのは戸惑っているのか、なかなか撃ってこない。

 そう思っていると、戦車がガコンと音を立ててこちらへと照準を合わせてきた。


「お前らがやらないのなら、私がやるまでだ」


 戦車の砲身と私の視線が交錯する。

 けたたましい音と共に、砲弾が発射された。

 私はタイミングを合わせて、右手のアルカントゥルムで砲弾の横っ腹を殴る。

 方向を変えられた砲弾は、後ろに張られた壁にぶつかって爆発する。


「……は?」


 とぼけた声がスピーカーから漏れた。

 その後は、私の蹂躙劇だった。

 半狂乱になって砲弾を撃ってくる戦車に近付きながら、その砲弾を弾き飛ばす。

 近付いた後は砲身を破壊し、キャタピラを使い物にならなくしてやった。

 そうして、中に居るスレイルを引きずり出し、戦車にドンと押し付けてやる。

 その間、周りの兵士たちは唖然としたまま動くことはなかった。


「き、聞いてないぞ! こんな化け物だなんて!」

「私達から見たら、あんたの方がよっぽど化け物よ」


 そう言って、スレイルの前に右手をちらつかせる。


「さ、死にたくなかったらちゃちゃっと答えてね」

「ふん、どうせお前ら日本人は人なんて殺せないだろ!」


 私は右手を繰り出すと、スレイルの背にある戦車に穴を空ける。


「じゃあ、質問するわね?」


 そう言うと、スレイルは青い顔をしてコクコクと頷くのであった。

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