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第17話

 どこかぼーっとする。


「……どう……実験……」

「つないで……るか……」


 途切れ途切れに聞こえてくるその2つの声は、どうにもはっきりとしない。

 ここ何週間かで、どうも意識を飛ばす機会が多い気がする。

 カチャカチャという音と、私の右腕を触っている感触があった。


「う……う」


 少しずつ意識がはっきりしてくる。身体をよじると、どうやら何かで身体を固定されているようだった。ピッ……ピッ……ピッ……、と規則正しい電子音も聞こえてくる。


「おい、この子、意識戻ってきているんじゃないか?」

「マジかよ、麻酔薬入れてるんだけどな」

「麻酔の量、増やすぞ」


 そう言った瞬間、私の意識はまた薄らいでいきそうになる。

 くらりと来たが、必死に意識を保とうとする。

 右腕は、あの時と違ってくっついている。

 それならば、願え。


(かえり……)


 ともすれば、失ってしまいそうな意識を必死で繋ぎとめる。


(……りたい)


 アルカントゥルムが音を立て始めた。


「おおっ!おい、これ見ろ!」

「すごいな、本当に動力を必要とせずに回転するのか」


 その声を聞いて、私はふと疑問を感じた。

 なぜ、こいつらがアルカントゥルムが回ることを知っているのか。

 確か、家族と警察くらいにしかアルカントゥルムが回ることは説明していないはず……。

 と、私が意識を保てたのはここまでだった。落とし穴に落ちるように暗い意識の底へと沈んでいく。

 次に目が覚めたときには、真っ白な部屋の中央でベッドの上に寝かせられている状態だった。

 私は、またしても嫌な予感がし、あわてて右腕を確認する。

 だが、頭と身体がしっかりと拘束されているせいで、右腕から先を確認することが出来ない。

 なんとなく右腕はある気はするのだが、幻肢症という腕が無いのに腕がある感覚がするというのを聞いた事があるため、油断は出来ない。

 何とかこの目で見ることが出来ないか、四苦八苦したものの、全く動く気配がない。

 流石は私の世界、向こうの世界とは対応が違う、と感心しそうになったが、そんなことをしている場合ではない。


「うぉうぉわああえー!」


 何とか声を出そうとするも、猿轡のようなものを噛まされていて声にならない。

 と、ここでもし右腕があるなら、帰りたいと願えば、歯車の音くらいは聞こえるんじゃないかと言うことに気づく。


(帰りたい、帰りたい、帰りたい)


 そう念じるが、全く歯車の音は聞こえてこない。

 それどころか、牢屋に閉じ込められたときは、飛んできたはずのアルカントゥルムがやってくる気配もなかった。

 これは俗に言う、詰んだと言う奴なのでは?

 というより、私の右腕はまたしても切断されてしまったのか?

 何だかこうもホイホイと外れると、私の右腕は初めからそういうものだったのでは、という気がしてくる。

 幸いだったのは、今回は痛み止めでも使われているのか、痛みを感じていないことだった。

 そのうちくっつくと言うことを差っ引いても、私にこんなことをしてくれやがる連中に腹が立ってしょうがない。


 それにしても、どこから私の右腕の情報が漏れたのだろう。


 そう考えたが、おそらく警察からだと思う。右腕が外れたけど大丈夫だった、という話は家族には心配をかけるため、していない。一方、警察では、「その右腕は何ですか」みたいな質問をされたときに、右腕が切断されたことやらくっついた話やらを、異世界を信じてもらうために話してしまった。

 アルカントゥルムは、ときおり邪魔だなぁと思うことはあっても、もはや大事な相棒のようなものである。

 そう考えると、何だか段々怒りのボルテージが上昇してきた気もするが、今はどうしようもない。

 何か動きがあるまで、私は待機するほかなかった。

 そうしていると、ガコン、と足元の方から何かが開くような大きな音がした。

 そして、複数の足音が聞こえ、私の顔を何人もの人が覗き込んできた。


「やあ、アカネさん。ご気分の方はいかがかな?」


 メガネをかけた胡散臭そうな男が、私に話しかけてくる。

 それに答えようにも、私は猿轡を噛まされているせいでまともに答えることが出来ない。


「ああ、そのままだと答えることが出来なかったね。おい、猿轡を外してやれ」


 そう男が命令すると、白衣の人たちが、私の猿轡を外してくれる。


「さて、改めて自己紹介をしておこう。私の名前はスレイル・アークマンという。以後お見知りおきを」


 私の顔の上に頭を出しながら、大仰に礼をしてみせるスレイルさん。


「今回、このように手荒な真似をしてしまって申し訳ない。だが、君の価値を考えればこうする他なかったのだ」


 そう言って、私の頭を撫でてくる。正直、気持ち悪かったが、頭すら動かすことが出来ないので、そのまま撫でられたままになる。大体、申し訳ないという気持ちだけで右腕を取っても良いと思っているのだろうか、こいつは。


「そう、君のアルカントゥルムは素晴らしい! 何の動力ともつながっていないというのに回転するあの歯車! あれこそ次世代のエネルギーを担う核となるものだろう! いや、それだけじゃない! あれはエネルギーそのものを生み出している気配すらある!」


 だが、と言ってスレイルの勢いが急に落ちる。


「どうにもあれは気まぐれでね。 起動が確認出来たのは、君が目を覚ましている時間帯だけだ。ついさっきも起動したんだが、すぐにその動きを止めてしまった! そこで、もういてもたっても居られなくなってね。 君に直接あれの起動方法を聞きにきたというわけさ!」


 なるほど、なるほど。


 こいつは生粋のアホなのかな?

 起動方法なんて簡単だ。私が帰りたいと強く思えば良い。それどころか、あれは私の強い思いに反応するわけだから、別に帰りたいという思いに限らなくても良いというのは、ディヴァースも言っていたことだ。ただ、アルカントゥルムが出来た状況からして、帰りたいという思いに一番強く反応するというだけだ。

 だが、こんな状況でそれをペラペラと話すほど私はお人好しに見えるのだろうか?


「絶対に嫌です」

「そう言うだろうと思っていたよ、私もね」


 くくく、と笑いながら、私にスレイルが持っていたタブレットの画面を見せてくる。


「これを見たまえ。 俗に言う、君のお友達がどうなってもいいのかな?という奴さ」


 そこに映し出されていたのは、内藤くんに千住松くん、ゆかりちゃんが私と同じように拘束されている姿だった。


「……!」

「彼らもそれぞれ興味深い能力を持っているようだねぇ。 さて、ここでもう一度質問だ。アルカントゥルムはどうやったら起動するのかな?」


 まずい、と思った。

 ここで、アルカントゥルムの秘密を話してしまうのは非常にまずい。そうしたら、最後、私はエネルギーを産出するために、一生ここに閉じ込められてしまうかもしれない。

 だが、あの3人にどんな被害が及ぶか分からない以上、話さないというのも問題だ。


「……」

「おや、だんまりかい? じゃあ、次は家族をどうにかしないといけないかなぁ」

「ふざけんな!」


 スレイルの言い草につい怒ってしまう。

 すると、スレイルに通信が入ったのか、何かを話し始めた。


「ほう、ほうほう。 なるほど! アルカントゥルムが動き出したそうだ! どうやら、君の怒りの感情に反応して、あれは動き出すみたいだね!」


 正確には違うのだが、勝手に勘違いをしたまま、スレイルは話を続ける。


「君は、ここに閉じ込められていた事とかに怒っていたわけだ! いや、言われてみればそれもそうだ! なんせ右腕を切られているんだしね! なんでこんな簡単な事に気づかなかったんだろう!」


 スレイルは、私にキスでもするんじゃないか、というくらい顔を近づけてくる。


「いや、良かったよホントに! それじゃあ、これからしばらくは、君を怒らせるために、あの子達を拷問しないといけないね!」


 そんな地獄のような文言を残して、スレイルがそのまま出て行こうとする。

 私は身をよじって、何とかここから抜け出そうとする。だが、強固な拘束は私を抜け出させてくれそうになかった。


「ちょっと待って! 違う! あれは、そんな条件で起動するんじゃない!」


 そう叫ぶが、スレイルは聞く耳を持たず、部屋から出て行ってしまった。

 私は絶望に打ちひしがれる。かつてないくらい、ここから帰りたいと思った。

 今頃、アルカントゥルムはその歯車を強く回していることだろう。


 だが、そんなことはもはやどうでも良かった。


 これから一体どうなるのか。ゆかりちゃん達はどんな目に遭うのか。

 そして、なぜアルカントゥルムは私の元へと来てくれないのか。

 そんなことをグルグルと考えているうちに、焦燥感やら何やらがごちゃ混ぜになって、私は気が狂いそうになってきた。

 どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 ただ、異世界に行ってどうにかして帰ってきただけなのに。

 あふれ出る涙もぬぐえないまま、身体も動かせずに、部屋の明かりもつけっぱなしのため、時間感覚が失われているのが分かる。


「帰りたい……」


 その私の呟きは、虚空へと消えていった。

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