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第12話

 現れたドラゴンの大きさは、広い謁見室の半分を埋めかねないほどで、推定15メートルはあるだろうか。

 驚くべきは、まだその質量を膨らませていっているということだ。

 このままでは、謁見室を破壊し、城すらも崩れ落ちてしまうかもしれない。

 そうなれば、どれだけの被害が出るのだろう。この城の規模も良く分かっていないが、とんでもない被害が出る可能性がある。それ以前に、ここに居る内藤くんたちやフェイリィさんをおいて逃げることなんて出来ない。


「止めなきゃ……!」

「見てください!」


 そうディヴァースが指差したのは、ドラゴンの後ろの部分。そこはまだ形成されきっておらず、グズグズの状態となっていた。


「完全体にはほど遠いようですね! 目に見えている所もそこまで硬くはないようです!」

「よっしゃ! 行くよ、ディヴァース!アルカントゥルム!」


 私の声に呼応するように、アルカントゥルムがその歯車を回し始める。

 ドラゴンが雄叫びを上げるも、怯まず前に一歩を踏み出す。

 私に出来ることは一つだけ。ただ前に進むことだ。

 床を足でトントンと叩き、私は、これまでで一番の威力を出すために、私の胸の内に問いかける。


 私の力の源は?

 ―――帰りたいという思い。


 私は今も帰りたい?

 ―――当然、帰りたい。


 私の力はそれだけ?

 ―――違う。他の皆の思いも力に。


 私は耳をすます。

 まだ、4人の声は聞こえてくる。

 帰りたい、という声が。

 私はその思いを受け入れ、アルカントゥルムへと流しこむ。

 歯車はいっそう回転を強め、頼もしい音を私に聞かせてくれる。

 ドラゴンの口の端から炎が漏れ出てきている。今にもその炎は、勢いを増して襲い掛かってきそうな雰囲気だったが、私は集中するべく目を閉じる。


 すると、不思議な光景がまぶたの裏側に浮かんできた。薄く光ってみえるそれは、間違いなくドラゴンの身体の中にある、隷属の指輪に違いなかった。

 あれが核だ、と直感的に悟る。

 バッと開眼すると、ドラゴンが大きくその口を開き、死を撒き散らす焦熱の吐息を吹きかけんとしているところだった。


「ディヴァース! 後ろに壁を!」

「了解です!」


 半透明の壁が、私とフェイリィさん達の間に張られる。私からの力の供給が増えたせいか、その幅はこれまでの両手を広げたものどころではなく、謁見室の端から端までをカバーしていた。これで彼女達の安全はある程度確保できただろう。


 右足を引き、右腕は弓を引き絞るように後ろに下げる。

 ドラゴンの口からオレンジ色の炎が噴き出した。

 それと同時に私は、思い切り右足で地面を蹴り込み、右手のアルカントゥルムを突き出す。

 弾丸のように射出された私の身体は、その勢いのままドラゴンの炎と衝突した。

 ゴウゴウと激しい炎の音が耳をつんざく。オレンジ色で視界がいっぱいになる。

 不思議と熱さは感じなかったが、私の身体の勢いは徐々に弱まって行き、このままでは止まってしまうかのように思われた。しかし、私には何の不安も無かった。


「アルカントゥルム!」


 私の呼びかけに答えるように、アルカントゥルムはその形を変化させる。

 左右に翼のようなものが形成されたアルカントゥルムは、その翼からきれいな光の粒子を高速で排出し、私の身体に更なる勢いを与えてくれた。

 炎もさらに勢いを増したように感じたが、もはや私を止めるほどのものではない。


「貫けえッ!」


 そう叫んだ瞬間、視界が開け、ドラゴンの黒い大きな頭が目に入ってくる。しかし、それも一瞬のことで、私はそのまま口の中へと突入する。

 鈍い衝突音と共に、ほとんど抵抗無くドラゴンの身体の中へと沈んでいく。

 直感がこのまま真っ直ぐ行けと叫ぶ。

 私の意志を汲み取り、アルカントゥルムの駆動音がさらに大きくなる。

 勢いよく進んでいるのはいいが、息を吸うことが出来ない。

 酸欠のせいで、頭がぼんやりとしてくる。


「アカネ! 頑張ってください!」


 一瞬気を失いかけたが、ディヴァースの声で取り戻す。

 その瞬間、右腕に何かが当たったような感覚を覚えた。

 隷属の指輪だと思い、反射的にそれを右手で掴む。

 そして急に視界が開けた。

 後ろを振り向くと、ぽっかりとその身体に穴をあけたドラゴンの姿と夜空の星が目に入る。

 息もたえだえの中、右手で握り締めたはずの指輪を見ると、それは半分に割れてしまっていた。どうやら握力だけで砕けてしまったようだ。


 そこで、アルカントゥルムの出力が急に落ち始める。私の身体は重力に引かれて、落下し始めた。浮遊感の中、意識も遠のいていく。

 どうやら力を消費しすぎたようだ。自分の中の何かが空っぽになっているのを感じる。

 ディヴァースの焦っている声をどこか遠くに聞きながら、私は自分の意識を手放した。

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