死んだ魔王は転生してJKやってます。
世界征服を目論んだ魔王は勇者によって倒された。相討ちだったけどな。
我がその魔王なのだが、どうしたわけか、死んで別世界の一般家庭の娘として魔王の記憶を持ったまま転生してしまった。
腐れ神の嫌がらせなのか、何かの手違いなのかは分からないが、全くいい迷惑である。人間などという下等種族になってしまったことは吐き気がするし、この世界はマナが薄く魔法も出すことは出来ないが、16年間なんとか生きる事はできた。
「あら?真央ちゃん出掛けるの?」
「はい、母上。図書館に行ってきます。」
「もう、ママって呼んでって、いつも言ってるでしょ。いってらっしゃい♪」
そんなやり取りをして外に出た我。
転生した私の名前は神城 真央、真央という名前は気に入っているが、名字に"神"が付いているのは気に入らない。
ボン・キュッ・ボンで褐色肌でブロンドの髪をなびかせていた美女魔王だった前世とは違い、この時代では胸は貧乳のスレンダーボディ、黒髪ストレートの眼鏡女子だ。ちなみに掛けているのはオシャレ眼鏡で、爆乳じゃなくなり肩こりに悩まされなくなったことは良い事である。前世と同じところは歯がギザ歯だということぐらいだな。
この世界で唯一の楽しみは本を読むことである。児童誌から世界地図まで大変興味深い。最近の我のマイブームは少女漫画であり、図書館にはその手の本が大量に置いてあるので楽しませてもらっている。
図書館までの道中、商店街を突っ切って徒歩15分ぐらいで着く道のりなのだが、ここで些細なトラブルが発生した。
「オラァ!!金出せよ!!」
商店街に鳴り響く不良の声、ここで断言しておくが、我が絡まれた訳ではない。気弱そうな男子生徒一人を赤髪と金髪の如何にも不良といった男二人組が絡んでいる。
あぁ、実に醜い。同じ種族同士で争うとは実に程度の低いことだ。こういうのを見ていると滅ぼしたくなる。なるべく視界に入れないようにしておこう。
「お、お金なんて持ってないです!!」
「うるせぇ!!とりあえずこっちに来い!!」
「うわぁ!!誰か助けてぇ!!」
チラリと騒ぎの方を見てみると、気弱な少年は服の首根っこを捕まれズルズルと路地裏の方に連れて行かれている。誰かに助けを求めているが大人は知らんぷりである。どの世界も同じだな。人間とは自分が一番可愛いわけだ。あのバカ勇者の様なお人好しは極めて稀なのだろう。
とにかく、あんな些事に構っている暇はない。早く図書館に行って、『恋心届け』の続きを見なければ。
「ギャハハハ!!テメーは変わらねぇなぁ!!隆史君よぉ!!」
そうだ。こいつの言う通り、僕は高校生になっても気弱で泣き虫で意気地なしの根暗野郎だ。
僕の名前は倉石 隆史。男子高校生。
特技なし、勉強もスポーツもダメダメな男だ。
そんなダメダメな男は休日に商店街をブラブラしていると、中学の時の自分をイジメていた同級生に出会い、金をたかられるというテンプレ的なイベントが起きて、路地裏で金髪不良に胸ぐらを掴まれて涙目になっているわけだ。
「お、お金は本当に無いです。ウチは母子家庭で貧乏なので・・・。」
「あぁん?小遣いも貰えねぇのかよ?なら親の財布から盗んでこい!!」
無茶苦茶言う、本当にどうしてそんなこと言えるんだろう?自分が言われたら嫌な事を平気で言わないで欲しい。
「そ、そんなこと出来ないよ・・・お願いだから勘弁して。」
「あん?じゃあテメーに体で払ってもらおうかな♪何処殴って欲しい?」
はい、またテンプレだ。何処も殴っては欲しくないけど、それで済むなら仕方無い。
「お腹でお願いします。」
「分かった・・・顔だな♪」
「えっ!?ちょ!!」
戸惑う僕をよそに不良の拳はすでに振り上げられていた。
こいつ等にとって金を巻き上げるのはついでで、僕が苦しんでいる様を見て楽しんでいるわけだ。本当に最低だ。
でも、そんな最低の奴らに抗えない僕は最低の最低野郎なのかもしれない。
「おい、下等種族共、じゃれ合いをやめよ。通り過ぎようとしたが、あまりに胸くそ悪い。」
幸か不幸かそんな女の子の声が聞こえてきて、不良は振り上げた拳を降ろし、僕の胸ぐらを掴んでいた手を緩め、僕は地面に尻餅をついた。
「あん?誰だ?」
金髪、赤髪の不良が振り向く、僕も路地裏の入り口の方を目を凝らして見ると、そこには黒髪ロングの眼鏡を掛けた女の子が腕組みして立っていた・・・あれ?もしかして同じクラスの神城さん?普段大人しくて、誰も話しかけられないオーラを醸し出しながら読書してる彼女が、どうしてこの場に居るのだろう?
「おっ♪何だ可愛い女の子じゃん♪」
「胸はねぇけどな♪なんだい♪お嬢さん?もしかして、このクズを助けに来たのかい♪勇敢だねぇ♪」
赤髪の方が神城さんに近付いていく、それなのに僕は「逃げて!!」と叫ぶ勇気もない。本当にダメだなぁ。
「よぉ、お嬢さん♪代わりにアンタが遊んでくれるのかい?」
赤髪が右手で神城さんの顎をくいっとする。その瞬間、神城さんの瞳がギラつき、彼女は赤髪の指に噛み付いた。
"ガブッ!!"
「ぎゃあああああ!!何しやがる!!このクソアマ!!痛いぃいいいい!!」
ギザギザの歯が赤髪の右手に食い込み、鮮血の血が吹き出ている。見るからに痛そうだ。それにしても女の子が男の手に噛み付くなんて、なんて猟奇的な映像だろう。
「い、痛い!!やめろぉ!!」
半狂乱になりながら叫ぶ赤髪。金髪は助けに行かずに呆然として目の前の光景を見ているだけ、怯えているというより、何が起こっているのか頭が理解できてないって感じだ。
そうして暫くすると神城さんは噛みつくのをやめ、ペッと血混じりの唾を吐き捨てた。
「不味い血だ。我の体質が変わったのか、それとも貴様の血が単純に不味いのか・・・おそらく後者か。」
そう言ったあと、身を屈めて右手を左手で抑えて痛がっている赤髪の顔面を彼女は迷い無く蹴っ飛ばした。
"ガァン!!"
「ぎゃあ!!」
短い悲鳴を上げ、赤髪は仰向けに倒れて、ピクリとも動かなくなった。
「ふむ、この体だがこれぐらいは動けるか。」
手をグッパーと動かし、何やら感心している様子の神城さん。
僕の理解はもう追いつかない。
「テ、テメー!!俺のダチに何しやがる!!」
そのダチが動けなくなるまで動けなかった金髪がようやく動き出し、右拳を振り上げながら神城さんに突っ込んでいく。
神城さんはそれに対して極めて冷静で、動いて乱れた前髪をかき上げた。
「ふむ、挑むか。許す。だが代償は覚悟しろ。」
「舐めんなぁ!!」
振り下ろされた拳に対し、神城さんは右腕ごと両手でガッチリと掴み、勢いを利用して一本背負いで金髪を投げ飛ばした。
"ズガァアン!!"
「あがぁあああ!!」
下が畳じゃないのに思いっ切り地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべる金髪。神城さんはその様子を見ても容赦無く、右足で金髪の顔面を踏みつけた。
"ガッ!!"
「ぐふぅ!!」
なんとも言えない悲鳴を上げる金髪だが、それでも神城さんは止まらない。
"ガッ!!ガッ!!ガッ!!・・・"
「醜い、醜い、醜い。これだから人など滅亡させたくなるのだ。死ね、死んでしまえ。」
何度も何度も金髪の顔を踏みつける神城さん。もう金髪は失神しているし、顔が真っ赤に染まってきたのに、彼女は踏みつけるのをやめようとはしない。踏みつけている内にニタリと笑顔になってきて、口角が上がり、ギザギザの歯がギラリと光っている。
こ、これ以上はマズい。
僕は気付くと駆け出して神城さんに近づき、彼女の足と金髪の顔の間に右手を出した。
"ガッ!!"
「痛いっ!!」
神城さんの足は止まることなく、僕の右手は彼女の足と金髪の顔でサンドイッチ状態になった。メチャクチャ痛い。涙が出る。
「貴様・・・何のつもりだ?死にたいのか?」
僕を見下しながら睨みつけてくる神城さん。その瞳に睨まれると僕は心臓を掴まれた様な感覚に陥り、僕の体は金縛りにあったように動けなくなった。でも何か返答しないと本当に殺されそうだ。
「し、死にたくないです。」
「なら何故邪魔をした?」
「こ、このまま踏まれ続けたら、この人が死んじゃうからです。」
「この者はお前を虐げていた男だぞ、ならば死んだ方がお前にとっては死んだ方が都合が良かろう。」
「僕の都合なんて関係ありません!!人殺しは見過ごせません!!」
普段そんなこと考えてもないくせに、綺麗事を吐く僕。もしかして死んだかな?
「ふっ、ふははははははは♪」
何故に彼女は高笑い?何がおかしいんだろ?
「はははは♪・・・ふぅ、気に入ったぞお前。この世界では下僕は作らんつもりだったが、お前を下僕一号にしてやろう。光栄であろう?」
げ、下僕?・・・えっ?僕いじめられるのかな?
神城さんは僕の手の上の足を退けたあと、こう問うてきた。
「貴様名前は何だ?」
「く、倉石 隆史です。見覚えありませんか?クラスメートなんですけど。」
「クラスメート?貴様高校生か?そんな小さな華奢な体で?というか見覚えが無いぞ?」
「・・・僕、暗くて存在感無いから。体が華奢なのは家が貧乏で、まともな食事食べてないからだと思います。」
「うーむ、それでは困るな。我が下僕としては強靭な体になって貰わねば、よし、分かった。同じクラスなら好都合だ。私がなんとかしてやる。安心せよ。」
「ど、どうも。」
どうやら僕は下僕決定らしいけど、僕に断る権利とか無さそうだ。
その後、神城さんは僕を立ち上がらせて、用があるからとその場を足早に去ってしまった。
僕は帰りながら、さっきのことは夢だったのかも?と思おうとしたけど、右手がじんじん痛み、あれは夢ではないと叫んでいた。
次の日の朝、学校。
いつも通り誰からも挨拶されずに、ボッチらしく自分の席に座ってボーっとしていると、学生服の神城さんが話し掛けてきた。
「おはよう、下僕。本当に同じクラスだったんだな。というかお前から挨拶しに来ぬか。下僕のクセに生意気だぞ。」
そう言いながら、彼女は僕のおでこにデコピン一発。
"パーン!!"
「痛っ!!」
メチャクチャ痛い。これおでこ赤くなってるよね?
「昼休みになったら、屋上に来い。一緒に飯を食うぞ。」
「えっ?でも屋上は立入禁止・・・」
「細かいことを言うな。それに我は誰にも縛られん。教師が何か言ってきたら催眠術で何とかするわ。」
「さ、催眠術?」
そんな事できるの?
「我を誰だと思っている。いいから昼休みに屋上な。」
「は、はい。」
押し切られてしまった。本当に大丈夫かな?
と、思っていたら、昼休みになって昼御飯のパンの耳が入った袋を持って屋上に行ってみると、誰からも注意されずに屋上に侵入することが出来た。初めて来たけど風が気持ちいいし、今日は良い天気だ。
屋上を見渡すと右の方にカバンを横に置いて、胡座をかいて座ってる神城さんがそこに居た。イチゴ柄のパンツがちょっと見えちゃったけど不可抗力だから僕は悪くない。
「おっ、来たな。我の隣に座れ。下僕♪」
「は、はい。」
先に来ていた神城さんに促されるまま隣に座る。すると神城さんはカバンから赤と青のお弁当箱を2つ取り出し、青い方を僕に渡して来た。
「こ、これは何です?」
「何って弁当だ。任せろと言ったであろう。作ってきたからありがたく頂け。」
「えっ?いやっ?なんで?」
「だからいつまでも虚弱な体では、我の下僕一号として非常にみっともない。だからこの弁当を食って強靭な体にせよ。」
「えぇ!?こんなの申し訳なくて頂けないですよ!!」
「むっ?我の弁当が食べれぬと申すか?死にたいのかお前?」
ギロリと僕を睨みつける神城さん。相変わらず心臓掴まれる様な感覚だ。これは食べないと僕の命が危ない。
「いただきます!!」
「おう、いただけ。」
弁当箱を開けると、三角おにぎり三つ、ササミとブロッコリーのサラダ、鳥の唐揚げ、ハンバーグ、タコさんウィンナーが入っている豪華なお弁当だった。
「えっ?これ神城さんが作ったんですか?」
「神城だと?・・・我のことはマオ様かマオウ様で呼べ。次からはお前のクビが飛ぶぞ。はい、テイク2!!」
今、あからさまに殺意を僕に向けてきたな。これはマジのやつだ。気をつけよう。
「・・・これはマオ様が作ったんですか?」
「そうだ。中々上手く出来たぞ♪早く食え♪タンパク質多めだ。」
「は、はい。それではいただきます。」
2回目のいただきますをした後、とりあえずササミを一口食べてみると、オリーブオイルとニンニクで程よく味付けされて、とても美味しい。どうやらサラダじゃなくてアヒージョだったようだ。
「どうだ?美味いか?美味いのか?」
お弁当の感想を聞いてくるマオ様。不安そうな顔を見て、普段とのギャップに不覚にも可愛いと思ってしまった。
「か、可愛いです。」
あっ、間違えた。
「可愛い?美味しいかどうか聞いているのだ!!馬鹿者!!」
"ボカッ!!"
「痛いっ!!」
あ、頭を殴られてしまった。間違っただけで殴るの良くない。暴力反対。
「と、とても美味しいです。」
「ホッ、そうであろう♪飲み物はこれを飲め♪SAVASのミルクプロテインのバナナ味じゃ♪タンパク質が15グラム入っとる♪」
どうやらマオ様は僕の体を筋肉ムキムキマッチョマンにしたいらしい。この後は筋トレまで強要されそうだが、怖いし、心臓を・・・もとい胃袋を掴まれてしまったので逆らえそうにありません。