秘密発表
奇妙な世界へ…
俺は東野敬三。ただのしがないサラリーマンだ。
いきなりだが、皆には一つや二つ、『秘密』というものはあるだろうか?恥ずかしい過去、人には言えない様な趣味や性格、癖など…無論、俺にも秘密がある。そして、その秘密を人に伝えた事はあるだろうか?まぁ、普通は無いだろう。しかし、この世にはそんな事をしてしまう奴も居るのだ。今から語る話はそんな事をしてしまった、俺を含む四人の話である。
それはある日の事であった。俺は、新入社員のミスによって、課長の南出純一、同期の西崎欣二とミスの原因である北林四朗と共に残業していた。
俺達は、北林の分の仕事を終わらせ、コンビニで買ったコーヒーを飲みながら少し雑談をしていた。
「にしても、なんで俺まで残業しなきゃいけないんすか?」
「そりゃあ、お前のミスのせいだよ、北林!少しは反省してるのか?」
少しだるそうにしている北林に課長は叱った。
「まぁまぁ、課長、そう怒んないでくださいよ。俺だって少しは反省してますよ」
「まぁ、北林も反省してるんで、今日はこれぐらいに…」
反省しているようで反省していなさそうな北林の態度と、課長を宥める西崎に少しフフッと笑ってしまった。
そして、雑談も少し盛り上がり、時計の針が11時を回った頃、北林の口が開いた。
「そういえば皆さん、秘密ってあります?」
「えっ?」
北林の発言に驚く俺達。しかし、北林は話を続ける。
「普通、秘密って教える物じゃありませんよね?ですがこの会社には俺たちと警備員以外いない。この際、皆で共有しましょうよ」
北林はウキウキしていた。
「まぁ、この際だ。皆で秘密を教えあおう」
深夜テンションで少し浮かれているのか、課長はすぐ快く受け入れた。
「まぁ、そうしよう!なぁ、敬三!」
「あ、あぁ、しょうがないな…その代わり、皆、これは四人だけの秘密だ。絶対に言うなよ」
同じく深夜テンションの西崎に押され俺は仕方無く受け入れた。
「じゃあ、まず私からだ」
すると、課長は手を挙げた。
「じゃあ、ナンバー001,課長!」
北林はまるで芸人を紹介する様に言った。
「私の秘密は…実はこの会社にコネで入社した事だ」
「コ、コネ?」
「あぁ、そうだ。今は退職しているが、親父が議員でな、社長と友人だったから、コネで入ったんだ」
「あ、あぁ…(そもそも、課長のお父さんって議員さんだったのか…)」
俺はそう思いつつ、少しワクワクしていた。
「じゃあ、次、俺だ」
今度は西崎が手を挙げた。
「次はナンバー002,西崎先輩!」
北林は変わらないようだ。
「俺は…不倫…してます…」
「えっ?」
またしても皆は驚いた。あの真面目な西崎が不倫をしているのだ。
「おいおい、やらしい秘密だなぁ…なぁ、相手は誰だよ?」
課長が鼻の下を伸ばしながら西崎に聞く。
「しょうがないなぁ…どうぞ…」
すると、西崎はスマホのメール画面を課長に見せた。すると、課長の顔色が変わった。
「こ、これは…」
俺も気になり、俺は西崎のスマホを見た。そして、メールの相手は『南出麗子』だ。この名前には見覚えがある。そう、南出麗子は課長の奥さんだ。メールの内容はまた西崎に会いたいという物だ。
「西崎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
すると、課長が急に叫び、西崎の胸ぐらを掴んだ。
「貴様ぁ…俺の妻を寝取りやがってぇ!」
「なぁに、俺は寝取ってなんかいませんよ…彼女から攻めてきたんです。貴方の奥さん、俺にこう言ってましたよ。『夫は所詮金。貴方はイケメンでタイプ。あんなダサ男、金だけ奪って別れたい。』って」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…」
課長は歯ぎしりを立てながら乱暴に席に座った。
「くそっ…おいっ!まだ話してないの、東野と北林だけだよな…速く話せよ」
課長は貧乏ゆすりをしながら俺と北林に急かしてくる。
「はぁ…仕方無いですね…」
俺は仕方なく手を挙げた。
「はいっ!ナンバー003,東野先輩!」
北林は空気を読んでいないようだがそれはどうでもいい。
「その前に、皆さん、スマホください…」
俺は皆にスマホを求めた。俺が話す秘密というのはそれぐらいの事なのだ。
「はいよ」
「ん…」
「どうぞ」
皆がスマホを渡し、俺は話し始めた。
「あの…一週間前に、ホームレスが二人殺された事件があったでしょう」
「ん、あぁ、そういえば、そんな事件ありましたね。確か、まだ犯人が捕まっていないとか…」
「実は俺、その事件の……犯人です」
「えっ…」
「なっ…」
課長と西崎は驚いた。まぁ、無理も無い。実際、犯人が目の前に居るのだから。
「そ、そんなバカな…」
「いや、そんな事もあるんです」
「のうのうと生きやがって…このクズが…」
「この最低人間め!お前本当に人間かよ!」
二人は噛み付いてくる。
「五月蠅いなぁ…課長だってコネで入社、西崎は、不倫。そんな奴が俺に口出しをするな!」
俺は二人を黙らせた。
「さぁ…北林…早くお前も言えよ。お前が言ったら、全員、皆殺しにしてやるよ…」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ…先輩。じゃあ、言いますよ。………コホン…実は俺、企業スパイなんです」
「えっ?」
「は?」
「え…」
俺達は驚いた。何と北林はスパイなのだ。
「あとこのネクタイピン。盗聴器で、あのスマホにすべて録音されています。なので、今の事をダシにこれを社長や警察に言いますよ」
「お、おい…これは四人での秘密だ。他の奴にバラす何て言語道断だ」
「そうだ、東野の言うとおりだ、絶対に言うな」
「あぁ、私も東野に従ったほうが…」
「あぁ、あともう一つ秘密があります。実は聞いた秘密を他の人にバラしちゃうんです」
「あぁ…」
俺達は絶望した。
「俺が中学生の頃、友達がある人に告白してたんです。結果は惨敗。その告白場面を見た俺に、友達は『これは二人だけの秘密だ。絶対に言うなよ』と言われたんです。ですが俺は学校中にそれを広めたんです。結果、友達は引き籠もって………。このように俺は口が軽い。それを踏まえて…何か言う事あります?」
「あぁ…」
「俺達はもう…」
「だめだぁ…」
俺達が泣き崩れていた時、北林の方を向いた。
「ぷっ…プフフフフ…あっはははぁ…あっはははははははははははは!」
突然、北林が笑い始めた。
「な、何がおかしい!」
「はぁはぁ…全く貴方達は大馬鹿だ」
「なっ…何?」
俺達は北林の言っていることに疑問を覚えた。
「実は、俺、嘘をつく癖があるんです。俺が企業スパイなのは嘘。口が軽いのも嘘です」
「えっ…」
俺達は安堵した。
「うっ…うぅ…」
「よ、良かったぁ…」
「これで、私も安泰だぁ…」
俺達はホッとした。課長は泣き崩れていた。しかし、北林の口は止まらなかった。
「まぁ…これ、嘘なんですけどね」
「えっ」
時計の針は12時を回ろうとしていた。
読んでいただきありがとうございました…