法螺吹きと山師の密談
明和4年8月11日 相良陣屋
昨日は考えていると頭が爆発しそうになったから酒を飲んで寝た。不貞腐れて不貞寝したとも言う。部屋に閉じこもって引きニートしている私の元に源ちゃんが様子を見に来たが、酒飲んで不貞寝している私に呆れて出ていった。
明けて今日・・・。
「有坂さん、ちったぁ、まとまったかい?」
「昨日も言いましたが、蒸気機関の計画は根底から狂ってしまいました。構造が簡単な外燃機関から動力の機械化を狙っていましたが、扱いやすい重油が使えないのでは別方向からのアプローチ……いえ、可能性の検討をしないといけませんね」
源ちゃんの心配に対して首を横に振って芳しくないと正直に答える。嘘なんて言ったところで何一つ解決なんてしない。
「何がいけねぇんだ? アレは使えないのかい? とてもよく燃える油だと思ったがなぁ」
源ちゃんは竹筒に入れて持ち帰った原油を使って実験をしたみたいだった。
「非常に有用ですよ。ええ、本当ならアレをそのまま使いたいくらいです。でも、今現状では使いたくても使えないんです。使うための技術が確立出来ていないので……それに、このまま使うと色んな意味で死人が出ます」
死人が出るという部分に首をすくめる源ちゃんだったが、有用であるというところにちゃんと反応したのだ。
「するってぇと使える技術さえ確立出来れば蒸気機関よりも使い勝手がいいってことかい?」
「ええ、そうですね。蒸気機関……外燃機関は総じて無駄が多いのが特徴です。しかし、技術的には比較的難易度が低くて、やろうと思えば源内さんなら今日中にでも原型試作を作ることも出来るのではないかと思います。それくらい簡単で扱い易いものなんですよ。概念さえ理解したら鍛冶屋で造れるくらいのものですから」
だってねぇ……極論言えば、でっかい鉄鍋用意して、そこに水をぶっ込んで、それを加熱沸騰させ、発生した蒸気を管を通してシリンダーなりピストンなり水車なりに伝導させるだけなんだから、知識があれば簡単に作れる。そもそも、この辺りの年代に欧州で実用化されているんだから日本人に造れないわけがない。
「ですが、内燃機関は高度な技術が必要です。作るのも扱うのも。いくら源内さんでも今日明日で作り出すことは無理でしょうね。10年単位。少なくとも5年単位の時間がかかると思います。その代わり、外燃機関よりもエネルギー変換効率が高まります。あぁ、燃料を動力にする効率のこと、無駄が少ないってことです」
「なるほど、それで頭を抱えてたってことかい」
「そういうことです。蒸気機関にここの原油を使っても構いませんが、一昨日も言いましたが、気化したガソリンは燃えやすいのです。そして、有毒です。そして、あの原油は気化しやすい。つまり、保管が非常に厄介なのです。とてもじゃないですが、今は使いみちがないと言わざるを得ません」
源ちゃんは納得こそしてくれたがまだ使い道を探る努力を怠らなかった。そう、「今は」「前提が」というところに着目しているということだろう。条件を満たすそれを探している様子だ。
「どうしたらいいんでぇ?」
「密閉できる箱、燃料槽を作ることです。内側に錆防止の鍍金をした鋼板を用いたものですが、これを作ることが出来れば……あと、ゴムシーリング……箱を蓋した際に密閉出来る素材ですが、これがあれば……ゴム……長崎経由で輸入出来るかなぁ……」
「漆じゃいけねぇのか?」
「漆? あぁ、漆は接着剤に使えるのか……。ってことは、ボルトとナットで蓋と箱を固定して、その隙間に漆を充填すれば……。これなら、初期的な燃料槽の代用に使えるかもしれない」
「有坂さんよ、図面にしてもらえねぇか? 鋳物師の出番だろ? 俺っちが試作の面倒見るからよ、今の話を図面にして、まとめてくれなよ。そうしたら俺っちも助言出来るだろうからさ」
「源内さん、光明が見えてきましたよ」
源ちゃんの諦めない姿勢が打開策を見つける大きな力となったのである。
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