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見つけたのはチート油田

明和4年(1767年)8月10日 相良油田(予定地)


 城代家老三好殿との会見は上手く話が纏まった様に思えるが、実際のところは「油田を発見してからもう一度聞いてやる」といったところだ。だが、彼も商人の出であり期待するところ大であるのはなんとなく感じられた。


 だが、やっぱり山師扱いなんだな……。源ちゃん連れてきたの失敗だったかな・・・。


 というわけで、私は源ちゃんと連れ立って、三好殿の紹介で領内の名主の元へ向かい、地区住人の話を聞き、現場へ向かう。丘陵地帯の谷間にあたる場所へ案内される。


「有坂様、平賀様、このあたりが草水の湧き出ている場所でごぜえます」


 案内された場所はガソリン臭に似た刺激臭が周囲には漂っている。


 あれ? おかしい。湿った土を指ですくってみると違和感を感じたのだ。石油ってのはもっと黒いものの筈……。こんな透き通った赤褐色だっけ?


 待てよ……。これってガソリンとか灯油とか軽油……軽質油じゃないか!


「源内さん、ちょっと予定外の事態が発生しました」


 私は流石に慌てて源ちゃんに駆け寄る。


「どうなすった?」


「元々、蒸気機関の燃料に重油を用いるつもりでしたが……これは重油ではない別のものなのです」


 そう、私はこの時点で勘違いをしていたのである。相良油田は世間一般の油田とは決定的に違う奇跡のチート油田だったのだ。無精製ですら自動車を動かせるほどの軽質油成分が6割強を占めるそれを知らなかったが故に招いた嬉しい誤算だった。


「違うものを見つけたってことかい? だが、コイツは草水、石油なんだろう?」


「ええ、石油です。なのですが、普通の石油はもっと黒い、粘度の高いものなんですよ。源内さんが知っている草水もそれなんです」


「確かに草水って言や黒いと聞くねぇ」


 流石の源ちゃんも話に聞いていたモノと違うことに気付いたようだ。


「長岡藩領や久保田藩領などに眠る石油はそういう黒いものですが、ここの石油は……どうやらもっと燃えやすい灯油、軽油、ガソリンという種類であるようです」


「燃えやすいといけねぇのか?」


 怪訝な表情で何が問題なんだと首を捻る源ちゃん。それは危険性を全く理解していないそれだ。


「燃えやすいだけあって扱いが難しいです。気化と言って、最悪、油に火をつけなくても、燃え上がることもあります。例えば、ここでキセルに火をつければ火達磨になるかもしれないと……そう思ってくださればご理解いただけるかと……」


 火達磨になると聞いた源ちゃんは困った表情を浮かべつつ湧き出ている原油を竹筒に集めている。私が言うことを参考にしてはいるが実際には自分で試さないと気が済まないのだろう。


 しかし困ったことになった。


 蒸気機関には扱いやすい、要するに比較的燃えにくい重油を用いるつもりだったのだが、見つかったのはガソリン。


 いくらなんでも内燃機関なんて構造知らんぞ。蒸気機関に使うことは出来るだろうけど、取扱が難しくなる軽質油じゃ火達磨を生み出すだけだ。最低でもドラム缶と一斗缶の実用化をしないと軽質油は危険だ。


 方針転換して焼玉機関の実用化をと考えたが、200年先の技術はいくらなんでもマズい。そもそも、シリンダーの密閉とクランクケースの造形という問題がある。当然、その強度も大問題だ。やはり、蒸気機関を目指すべきだろう……。


「……さん、有坂さん、おーい」


 黙りこくった私を呼び続ける源ちゃんに気付くと真面目くさった顔で伝えるしかなかった。


「源内さん、これは一度、意知様と相談しないと不味い事態です」


 相良油田から戻ると城代家老の三好殿には今日の探索で首尾よく相良油田は発見出来たことの報告だけしておいた。どうせ、石油の質の話なんて説明しても現状は無駄であるし、手の内を晒す必要はないからそこは伏せていたのだが、意知様にもこれを黙っている訳にはいかない。


 さて、どうしたものか……。


 問題は精製しなくても軽質油成分がかなり高いこの原油……おそらく気化ガソリンが最大の難敵になるだろうことは予想に難くない。まさかここで空母大鳳のあの悲劇をやらかす訳にはいかない。


 採用すべき動力機関が内燃・外燃いずれかという問題ではなく、この精製しなくてもガソリンとしてクルマを動かすことが出来るであろう、恐ろしくぶっ飛んだ高品質原油そのものが大問題なのだ。


 最初の計画では原油そのものを重油代わりに燃やして蒸気機関を動かす……精製するにしても随分先の話だと思っていた……計画の大前提を検討し直さないといけない。今のままでは精製して重油を取り出す必要がある。当然、そうなると軽質油も副産物として生産される。その副産物を安全に活用する技術を確立し、普及させる必要が出てくるのだ。


 正直、この時代でそこまで高度なことは望みようがないと思っている。だからこそ、頭のおかしいほど純度の高いガソリンなんて迷惑なだけなのだ。原油なんてみんな真っ黒のドロンドロンなアレだと思ってたよ。そうだと思っていた日々が懐かしくも愚かしい。致命的なミスだよ、全く。


 活用方法として精製を本格的に行って軽質油を灯油として供給するべきなのか?


 いや、そもそも、石油を精製するには原油そのものを気化させる必要があるわけで、そのためには原油を加熱する必要がある。そんな蒸留塔なんて作ってる暇ないし、技術もない。


 あーもー、やってらんねー、酒飲んで寝るかー。

クリエイター支援サイト Ci-en

有坂総一郎支援サイト作りました。

https://ci-en.dlsite.com/creator/10425


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― 新着の感想 ―
[一言] 蒸留の概念の判る焼酎造ってる人を呼んで挑戦……時間不足でしたね。
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