Another View 平賀源内
明和5年6月3日 相良城下
総さんが相良財界を招集した。
暫く前に田沼様から届いた書状、越後屋と一緒に福山に出張れという内容のそれが関係しているのは間違いない。今回の財界再編、こいつは些か急なことだっただけにオレっちは少々困惑したぜ。
書状が届いてから頭を抱えて悩んでいた総さんだったが、あれだけ吹っ切れたのは結奈殿のおかげだろう。同じ時代に生きた者同士の方がオレっちよりも遥かに理解し合えて適切な相談者なんだろう。だが、それはそれで寂しい気もしないでもない。半年も総さんと二人三脚で相良の発展に取り組んできた相棒だからなぁ。
役所での会議に先立って、総さんから今後の展望を説明されたんだが、その時の提案に驚かざるを得なかった。だが、まぁ、その提案ってのがこれまた曲者だ。
そう、総さんはオレっちに讃岐高松藩に協力するように説得しろと言ってきた。オレっちが高松藩から奉公構いで事実上の絶縁されてるって忘れてねぇか?
田沼様経由で書状を持たせると言ってきたが、そうそう上手くいくもんかねぇ……。
会議が終わってから二人で話したときに更に驚くことを総さんはオレっちに言ってきたのだから、高松藩のことなんてのは所詮は前振りでしかなかったとその時気付かされたわけだが……。
総さんが唆した福山藩の半官半民の製鉄所みたいなものを越後屋は全国に展開するだろうと総さんは言う。まぁ、確かにその可能性は非常に高いだろう。越後屋も大名貸で焦げ付いている資金を回収出来るとともに運用益を得ることが出来るだろうという説明も納得出来た。
仮に総さんが言う通り……まぁ、恐らくその推測は正しいだろうな。オレっちもそうするだろうからな……そうなれば明らかに三井の天下になってしまう。そうなれば幕府の権威など吹けば飛ぶ。
特に田沼様は幕府財政を米本位から貨幣本位へと転換しようと考えている節がある。そうなれば、銭の力を抑えている三井が幕府に立ち塞がることになるのは必定……。
それへの対抗策として、越後屋に先んじて有力親藩と田沼派雄藩を固め、そこに相良同様の殖産興業をさせ基礎国力を増強する。その一環として瀬戸内で西国大名に睨みを利かせる讃岐高松藩を口説けということだそうだ。
確かに北九州との航路の途中にある高松は途中寄港するのに最適だ。また、供給過剰な石炭の販路として塩田も活用出来る。越後屋だけでなく、大坂などの上方商人への牽制にもなる。だが、これには別の意図があるようにオレっちは感じる。
オレっちが説得すべき相手として明示された讃岐高松藩、美作津山藩、出雲松江藩、いずれも親藩の中でも大藩である。恐らく、松江藩には反射炉でも造らせるつもりだろう。あそこには砂鉄が豊富にある。しかし、津山藩ってのがよくわからない。そりゃあ、津山藩でも砂鉄はそれなりに取れる。だが、海路連絡出来ねぇんじゃ、我々にはあまり利益がないのではないんじぇねぇのかな?
だが待てよ?
津山から吉井川を下れば瀬戸内海、高松へ至る……。まさか、津山藩領には何らかの鉱物が眠っているのではないだろうか。なるほど、そう考えれば津山藩には利用価値が生まれるという推測は可能だ。
こいつは面白い。相良藩2万石が海運と鉱物資源の統制で瀬戸内経済を牛耳るという寸法らしい。これは随分と思い切ったことを考えたもんだ。
だが、これには蒸気船の就航が前提条件になりそうだ。特に津山藩の件には川船の蒸気化は必須だろう。そうでなければ、陸路を搬送しないといけない。その場合、鉄道を建設する必要がある。いずれにしても、蒸気機関が鍵だ。
まったく、人使いが荒い。
ひとまず、総さんの目論見を達成するには、オレっちも蒸気船の建造に発破を掛けてこないといけねぇや。
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