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田沼街道と馬車鉄道

明和5年(1768年)2月11日 相良城下


 この日、相良城下と東海道藤枝宿(田中城下)を結ぶ田沼街道が全線開通した。


 この田沼街道は元々存在していた浜街道や裏街道を改良接続し、大井川の第二の渡し場を備えて開通させたものである。


 城代家老(三好殿)国家老(井上殿)が以前から整備に心血を注いでいたこの田沼街道だったが、私や源ちゃんが介入したことでより大規模な街道整備へと変化した。元の計画が街道の拡幅と経路変更をメインとしていたものだが、完成したそれは馬車鉄道軌道を兼ね備えたものである。


 従来の計画よりも2倍の幅に広げた上で2尺幅の軌道を複線敷設し、相良-榛原-吉田-大井川の区間では高頻度馬車鉄道運転が行われるようになったのである。大井川には小山前の越場を設けてここは従来通りの渡渉としたが、大井川-藤枝宿の間には再び2尺幅の軌道を複線敷設することで東海道との連絡を迅速化しているのである。


 第一期工事であった相良-大井川のそれは年末までの間に完工していたが、大井川-藤枝宿がやっと年を越して完工したことで記念式典を相良城下と藤枝宿で行っているのだ。


「更に焼津まで馬車鉄道を延伸することが出来れば文句なしなのだがな」


 と呟くが、それは出来ない相談。藤枝宿までの経路は田沼街道の整備という名目で駿河田中藩の許諾が得られていたが、流石にそこから先は余所の所領。勝手なことをするわけにはいかない。


 だが、焼津方向への延伸が出来ずとも、相良から南下して御前崎を経由して遠江横須賀城下を通過し磐田・浜松へ向かうルートの延伸が出来た場合、東海道を抜ける旅客を相当に引き抜くことが可能になると踏んでいる。この場合、遠江横須賀藩の享受する利益が非常に大きく、説得も容易であると考えている。


「大井川から藤枝までの経路が苦労したけれど、これで駿遠最大の経済都市である駿府までが経済圏に組み込める日も近い」


「総さん、駿府までは大崩海岸か宇津の谷峠を越えないといけないぜ……アレは難物だ。まずは蒸気鉄道とやらを優先すべきじゃないか?」


 源ちゃんは足下を固めるように言ってくる。


「その蒸気機関車を造るのがまた大変なんだけれど……まぁ、不細工でも源ちゃんが自転車で造った動力伝達機構を使えばあとは大きな茹で釜と管をちょちょいとやればいいのだけれど……」


「鍛冶屋の親方と一緒に模型を造ってみたが、理屈はアレでよく分かった。問題は蒸気が漏れないように管や継ぎ目をしっかりとつなぐことだな……まぁ、もう少し時間をもらえれば形にしてみせるぜ、期待して待っててくんな!」


 自信ありげにキセルをふかす源ちゃんだが、概念図一つだけで構造を理解した源ちゃんのことだから不安はないのだが、ブレーキのない自転車造った源ちゃんだからな……。


「総さん、アレだ、城代家老(三好殿)が乗った馬車が来たぜ!」


 源ちゃんが指を指す方向を見る。4頭立ての馬車が猛然と走ってくる。4頭立て2両編成の馬車列車だ。重量物輸送の場合は無蓋車、貴重品は有蓋車を使っての輸送が今後考えられている。


 問題は馬匹であるため馬が疲れたり怪我や病気になれば運休となるという問題だ。あと、輸送力が大きくなる代わりにランニングコストが掛かるという問題。これは馬借をそのまま徴用することで賄っているが、営業キロが伸びればその分だけ馬借を徴用する数も増えるだけに難点ではある。


 まぁ、馬借が失業するよりもマシであるし、利益は相良藩に上納されるわけだから公営事業としては正解なのかも知れない。


 運行速度は時速約10km。大井川の渡渉を含めても営業キロ約30km(7里)、約3時間で相良-藤枝宿を結ぶことは文字通り画期的な出来事である。これは平坦路線であるからこその速度であるが、従来の約6時間掛かった行程を半分の時間で進めるのであるから愕然としたものである。


 馬車から降り立った城代家老(三好殿)は興奮しきりであった。


「有坂殿、平賀殿……馬車鉄道なるものがこれほど快適であるとは思いもせぬものであった……そなたらが挑んでおる蒸気鉄道はこれよりもは速く、そしてより多くのものが運べると言うではない……是非とも早急に実現してほしいものだ」


「東海道から一気に旅人を我が相良に招き入れることで多くの利益を見込めますれば……是が非でも早急に形にして見せましょうぞ」


 自信満々そう答える源ちゃんであったが、それ、私の台詞ね。

クリエイター支援サイト Ci-en

有坂総一郎支援サイト作りました。

https://ci-en.dlsite.com/creator/10425

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