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Another View 神庭結奈

明和4年(1767年)初夏 相良領内 


 覚醒した私、神庭結奈は丁度田植え前の時期にこの時代の田植えというか農業技術の低さに愕然とした。自分や現代の神庭家では当たり前の田植えの段取りをしない辺りからしても異常だと思えた。


 しかし、運良く春に覚醒したこと、この時代で生まれ育った記憶の両方があったことが幸いし、苗代による現代水準の田植えを実行に移すことにした。少なくとも3割程度の収穫増を見込めるだろう。


 方法は現代の機械植えのやり方を応用する。浅い木箱を用意して苗代用コンテナの代用にする。で、それに種籾を撒いて、その上からカバーする。と言っても、ビニールはないので、油紙で代用する。これならこの時代でも割りと容易に手に入る。と言っても、それなりの出費になるが、実証してみればわかることだ。


 案の定、想定通りの結果で順調に発芽、生育し、通常よりも早く田植えができる状態になった。この実証試験の結果、概ね、半月程度早く田植えを行うことが出来た。来年以後は大々的に運用できる様に段取りを組み、収量拡大を狙う。


 今回の結果を早速レポートにまとめ、周辺の豪農にも配布することにする。


 食は大事。農業は国家経営の基本。米がなければお金は稼げないし、食うことも出来ない。うん。あの時代は兎も角、この時代はこれこそ生命線。


 そう言えば、ここってまだお茶の産地じゃないんだね。開墾すれば米作以上に安定した収入が……ウフ……ウフ……ウフフ……。


 今度試しにお茶の栽培をやってみよう。


 歴史を弄るのはいけないことだとよく言うけれど、自分の生死に直結する部分くらいは良いよね? それ以外のことは極力弄らなければ良いわけだし。それに私が出来ることって、米の収量増やすことやお茶の栽培を提案するくらいだし。



明和4年(1767年)10月30日 相良領内 神庭家


 想定通り……どころか、倍だよ倍。驚いた。年収2倍じゃん。この時代の父上たちも浮かれてる。小作人たちもこれで今年から来年は余裕がある生活が出来るんじゃないだろうか、そう思うと笑みが漏れてくる。


 そう言えば、なんかよくわからないけれど、夏頃から城下が騒がしい。なんでも産業革命なんて単語が聞こえてくる。きっと気のせいだ。そんな単語、この時代にはあるわけがない。だけど、後の世に牧之原台地と呼ばれる辺りで草水が見つかったとか……草水って石油だよね?


 もう一つ気になるのは、平賀源内がこの相良領内をうろついているそうだ。平賀源内って江戸とか長崎とかそっちにいる人じゃなかったっけ? なんだってこんなド田舎に? 変だ。


「お嬢様、お嬢様ー」


 家人の権蔵が私を呼んでいる。


「何かしら?」


「今し方、藩の御用でおいでなすった平賀源内様がお嬢様にお会いしたいと……」


 えっ? 平賀源内が私に? 一体どういうこと? 私、歴史上の有名人に会っちゃうの?



明和4年(1767年)12月10日 相良領内 神庭家


 我が神庭家に藩主田沼家から書状が届いた。父上宛と私宛の2通。


 父上宛の書状には、要約すると私を田沼家の養女とすることが記されていた。驚いた。何が起きたかわからない、そういう顔をした神庭家の面々。私も何が起きているのかさっぱりだ。


 私宛の書状には、要約すると藩主である田沼意次が、私の正体を知っている、そして私と同じようにここではない時代の人間を知っていて、それを自分の側近として用いている。同じような未来の存在を別々に放置しておくのは勿体無い。よって、自分が面倒を見るから相良陣屋に出頭するように。ということだった。


 先日、平賀源内が言っていた人物のことだとすぐに気付いた。合点がいった。コイツが好き勝手に時代を、歴史を弄っているやつだ。しかも、田沼意次を利用している。いや、田沼意次もそいつを利用している。


 この間、城下に出掛けたときに気付いたけれど、いつの間にか街道筋に線路が出来上がっていた。流石に電車は走っていなかったけれど、馬車鉄道が走っていた……。港にはクレーンもどきまで設置されていた。奴は本気で産業革命なんてものを企んでいるらしい。


 この調子なら石油火力発電所くらい数年後には実用化させかねない。いや、石炭火力発電所の方がもっと早そうだ。しかも、この時代で電気を知っている人間も抱き込んでいるのだから。明和が明治に化けるとかどんな冗談よ。


 平賀源内の言っていた人物は私の知っているあいつによく似ている。というか、名前、そのまんまだもの。それに平賀源内の話した内容からすると彼だと思わざるをえない。ええ、そうよ、あいつだわ。


 あの愛すべき親友とも悪友とも言える時代劇馬鹿が、文字通りの馬鹿騒ぎを起こしているなら止めないと……。これ以上の暴走をさせないために……。


 でも、私が何を出来るの?


 ううん、私も同罪だ。彼ほど、大規模に歴史を弄っていないけれど、明らかにこの時代ではオーパーツと言えるそれを幾つかやらかしてる。バタフライ効果だっけ? 北京で蝶が羽撃けばニューヨークでハリケーンって……。


 えっ?


 待って、ひょっとして、元凶って私じゃない?

クリエイター支援サイト Ci-en

有坂総一郎支援サイト作りました。

https://ci-en.dlsite.com/creator/10425

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