平賀源内であうあう
まずは状況整理だ。転生モノで一番大事なのは自分の存在の把握だ。これを怠るとその時点でゲーム・オーバーだ。
さぁ、まずは5W1Hだ。
1,where:田沼邸だ。恐らくは神田橋の可能性が高い。
2,When:ここが神田橋の屋敷だと仮定すると1760年代だろう。
3,who:私は有坂総一郎。少し若返ったようだ。パッと見で20歳前後くらいだろう。そういうことにしておく。
4,who:相手は田沼意次。本人が言っているのだからそうだと信じたい。
5,why:わかるかそんなもん。こっちが知りたいわ。
6,how:わかるかそんなもん。こっちが知りたいわ。
さて、落ち着いたぞ。状況整理が出来たところで、もう少し詳しく精査して行こうじゃないか。
田沼意次が平賀源内と知り合っているってことを考えると恐らく1760年以後で間違いないだろう。そして頻繁に会える状況だろうから1762年以後で1780年までの間のどこかだ。
1788年に意次は70歳で天に召されている筈だから、今の容姿から考えると40~50歳くらい……それらから推測すると遅くとも1760年代後半くらいだろう。であれば側用人就任の前後の時期なんだろう。
さて、今わかるところはコレくらいか。もっと情報が欲しいが、今はボロを出さないためにも分かっている範囲で意次と話をするしかないな……。
ん? 外が騒がしい。なんだ? こっちに来る?
「平賀殿、平賀殿~」
「俺っちは有坂さんに用があるんでぇ。あんたは自分の仕事をしてな!」
「そうは申されましても……」
「あっちへいけってんだ」
平賀って名前が聞こえた……あっ、もしかして源内……平賀の源ちゃん? うわぁ、面倒くさい人が来たなぁ。絶対、この展開はマズい。話の辻褄が合わなくなる。よし、逃げよう。
と思って障子を開けて縁側から逃げだそうとしたら……。
「あんたが、有坂さん? へぇ、面白い服着てるね? 長崎のオランダ人とも違う感じだが? どうね?」
障子が開くや否やいきなりマシンガントーク……逃げ損ねた。こっちが口を開く前に興味津々って感じで矢継ぎ早の質問を浴びせかけてくる。この手の人は本筋から脱線させた方が楽かも知んない?話を合わせるか。
「これは、スーツというもので、ヨーロッパの紋付羽織に相当するものです。袴と違って走りやすいことが特徴です。源内さんならこれを量産して普及させることが出来るんじゃないですか?」
発明家には発明とかそういう提案をした方が良さそうだ、そうだ、そうに違いない。そうであってくれ。そうじゃなきゃ、下手したら手打ちにあってしまう。それにうまく話をつなげて情報を引き出さないと。
「上着は陣羽織に近い構造だね。これは動きやすそうだ。って、すーつには興味があるが、今は違う用件だ。あんた何者だ? どうして俺っちの紹介だと言いなすった?」
そう簡単に丸め込むことなんてデキナイヨネー。さて、どう話をしたものか? 開き直る? 開き直ってもなぁ。そもそも選択肢あるの? ナイヨネー。開き直って、核心から聞こう。そうじゃないと話しのしようがないもんな……。
「源内さん、今、田沼意次様って御側御用取次? 側用人? 老中? 今のご身分がどこなのか、それが大事なことなので教えていただけますか」
「あん? 田沼様は先日側用人になられたばかりだが、それがなんだって?」
ふむ、側用人になったばかり……。ってことは、ここは神田橋門内の屋敷ってことで間違いないようだな。遠州相良2万石を賜って相良城築城を始めているか検討中の時期ということか。
「黙りこくってどうなすった?」
「源内さん、突拍子もない事を言いますが、信じてください。私は約300年後の人間です。なので、田沼様の今後と源内さんの今後のことを知っています。源内さんは、大工を殺害して獄中で亡くなります。また、意次様のご子息意知様は反田沼派によって暗殺されます。その後、田沼家は衰退します」
信じてもらえないよなぁ。でも、これって歴史改変したことになるんかな? あぁ、もうどうにでもな~れ。信じてもらえなかったら、発明や技術の方向で信用を得るしかないなぁ。って平賀の源ちゃん、黙り込んでしまったんだけど、どうしようか。
「あんた、これを田沼様に話したのかい?」
あれ? 信じてくれた? いや、まさか簡単に信じてくれるとか思ってないけど……。
「話していません。お会いしてすぐに田沼様は登城されましたから。ですが、私の知る歴史では、今の話は現実にあったことです。おそらく、今後、田沼様は出世され老中筆頭になります。が、反田沼派と一橋家の謀略で失脚されます」
「相分かった。あんたを信じるぜ。胡散臭いのは変わらんが、嘘言っても仕方がねぇしなぁ。とりあえず、今のところはオレっちの紹介ということにしといていいぜ!」
源ちゃん、こんなお人好しだったっけ?
「疑いましょうよ、信じて欲しいですけど……」
言わずにおれなかった。
「んで、あんたの目的はなんでぇ?」
「目的というものはありません。気が付いたら、ここに居たので。ですが、出来ることが分かりましたし、したいことは出来ました。源内さんと田沼様を助けて、このお江戸に花を咲かせることですね」
こうなったら歴史改変上等。ばっちこーい。なんか、頭の奥から貧乏旗本とつるんでる火消しの親分の歌が聞こえてきたんだが気のせいだろう。
「というわけで、源内さん、私のもっている知識と断片的な技術の情報をお教えしますので、試作と普及をしてもらえますか? 特に田沼様のご領内、相良を実験場として。私の知識が正しければ、田沼様は近く相良城を築城されるはず。その時こそ、技術と知識の活かしどころ」
頭の回転が速い源ちゃんならこの話に乗ってくれると信じてる。乗ってくれないと困る。なにせ、この時代の肉体労働なんかすれば1時間でへたばる自信がある。むしろ、1時間すら持たないかも……。そうならん為に知識と技術で生活の糧を得ないと……。まだ死にたくない。
「その話、乗った!」
源ちゃん、ごめん、純粋な探究心や冒険心を自分の生存のために利用させてもらう。
クリエイター支援サイト Ci-en
有坂総一郎支援サイト作りました。
https://ci-en.dlsite.com/creator/10425
ご支援、お願いします。