#47 一夜城
さて、せっかくここまで連れてきたザハラーだが、はっきり言って、使い道がない。
賜物の持つ、第5の力の測定には失敗。それどころか、司令部は大混乱。そしてこの事件を受けて、地球042からは正式にザハラーの引き取りを断られてしまった。
電波を狂わせるだけの賜物の持ち主なんて、いるわけないよな。当たり前といえば当たり前の話だが、連れてきてしまった以上、放り投げるわけにもいかない。
「えっ!? また私のところですか!?」
まあこういう時、潰しが効くのは主計科だ。ザハラーの配属先を、グエン准尉に相談する。
「まさかここまで連れてきて、サバンナに返すわけにもいかないだろう」
「いやあ、そりゃそうですけど……」
ダニエラに続き、ザハラーを押し付けるのは忍びないが、最初に見た時のあの槍の腕を見る限りでは、カテリーナのように砲撃手の才能があると言うわけではなさそうだ。かといって、「ニンジャ」を使う敵艦を見つけ出す「神の目」があるわけではない。むしろ、レーダーにはっきりと巨大な影を映し出してしまうという、ニンジャとは真逆の作用しかない。
何だって僕は、ザハラーを連れてきちゃったんだろうか?どう考えても、使い道がない能力だ。その力の強さだけで判断して、勢いで連れてきてしまった。なんということか。
だが今、食堂の片隅でカテリーナと並んで頬を押さえてフライドチキンを食べているあの顔を見ると、今さら返すわけにはいかないよなぁ……となると、主計科ぐらいしか、配属先がない。
「しょうがないですねぇ」
グエン准尉が応える。
「いや、すまない」
「いいですよ。確かに主計科にとって、人手はあった方が助かるのは違いないですから」
この艦はまさに、グエン准尉あっての艦だ。艦内の補給や保守、緊急時のダメージコントロール、そしてレティシアを始めとする艦内女性陣の話し相手……かなりの機能が、この小さな女性士官にのしかかる。
恋愛したい年頃だろうに、それどころじゃないくらい、いろいろな仕事をしてもらっている。ちなみに彼女にも主計科長という上官がいるのだが、艦長よりも年齢が上の、いるのかいないのかよく分からない退役寸前の御老体なので、実質的にグエン准尉が主計科を仕切っている。
ということで、ザハラーの行き先は、主計科と決まった。
「へぇ、よかったじゃねえか」
「うーん、よかったのかな?」
「そりゃそうだろう。ますます賑やかになるぜ、うちの艦内も。」
ところで今、僕らは地球1010を出発し、白色矮星域に向かっている。地球001軍令部から、例のレーダー基地最後の一基を建設するため、支援せよとの命が下った。で、第8艦隊300……ではないな、298隻は今、白色矮星域に向けて進発したばかりだ。
で、ベッドの上で、レティシアと一緒に抱き合いながら、寝転がっているところだ。こういう時に僕は、レティシアと艦内におけるいろいろな話をする。
「そういやあザハラーのやつ、この間、ドーソンとばったり出くわしてたぞ」
「そりゃあ、狭い艦内だからな、出会うことくらいはあるだろう」
「さすがに、頭にターバンつけてるからな。あのドーソンにも、すぐにカテリーナじゃないと分かったみてえだけど、なんだか動揺しててよ」
「動揺? ドーソン中尉がか? ザハラーではなくて?」
「ああ、ザハラーのやつ、ドーソンのやつをジーッと見つめてるんだよ」
「おいまさか、ザハラーのやつ、あの脳筋男に一目惚れとか……」
「いや、その直後にザハラーが一言、言い放ったんだ」
「なんて?」
「『カヴィア!』、つまり『大きい!』ってよ」
それを聞いて僕は、あのサンレードの街の出来事を思い出す。そういえばあそこは、なぜか「大物崇拝」があった街だったな。
まさかザハラーも、その大物崇拝思想に毒された一人なのか?どうやらザハラーはあの辺出身のようだから、可能性はある。
「んで、カテリーナそっくりなやつに見つめられているから、ドーソンのやつ、顔真っ赤にしてよ……だけどザハラーは、大きな男だったから、思わず見入っていた。そんな感じのことを言っていたぜ」
「そうなのか、大きいから、見つめてしまったのか……」
カテリーナの失恋ショックから立ち直ったばかりだと言うのに、なんて罪作りなことだ。よりによって、そっくりな人物から見つめられてしまうことになろうとはな。
「ところで最近、カテリーナはどうなんだ?」
「どうって?」
「いや、ナイン中尉とどうなっているのかなぁと思ってさ」
「ああ、あの2人は元々、同僚だからな。上手くやってるようだぜ。よく、食堂で一緒にいるところを見かける。ただ、最近はその横に、ザハラーがひっついているがな」
「まあ、頼んじゃったからな、ザハラーの世話係を」
「そのうち離れるんじゃねえか? ザハラーだって、一人でいろいろとできるようになってきたみてえだし、あいつ、ああ見えて結構、社交的だからよ」
「社交的? ザハラーが? そうなのか」
「カテリーナとは、大違いだぜ。いろんなやつと喋っているようだぜ。俺もよく話しかけられたな」
その外観と食事の態度以外は、カテリーナとはまるで正反対だな。そうか、ならばいずれ、カテリーナから離れていきそうだな。あまり一緒だと、紛らわしくなる。
で、しばらくレティシアといちゃついた後、僕は艦橋に向かう。白色矮星域に向け、ワープが行われるためだ。その途中、軍服姿のカテリーナを見かける。
「おい、カテリーナ。お前は砲撃管制室に行かないとだめだろう」
ところが彼女は振り返るや、僕に向かってこう叫ぶ。
「我、ザハラー!」
ああ……そうだ。言われてみれば、ザハラーだった。なんてことだ、軍服を着ると、これほどまでにそっくりなのか。
「あーやっぱり、普段カテリーナちゃんを舐め回すように見つめていた閣下でさえも、間違えちゃいますよねぇ」
と、人聞きの悪いことを言い出すのは、そばにいたグエン准尉だ。
「……しょうがないだろう。近くで見ないと、まったく分からないぞ」
「ですよねぇ。だから、すぐに見分けがつくように、しばらくの間、ターバンをかぶってもらうことにします」
軍服にターバンか……妙な組み合わせだが、この際は仕方がないな。このままでは、いろいろと支障が出る。
艦橋内に入る。艦長に敬礼し、横の司令官席に座る。そして、前方のレーダーサイトに目を移す。
「まもなく、ワープに入ります。哨戒艦からの連絡では、艦影なしとのこと」
「とはいえ、『ニンジャ』を忍ばせている可能性もある。警戒を厳にしつつ、突入する」
「はっ!」
ジラティワット大尉からの報告を受ける。今のところ、敵との接触はなさそうだ。とはいえ、ワープ出口付近で接敵したことが、すでに何度もある。油断はできない。
ダニエラは鏡を覗き込んだまま、ニコニコとしている。そんなに自分の顔に自信があるのか?横のタナベ中尉は、レーダーサイトを見つめ、ワープ後の接敵に備える。
と、万全を尽くしてワープを行うも、今回は全く敵は現れなかった。考えてみれば、この周辺にはすでに9基ものレーダー基地が配置されている。入り込む隙は、ほとんどない。
忙しくなったのは、その翌日。レーダー基地建設予定宙域付近に達してからのことだ。
「第4艦隊より入電! これより、基地の部品搬入を開始する! 警戒を厳にせよ! 以上です!」
どういうわけか、この宙域に第4艦隊が出てきた。といっても、千隻程度の中艦隊規模の派遣だが、第1艦隊の管轄宙域に別の艦隊が出てくるなど、珍しいこともある。
だがこの艦隊、どうやらこのレーダー基地を建設するために派遣されたようだ。第1艦隊のコールリッジ大将は、この件はあまり乗り気ではない。そこで強硬派の第4艦隊が出張ってきた、というところか。
うげっ……てことは僕は今、第4艦隊にこき使われていることになるの?第4艦隊の総司令官、アントネンコ大将とは面識はないが、一度、コールリッジ大将の幕僚時代に見たことがある。遠目に見ても、人相からして強硬派といった感じの印象の人物だった。
その人物に、実質は使われていることになるのか。軍の命令だから、逆らうわけにはいかないし。ともかく僕は、やるべきことをやるだけだ。
「そろそろ、敵の艦隊が忍び寄っている可能性があるな。これより、索敵行動に移る」
「はっ! 全艦に伝達、索敵行動に移行するよう、打電します!」
そして我が艦隊298隻は、ジグザグ運動に移る。この宙域では、どこから敵が来てもおかしくない。前進から右に90度、左に90度、上、下、そして再び最初の方向に戻り……これを3分おきに繰り返す。ダニエラの「神の目」の特性を活かすために編み出した索敵パターンだ。
すると、レーダー基地の部品を搬入中の艦隊から、電文が入る。
「第4艦隊、チェスノーコフ少将の名で入電!」
なんだ、もう敵が現れたのか?しかし、こっちは何も感知していないが……
「『第8艦隊に告ぐ、おかしな艦隊運動をやめ、索敵に注力せよ!』以上です!」
「は?」
なんと、この索敵行動を不真面目だと怒られてしまった。僕は少しムッとして、ジラティワット大尉に告げる。
「第4艦隊のチェスノーコフ少将に、索敵に必要な艦隊運動だと返電しておけ!」
面倒ごとを押し付けられてしまったジラティワット大尉は、僕のこの返電文をもうちょっと穏便に伝えようとして、その文言を考えている。
まったく、こちらの「神の目」を何だと思っている。いや、わざわざ300隻近い艦隊でふざけた行動など、するわけがないだろう。何を考えている。
僕が一人、憮然としていると、ダニエラが突然、叫んだ。
「います! 前方!」
ダニエラが、何かを探知した。すぐにオオシマ艦長が指示を出す。
「指向性レーダー、照射!」
「了解、指向性レーダー、照射します!」
そして放たれたレーダーの先に、やはり敵の艦隊がいた。
「レーダーに感!艦影多数、100隻! 距離、100万キロ!」
「光学観測! 艦色視認、赤褐色! 連盟艦隊です!」
やはり出てきたな。慣性航行中だが、真っ直ぐあのレーダー基地建設場所に向かって飛んでいる。
レーダー基地まで、あと300万キロ。およそ2時間後には、建設中の基地を射程内に収めることができる。今からこの艦隊の側面を撃ち、その姿を暴いてやれば……
「まだいます! 前方!」
と、ダニエラがまた、別の艦隊を見つけたようだ。まだいたのか?すぐさま、指向性レーダーが放たれる。
「レーダーに感! 艦影多数、数およそ100! 距離120万キロ!」
今度は、やや下方向に現れた。2方向からの侵入。僕は陣形を確認する。
こいつは、以前にやられたやつと同じだな。一方を攻めると、もう一方が別方向から攻撃してくる。そういう配置だ。だから、先の100隻を襲えば、もう100隻に狙われる。この2艦隊を相手にしようとして回り込んでいるうちに、敵の一方がレーダー基地にたどり着き、せっかく搬入した機材を破壊してしまう。これではまた、やり直しだ。
困ったな……遠くに千隻の第4艦隊からの中艦隊がいるが、あれをこちらに呼び寄せてしまえば、今度は別の方向から迫ってくる可能性もある。第4艦隊をあの宙域からは動かせない。
やれやれ、まいったな。敵も、意外といやらしい攻め方をしてくるな。せめてこっちにやつらを引き寄せることができれば簡単なのだが……
と、僕はそのときふと、あるアイデアを思いつく。
そうだ。引き寄せてしまえばいい。こっちに「レーダー基地」があるぞと、勘違いさせればいいんだ。
そう考えた僕は、ジラティワット大尉に命じる。
「大尉! グエン准尉に、ザハラーを連れてくるように連絡してくれ!」
「はっ……えっ? ザハラーさんを?」
「復唱は!?」
「はい! グエン准尉に連絡、ザハラー殿を連れて来させます!」
妙な命令を出す僕に、一瞬、ジラティワット大尉も困惑する。が、すぐにグエン准尉が現れる。
「なんだって艦橋にザハラーちゃんを連れてこさせるのよ! まさか、カテリーナちゃんを見たくなったから、なんて言うんじゃないでしょうね!?」
そんなこと思うわけないだろう。僕は構わず、ザハラーに命じる。
「ザハラー、直ちにあの力を使え!」
一瞬、ザハラーは僕のいうことを理解できなかったようだ。ターバン付きの首を傾げて、僕の方を訝しげな表情で見る。
「あれだ、鳥を集めるときに使った、あの技だ!」
ようやく僕の言ったことが分かったようだ。ザハラーは頷き、右手を伸ばし力を込める。
が、艦長が僕の指示を聞いて青ざめる。すぐに、艦内が大混乱に陥る。
「れ、レーダーに巨大な影が出現!」
「短距離レーダーも、雑電波に覆われ、使用不能!」
直後、オオシマ艦長が、僕に進言する。
「閣下! こんなところで、あの力を使えば……」
「いや、艦長、ザハラーの力で発生するレーダーの影とは、どんなものだったか?」
「はっ、直径1.5キロほどの円形の影でした。」
「そうです。それはちょうど、建設中のレーダー基地とほぼ同じ大きさ、と言うことになります。これは、敵から見れば何に見えます?」
ここまで話したところで、オオシマ艦長も僕の意図に気づく。
「まさか、この艦を偽のレーダー基地に見せかけるため……」
「そうです。全く違う場所に、レーダー基地が現れた。すると今、基地建設予定地に進撃中のあの2つの艦隊は、どう動くと思います?」
「それは慌てるでしょう。一目散に、完成したレーダー基地であるこちらを、目指すはずです」
敵の艦隊の狙いは、レーダー基地の破壊のみ。他の艦艇には目もくれず、ただその一点のみを突いてくるつもりだろう。
ところが、全く違う場所にレーダー基地が突如、現れた。となれば、我が艦隊298隻などに構わず、接近、砲撃を試みるはずだ。僕はそう踏んだ。
しかし、ザハラーの力を使うと、困ったことが起こる。それは、レーダーが全く使えないということだ。これでは、周りがどうなっているのか分からない。
が、不思議とレーダー以外の周波数、無線交信やデータリンクなどの周波数帯は、ザハラーの力の影響を受けることなく使用可能だ。そこで、僚艦からのレーダー情報をデータリンクで取得し、なんとか周囲の状況を把握する。
「また、前方に見えます!」
と、そこでまたダニエラが叫ぶ。まだ他に敵の艦隊がいたようだ。僕は命じる。
「0010号艦に連絡! 指向性レーダー、照射!」
「了解! 0010号艦に連絡、指向性レーダー照射!」
直後に、0010号艦から電文が入る。
「0010号艦より入電! 艦影、見ゆ! 約100隻! 距離、330万キロ!」
3隊目が見つかる。しかも今見つけた艦隊は、ほぼレーダー基地を射程内に捉えようとしているところだった。その3つの艦隊が、一斉に姿を現す。
「敵の3艦隊、『ニンジャ』を解除! こちらに向けて、急速接近中!」
100隻づつの艦隊3つが、一斉にこちらに迫ってくる。こっちにレーダー基地が現れたと錯覚したようだ。これは、作戦は成功したことを告げている。
「敵は順次、攻撃を仕掛けてくるはずだ。各個撃破し、敵を撤退に追い込む!」
内、一隊がまもなく、こちらの射程内に入ろうとしていた。
「敵艦隊、100隻! 距離45万キロ!」
「全艦に指令、砲撃開始!」
298隻が、迫り来る100隻に向けて、一斉に砲撃する。敵はまだ射程外。だが敵はバリアを展開したまま、急速接近する。狙いは当然、0001号艦のいるここだ。
だから、30万キロに迫ったとき、数発の敵のビームが、こちらに向けられる。
すぐ脇を通過する、敵のビーム。こちらはバリアを展開し、しかも回避運動もする。だがその敵のビームは、ハズレっぷりが大きい。まるで当たる様子がない。どうやら敵は、レーダーに映る影を頼りに砲撃をしているらしい。
だがあれは単なる影だから、当たるわけがない。だが……僕は少し、考える。ここは当たったことにしておこう。僕はザハラーに命じる。
「よし、ザハラー、力を消せ!」
ザハラーは頷き、手を下ろす。直後、レーダーの影が消えて、こちらのレーダーが復活する。
「各レーダー、復帰!」
「よし、敵艦隊に向けて、砲撃を加える。艦長、砲撃戦用意!」
「了解!砲撃戦用意! 撃ちーかた始め!」
『砲撃管制室より艦橋! 主砲装填、撃ちーかた始め!』
すぐに主砲装填が行われ、後退中の敵の艦隊に向けて、砲撃が加えられる。
「初弾命中! 敵艦、撃沈!」
相変わらず、カテリーナは確実に当てる。すぐに次弾装填されて、砲撃が続行する。
さすがに、ザハラーはまだ、砲撃音には慣れていない。突然始まったこの砲撃戦に驚き、そばにいたグエン准尉にしがみついている。だがザハラーよ、今、これを撃っているのは、お前とそっくりのカテリーナなのだが。
100隻の艦隊は、そのまま後退する。砲撃を止め、敵が回頭するのを見届けた後に、報告がもたらされる。
「敵艦隊100隻、建設中基地に接近中!」
陣形図を見ると、先の100隻は後退したものの、こちらから2番目に離れていた100隻の艦隊が回頭し、本来のレーダー基地の方へ向かっている。330万キロ離れた場所にいた敵艦隊は、第4艦隊の千隻と交戦し、撤退したところだ。
その隙をついて、残りの100隻がレーダー基地を破壊しようとしている。
まずい。あれを破壊されてはたまらない。再び僕は、ザハラーに命じる。
「ザハラー! 力を!」
グエン准尉にしがみついていたザハラーだが、右手を伸ばして力を込め始める。艦内のレーダーは再び、使用不能となる。
あの100隻の動きが変わる。ザハラーの作り出した偽レーダー基地が現れ、再び敵は引き寄せられる。
こうして、残りの100隻にも砲撃戦を行い、先の艦隊と同様、これを撤退に追い込むこととなる。
もちろん、レーダー基地は守られた。本物の基地の建設は予定通り、進行している。
一夜城。僕の脳裏に浮かんだ言葉は、これだ。オケハザマの戦いを終えたノブナガ公は、当時イナバヤマ城と呼ばれた城を攻めるべく、その麓に城を築こうとする。スノマタと呼ばれる場所にオダ軍が城を建設するたびに、敵方のサイトウ軍に攻め込まれて頓挫する。が、家臣のヒデヨシが一夜にして城を築き、ついにスノマタの地に橋頭堡を築くことに成功する……
まさにこれは、「一夜城」そのものだな。一夜どころか、一瞬で築ける架空の城。しかし、敵を引きつけ、本来の基地を守り拠点を築くという目的は果たせたわけだ。史実とはちょっと違う一夜城だ。
「第4艦隊より入電! 貴艦隊の奮戦と機転に感謝する、宛て、第8艦隊司令、ヤブミ准将、発、第4艦隊分艦隊司令、チェスノーコフ少将! 以上です!」
嫌な艦隊だと思っていた第4艦隊の司令官の一人が、奮戦と称してくれた。まあ、悪い気はしないな。僕自身、まさかザハラーのあの力をこんな形で使うなどと、よく思いついたものだと感心する。
一方で僕は、一つの違和感を感じていた。それは、ダニエラのことだ。
そういえばダニエラは今回、330万キロの敵艦隊を捉えることができた。しかも、ザハラーがレーダー撹乱中している最中に、だ。これまで感知できなかった遠くの敵を捉えることができた。
だが、なぜだ。ダニエラの限界距離は、せいぜい100万キロ程度。最初の2つでさえ、ダニエラの捉えられる限界ギリギリの距離だった。が、突然、300万キロ超の敵艦を認知できた。
どうして、そんな遠くの敵が捉えられたのか?この不可解な事実にもやもやしながら、僕はレーダーサイト上に見える、撤退中の敵艦隊を眺めていた。




