表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/227

#222 次元

 この宙域に戻ってきて、まず驚いたのは、連盟軍の多さだ。

 隣の地球(アース)1030を中心に、ざっと2万隻近くはいるぞ。戦争でも、おっ始めるつもりか?


『ヤブミ提督! ビスカイーノ准将であります!』


 で、その連盟軍の中で、僕が唯一話せるやつが、こちらに通信を入れてきた。


「あの……なぜか、そちらはすごいことになっているようだが……」

『あはははっ! そうなんですよ、まるで新大陸でも発見したかのような熱狂ぶりで、こんなに集まっちゃいまして!』


 いや、熱狂するのはいいけど、条約は守られるんだろうな? だんだんと心配になってきた。


『ところで、我が地球(アース)023のカベサス大将が、是非ともヤブミ提督と直接、お会いしたいとのことです。いかがなさいますか?』

「あ、ええと……例のクロノス討伐の任が迫っているゆえ、また後日にでも」

『さすがはヤブミ提督、もう戦いに出られるのですか! その旨、カベサス大将にお伝えいたします! では!』


 ……戦争というより、お祭り騒ぎなのか。ちょっと、浮かれすぎだぞ。だが、地球(アース)023にとっては、連盟発足以来、初めての外宇宙進出だ。それは連合側も、同じことではあるのだが。

 地球(アース)001で、ワームホール帯を用いるワープ航法が発明され、宇宙進出が始まった当時も、多くの国や企業がこぞって未知の空間に乗り出したという歴史がある。その結果、今のような1000以上の地球(アース)の発見につながる歩みが始まったのではあるが、ちょうどその頃の歴史を、今まさに繰り返しているところなのだろう。


 さて、我々はこのまま、ある場所へと向かう。コールリッジ大将から直接聞いた、あの黒色の艦艇が現れるというポイントだ。そして、そこには「ヒューペリオン」がいる。


「第8艦隊、全艦に告ぐ。これより我が艦隊は、黒色艦隊の出現ポイントへと向かう。面舵30度、両舷前進半速!」

「はっ! 艦隊回頭、面舵30度! 両舷前進半速!」


 ジラティワット少佐が復唱し、その僕の命令を全艦に伝える。我が1000隻の艦隊、といっても今は40隻を欠いたままだが、その960隻が先頭艦より順次、回頭を始める。

 第1艦隊よりもたらされた情報によれば、この地球(アース)1029、1030のある恒星系外縁部に、そのワームホール帯と、あの姿のない相手からの攻撃ポイントがあるという。

 で、我々は4時間かけて、その場所へと向かう。


 なお、連盟軍には、この場所の情報は、もたらされているのか?

 コールリッジ大将によれば、この場所はすでに連盟側にも連絡済みだという。が、彼らはこの場所に接近するものの、距離を置いたままだという。

 2万隻近い艦艇を有しながら、我関せずとは……と、僕は憤慨しかかったが、その代わり連盟側は、そのワームホール帯からあふれ出てきた黒色艦隊を各個に撃破するという役割を担っているのだという。彼らにとっても、民間船団へのやつらの攻撃は無視できない。だから、水際で叩いて寄せ付けない。そういう戦術をとっている。

 これはこれで、連合側にとってもありがたいことではある。結果として、自身のためにやっていることなのだろうけれども、上手く持ちつ持たれつの関係ができている。やれやれ、これが宇宙のあらゆるところで起これば、苦労はないのだが。


 その連盟艦隊を横目に通り過ぎ、ついにそのワームホール帯へと接近する。


「そろそろ、問題の宙域だな」

「はっ! 今のところ、レーダーに感なしの模様!」

「そうか。ダニエラの方は、どうか?」

「何も感じませんわ、ヤブミ様」


 やはり、何も感知できない。コールリッジ大将の言っていたことは本当だな。が、本当に攻撃などしかけてくるのだろうか?


「ちょっと、確かめてみるか。エルナンデス准将を呼べ」

「えっ? エルナンデス隊に、先行させるのですか?」

「ミズキがいるからな。そういう意味では、うってつけの隊だ。エルナンデス准将に連絡、バリアを展開しつつ前進し、敵をあぶり出せ、と」

「はっ!」


 まずは、その敵の「存在」を把握する。そういうことは、エルナンデス准将にやらせるのがいい。


『エルナンデス隊、前進する!』


 いちいち通信を入れてくるところが、「構って」欲求の強いエルナンデス准将らしいところであろうが、そのエルナンデス隊200隻が前進すると、すぐに変化が現れる。


「エネルギー反応、多数!」


 来たな。僕はタナベ大尉に尋ねる。


「タナベ大尉! レーダーに反応は!?」

「ありません! レーダーに反応なし!」

「ダニエラの方はどうか!?」

「いえ、ヤブミ様、何も映ってませんわ!」


 事前情報通りだ。ダニエラすら、捉えられない。が、反応だけはしている奴はいる。


「ふぎゃあ!」「ふぎゃーっ!」


 この2人の獣人は、近くに何かヤバいものがいることは察知している。が、察知しているだけで、それがどこにいるのかまでは、この2人の反応からは見出せない。

 ちょうどエルナンデス隊の上方向から、見えない敵が青白い光を放つ。これも事前情報通り、さほど強いビームというわけではない。ちょうど地球(アース)1022のクロウダ艦隊にいた回転砲塔艦の30センチ砲から放たれたビームと同じくらいの強度の光だ。だから、駆逐艦の上面のやや薄いバリアでも、難なく弾き返すことができる。

 とはいえ、後方に当たれば被害は甚大だ。すぐに僕は、エルナンデス隊に命じる。


「エルナンデス隊、後退せよ!」


 ところが、反抗期真っ盛りのエルナンデス准将が、早々応じるわけがない。


『おい、ヤブミ少将! 一隻も沈めずして、なぜ後退させるのか!』

「敵を捉えられない! 状況は確認した、直ちに後退せよ! でなければ、今度こそ解任するぞ!」


 まったく、どうして最後の切り札をちらつかせるまで、命令を聞こうとしないのか、こいつは。この一言で、ようやく後退を始めるエルナンデス隊200隻を見届けて、僕は司令官席に座る。


「やれやれ、どこから撃ってくるんだ、あの敵は……」


 エルナンデス隊を先行させて、どうにかその敵を見たものの、コールリッジ大将がおっしゃる通り、まったく敵が見えない。「ヒューペリオン」は一体、どこから撃ってくるのか?


「見えないワームホール帯でもあるんでしょうかね。この宙域とは違うどこかから、ワープ空間越しに攻撃を仕掛けているとか」

「いや、それならあれほど正確に狙うことはできない。それだと、ワームホール帯の位置に依存するからな。しかし先ほどの攻撃を見るに、ほぼ正確にエルナンデス隊200隻に当てていた。ということは、ワープ空間経由などではありえないのでは?」

「うう、確かにそうですね……」


 攻撃力が弱いのが幸いだった。だが、反則的なこの攻撃に、困り果てるしかない。とにかく、精度と量が半端なものではないため、向こう側にあるワームホール帯に接近すらかなわない。

 と、頭を抱えていると、ついにあの士官が口を開く。


「提督、一つ、試したいことがあるのですが」

「なんだ、マリカ大尉。何か、思い当たることがあるのか?」

「ええ、あるような、ないような」


 相変わらず、はっきりしないやつだな。味方に隠し事をして、どうするつもりだ。


「一隻だけで、あの宙域に突入していただけます?」

「えっ、一隻だけ!?」

「ええ、ある実験をしたいのです。一隻あれば、十分ですので」


 一体、何をするというのだ?しかも、たった一隻だけとは……こいつの真意が分からんな。

 ともかく、ここはマリカ大尉の進言に従うことにする。突入するのは、0006号艦とする。この艦はこれまで事実上、司令部付きの役割を果たすことが多く、かつ、哨戒艦として機能できる機器を搭載した艦でもある。今回の任務には、うってつけだ。


『0006号艦、発進します!』


 0006号艦の艦長であるハマーフェルド中佐が、司令部に通信をおくってきた。互いに敬礼し、僕は0006号艦を見送る。

 が、考えてみれば、かなり危険な任務だ。あのビームの嵐の中に、たった一隻を飛び込ませる。だから、あまりにも防御負荷が増した場合、すぐに後退するよう、予め指示している。


「0006号艦、当該宙域に突入します!」


 いよいよ、攻撃エリアに入る。案の定、猛烈なビームの雨が降ってきた。

 軽く2、30発は直撃を受ける。すでにバリア強度もギリギリではないのか?

 かなり命がけの任務だ。が、それを進言したマリカ大尉はと言えば、計測器を見てほくそ笑んでいる。


「ぐふふふ……やっぱり、思った通りですわ」


 何を笑っているんだ。僕はマリカ大尉に尋ねる。


「おい、マリカ大尉! 何かわかったのであれば、0006号艦を引き返させるぞ!」

「ええ、もう充分ですわ。あまりに予想通り過ぎて、思わず笑いがこみあげてしまいましたの」


 だったら、早く言えよ。僕はイラッとしつつも、通信士に命じる。


「0006号艦に通信! 任務完了、直ちに後退せよ、と!」

「はっ!」


 攻撃エリアに突入して、僅か1分。すぐに0006号艦は後退を開始する。攻撃エリアを抜けて、ハマーフェルド中佐から通信が入る。


『0006号艦、10発以上被弾! 左上噴出口を破損!』


 ああ、やっぱり被害が出てしまったようだ。幸いなことに、人的被害は皆無だった。このまま0006号艦には戦艦キヨスの修理ドックに向かってもらうことにする。


「……で、マリカ大尉、何が分かったんだ?」


 これだけのリスクを抱えてまで、マリカ大尉の意見に従い、調査を強行した。これで何も分かりませんでは、示しがつかない。


「ええ、やはりあの敵は、四次元空間上に存在することが分かりましたわ」

「はぁ!? 四次元空間だと!?」

「そうですわ。ですから、三次元空間上の我々からは見えないんです」


 また不可解なことを言い出したぞ。四次元空間だって?


「0006号艦から発生する重力子の観測結果から、四次元量子ホール効果によると思われる影響の揺らぎが見えたのですよ。つまり、四次元空間上に、大質量体が存在する。それが今の実験で、確定したのです」


 また意味の分からないことを言い出したぞ? まあいい、深く突っ込むのはよそう。


「……で、その四次元空間に敵がいると分かって、どうすればいいんだ?」

「さあ、どうするんでしょう?」


 いちいち腹の立つやつだな。何のために0006号艦を突入させたと思ってるんだ?


「方法は単純ですわ。我々の可視領域である三次元空間上に引っ張り出す、それしかありませんわね。でも、それは戦争屋さんのお仕事でしょう?」


 ムカッとするが、マリカ大尉の言う通りでもある。だが、四次元にいる敵を三次元に引っ張り出すだって? どうやったらそんなことができるんだ。敵の居場所は分かったものの、これじゃどうしようもない。

 で、その課題を僕は、5人の戦隊長に丸投げしてみる。


『馬鹿か、お前は! 屏風にいる虎を引っ張り出せと言っているようなものだぞ!』

『あははは、そんな逸話がありましたな!』

『メイプルシロップでも置いておけば、寄り付いてくるのではありませんか?』

『私の隊を使って、目の前で暴れて見せましょうか? 出てくるかも知れませんよ』


 案の定、戦隊長らは勝手なことばかりしゃべり始める。が、こればかりは僕も悪い。しかし、答えが分からない以上、こう話すしかない。

 が、一人だけ沈黙を続けていた戦隊長が、口を開く。


『提督、提案があります』


 メルシエ准将だ。僕は尋ねる。


「メルシエ准将、提案とは?」

『ええ、上手く行けば、あの敵をこちら側に引っ張り出せるかもしれません』

「なに!? それは本当か!」

『はい、ただし、条件があります』


 で、4人の戦隊長と僕は、メルシエ准将の驚くべき提案を聞く。それは突拍子もない作戦だが、他に手がない。僕はメルシエ准将の提案を、承認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ