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#221 帰任

「ワームホール帯、捕捉! 突入まで、あと5分!」


 一週間はすぐに終わり、予定通り、0001号艦は砲身の交換作業を終えてしまう。

 このため、僕らは一週間でナゴヤを離れることになった。


「ふぎゃあ、味噌カツ、もっと食いたかったよぅ……」

「ふぎゃーっ、あの串カツ、うみゃかったよぅ……」


 ボランレはともかく、ンジンガは少し素直になったんじゃないのか? オオスの空気と味と人情が、たった数日でンジンガの心の闇の部分を多少は消してくれたようだ。


「全艦、ワープ直後の不意打ちに備え、砲撃戦用意!」

「了解、砲撃戦用意!」


 で、これから突入するのは、7000光年をジャンプし、白色矮星域に至るあの宙域だ。と言ってもここは、地球(アース)ゼロではなく、ケンタウルス座V886星だ。

 つまり、いつもの近道ではなく、以前使っていた航路に戻している。理由は、単純なことだ。


「ワームホール帯、突入!」


 ワープ空間に入る。ここは7000光年先に続く長跳躍ワープ用のワームホール帯だから、抜けるのに少し、時間がかかる。

 が、20秒もすれば、その先に出られる。

 そして、その先に、敢えてこのワームホール帯を使用する「理由」が見えてくるはずだ。


「通常空間に戻りました」

「周囲の星図確認……白色矮星域に到達を確認!」

「レーダーに感! 2時方向、距離1300万キロ! 艦影多数、数およそ300!」

「光学観測、赤褐色! 連盟艦隊です!」


 以前ならここで、戦闘準備に入るような事態だが、僕はタナベ大尉に確認する。


「タナベ大尉、あの艦隊は、条約違反域に達しているか?」

「いえ、条約に定められた、非戦闘宙域内にいます」

「そうか、ならば無視する。全艦、砲撃戦、用具納め!」


 この宙域が、ギリギリあの条約の外縁部にあたり、おかげで連盟側の艦艇が頻発に現れるようになってしまった。この長跳躍ワープ用のワームホール帯と、いつも使う地球(アース)ゼロ経由の(ゲート)は辛うじて条約圏外となるものの、あまりあそこを使うと、連盟側にその存在がバレてしまう。

 地球(アース)001への直接ルートにつながるため、連盟には隠し通したいという思惑もあって、可能な限り、白色矮星域のあの(ゲート)を極力使わないという方針となる。でないと、この辺りに現れた連盟艦隊によって察知されてしまう恐れがあるからだ。

 しかし、やつらは条約適用宙域ギリギリを航行して、探りを入れてくる。やはりやつらは、我々の敵には違いない。


「このまま、中性子星域に向かう。全艦、前進!」


 そんな連盟の連中を突っ切るように、中性子星域へと進路を向ける。条約適用内とはいえ、我が1000隻の艦隊が迫るや、転進し始める連盟艦隊。

 それから半日をかけて、我が艦隊は中性子星域に達する。


『随分と、リフレッシュしたようじゃないか』

「は、はぁ……」


 恒例の、コールリッジ大将との通信会議だ。ようやく、地球(アース)1029との間と、恒星間通信が可能なところまでやってきたため、接続する。

 が、正直言って、あまり接続したい相手ではないんだけどなぁ。


『貴官がナゴヤで遊び歩いとる間に、こちらでもいろいろあったよ。先に、それらをまとめて、報告しておこうか?』

「は、はい、お願いします」


 いやらしい言い方だな。別に遊ぶために、僕らはナゴヤに戻ったわけではないのだけれど。

 という話は置いておき、コールリッジ大将からここ一週間のうちに起きた出来事を聞く。


 地球(アース)1029、1030ともに、相変わらず獣人しか見つからないらしい。どうやらここには、ごく普通の人類というものが見当たらない。

 おまけに、集落ごとに「魔石」を集めて、それを祭壇のようなところにおさめるという、怪しげな慣習を続けていることが分かったそうだ。

 それってつまり、ボランレの集落でやってた、あれってことだよな? ということは、今でもそこでは魔物が作られ、それがどこか知らない場所で暴れまわっているということじゃあ……


『貴官が以前、迷い込んだという魔物工場の話を聞いておったから、いくつかの集落でそれらしいところに潜入させてみた。結論から言えば、魔物工場があるところもあれば、何もないところもあった。そんなところだ』

「……それはつまり、昔はあったけれど、今はなくなったとか、そういうものではありませんか?」

『うむ……調べてみないと、何とも分からんな。一つ言えることは、その獣人とはつまり、何らかのシステムの一部として使われていた種族だということだ』

「はぁ、そうなのですか」

『すぐに結論など出んよ。少なくとも、数万年前に作り出されたシステムだ。その全容解明には、相当時間がかかると思った方がいい』

「了解しました。で、他には何か?」

『そうだな……そういえばこのところ、あの黒い艦隊が出現するようになった』

「えっ!? 黒い艦隊が!?」

『こちらだけじゃない、隣の地球(アース)1030にも現れとるようだよ。困ったことに、民間の船団が一つ、その黒い艦隊によってやられてしまった。そういうわけで、今は護衛をつけるようにしとるよ』

「そうですか。でも、考えてみれば、ここがやつらの本拠地が存在する宙域なのですよね。であれば、彼らの発生場所を割り出して、そこを攻撃すれば、黒色艦隊を壊滅できるのではないでしょうか?」

『その程度のこと、とっくにやっとるよ。で、その黒色艦隊が出てくる場所もつかんだ』

「さすがは、大将閣下です。で、本拠地はすでに叩いたのですか?」

『いや、それが……おらんのだよ』

「いない? どういうことです」

『その宙域にはワームホール帯があって、そこからその黒色艦隊が出てくることは分かった。が、接近しようとすると、攻撃を受けるのだよ』

「だったら、その攻撃する相手を、攻撃すればよいのでは?」

『だから、その相手がおらんのだよ』

「えっ、相手がいない!? いないのに、どうして攻撃されるんですか!」


 コールリッジ大将にしては珍しく、曖昧なことを言い始める。僕は思わず、問いただしてしまう。


『起きていることを、ありのままに話そう。つまりだ、レーダーが何も捕捉せんのに、そのワームホール帯へ接近しようとすると、どこからともなくビーム攻撃を受ける。発射元を探知して攻撃するも、そこには何もおらんし、何も映らん。ただ、そのビーム自体はさほど高出力ではないため、バリアではじき返すことが可能だ。とはいえ、無防備な後方を狙われてはかなわん。それに、バリアシステムを起動したまま、超空間ドライブを起動することもできんから、そのワームホール帯の先に行くことも、近づくこともかなわんというわけだ。ゆえに、黒色艦隊の本拠地に、たどり着けてはいない。これが、我々の現状だ』

「は、はぁ……承知いたしました」


 なんだそれは。反則じゃないか。姿も出さないで、ビーム攻撃は可能って、どんな敵だよ。


『で、もう分かっとるとは思うが、それがおそらく4体目だろう。そいつを、第8艦隊で片づけてもらいたい』

「ええっ!? 見えない敵を、叩くのでありますか!?」

『そのための第8艦隊だろう。期待しとるよ。それでは』


 ぷつんと、一方的に通信を切られてしまった。後に残ったのは、無理難題だけである。


「なんです、その見えない敵というのは?」

「分からない。話から察するに、発射元をたどっても、捕捉できないということらしい」

「なんですの、それ? お化けじゃないですか」

「お化けはビームなんて撃たないだろう。どこかに、本体がいるはずなんだが、それがどこなのかが分からない」

「で、我々の出番というわけですか。やれやれですわね」


 司令部一同が集まり、コールリッジ大将の話から作戦を立てようとするも、まさに雲をつかむような話で、まるで見当もつかない。


「ともかくだ。まずは第1艦隊と合流し、それからその宙域に向かう。その4体目、今後『ヒューペリオン』と呼称するが、そのヒューペリオンを撃つことが、我が艦隊の任務となる。各員、それを留意されたし」

「はっ!」


 百聞は一見に如かず、だ。とにかく、まずはその宙域に向かおう。何か分かるかもしれない。


「まもなく、ワームホール帯に到達します!」


 いよいよ、あちらの銀河、サンサルバドル銀河への通路に達する。戦艦ゴンドワナがこじ開けた、あのワームホール帯だ。

 周辺宙域には、連盟の艦隊が点在している。おそらくここに集結して、サンサルバドル銀河へと向かうつもりなのだろう。だが、条約のおかげで、あちらは攻撃してこない。その代わり、こちらも攻撃できない。

 だが、連盟のやつらめ、こう言ってはなんだが、タダ乗りではないのか? 我々が開けた通路を使って、じゃんじゃんと兵力を送り込んでいる。おそらくは、向こうを探索して、得られるものを得ようとの魂胆なのだろうな。

 なにせ、宝の山が眠っているかもしれない。我々、地球(アース)001の技術力すらも超越する何かが見つかるのではと思えば、当然、連盟だって死に物狂いになって押し寄せたくもなる。その代わり、条約破りは即、戦闘だ。連盟側の方が不利となるから、向こうから破ることはしないだろう。


 そういえば先日、コールリッジ大将から送られてきた報告書に、目を通してみた。そこには、この連盟との戦時条約締結に至るまでの道筋が描かれていた。

 簡単に言えば、軍内部でコールリッジ大将とアントネンコ大将、その他、穏健派が、政府を丸め込んで勝手に戦時条約締結へむけて動いたらしい。

 当然、軍内部では不満が湧き起こる。コールリッジ大将らの罷免の話まで出たようだ。が、フェルステマン元帥による采配で、お咎めなしとなった。

 さらっと書いてあるが、相当なことが起きていたのだろうな。下手をすれば、命がなかったかもしれない。豪胆といえば豪胆、大した大将閣下だ。

 一方の連盟側でも、やはり揉め事はあったようだ。ビスカイーノ准将から受け取った限りでは、あちらでも交戦派と穏健派がぶつかり合い、条約締結を巡って争いが起きたらしい。

 が、最終的には、条約締結を決断する。理由は、実に単純だ。我々の技術を超越する古代文明の遺跡が、手に入るかもしれない。その誘惑には抗えない。

 だから、部分的な非戦闘宙域の設定であればと、同意することになったようだ。双方、駆け引きの末に批准されたこの条約。だが、この270年の2つの勢力同士の戦いの中で、ようやく見えた戦闘停止に向けた一筋の光ともいえる。


 で、僕の役割は、その宙域に迫る敵を排除すること。すなわち、残り2体の「クロノス」一派を、撃ち負かすことだ。

 簡単に言ってくれるが、今度の敵は、見えない敵か……どうやって戦うんだろう? ダニエラやカテリーナが見えるのならいいんだが、第1艦隊にだって「神の目」を持ってる人物が2人いるはずだが、その神の目で捕捉できなかったってことだ。要するに、そんなに簡単な相手ではない。


「3……2……1……超空間ドライブ作動! ワープ、開始!」


 などと思考を巡らせている間に、僕らはその不可解なる敵が待つ、あの銀河へと向かう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見えないどころか本体がいない。 …質量のある残像かな? [気になる点] ちょーと停戦したぐらいで停戦のきっかけになるほど人類はお人好しではないか…(;ω;`*) [一言] フガフガ達は廃棄…
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