#215 奇襲
「ヴァルモーテン少尉、貴官は何を言っている。少尉も見た通り、あの戦闘衛星は補給艦と回転砲塔艦にのみ反応せず、クロウダ艦隊の砲艦と、標準型駆逐艦には反応した。と、いうことはだ、やはり我々の武装に反応しているのではないか?」
「いえ、そうではありません。クロウダ艦隊の砲艦10隻に反応するタイミングが遅かったので、気になっていたのです。そこで惑星表面に注目したところ、分かったことがあります」
ヴァルモーテン少尉は、戦闘衛星の攻撃パターンには武装の大小や有無は関係ないと主張する。
「では、聞こうか。少尉の考えを」
「はっ! まず、私の考えの前提を申し上げます!」
「前提?」
「あの戦闘衛星群は、5体のティーターン神の3体目ではないか、ということです、提督」
「さ、3体目? あの無数の衛星がか」
「左様です。そう仮定した時、ある結論が導き出されます」
「結論とは?」
「つまりあの敵には、本体があるということです」
僕とジラティワット少佐は、このヴァルモーテン少尉のこの意見に、我々が今、戦っている相手のことを思い出す。そうだった。そういえばやつらはこれまで2回、我々の想像もつかない姿で現れ、攻撃してきた。
と、いうことは、ヴァルモーテン少尉の言う通り、この敵もその「神」である可能性が高いと考えるべきだろう。
「……で、少尉よ。その前提に立つと、何が分かるのか?」
「はっ、その3体目の神、すなわち『イアぺトス』の本体の位置です」
「なんだと? イアぺトスの位置だって?」
「これを、ご覧下さい」
ヴァルモーテン少尉は、前面のモニターに、この星の地球儀を映し出す。
「我々があの星に最初に接近を試みた時は、ちょうどこういう配置でした。で、補給艦隊のインシデントが起きたのは、その5時間後。そして先ほどのクロウダ艦隊の砲艦が突入し、攻撃を受けた時がこうなってます」
と、ヴァルモーテン少尉は画面内で地球儀を回してみせるが、別段、どうってことのないありふれた地球だ。これで何が分かるというのか?
強いていうならば、この星は心なしか海が広く、陸が少ない。青色の強い星だ。
そういえば、マリカ中尉の姿がないな。あいつ、戦闘態勢の時は、砲撃音で気絶するのを恐れて出てこないからな。肝心な時に役に立たない。
「で、これがなんだと?」
「はっ、提督、この島にご注目下さい」
「島?」
「ここにポツンと浮かぶ、この島です」
ヴァルモーテン少尉が指差す先は、広い海の真っ只中。そこには確かに、島と思われる小さな点がある。小さな点といっても、そこはマダガスカル島ほどの大きさはあるようだ。星が大きすぎるから、点にしか見えない。で、ヴァルモーテン少尉は、ちょうど我々が突入した時間に戻す。
「我々がこの星に接近した時、この島はちょうど夕方頃でした。ところが、補給艦隊が接近した際は、ここは真夜中です。そしてクロウダ艦隊の砲艦10隻が43万キロに達した時、この島はちょうど、朝を迎えたのです」
言われてみれば、クロウダ艦隊の旗艦を含む砲艦10隻が攻撃を受けたその瞬間、その小さな点の場所では日の出を迎えている。補給艦隊や回転砲塔艦20隻が攻撃を受けなかった時は、この島は夜だった。
「少尉はつまり、この島が日光を浴びている時だけ戦闘衛星が機能している、ゆえに、そこにこの衛星を操る本体があると、そう考えているのか?」
「その通りです、提督。その方が、衛星からの攻撃有無を武装云々で説明するよりも、辻褄が合います」
ヴァルモーテン少尉もマリカ中尉ほどではないが、洞察力は高い。妙な知識が多い分、普通の人なら気にもしないことに注意が向くところがあるようだ。が、その少尉の説に、ジラティワット少佐が反論する。
「ちょっと待て、なぜその本体は、日が当たっている時だけ機能しているのか? これまでの2体も、黒色艦隊も、別に太陽光からエネルギーを得ていたわけではないぞ。なぜこいつだけが、日の当たっている時だけ、機能していると言えるんだ?」
「そうですね、これはあくまでも推測ですが、元々は昼夜問わず稼働できていたものが、故障か劣化により、バックアップシステムだった太陽光発電のみで稼働するようになった、ということではありませんか? あるいは、日の光がないと、遠くのものを捉えられないほど、探知能力が落ちてるか、のいずれかの理由があると思われます」
「うむ、なるほど、そういうことか……」
珍しく、今日はヴァルモーテン少尉の方が切れ味がいい。いつもこれくらいパリッとしているといいのだが。
「と、なれば、話は早い。あの島が夜になり次第、島を急襲して、その本体とやらを破壊する。残った衛星は、単なるデブリと化すだろう」
「はっ! ですが提督」
「なんだ、少佐」
「あの……どうやって、破壊するのでしょうか? 相手がどういうものかも分かりませんし、そもそも本体が本当にあるのかすら、分からないというのでは、作戦立案もままなりません」
不思議と、今のジラティワット少佐は冴えないように見える。いや、あまりにも情報が少な過ぎるからだ。クロノスらとの戦いは、不確定要素しかない。それで作戦を立てろというのは、あまりにも無茶が過ぎるというものだ。
「意見具申! 作戦なら、あります!」
一方で、なぜか今回、妙に頼もしいのが、この金髪のちっこいツボ好き士官だ。自信満々に意見具申を求めるヴァルモーテン少尉に、僕は尋ねる。
「具申、許可する。少尉なら作戦の立てようがあるというのか?」
「はっ! 私の仮説と、現在得られる限りの情報を鑑み、クロウダ艦隊の回転砲塔艦20隻による突入を進言致します!」
「えっ? 回転砲塔艦を突入させるだって?」
「はっ! その艦隊に、ワン准将を隊長とする人型重機隊を同乗させ、突入するのです」
つまり、人型重機による奇襲をかける、そう言っているのか。
「幸い、あの回転砲塔艦には大型の航宙機格納庫があると聞いております。そこに人型重機と哨戒機を乗せて、あの島が夜のうちに突入する。それらの部隊で本体を探し出して、これを叩く。以上が、この作戦の大まかな流れです」
「だが、相手が人型重機や哨戒機の武装では破壊できない相手だったら? そういう敵なら、すでに出現済みだ」
「その時のための回転砲塔艦です。あの艦艇に搭載された30センチ口径ビーム砲は、ギリギリ大気圏内での使用が許可された砲ですし、あれならば先日現れたような黒いロボット兵器相手でも、破壊が可能であると愚考いたします」
「黒いロボット……あれがまた、出てくると?」
「それくらいは、想定した方がよいかと考えます。ですので、一つ、提督にはご決断頂きたいことがございます」
「な、なんだ、決断とは?」
「はっ、リーナ殿を、同行させることです」
一瞬、僕はこの作戦参謀の提案に言いようのない嫌悪感を抱く。多分、顔の表情にも出ているだろう。が、この冷徹な作戦参謀は続ける。
「かつてない戦いです。これまでの『クロノス』との戦いの経験は全て踏まえた上で戦うべきです。相手が不明な場合は、想定されるあらゆる手段を備えて対処すべきです。提督、ご決断を!」
また、リーナを危険な目に合わせるというのか。だが、ヴァルモーテン少尉の言にも一理ある。この戦いは、普通ではない。僕は、決断する。
「……分かった。リーナの作戦参加を許可する。が、本人の意思を確認するのが大前提だ。本人が承諾すれば、参加することに反対を唱える理由はない」
「はっ! ついでに、もう一つ」
「なんだ、まだあるのか?」
「小官も、同行致します」
「は? 少尉もか?」
「臨機応変の事態に、備えなければなりません。それゆえに、作戦立案者でもある小官が、指揮官代行として現地に行くべきかと考えます。それに、リーナ殿一人を行かせるわけには参りませんので」
「う……分かった。許可する」
「本当は、あのタバスコ・ピザ中尉にも来てもらいたいところですが、戦場においては熱に弱いマーガリンよりも役に立たないお方ゆえ、遠隔での支援のみを求めます」
「……うん、了解した。ではまず、リーナとクロウダ准将への説得からだ。それが通らなければ、この作戦そのものが崩壊する」
「はっ! 直ちに!」
ヴァルモーテン少尉の毒舌に撒かれるところだった。いや、そんなことより、説得だ。あまりに不確定な敵に対し、推測だけで作戦を立てて実行に移すことになる。再び巻き込まれるクロウダ准将を納得させるのは、至難の業だろう。そんな説得作業が、開始される。
『はっ! 喜んで、引き受けさせていただきます!』
ところが、思いの外、あっさりとクロウダ准将に承諾される。えっ、本当にいいの?
「ええと、それはつまり、貴艦隊の艦艇の一部を、敵の主力と思われるところに突入させることになるのだが……」
『何をおっしゃいますか、ヤブミ提督! それこそ、武人の誉れ! 恒星外進出を果たして間もない我が地球1022が、功績を上げる最大のチャンス! ぜひとも、我が艦隊に先陣の任務をお任せあれ!』
先の調査任務の時とはうって変わって、やる気満々だな。戦いが絡むと、こうも態度が違うのか?
『ところでヤブミ提督。我々の艦隊は、どうすればよろしいか?』
と、そこに質問を投げかけてきたのは、ビスカイーノ准将だ。情報共有も兼ねて、この打ち合わせに参加してもらっている。
「そうだな……貴艦隊には一つ、やってもらいたいことがある」
『なんでしょう? 盾になるという任務以外であれば、受け付けますが』
やっぱり、基本的には敵同士な間柄だからな、それほど信用はされていない。僕は続ける。
「いや、そういうのじゃなくてだな……貴艦隊にお願いしたいのは、小型星の方の調査だ」
『小型星?』
「今この宙域には、2つの地球がある。今の条約下でどのみち、連合と連盟とで、それぞれを担当することになろうかと思う。となれば、あの小型星のことも、調べなくてはならない」
『……つまり、あの小型星を、連盟に、と?』
「いずれにせよ、戦闘衛星の機能停止確認が条件となる。あそこは大型星から42万キロのところにあるからな。今のままでは、接近もできない」
『はっ、了解しました。ではビスカイーノ艦隊は、小型星の調査を担当いたします!』
幸か不幸か、ここには2つの地球が存在する。となれば、連合と連盟それぞれが担当せざるを得ないだろう。ちょうどいい妥協点である。
『ところでヤブミ提督、一つ、耳に入れておきたいことがありまして……』
まさにリモート会議を終えようとしたその時、そこにクロウダ准将がこう切り出す。
「なんだ、耳に入れたいこととは?」
『はっ、実は砲艦が攻撃を受ける直前に、ラウラ……クジェルコパー中尉が突然、何かを察知してまして』
「クジェルコパー中尉?ああ、確か、貴官の恋人の」
『外宇宙に出てからというもの、どういうわけか妙に勘が鋭くなりまして、何か不審なものが接近すると、察知できるようになってしまったのです。で、まさにあの時にも、それが発揮されたのです』
なんだそれは?それってつまり、いわゆる賜物じゃないか。そんな能力に目覚めていたのか、あの士官は。
『と、いうことですので、もし中尉が再び何かを察知したようならば、すぐに両艦隊に連絡いたします』
「情報に、感謝する。了解した。では」
両提督が、僕に向けて敬礼する。僕とジラティワット少佐は、返礼で応える。そして通信が切れた。
「なんでしょうね、そんな能力に目覚める人物なんて、聞いてませんでしたが」
「おそらくは、我々に接したことで目覚めたのかもしれない。そういえば、似たような能力を持ったやつが……」
そう言いかけたとき、すぐ後ろに控えていたヴァルモーテン少尉が応える。
「あのバカ犬ですね、提督!」
こいつ、ボランレのことを相変わらずバカ犬呼ばわりしている。あれは犬ではなくてだな……と言いたいところだが、最近は僕にもよく分からなくなってきた。
「で、提督、今の話を聞いて、追加で要望がございます」
「なんだ、要望とは?」
「はっ、あのバカ犬も、同行させましょう」
「は?」
また突拍子もないことを言い出すヴァルモーテン少尉。
「いや、連れて行っても仕方がないだろう」
「そんなことはありません。クジェルコパー中尉と同様、何かを察知し騒ぐ能力を持っているあのバカ犬ならば、いざというときに何か役立つかもしれません」
使えるものは、犬でも使え、ということか。それにしても、その能力を評価しておきながら、「バカ犬」という呼称は変えないというヴァルモーテン少尉のその心情は、僕には到底、理解できない。
結局、ボランレも同行させることにする。
「ふぎゃあ? ほんとか? ついていったらほんとに、スイーツ食べ放題なのかよぅ?」
「そうですよ、バカ犬殿。ついていく気になりましたか?」
「行くよぅ!」
そのバカい……ボランレの説得方法は、実に原始的で単純だ。餌で釣る。まさにボランレ相手には、合理的な手段だ。
「カズキ殿! それではいざ、戦場に参る!」
「ふぎゃ、行ってくるよぅ!」
「と、いうことで、これより出発いたします。作戦開始時までには、あのマーガリンよりも使えないピザ中尉を、艦橋に待機させておいて下さい。では」
と、哨戒機格納庫にて、僕はリーナとヴァルモーテン少尉、そしてボランレの3人を見送る。少尉の敬礼に、僕とジラティワット少佐は返礼で応える。
そして、哨戒機はクロウダ艦隊に向けて、出発する。
「やれやれ、リーナまで駆り出しての戦いかよ」
「おい、レティシア。お前だって蚊帳の外ではないぞ」
「分かってるよ、ったく。また魔石に触るだけの、簡単なお仕事だろう?」
そう、この作戦の成功率を上げるため、あるいは失敗時にあの回転砲塔艦20隻の撤退を容易にするため、戦闘衛星の数を減らしにかかることになった。
もし、あの島が夜になったことで、我々に対して攻撃しないようであれば、特殊砲撃で破壊できるだけの戦闘衛星を破壊する。ただし、砲身寿命のこともある。1回限りの攻撃を行い、反撃に備えてすぐさま撤退する。
他の特殊砲を持った艦も、攻撃することになっている。が、低軌道上に存在するため、地表への着弾を避けながらの攻撃となる。とても全部は、いや4分の1も落とせまい。
「各員、作戦準備! あと3時間後に発動!」
「はっ!」
いよいよ、3体目との戦闘となる。いるかどうかわからないその本体の名前も、「イアペトス」と呼称することが決まった。
なお、作戦名は、ヴァルモーテン少尉の提案により「マーガリン作戦」となった。いや、どうしてマーガリン? なんでも、マリカ中尉の仮説に基づいて思いついた作戦だからというのがその理由だが、今はその中尉よりもマーガリンの方が役に立つと言ったあの一言に基づく命名だ。うーん、なんだかなぁ。
「マーガリン作戦、準備急げ!」
僕は、檄を飛ばす。いよいよ、この不可解極まりない相手との決戦が始まろうとしている……
◇◇◇
今回も、あの黒い巨人騎士が現れるやもしれぬと言われ、私は覚悟を決める。あれと戦う運命を、私は担っている。ならば、参加せぬわけにはいかないだろう。
すでに我々は、あの大きい方の星のそばまで来ている。この星は、大きさのわりに陸が少ない。大陸が一つしかなく、かつ、小さな島が点在している。そんな星だ。
私もこの短い間にいくつかの星を見てきたが、これほど海ばかりの星は見たことがない。私の目で見ても奇妙なこの星は、カズキ殿やレティシアが見れば、さらに奇妙に見えてることだろうな。
「リーナ殿、そろそろ、出発準備です」
「そうか、分かった」
デネット殿が呼ぶ。私は鎧に魔剣をつけ、格納庫へと向かう。
この回転砲塔というものを持つ艦は、奇妙な構造をしている。まず、中が広い。が、通路と格納庫だらけで、実に使い勝手が悪い。
おまけに、エレベーターがほとんどない。以前は不要だったからという理由で、ついていないらしい。おかげで、ここから格納庫まで移動するのに随分と待たされる。
で、ようやく格納庫に到着する。私の乗る0001号艦などと比べて、格段に広い。哨戒機が7機も収められており、人型重機も全部で10機いる。
「まもなく大気圏を突入する。これが最後のブリーフィングだ」
デネット殿が、10人を前に話を始める。この艦内では、デネット殿が隊長のようだ。
「我が11番艦からは10機が出撃、哨戒機7機も援護のため、上空から支援任務に就く。全部で、人型重機200機、哨戒機150機、複座機3機の計353機による作戦だ」
淡々と、作戦の概要を話すデネット殿だが、隊員の一人から質問が上がる。
「デネット隊長、お聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「はっ! 今回の敵とは、どのような相手なのですか?」
「うーん、難しい質問だな。正直言えば、分からん」
「は、はぁ……」
デネット殿は、当然、そう応えるしかない。が、一同の表情がやや曇る。
「が、リーナ殿をはじめ、我々が考えられる限りの備えはしてある。私自身も、これまで何度か未知の敵に当たってきた実績はある。だから、あれこれと詮索せず、自身の目の前の任務を遂行して欲しい」
「はっ! 承知いたしました!」
そんな不安を一掃するがごとく、デネット殿が太鼓判を押す。この一言で、一同は心を決めたのか、勇んで各機に走り乗る。私も、デネット殿の後を追う。
「すいませんね、しばらくの間、狭い機体で我慢してください」
「ああ、構わぬ。魔物退治をしていたころを思えば、快適なものだ」
そういえば、私はこの機体に助けられたのだったな。大型の龍族を相手に、ドーソン殿とデネット殿が乗った人型重機が、私とテイヨとの間に入り、守ってくれた。
そういえば、テイヨは元気にしているだろうか? そういえばあやつも、人型重機隊を指揮する隊長になったと聞いた。といっても、自身では操縦はせず、あくまでも指揮官であると言っていた。その人型重機隊の名に、「第8軍」とつけたと、先日のメールには書かれていた。
時代は変わる。私も、このような見ず知らずの星の上で、得体の知れぬものと戦うことになった。つい1年前には、そのような時が来ようとは、考えたこともない。
私がデネット殿の人型重機に乗り込んだ直後に、艦内放送が入る。
『大気圏、突入開始!』
格納庫内は、静かなものだ。今、この船の外は猛烈に熱い、白い炎にくるまれている頃だろう。だが、中は10体の人型重機が2列に並び、その出番をただじっと待っている。
どれくらい、経ったことだろうか?大気圏への突入は、もう終わっている頃だろう。その時、カズキ殿の声がこのコックピット内に響く。
『マーガリン作戦、開始する!』
名前からすると、パンに塗られたあのクリーミーで柔らかな油脂のようなあれを思い浮かべてしまうが、それは未知の魔物との戦いの合図であった。ゴゴゴゴと、屋根の上が開く。
夜空が見える。そういえばここは今、夜だった。夜の間、あの敵は動きを止めているからと、わざわざ夜襲を選んだのだ。たくさんの星が、瞬いている。
と、その直後、青白い光の筋が、真っ黒な天空の中を走る。あれはおそらく、0001号艦の放った砲火であろう。それは10秒ほどの間続き、やがて消える。
レティシアのやつ、今ごろは魔石の前で腹を空かせている頃か。次は、私の出番だな。そんなことを考えていると、無線からけたたましい叫び声が聞こえてくる。
『11番艦、コースよし、コースよし、よーい、よーい、よーい、降下、降下、降下ぁ!』
先頭の重機から、この夜空の中に打ち出されていく。この前から3番目のデネット機も、すぐに真っ暗闇の中に放り込まれる。
「テバサキより各機! 高度100まで降下後、水平飛行に移行! 密集隊形にて、地上目標の探索にかかれ!」




