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#214 攻撃衛星

 我が艦隊は意を決して、ワームホール帯を抜ける。

 目の前には、どこかで見たことのあるものが、広がっている。そう、棒渦巻銀河、つまりここは、あっちの銀河か?


「棒渦巻銀河、配置照合!フアナ銀河です!」


 やはりそうだ。我々は、サンサルバドル銀河に来た。リーナの故郷である地球(アース)1019と同じ銀河だ。

 もっとも、同じ銀河といっても、地球(アース)1019とは数百、または数千光年も離れているかもしれない。観測による位置の特定が必要だろう。


「周囲の警戒を厳とせよ!」

「はっ!」

「この宙域の恒星、惑星系はどうなっているか!?」

「現在、観測中!」


 ここは紛れもなく敵地だ。僕は檄を飛ばす。ダニエラをはじめとする「神の目」や、第8艦隊全艦の各種レーダー、センサーもフル稼働して警戒にあたらせる。

 遅れて、赤褐色の艦艇ばかりのビスカイーノ艦隊がワープアウトする。我々の後方、2万キロ。こんな距離に連盟軍の艦隊と並走するのは、初めてだ。

 続いて、クロウダ艦隊が現れる手筈だが、その前に僕の元に、報告が入る。


「報告! この宙域は太陽型恒星系で、惑星の存在を確認!」

「惑星か……と、いうことは、地球(アース)型惑星も存在するのか?」

「はっ、現在、確認中!」


 まず、ワープ先が恒星系であり、惑星が存在することまでは判明した。問題は、地球(アース)型惑星があるかないか、だ。

 しかし、僕はあると確信している。

 そして、そこが「クロノス」の本拠地であるはずだ、と。


「ありました! 第4惑星に地球(アース)型惑星と思しき星を視認、生存可能圏(ハビタブルゾーン)内! 当艦隊の3時方向、距離1200万キロ!」


 やはりな、思った通りだ。僕はこの光学観測員の報告を受け、命じる。


「ならば、その惑星へ進路を向ける。全艦、右へ回頭90度、当該惑星へ向か……」


 僕が、命令しかけたその時だ、さらに光学観測員から報告が続く。


地球(アース)型惑星、さらに視認!」


 一瞬、何のことだか理解できない。おい、たった今、地球(アース)型惑星を発見したと言ったばかりじゃないか。


「どういうことだ、まさか、もう一つ見つかったというのか?」

「はっ! 先ほどの地球(アース)型惑星の近傍に、さらにもう一つの地球(アース)を発見しました!」


 僕だけじゃない、ジラティワット少佐もこの報告に疑問を呈したようで、確認を求める。


「本当にそれは、地球(アース)なのか!? 重力レンズか何かの影響で、二重に見えているのではないのか!?」

「いえ、間違いありません! 映像、映します!」


 光学観測員が、正面のモニターにその映像を映す。

 オオシマ艦長も含め、司令部、および艦橋内の乗員らが、驚愕する。


「なんだと……そんな馬鹿な!」


 そう、映し出されていたのは、2つの地球(アース)型惑星だ。

 いや、正確には違う。一方は確かに惑星だが、もう一方は惑星というより、衛星のようだ。

 大型の地球(アース)型惑星の周りに、小さな地球(アース)型の星が回っている。予想軌道図と、2つの星の拡大映像が、その事実を我々に告げる。

 が、とても信じられない。同じ恒星系内に、テラフォーミングなどで2つの地球(アース)が存在する星系というのはあることはあるが、惑星とその衛星という関係は初めて見た。というか、これは本当なのか?

 一方を衛星だと言ったが、正確には「連星」と表現した方がいいかもしれない。一方は、半径が2倍の、ちょうど地球(アース)1019と同じくらいの大きさの星、もう一方は、我々の銀河に存在するような、標準サイズの地球(アース)だ。


「……重力も質量も、どちらもほぼ同じくらいのようですね。大きさだけが異なります。やや小型星の方が軽いためか、大型星寄りに公転中心があるようですが……」


 要するに、あの星は互いをくるくると回っている関係、ということだ。重量と大きさの関係で、大型の星の方が「惑星」、小型の方が「衛星」となっている。しかし、いずれにせよ、重要なことが一つある。


 つまり、「クロノス」の本拠地は2つある、ということだ。


 あれのどちらが本体、いや、両方ともなのか?意外過ぎる展開に、我々は戸惑いを隠せない。

 が、その連星に接近すると、さらに事態は混乱する。

 ちょうど、大型星まで距離100万キロまで接近した時だ。


「ヤブミ様! あの星の方向に、何かいますわ!」


 ダニエラが、何かを察知した。タナベ大尉が、レーダーで確認を始める。


「レーダーに感、大型星低軌道上に、無数の衛星!」

「衛星?」

「はっ! 大きさは10から20メートルほど、総数、1万基以上!」


 なんだと? 1万を超える衛星が、軌道上にあるだと? まさかそれ全部、戦闘衛星じゃないだろうな。

 だが、結論から言えば、本当にあれ全部が、戦闘衛星だった。

 距離45万キロまで接近した途端、一斉に攻撃される。


「高エネルギー反応、多数検出!」

「回避運動! バリア展開!」


 ほぼ1万隻の艦隊と対峙するようなものだ。すべての衛星が攻撃可能位置にいるわけではないにせよ、それでも数千基がこちらを同時攻撃をしかけてくる。高々、千隻程度の我々は、後退せざるを得ない。


「くそっ、あれじゃ近づけないじゃないか」


 悪態を吐くも、どうしようもない。


「特殊砲撃で、穴をあけるしかないですね」

「それはそうだが……さすがに1万基は無理だぞ」

「そうですね、既に我々の特殊砲撃の使用限界も、あと2回程度ですからね」


 ここでその2発をフルに使ったところで、あれだけの数を全部仕留めるのは不可能だろう。距離50万キロ離れたところで、ただじっとあの星を眺めるしかなかった。


「……どうしようか?」

「そうですね、どうしましょう」


 僕とジラティワット少佐は、困り果ててしまった。どうにも突破する術を見出せない。


「仕方がないな、第1艦隊か第4艦隊に打電して、あの1万基以上の衛星を一つ一つ、叩き落としてもらうほかない」

「そうですね、その通りだと思います」


 困り果てた我々の結論は、一個艦隊規模の砲艦による殲滅戦を展開してもらうほかない、というものだ。


 ところが、である。


 思わぬ方向から、突破口らしきものが見えてくる。


「ブルンベルヘン大尉、入ります!」


 会議室にて、善後策を話し合っていたところに、兵站担当のブルンベルヘン大尉が現れる。彼がわざわざ会議中に割って入ることは珍しい。何事かと、僕は彼に尋ねる。


「どうした? まさか補給艦隊に、何か問題でも起きたのか?」

「いえ、そうではありません。むしろ、問題が起こらなかったことに、問題がありまして」


 おかしなことを言うやつだ。なんだその、問題がないことが問題とは。


「……なんだその、問題とは?」

「はっ、実は補給艦隊10隻が、とある未遂事故(インシデント)を起こしたのですが」

「インシデント?」

「実は、補給艦隊があの地球(アース)型惑星に接近し過ぎてしまい、最短で距離40万キロ程度まで迫っていたのです」

「なんだと!? で、あちらからの攻撃は!」

「いえ、それが……まったくなかったのです。おかげで全艦、無事に戦艦キヨスに辿り着くことができました」


 奇妙な話が、思わぬところからもたらされた。それを受けて、僕とジラティワット少佐、そしてヴァルモーテン少尉は考察する。


「……つまり、あの戦闘衛星は、戦闘艦にのみに反応するのでしょうか?」

「いや、我々は魔石艦隊だ。魔石を持たない補給艦だからこそ、反応しなかったと言うことも考えられる」

「いえ、それはありません」

「どういうことだ?」

「あの補給艦にも、実は魔石エンジンが搭載されているんですよ。むしろ補給艦だからこそ、魔石エンジンを積むべきだとなりまして、すでに換装済みなのです」


 なんてこった。それじゃあ、戦闘艦じゃなければ、あの衛星は反応しないと言うのか?


「……もしかすると、艦種によっては、攻撃されない艦があるということか?」

「その可能性はあります」

「だが補給艦以外は、駆逐艦だらけだな。それが真実だとしても、あまり意味はなさそうな……」

「いえ、ちょっと待ってください、提督! そういえば、艦種の豊富な艦隊が一つ、あるじゃないですか!」


 なんだその、艦種が豊富な艦隊って……と、僕にもすぐに、ジラティワット少佐の言葉が理解できた。


「そうか、クロウダ艦隊か!」


 で、早速、クロウダ提督と通信を繋ぐ。


『えっ!? 私の艦隊の艦艇を、あの星に接近させるのですか?』

「そうだ」

『そのようなことをして、何が分かるのです?』

「少なくとも、あの戦闘衛星が何に反応して攻撃を加えてくるのかが、貴艦隊の艦艇を突入させることで判明する」

『……ですがそれは、我々に向かって、未知の敵からの攻撃に、その身を晒せとおっしゃっているのと同じですよ!』


 バンッと、通信機を殴りつけるクロウダ准将。いや、そこを殴っても、何にもならないだろう……僕は、説得を続ける。


「クロウダ提督の気持ちは分かる。が、誰かが矢面に立たなければ、解決しないこともあるのだ。45万キロギリギリで突入し、攻撃があればすぐに後退するだけでいい。引き受けては、もらえないだろうか?」


 恒星間航行が可能になり、外宇宙に進出してまだ3か月かそこらしか経っていない艦隊に頼るなど、我々とて心苦しい。が、今は他に、突破口を見出せない。

 クロウダ准将は、しばらく腕を組んだまま、考え込む。しばらくして顔を起こすと、我々にこう告げる。


『……了解です。我々にしかできない任務であることは、承知しました。では地球(アース)1022艦隊、調査任務に向けて作戦を開始いたします』


 やや気短なその提督は、我々に敬礼する。僕とジラティワット少佐も、返礼で応える。そして、通信が切れた。

 心苦しい依頼任務ではあるが、こればかりは我々には、そしてビスカイーノ艦隊にも無理だ。たまたま、近くの星だからと参加を決めた地球(アース)1022艦隊に頼ることになるとは、僕自身、考えてもいなかった。


◇◇◇


 まったく、なんて任務だ。ただ撃たれに行くだけの任務など、聞いたことがない。


「ツィブルカ大佐!」

「はっ!」


 やや不機嫌な私は、副官を呼びつける。


「さて、この不愉快な任務を、どう遂行するべきと考える?」

「はっ、まずは回転砲塔の艦艇を派遣すべきかと考えます」

「なぜだ?」

「ヤブミ提督が仰るには、武器を持たない補給艦ならば反応しなかった。ということは、我々の艦隊内で武装の劣る回転砲塔艦をぶつけてみるのが、その按配を探るのにはちょうど良いのではないかと考えます」

「なるほど……了解した。では回転砲塔艦20隻に、あの星への接近を命じる」


 かつて、我々の星では「戦艦」と呼ばれ、戦場の主役であった回転砲塔艦20隻が、今や貧弱武装な船として扱われている。そしてその武装の貧弱さゆえに、あの星への突入を命じられる。なんと言う皮肉か。

 が、その回転砲塔艦が、距離40万キーメルテまで接近したものの、まったくあちらからは反応がない。無人の戦闘衛星にまで、舐められる存在と成り下がったか。時代の流れ、そして私がかつて望んだ姿とは言え、哀れでならない。


「よし、20隻に後退を命じよ」

「はっ!」


 これで少なくとも、回転砲塔艦は「戦闘艦」として見られていないということにある。では続いて、我々砲艦の出番だ。


「これより砲艦隊、前進する!」


 後退する回転砲塔艦とすれ違うように、今度は10隻の砲艦隊が前進を始める。あの半径が異様に大きな、奇妙な地球(アース)型惑星に向けて、我々の船は進む。

 それにしても、速くなったものだ。これだけ重い船体を、いともあっさりと推し進めるこの重力子エンジンというやつには、感心するほかない。

 が、あのヤブミ提督の艦隊には、魔石エンジンなどという、さらに不可解極まりない機関が存在しているという。補給不要で、我々の艦に取り付けられたこの重力子エンジンとほぼ同等の力を出せるという。それが、今度のこの戦いの引き金となったのでもあるのだが。


「まもなく、距離45万キーメルテ!」


 航海長が叫ぶ。だが、もしやつらが攻撃してこないとするとなれば、この砲艦はあの無人の衛星共には、戦闘艦として見られていないことになる。それはそれで、腹立たしい話だ。撃たれても困るし、撃たれなければ腹が立つ。実に奇妙な心境だ。


「45万キーメルテ、突破!」


 ついに、奴らの射程内に入る。が、1発も撃ってこない。


「あちらの動きは?」

「はっ! エネルギー反応なし、攻撃ありません!」


 つまりだ。我々砲艦も、相手にもされてないということが判明した。それは幸いなことだが、しかし一方で、腹立たしい。おい、元は恒星間航行向きの船ではなかったとはいえ、10メルテ級の砲を抱えた立派な砲艦だぞ。古代遺跡風情が、我々の艦隊を馬鹿にしてくれたものだ。


「くそっ! 腹が立つ!」


 私は思わず壁を殴りつける。クジェルコパー中尉が、こちらを睨みつけてくる。言いたいことは、分かっているつもりだ。だが、この砲艦には思い入れがあるだけに、腹を立てて当然だろう。


「こうなったら、接近できるまで接近してやろう。可能ならば、そのまま砲撃して、あの衛星を一つでも多く、叩きのめして……」


 私がそうツィブルカ大佐に話している時のことだ。突然、クジェルコパー中尉が叫ぶ。


「な、何か、来ます!」


 私は尋ねる。


「クジェルコパー中尉、来るとは、何が来るんだ?」

「分かりません! が、なんかとてつもなく、胸騒ぎがするんですよ!」


 ヤブミ提督らと出会って以来、妙な能力に目覚めたラウラ……いや、クジェルコパー中尉が、これだけ悪い予感を感じている。

 彼女のこの研ぎ澄まされた直感のおかげで、これまで何隻もの海賊船を拿捕することができた。その彼女が、これまで以上に何かを感じている。だからきっと、何かある。

 そう思った矢先のことだ。


「高エネルギー反応、多数!」


 急に観測員の一人が叫ぶ。


「なんだと!?」

「戦闘衛星による砲撃が、開始される模様!」

「全艦、バリア展開、急げ!」


 突然、我々は攻撃を受けるハメになる。直後、青白い光の筋が無数に走る。

 ギギギギッと、バリアが直撃弾を受ける際の音が響く。この音を聞くのは、これが初めてだ。


「後退だ! 全艦、全速後退!」

「了解しました! 全艦、全速後退!」


 またさらに向こうから砲撃が続く。すぐ脇を、あの恐ろしい光の筋が通り抜ける。生きた心地がしない。が、5分ほどで奴らの射程圏を脱し、どうにか攻撃を免れる。


「ツィブルカ大佐! 僚艦は!?」

「はっ! 全艦、すべて健在です!」


 幸い、あの砲撃で沈められた艦はいなかった。私はそれを聞いて、安堵する。


◇◇◇


「そうか。回転砲塔艦が攻撃されず、砲艦のみが、攻撃をねぇ……少佐、これはどういうことだと思うか?」

「はっ! つまり、回転砲塔艦程度の口径ならば、戦闘艦とはみなされないとのことになります」

「うむ……」


 僕はしばらく考え込む。それにしても、ちょっと不可解なことがある。あの砲艦は、射程内に入った途端、攻撃されたわけではない。それがどういうことなのか、僕には理解できない。


「ところで、ジラティワット少佐よ」

「はっ!」

「今、ふと思ったことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「我々は、あの戦闘衛星に攻撃される艦か、されない艦かの境目を見極めるために、クロウダ准将の艦隊に突入を依頼した。その結果、回転砲塔艦のみが、攻撃を免れた」

「はっ、その通りです、提督」

「だが、それを知ったからと言って、この先、どうするんだ?」


 僕のこの素朴な疑問に、ジラティワット少佐はなかなか応えない。


「……ええと、それは……」

「武装が小さな船は、あの地球(アース)に接近することができる。が、そうでなければ、接近することもままならない。それは分かった。が、それだけでは、回転砲塔艦だけが接近できるという事実が判明しただけであって、それ自体が何か戦局を打開できる何かにつながるわけではないのではないか?」

「ええと……おっしゃる通りです、提督」


 そうだ、思わず我々は、あの戦闘衛星がどの程度の武装までなら反応するのかを見極めることに注視してしまい、肝心なその先のことを考えていなかった。これでは、何のためにクロウダ艦隊に危険な任務を遂行してもらったのか分からなくなってしまう。

 困った……結局、動けないことには変わりないぞ。ジラティワット少佐ほどの幕僚でも、これほど間抜けな結論に陥ることがあるのだな。2人揃って、艦隊レベルのドジをやらかしてしまった。

 司令部内が一気に暗い雰囲気に陥り、途方に暮れている。その時突然、ヴァルモーテン少尉が叫ぶ。


「分かりましたよ、提督!」


 今さら、こいつは今の手詰まりな事態が分かったというのか。いくら何でも遅いぞ。一応、僕は尋ねる。


「……で、なんだ、何が分かったというのか、少尉よ」

「提督! あの戦闘衛星は、武装を見ているのではありません! いや、むしろ、武装など関係ないのです!」

「はぁ?」


 ヴァルモーテン少尉が、突拍子もないことを言い出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 殺気というか攻撃衝動に反応しているのでしょうか。 ニュー○イプかな?
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