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#209 侵入

「まったく、哨戒機のことを、何だと思ってるんですか」


 帰還早々、格納庫内で喧嘩が始まった。エリアーヌ准尉が、パイロットであるサウセド大尉に向かって怒っている。


「しょうがないだろう、部屋に置くなと言ったのは、貴官じゃないか」

「だからって、よりにもよって提督が搭乗される機内に置くことはないでしょう! まったく、何を考えて……」


 なんだ、また抱き枕と着替えの件か。1.5メートル大の大きな袋3つほどの何かが、ここを発進する直前に格納庫内に投げ捨てられていたが、あれがこの騒動の原因だろう。


「サウセド大尉、そんなに荷物があるのなら、部屋に置けばいいだけじゃないのか?」

「ええ、そうしてたんですけど、准尉がダメだと言うので、仕方なく哨戒機内においていたんですよ」

「仕方なくって……そういう問題か?」

「まったくもう! だらしがないんですよ! そんなに大きな荷物を置いてたら、邪魔じゃないですか!」


 この喧嘩に、僕はふと思うことがあって、エリアーヌ准尉に尋ねてみる。


「エリアーヌ准尉よ」

「はっ! なんでしょうか、提督!」

「ふと気になったのだが、どうしてエリアーヌ准尉は、サウセド大尉の部屋の中のことまで口を出しているんだ?」

「それは、私が大尉の部屋に滞在する際に……」


 准尉は何かを言いかけて、突然、何かに気づいたように喋るのを止める。が、サウセド大尉がその先を続ける。


「いえね、准尉はいつも、ベッドの横におかれたこの抱き枕に嫉妬してて……」

「あーっ! 提督、仮にも複座機パイロットという名誉ある肩書きがありながら、抱き枕を部屋に置いているなどと知れては、せっかくの栄誉に傷がついてしまうと、そう愚考した次第です!」


 必死に言い訳をするエリアーヌ准尉だが、これでようやく合点がいく。なんだこの二人、すでにそういう仲だったのか。相性の悪い者同士かと心配していたが、同じ司令部内、うまくやれているようだ。


「おお、そうだぜ。なんだ、カズキは知らなかったのか?」


 と、エリアーヌ准尉とサウセド大尉の話をレティシアにしたところ、こいつはすでにキャッチしていた。


「なんだ、知っていたのか……さすがは、艦内の恋愛相談事務局を名乗るだけのことはあるな」

「あったりめえよ。で、ある日、エリアーヌのやつ、サウセドの部屋に押しかけてよ。抱き枕と私と、どちらが良いかはっきりしてください、って感じに迫ったらしくてよ。それ以降、エリアーヌのやつが、サウセドの抱き枕になってるって話だぜ」


 どういう迫り方だ。だが、それならばエリアーヌ准尉が抱き枕に嫉妬するのは当然だな。しかし、「クロノス」との戦いに明け暮れているというこの時期に、何をしているんだか。


「それはそうとカズキよ、このまま戦艦キヨスに寄港するのか?」

「ああ、そうだ。補給に分析、作戦会議、それから……いろいろと、あるんだよ」

「まあな、こんな狭い駆逐艦じゃ、大したことはできないからな」


 本来ならば、僕も戦艦クラスの旗艦に乗って指揮を取るべき立場なんだろうが、実験艦隊という性格上、駆逐艦を旗艦にせざるを得ない。

 幸い、あれからこの中性子星域には、謎の黒い艦隊、黒い大型艦などは出現していない。しかし、いつ何時それが再び現れるのか見当もつかない。ゆえに、戦闘分析を行い、これに備える必要がある。

 それを行うべく、僕は各戦隊長を集めて、戦艦キヨスにて会議を行うことにした。


「てことはよ、ひつまぶしを食いに行けるのか。いやあ、楽しみだなぁ」

「そうであるな。私も4、5杯は食っておきたい。ここにいては口にできぬからな」


 おい、ひつまぶしを食いだめする皇女がどこにいるんだ?リーナよ、あれは結構、高いんだぞ。

 そんな僕の財布事情などに構うことなく、0001号艦は戦艦キヨスに到着する。


「それじゃ、俺たちはひつまぶし食ってるから、あとで合流な!」


 そのキヨスの艦橋にて、レティシア、リーナと別れる。あちらはひつまぶしの店へと向かい、そして僕は会議室へと向かう。


「さて、皆に改めて、『クロノス』との戦いに臨むにあたり、意見を聞きたい」


 集まった戦隊長5人を前に、僕はこう切り出す。


「提督、それはあくまでも、仮説なのでしょう?」


 いきなり反論してきたのは、ステアーズ准将だ。


「そうだ、が、確かに手当たり次第に攻撃し、しかも普通には倒せない敵が現れた。もし伝承通りだとするなら、あと4体、ああいう敵に対処せねばならないことになる」

「それはそうですが、たった一度の戦闘で判断するのは、いささか気が早すぎるのではないかと。メイプルシロップも、1日にしてならず、ですよ」

「とはいえ、すでに2回、黒色の未確認艦隊と戦闘をしている。少なくとも、あのクラスの未確認の敵が攻めてくることは想定すべきだろう」

「そうだ! 俺もそう思う!」


 ステアーズ准将に反論するワン准将、そしてさらに僕を援護してきたのはエルナンデス准将だ。


「こっちはあれを間近で捉えたんだ、が、やつら、まるで生気を感じない。気持ち悪いったらありゃしねえ。なんか構えておかねえと、気がおかしくなっちまいそうだぜ」


 どちらかというと、僕を援護というより、私情からステアーズ准将に反論しただけ、といったところか。だが、エルナンデス隊は比較的前面に立って、あの敵と対峙していた。僕などよりも、ずっとあの艦隊の不気味さを感じているはずだ。


「しかしだ、そんな敵相手に、さっさとあの砲撃を使わねえ司令官もどうかと思うぞ! そういうときは、躊躇わず使うことだ!」


 と、結局は僕の批判につなげやがる。なんだ、この男は。それが言いたいだけじゃないのか?


「あれがクロノスかどうかは分からないが、ともかく、未知の敵が3度、そのうち一つは途轍もないやつが現れたというのは事実だ。あれはまさに、論外な強さだ。我々はそれにどう対処すべきか、考えておく必要はあるあろう」


 ワン准将は、冷静に応える。この人は、比較的穏やかで冷静だ。人型重機のコックピットに乗っている時、あるいは魔物の死骸を並べている時を除けば、の話だが。


「今度やってきたら、小官の艦隊が奔走して差し上げますよ。いやはや、腕がなりますねぇ」


 などと言いながら、ぼきぼきと指を鳴らしているのは、カンピオーニ准将だ。艦隊を握らせたら、ヤバい男。その不気味な笑顔からも、ヤバさがうかがえる。


「いや、どんな敵が現れても、冷静に秩序立てて対処すべきだ。前回のように、連盟軍に頼ってしまうなどということは、あってはならないだろう」


 どうも連盟軍のことが気に入らないメルシエ准将だ。が、そうも言ってられない状況だろう。ただでさえ、得体の知れない艦隊を相手にしなきゃならないというのに、この上、連盟軍など相手にできない。

 こんな連中を集めて話し合いをしたところで、何かまとまった意見に収束するなどということはなく、ただいたずらに、時間ばかりが過ぎる。こんなことは早く終わらせて、さっさとレティシアとリーナに合流したい。

 と、思っていたら、僕の元に電話がかかってくる。だれだ、こんな時に……と思ったら、それはレティシアだった。


『おい、カズキ!』

「なんだ、レティシア。今、会議の真っ最中だぞ」

『リーナのやつが、戻らねえんだ! そっちに行ってねえか!?』

「はぁ?リーナが、戻らない? どういうことだ」

『いや、いつもの店に着いて中に入ろうって時になってよ、急に用事を思い出したとか言い出して、それっきり、こっちに戻らねえんだよ!』


 奇妙だな。リーナが、ひつまぶしの店を前にして、引き返すなど、前代未聞だ。艦内に、雪でも降るんじゃないのか?


「電話で呼び出せばいいじゃないか」

『そんなこと、とっくにやってるに決まってるだろう! だけど、出ねぇんだよ! まったく、どうなってやがるんだよ!』


 そんなこと僕に言われても、こっちが知りたいくらいだ。一緒にいながら、何をしているんだ。

 だが、その話を聞いた途端、胸騒ぎがする。とても嫌な予感だ。理由は、分からない。

 かつてないくらい、もやっと僕の頭に、それはもたれかかる。なんだろうか、不快感などという言葉では形容し切れないくらいの嫌悪感、とでも言えばいいだろうか?

 何か嫌なことが起ころうとしている。それを、全身で感じている。しかしなぜ、ここにきて急に、そんな感触に襲われる?

 その僕の予感が的中する出来事が、直後に起こる。


「艦長!」


 突然、会議室に士官が入ってくる。


「どうした!?」


 この戦艦キヨスの艦長でもあるステアーズ准将が、入ってきた士官に尋ねる。


「それが……艦内鉄道の通路内に、何かが侵入した模様です!」

「なんだと? そんなところに、何が入り込むというのか?」

「分かりません、が、猛烈な速度で、この街の方に移動中!」


 珍しい話だ。戦艦内に、何かが侵入したなどと、聞いたことがない。


「とにかく、何者かを特定できなければ、対処のしようがない。まずは侵入者の特定を……」


 僕がそう士官に言いかけたところで、事態は急変する。

 突然、爆発音のようなものが、会議室内に響く。ここにいる一同は、何事かと騒ぎ始める。


「おいなんだ、今のは!?」


 エルナンデス准将が立ち上がる。そこに士官が一人、駆け込んでくる。


「た……大変です! 鉄道駅が、いきなり破壊されました!」


 一瞬、耳を疑った。それはつまり、街の中に何かが侵入してきたことを示す


「直ちに艦内放送、駅のある第7ブロックから、住人の避難を呼びかけよ!」

「はっ!」


 ステアーズ准将が指示を出す。その間に、会議室にあるモニターには、その駅の様子が転送されてきた。

 それを見た僕は、唖然とする。


「こ、この黒いのは一体、なんだ!?」


 それは人型重機よりもふた回りほど大きい、黒色の機体。いや、まるで黒曜石で作られた石像の様な人型のロボットだ。円筒形の頭には、赤い石のようなものが一つ、鈍い光を放っている。そんな全身が黒光りする鎧で固められたような化け物が、駅から現れた。

 それを見た僕は、下令する。


「人型重機を、発進させよ!直ちにだ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] デカいので襲ってくると思ってましたが、対人専用もあった?!もともと「人間だけを殺す機械」もあったのか、襲撃の為に用意したのか…。 そしてその気配を察知した(?)リーナさん、凄い。 この時代…
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