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204/227

#204 考察

「……と、いうことだ。今回の艦隊運動に関して、何か思うところを述べて欲しい」


 黒色艦隊との戦闘の翌日、僕は会議室に司令部を集め、会議を招集する。議題は、あの艦隊の正体について、だ。


「なぜ急に、第1艦隊ではなく、第8艦隊に向けて進撃してきたのか?やつらはどこからやってきたのか?そもそもやつらは、アルゴー船や岩の艦隊と同じ奴らが作り上げたものなのか?などなど、疑問は尽きない。何よりも、どうして今ごろになって現れたのか、という疑問を解消しない限り、この宙域で我々は、安全を保障できなくなる」


 僕はジラティワット少佐、ブルンベルヘン大尉、マリカ中尉、ヴァルモーテン少尉にこう投げかける。


「あの、提督。まずはどうして第8艦隊目掛けて進撃してきた、と言う疑問について、私の考えを述べてもよろしいですか?」

「ああ、構わない」


 早速、口を開いたのは、マリカ中尉だ。やはりこいつ、何かをつかんでいる。僕はそう確信する。


「あの黒色艦隊の狙いは、間違いなく第8艦隊ですわ。この2回の戦闘を通じて、私は確信いたしました」

「うん、それは間違いないだろう。だが、その理由について、どう考える?」

「あの黒色艦隊の出現は、我々、第8艦隊のある変化に合わせて起きてます。それこそが理由です、提督」

「変化?」

「魔石エンジンのことですわ」


 マリカ中尉は断言する。が、僕はすぐに反論した。


「つまり、魔石エンジンを察知して、やつらは現れた、と?」

「その通りです、提督」

「ならば聞くが、岩の艦隊やアルゴー船だって、魔石を用いた機関で航行していたぞ。なぜあれは、察知されなかったんだ?」

「あの船は我々と違い、かなり高いステルス性能でした。つまりはそれが、あの黒色の艦隊に察知されない理由になっていたのではありませんか?ですが、我々には、まさかそんな連中がいるとも知らず、何も考えることなく無防備にも、魔石エンジンを起動してしまった。私はそう思っております」


 うん、確かにあの船は、かなり高いステルス性能を持っていた。それと比べたら我々の艦艇など、察知されやすいだろうな。


「で、ついでに言いますと、私はあの黒色艦隊に関し、ある仮説を持っております」

「仮説だと?」

「ええ、あの黒色艦隊が何者か、という仮説です」


 と、ここで急にマリカ中尉は、突拍子もないことを言い出す。ジラティワット少佐が、思わず反論する。


「おい、マリカ中尉、何者だなどと、そんなことがどうやって分かると言うのだ!?」

「ですから、仮説ですわ。ですが、私としてはかなり確信を得ていると思うのです、閣下」

「……分かった。もったいぶらずに、話を続けてくれ」

「んふーっ、どうしようかしら!?まだデネット様にすら、話していないことですしぃ!」

「おやおや、中尉殿はケチャップ野郎に話をしなければ報告できないほど、あのパイロット殿に依存していらっしゃるのですか?」

「まあ、海面より低いところに住むことに喜びを感じていらっしゃる国のお方が彼氏になった途端、強気ですわねぇ、フランクフルト少尉」

「何をおっしゃいます。オランダにはかつて、ミヒール・デ・ロイテル将軍という偉大なお方がおりまして、当時、シチリア島周辺を闊歩していたフランス海軍とまさに命をかけて戦っていらっしゃるのですよ?その時、あなたの祖先はその様子を、ピザを食って眺めていただけなのでしょう?」


 話が進まない。ヴァルモーテン少尉も、下らないことに突っ込まないで欲しいなぁ。僕はこの二人に割って入る。


「ああ、もう!今は緊急事態だ!余計なことはいい!で、その仮説とやらをさっさと話せ!」

「もう、提督ったら強引ですわねぇ。そんなところが、レティシアさんやリーナさんに気に入られてるんでしょうかね?」


 こいつには、殺意しか湧かないな。殴りたくなってきた。が、ようやく話が前進する。


「で、以前、私がアルゴー船をガイアの、岩の艦隊をゼウスの遺した遺跡であると、そう申し上げたことがありますが、覚えていらっしゃいます?」

「確かに、そんなようなことを言っていたな」

「その流れで行けば、あの黒色艦隊の正体は、だいたい想像がつきます」

「いちいちもったいぶらなくていい。で、なんだというんだ?」

「クロノスですわ」

「く、クロノス!?」

「ええ、クロノスです」


 それが、ギリシャ神話に登場する神の名であるということは分かった。が、なぜ唐突に、クロノスという名前が出てくる?


「あの……ちょっと聞くが、それはギリシャ神話から推測しているんだよな?」

「ええ、そうですわ」

「なら聞くが、クロノスとは何なのだ?」

「あら、提督、ちゃんとギリシャ神話を勉強していらっしゃらないのですか?」

「いや、クロノスは確か、ゼウスと戦い、倒されたはずだぞ」

「いいえ、倒されてませんわ、提督」


 最近、僕は軽くギリシャ神話を読んでみた。そこには宇宙を揺るがす戦いが2つ、クロノスとゼウスの戦い、そしてその後のゼウスとガイアとの戦いがあると説かれていた。

 文明のリセットに関わる戦いは、クロノスとゼウスとの戦いと、それに続くガイアとの戦いの末に行われたと、マリカ中尉は見ているようだ。で、あのアルゴー船は、その名残だとマリカ中尉は以前、僕にそう説いていた。


「ではギリシャ神話には、クロノスがどうなったと書かれているか、ご存知でしょうか?」

「いや、ゼウスと戦って、負けたとしか……」

「ええ、ゼウスに負けて、タルタロス、つまり『奈落』に封じ込めた、と書かれてあるはずです」

「……そうだったか?」

「ええ、そうです。つまり早い話が、クロノスは倒されてなどいないのです。奈落に封印されただけなのですよ、閣下」


 なんだってこいつは、ここまで神話に詳しいのだろうか?そこに、ヴァルモーテン少尉が口を開く。


「つまり中尉殿は、その封じ込めたはずのクロノスが、我々の魔石に反応して出てきたと、そうおっしゃりたいのですか?」

「その通りですわ、さすがはソーセージ少尉。よくお分かりで」

「ですが、妙ですね。なぜ封印した相手が、今ごろになって現れたのです?」


 ヴァルモーテン少尉の言う通りだ。どちらにせよ、どうして今ごろになって現れたのだろうか?それこそ数万年もの間、まったく動かなかった相手が、どうして今さらになって出てきたのか?


「簡単ですわ。おそらく真実は、封印などしたわけではない、ということなのでしょう」

「なんだと?封印ではない?」

「ええ、おそらくゼウスとガイアはクロノスに勝ったのではなく、ゼウスとガイアの方が別の場所に逃げ延びただけ、と言うことではないでしょうか?」

「いや、ちょっと待て。それじゃあどうして今ごろ、そのクロノスと思われる黒い艦隊がここに現れたんだ?」

「多分、魔石エンジンが発する何かを察知して、やつらはゼウスとガイアがここにいると察したのではありませんか?ですから、魔石エンジンを使う第8艦隊のみに狙いを定めてきた。そう私は考えてますわ」


 マリカ中尉の言う通り、そういえばあの黒色艦隊が進路を変えたきっかけは、我々が魔石エンジンを始動した時だった。


「……ならば、魔石エンジンを封印すれば、そのクロノスと思しき黒色艦隊は現れない、と?」

「いえ、もう手遅れでしょう。現に先の1万隻は、魔石エンジンを使っていない時に現れて、手近な第1艦隊に襲い掛かろうとしてました。彼らはおそらくもう、この場所に狙いを定めてしまったのです」


 それを聞いて僕は、愕然とする。この仮説が本当だとすれば、まさにパンドラの箱を開いたようなものだ。とてつもない相手を、呼び寄せてしまった。マリカ中尉は続ける。


「となれば、我々はあのガイアやゼウスの連合ですら手こずったクロノスを相手に、戦い続けることになりますわね。はてさて、どうやって乗り切れば良いのやら……」

「おい、マリカ中尉よ。パンドラの箱の底にすら、希望が残されていたと言うじゃないか。何か、希望はないのか?」

「提督!パンドラの箱ではありません!ツボです、ツボ!」


 ヴァルモーテン少尉の反論など、瑣末な話だ。それよりも我々は、とんでもないものを呼び寄せてしまったことになる。思わず僕は、マリカ中尉に対処法を求めてしまう。


「そうですわね……策なら、ありますわ」

「本当か!?」

「ええ、ことが神話通りならば、の話ですが」

「なら聞くが、その策とはなんだ?」

「はい、クロノスを含む、5人の神を倒すことですわ」

「は?ご、5人の神を倒す!?」


 また突拍子もないことを言い出したぞ。マリカ中尉は、さらに続ける。


「ティーターン十二神と言われる神の内、4人の神がクロノスの側についたと言われております。そしてその合わせて5人の神がタルタロスに封じ込められた、とされています。つまり、クロノスを含む5人の神、それさえ倒せば、やつらの侵攻を止めることができるでしょう」

「いや待て、その5人の神というのは、どういう連中なんだ?」

「コイオス、クレイオス、イアぺトス、ヒューペリオン、そしてクロノスの5人ですわよ、提督」

「名前を聞いているんじゃない、その神とは、どういうものかと聞いている」

「さあ、それは私のもわかりませんわ。とっくの昔に亡くなったのかもしれませんし、それともその意志だけはどこかに記憶されていて、未だに動き続けているのかもしれませんし」


 適当なことを言うやつだなぁ。分かっているのか、今の仮説の重要性を。それが本当だとしたら、我々はいつ果てるとも知れない未知の艦隊と、戦い続けることになるんだぞ?

 ただでさえ、連盟軍との戦闘宙域の中性子星域に、その得体の知れない第三の勢力まで押し寄せるとあっては、我々の負担は著しく上がる。場合によっては、連盟軍だって巻き込まれるってことだぞ。あっちはこの件について、何も知らされていないから、余計に気の毒だ。


「ともかく、提督。これは仮説ですが、あの黒色艦隊がこちらに向けて動いたと言うことは、何らかの意思決定をするものがあちらにもあると言うことですわね。それが機械化されたものなのか、それとも原生人類の生き残りがいるのか……いずれにせよ、それらとの戦いに勝利しない限り、この宙域に安穏の日々は訪れないでしょう」


 まあ、元々ここは、連盟軍との激戦地だ。安穏などと言うものは、元から存在しない。とはいえ、連盟軍は黒色艦隊とは違って、得体の知れない存在というわけではない。厄介な存在なだけだ。

 いずれにせよ、マリカ中尉の仮説が正しいとすれば、再びあの黒色艦隊が攻めてくるはずだ。その時、我々は、どう対処すべきなのか?


「提督、思ったのですが、そのクロノスという連中は、我々の魔石に反応して現れたのですよね?」


 と、そこにヴァルモーテン少尉が発言する。


「まあ、仮説ではあるがな」

「しかし、ここまでの状況を鑑みると、確かにこのタバスコ・パスタ中尉殿のおっしゃる通り、我々の魔石エンジンに反応しているものと思われます」

「そうだろうな」

「ならば、我々が(おとり)となり、その5人の神とやらを引っ張り出せばよろしいのではありませんか?」

「えっ!?おとり!?」


 無茶な提案をするやつだな、少尉よ。お前、それがどれだけ危険な任務か、分かっているんだろうな?

 が、その日の晩に僕は、この仮説をコールリッジ大将に報告する。

 すると、大将閣下から下された命令は、まさにヴァルモーテン少尉の提案そのものだった。

 曰く、第8艦隊は囮となってその5人の神とやらを誘き出し、全軍を以てこの中性子星域で叩く、と。

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