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#20 会戦

「敵艦隊、さらに接近! 両艦隊同士の距離、50万キロ!」


 今、僕は、あの白色矮星域にいる。地球(アース)042遠征艦隊、および地球(アース)001からも第1艦隊、そして第8艦隊が集結する。連合側の艦艇数は、2万と300隻。一方、敵の連盟艦隊は総勢2万、二個艦隊が集結しつつある。まもなくこの両者は、正面からぶつかり合うこととなる。

 数の上では、第8艦隊の分だけわずかにこちらが多い。だがその第8艦隊を、コールリッジ大将は別働隊として分離し、連合側の二個艦隊の後方につける。


 その意図は、明白だ。


 最近、この白色矮星域に出現する敵艦隊には、どういうわけかレーダーで捉えられない艦隊が現れることが多い。ただしその場合は、最大でも1000隻が限度のようで、一個艦隊を丸々隠密化することはできないようだ。

 だが、おそらく今度も敵は、1000隻単位の分艦隊を隠密化している可能性は高い。そんな数の艦隊に、背後から襲われてはたまらない。

 こちらにも切り札があるように、あちらにも何か我々の知らない切り札があるらしい。

 そう言うわけで、我々は味方の二個艦隊とは別行動を取り、敵の切り札に備えることになった。


「果たして来るでしょうか?」


 参謀役のジラティワット大尉が、僕に呟く。


「可能性は高い。それも、背後から襲うことは十分考えられることだ」

「ですが、これだけの数の艦隊を、気づかれることなくすり抜けるなど、いくらなんでも不可能でしょう」

「いや、すでに1000隻の艦隊で、1万隻の第1艦隊をすり抜けた実績がある。油断はできない」


 有能な参謀相手にそう応える僕だが、もちろん、確証があるわけではない。この連盟のレーダーかく乱偽装策も、もしかしたらコールリッジ大将の杞憂なのかもしれない、と。

 いや、僕にはなんとなく分かる。気のせいなどではない。あれは敵の新たなる対抗手段だ。今のところこの星域だけのようだが、いずれすべての連盟軍が使用してくる可能性がある。そうなれば、軍事バランスが大きく動く。

 そんなことを考えながら、我が第8艦隊は主力艦隊の後方約2万キロのところにいる。僕は正面モニターに映しだされるレーダー画面から目を離し、艦橋内の中央付近を見る。

 そこには、ダニエラの姿がある。レーダー担当士官とともに、レーダーサイトを見続けている。それにしてもダニエラのやつ、なんだか嬉しそうだな。そんなにレーダーサイトは面白いか?


「そろそろ、敵艦隊が出てくるぞ! 警戒を怠るな!」


 オオシマ艦長の怒声がこの狭い艦橋内にこだまする。だが、さっきからこのベテラン艦長は、警戒を呼び掛けてばかり。肝心の敵艦隊は、一向に現れない。


 おかしいな……本当に敵の艦隊は、現れないのか?考えてみれば、正面の主力艦隊を迎え撃つだけで精いっぱいのはずだ。こんなところに別動隊を派遣できるほどの戦力的余裕はないのかもしれない。

 すると我々はもしかして、ありもしない敵に警戒し続けているだけなのか?ジラティワット大尉の進言通りなのかもしれない。そう考え始めたものの、やはり僕は敵出現の可能性に備え、警戒を続ける。

 そしてついに、変化が起こる。


「ここです、ここにいますわ!」


 ついに、ダニエラの「神の目」が何かを発見する。オオシマ艦長がレーダー担当に命ずる。


「指向性レーダー、照射!」

「了解、指向性レーダー、照射します!」


 ダニエラの指摘したポイントに向けて、指向性レーダーが照射される。果たしてそこに、反応がある。


「レーダーに感! 艦影多数、距離120万キロ! 数、およそ100!」

「光学観測! 艦色視認、赤褐色! 連盟艦隊です!」


 ついに現れたな。思った通り、潜んでいやがった。僕も全艦に命ずる。


「全艦、前進! 敵の別働隊を排除する!」


 我が艦隊も動く。この敵の別働隊は、やはりこれまで2度交戦した敵と同様、通常のレーダーには映らない。実に不可解なことだが、今はその事実を受け入れるしかない。

 連盟だって、かれこれ200年以上も我々、地球(アース)001相手に戦い続けている。我々の知らない技術を開発していてもおかしくない。常に我々の方が有利であり続けるとは言い切れない。

 そう考えるからこそ、僕はその次世代への備えとして「決戦兵器構想」を提唱した。いつまでも同じ兵器、同じ戦術で戦い続けられるという保証はない。現にその200年以上前には、我が地球(アース)001は他の地球(アース)を圧倒する、この宇宙で唯一の存在だった。が、それは覆され、今の宇宙を2分する事態を招いてしまった。


 今度だって、もしかするとそのときの再来かもしれない。その歴史の転換点に、僕らは立たされているのかもしれない。今から10年、20年後には、この戦いが宇宙の歴史のターニングポイントだと記録されてしまう時代がくるかもしれないのだ。うかうかなんて、していられない。


 しかし、連盟軍の最新兵器に、我々は古代文明並みの星から連れてきた一人の能力者で対抗する。仮にもこの宇宙で最先端の技術を持つと自負する我が地球(アース)001の、その最新鋭艦だけで組織されたこの艦隊が、である。


 敵別働隊への接近を続け、距離が55万キロになったところで変化がある。ついに両艦隊の主力同士の闘いが始まった。


 遠くに、青白い光の筋が無数に飛び交うのが見える。互いに死力を尽くす総力戦が、僕らの70万キロ後方で繰り広げられている。

 こちらも、あの戦いに負けてはいられない。目の前の敵を撃滅し、この戦いの勝利に貢献する。それがこの新鋭艦隊に課せられた使命だ。


 敵艦隊に接近を続ける我が第8艦隊300隻。距離は残り50万キロを切る。前方の100隻はまだ動かない。電波管制をしているせいだろうか?こちらの接近に気づいていないようだ。奇襲部隊のくせに、奇襲される羽目になろうとは、皮肉なものだ。


 だが、僕は急に違和感を感じる。嫌悪感、と表現する方がいいか。うまく言えないが、あまりにも出来過ぎた今の状況に、僕の直感が何かを訴える。

 今、第8艦隊が捕捉する敵は100隻。この奇襲部隊の向かう先は、2万隻の艦隊。

 つまりあの100隻は、我々の主力艦隊を襲撃するために送り込まれた艦隊、ということになる。

が、いくらなんでも少な過ぎやしないか?2万隻への奇襲に、たったの100隻……?

 僕は叫ぶ。


「全艦、急速反転! 180度回頭!」


 僕の命令に、ジラティワット大尉が反論する。


「閣下、敵は正面にいます! 何ゆえ反転など命じるのです!?」

「大尉、貴官に問う! 後方とはいえ、2万隻の艦隊にたった100隻で立ち向かえば、どういうことになるか!?」

「それは……即座に反撃されて、すぐに消滅するものと思われます」

「その通りだ。つまりあれは、奇襲部隊本隊ではなく、陽動部隊なのではないか?」


 ジラティワット大尉は、僕の意図を理解する。


「まさか、我が第8艦隊を引き寄せるために……」

「分からないが、その可能性が高い。つまり、敵の別働隊は別にいる。そう考えるのが妥当だ」

「了解です、全艦、一斉反転! 直ちに艦隊主力後方に向かいます!」


 通信士が、司令部の命令を伝える。仮に僕の勘違いで、あの100隻しかいなかったとしても、それは十分に引きつけてから対処しても問題ない数の艦隊だ。だがもし、1000隻レベルの敵艦隊が迫っているとしたら……


「ダニエラ上等兵! 何か怪しいものは感じないか!?」

「いえ、何もございません!」


 ダニエラの神の目でも捉えられない。やはり、考え過ぎか? しかし僕の直感は、何かを捉えている。

そしてその不安感は、ますます強くなる。

 その直感は、悪い形で現れる。


「レーダーに感! 3時の方向、距離53万キロ、総数1000隻!」


 しまった。なんてことだ、ダニエラが捉えられなかった敵の別働隊が、突如現れる。

 その1000隻は、すでに味方主力の後方31万キロまで迫っていた。まずい、完全に不意を突かれた。


「全艦、全速前進! 敵の奇襲部隊本隊を迎撃する! 急げ!」


 300隻は、一斉に全力運転に転ずる。こちらの射程は45万キロ。あと8万キロ接近できれば、敵の奇襲部隊に攻撃できる。

 が、こういう時に限って、このポンコツはその負の本領を発揮してしまう。

 ガクンという音と揺れが、艦橋を襲う。そして、聞きたくもない報告が、機関室からもたらされる。


『機関室より艦橋! 左機関、熱暴走! 出力大幅低下!』


 僚艦から遅れ始める。僕はすぐに指示を出す。


「全艦に伝達! 本艦に構わず、敵別働隊に接近、これを攻撃せよ!」

「艦橋より機関室! 冷却作業、急げ!」


 僕の艦隊への命令と、艦長の命令とが錯綜する。艦隊旗艦がポンコツでは、こういう時に困る。

 だが、2万隻の後方は今、まったくの無防備だ。残りの299隻だけでも早く向かわせないと、大変なことになる。

 だが、ついに戦闘が始まってしまう。


「高エネルギー反応! 砲撃が開始されます!」


 ああ、間に合わなかったか……そう思っていた我々に、意外な報がもたらされる。


地球(アース)042の艦艇300隻、敵別働隊に向けて、砲撃を開始!」


 突然、味方の艦隊が、あの敵別働隊主力に向けて先制攻撃を仕掛けた。だが、いつの間に味方は、別働隊を察知していたのだ?


『どけどけぇ!』


 こちらでは、レティシアがいつものように機関室に駆け込んでいる。機関長を怒鳴りながら、冷却作業に入る。

 一方で僕は、ダニエラがあの1000隻を捉えられなかった事実を考察していた。何ゆえ、ダニエラの「神の目」は、あれを見逃したのか?

 そこで僕の脳裏に、急にある考えが浮かぶ。僕は叫ぶ。


「ジラティワット大尉! グエン准尉に連絡!」


 僕のこの突然の指令に、驚く大尉。


「あの、閣下……主計科の士官に、何と?」

「急ぎ艦橋に、鏡を持ってこいと伝えよ!」

「は? か……鏡、ですか?」

「復唱は!」

「了解です! グエン准尉に、鏡を要請します!」


 僕の勘が正しければ、これで問題は解決する。機関の冷却が完了し、再び追撃が再開される頃、グエン准尉が飛び込んで来た。


「閣下! 鏡を持って参りました!」


 小さな手鏡だが、それを僕は確認し、命ずる。


「グエン准尉、ダニエラ上等兵にこれを!」

「えっ!? あ、はい!」


 いきなりグエン准尉から手鏡を渡されて、キョトンとするダニエラ。


「ヤブミ様、(わたくし)の美しい顔を映すために、わざわざ鏡など……」

「違う! 鏡から何か見えないか!?」


 それを聞いたダニエラは、ハッとする。そして鏡を覗き込み、僕にこう告げる。


「み、見えます! まるで大きな雲のような影が! この船の真正面です!」


 うっかりしていた。そうだった、ダニエラの「神の目」は、鏡を介して発動するものだった。だが前回、レーダーサイトの表面の反射で敵を捉えたから、あれを使えば良いと勘違いしていた。

 言ってみれば、反射率の悪い、くすんだ鏡をダニエラに使わせていたようなものだ。霧の中で艦隊を見つけ出せと言っているようなものだ。いくらなんでもそれは、無理があった。


 正面では、地球(アース)042の300隻が、1000隻の敵艦隊を足止めしている。だが、さすがに3倍以上の兵力差。次第に押されていく。そこでようやく我が第8艦隊艦隊も、敵の奇襲部隊を射程に収める。


「全艦、砲撃開始!」


 先行していた299隻がまず砲撃を開始する。1000隻の敵は、我々に側面を晒している。回避運動をするも、何隻かが沈む。

 まもなく我が艦も、敵を射程に収めつつあった。そこで僕は艦長に告げる。


「オオシマ艦長! 特殊戦用意!」


 どうやら艦長も、僕がそう言うだろうと予想していたようで、すぐに指示を出す。


「艦橋より砲撃管制室! 特殊戦用意!」


 敵は我々に対して、側面をさらけ出している。しかもこちらはアウトレンジ攻撃が可能な位置にいる。このタイミングで、「切り札」を使わずしてどうするのか?


『機関室より艦橋! 機関への特殊戦用伝達回路、接続! 特殊戦用意、完了!』

『砲撃管制より艦橋! エネルギー充填開始!』


 僅か20秒で準備が完了する。この砲撃の実戦使用もすでに4発目。慣れてきたようだ。慣性制御が切られ、重力がなくなり身体がふわっと浮き上がる。

 そういえば、ダニエラは席についていない。レーダーサイトの横に立っている。ふわっと浮き上がり、危うく天井までが飛んでしまうところだった。それをグエン准尉が慌てて引き寄せ、端の席へと連れて行く。


「艦橋より砲撃管制室! 操舵手と砲撃手を交代!」


 オオシマ艦長が、前回と同じ体制を指示する。カテリーナが、操舵手の席に着く。装填完了まで、あと2分。

 正面の窓には、交差する砲撃のビーム光が見える。一方、ダニエラは持っている手鏡で自分の顔を映してにやけている。何をしているんだか。

 だが、ダニエラは鏡を見ても、特に反応はない。つまり敵の別働隊は、正面の1000隻と、我々の後方にいる100隻のみ。他にはいないようだ。

 敵はすでに30隻を失っている。が、依然として攻撃を続けている。だが、ついに特殊砲撃の準備が整った。


『砲撃管制室より艦橋! 充填完了!』

「よし、砲撃開始、撃てーっ!」


 艦長の号令とともに、砲撃が開始される。窓の外は、光で何も見えなくなる。10秒という短くも長い砲撃が続く。

 この瞬間にも、敵の艦艇が何隻も消えているのだろうな……そう思うと、あまり使いたくはない攻撃だが、ここでやらねば我々の主力艦隊がやられる。

やがて光が消えて、すぐさま敵艦隊の観測が行われる。

 その砲撃観測員のもたらす報告に、一同は驚愕する。


「敵艦隊、多数消滅! 数、487隻!」


 言葉を失った。たった一撃で、別働隊の半数が消滅した。つまりこの1発で、約5万名の乗員を宇宙から消し去ってしまったことになる。恐るべしカテリーナ。さすがの敵別働隊も、この攻撃を受けて後退を始める。

 この砲撃を見て、主力艦隊の方にも動きがある。敵が後退を始めた。別働隊の壊滅は、まったく予想外だったのだろう。作戦は失敗し、戦闘を続ける意味がなくなってしまった。そんなところか。

 そしてそれから30分の追撃戦の後、戦闘は終結する。


 後で分かったことだが、あの1000隻を、地球(アース)042の旗艦に乗り込んだサマンタが捉えていた。そこで地球(アース)042艦隊は、300隻をその迎撃の任に当たらせた。我が第8艦隊が到着するまでの足止めのために。


 結果として我が連合側2万隻は、1人のパン職人と、その娘が持つ石板とオリーブオイルによって救われた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軍事的にはレガーロという正体不明なものより、謎ステルスのほうがおっかないですよね。 各種センサー類の探知を潜り抜けるとなると、…思い付かですね。意外とローテクな段ボールをかぶってとか?
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