#199 改良
「ヤブミ提督!お待ちしておりました!」
妙に元気なこの士官は、魔石エンジンのテスト継続が決定して有頂天な、モハンマド大尉だ。
なんでも、前回の反省を踏まえて、魔石エンジンに改良を施したというのだ。それで、僕は再び0001号艦のいる修理ドックに立つ。
「……で、状況はどうなんだ?」
僕があまりにぶっきらぼうに応えたせいか、モハンマド大尉の表情が変わる。
「えっ!?あの、提督、魔石エンジンの試行継続は、決定されたんですよね!?」
僕の態度が、あらぬ不安を与えてしまったようだが、こればっかりは仕方がない。個人的には、魔石エンジンのテスト継続は、面倒ごとを押し付けられたという思いしかない。
「いや、決定は覆されていない。で、その魔石エンジンの改良状況を聞きたいのだが」
「はっ!極めて順調でよ、提督!」
テストもしていないのに、順調と言い張る大尉。何を根拠に、ここまで自信満々なのだろうか?
「まずはですね、レティシア殿が魔石に触れやすいように改良してみたんです」
と、いきなり爆弾発言から始まる。それを聞いたレティシアが、反論する。
「おい!俺はもう二度と触らねえぞ!冗談じゃねえ!」
「ああ、レティシア殿!大丈夫ですよ、改良はこれだけではないんです!」
「それじゃあ聞くが、他に何を変えたっていうんだ?」
「はい、マリカ中尉に相談して、あの魔石にある一定量のエネルギーを貯められるようにしたんです」
「魔石に、エネルギーを貯める?どういうことだ?」
「はい、聞けばレティシア殿は、魔石に体内のエネルギーを大量に吸われてしまったとのこと。ならば、ある程度のエネルギーが魔石内にあれば、あれほどひどい状況には至らなかっただろうと推測されます」
「確かに、マリカ中尉はそんなようなことを言っていたが……だが、どうやって魔石にエネルギーなど込めるというのだ?」
「簡単にいえば、暖機運転をするのですよ。出港前に、魔石エンジンを始動しておく。すると空間中からどんどんとエネルギーを取り込みますから、艦を動かさない限り、エネルギーはどんどんと貯まることになります」
なるほど、確かにその通りだが……いや、待て。大尉の提案は、なにやら危険な香りがするぞ。僕は尋ねる。
「モハンマド大尉、確かにそれで魔石にエネルギーは貯まるだろう。が、魔石内にエネルギーを貯め続けることは、大丈夫なのか?」
「いえ、多分、大丈夫ではありませんね。おそらく無限に貯めることは不可能ですから、ある一定量に達した途端、爆発するでしょうね」
「おい……この艦は、旗艦だぞ?そんな危なっかしいものを施すなど、言語道断ではないのか?」
「前回の暴走時で耐えたエネルギー量を上限として、それを超えそうな時に警報を鳴らすようにいたしました。あの時でさえ、3分は耐えましたからね。思いの外、魔石にはエネルギーの貯蔵能力があるようです」
さらっと言ってのけるモハンマド大尉だが、これは旗艦に爆弾を抱えているようなものだ。つまり一言で言えば、今後はその3分間貯蔵した分以下の余裕しかないと言っているようなものだ。
「さらにですね、特殊砲撃用の回路を、最初から魔石エンジンに接続いたしました」
「なんだ、それでは魔石エンジンからしか、特殊砲撃の装填が行えないということか?」
「いえ、繋ぎ変えれば、従来機関からも可能です。ですが、万一の暴走再発時に、最初から接続しておいた方が都合がよろしいかと思いまして」
モハンマド大尉からすれば、他人事なのだろうな。あれが暴走した時の恐怖、特殊砲に頼らねばならないほど追い込まれることへの後ろめたさ、そういう現場の実感が欠けていることは、彼の言動からは感じられる。
とはいえ、魔石エンジンのテスト運用が継続されると決まった以上、なんらかの対策を施さないわけにはいかない。この短期間に、ここまでのアイデアをぶち込めるだけの実力を、モハンマド大尉は持っている。そこは、評価せねばなるまい。
「ところでこの対策は、他の艦艇への横展はされているのか?」
「はっ、もちろん。といっても、魔女がいるわけではないですし、特殊砲を持たない艦艇もあるので、そのままというわけにはいきません。万一の暴走時には、自動警報システムと、通常砲からの放出で対処するしかないかと考えてます。ただし、1発で主砲が使い物にならなくなるでしょうが、艦が自爆することを思えば、大したことではないでしょう」
さらっと不謹慎なことを言い出す技術士官だな。それを他の艦の乗員に聞かせたら、騒動になるぞ。
魔石エンジンの継続使用が決定されて一週間が経つ。レティシアの胃もたれも治り、この大戦艦の中で、日常を取り戻しつつあった……って、なんか妙な言い方だな。
ともかく、その間にも、魔石エンジンの改良が進められていた。マリカ中尉とモハンマド大尉が考え、そのアイデアはすぐに折り込まれる。
その間、僕はといえば魔石エンジンの安定的運用の方策について、その対処法を求められている。それを宇宙軍最高司令官総司令部に送付しなければならない。って、継続を決定したのは、その総司令部じゃないか。なんだってその総司令部に、僕が魔石エンジンの安定運用を保証しなくちゃならないんだ?僕がダメだと言ったら、その決定は覆せるというのか?
とはいえ、総司令部では下っ端の僕が、そんなことを言い出せるはずもなく、大将閣下以上を納得させるだけの何かを送らなければならない。そのために僕は今、ここにきてモハンマド大尉に意見を求めた。そういうことだ。
「はぁ〜、これから機関室では、あれをみなきゃいけねえのかよ。俺の胃袋を破壊し損ねた、あの赤い石をよ」
ぶつぶつと愚痴るレティシアに、リーナが口を開く。
「何をいうか。魔石如きに負ける胃袋など、持っている方が悪いのだ」
「といってもよ、胃袋ってのは、換えが効かねえんだぜ?どうやりゃあ、魔石に勝てる胃袋を手に入れられるっていうんだよ」
「簡単だ。鍛えればよい」
「鍛えるって、どうやって?」
「食う!ひたすら、食う!」
なんだそれは。つまり、普段リーナがやっていることを、レティシアもやればいいと、そういうことなのか?だがそれは、僕にとっては単に食費が跳ね上がるだけのことになる。そういうのは、やめて欲しいなぁ。
そんなわけで、出発はさらに2週間、延期されることとなった。我が0001号艦だけでなく、他の艦艇も同時に改修を行うためだ。
「あと、2週間かぁ……どうせなら、ナゴヤの方がよかったな」
「そうだな。ひつまぶしを久しぶりに食べたくなったぞ。おい、カズキ殿、ナゴヤにはいつ戻れそうなのだ?」
そんなこと、僕が聞きたい。というか、魔石エンジンなんて積んでる艦隊に、地球001が入港許可なんて出してくれるんだろうか?あのアルゴー船の一件があるから、そもそも太陽系に入ることすら許可されないかもしれない。
ああ、そういえばフタバのやつ、どうしているんだろうか?ナゴヤでバルサム殿と、仲良くやっていればいいのだが。
ここ白色矮星域から地球001までは、7000光年離れている。が、距離のわりに、長距離ワープの経路が2つもあるため、意外と近い。帰ろうと思えば、最短で2日もあれば帰投できる。
次にナゴヤに帰れるのは、いつのことだろうか。なんやかんやとこれまでは、3か月おきくらいでひょいひょいと帰っていたのだが、これからはそうはいかないだろうな……そう考えると、ただ単に僕は、厄介ごとを押し付けられただけのような気がしてならない。
帰りのリニア列車の中では、相変わらず多量の弁当を買い込んでそれを食い続けるリーナと、その様子をいつも以上に怪訝な様子で伺うレティシアの間に僕は座る。
「ほへはうはいあ!ほい、はふひほほ!」
食いながら話しかけてきた時は、僕は応じないことにしている。これもしつけの一環だ。この品のない皇女に、少し食事の時の礼儀というものを理解してもらわないと困る。
「しかし、よく食うなぁ。それで一度も胃を壊さねえんだから、大したもんだぜ」
「当たり前だ!伊達に魔物と戦い続けてはおらんぞ!」
いや、魔物と戦っても、胃袋は鍛えられないだろう。そっちは別の理由があるはずだ。
で、その調子で1時間ほど列車で揺られていた後、第2ゴンドワナシティーに到着する。到着し、ホームに降りると、後ろから声をかけられる。
「提督ではありませんか!」
この迫力のある声の主、僕はそれが誰なのか、すぐに察する。
「……なんだ、ドーソン大尉か。それに、ザハラーも」
「はっ!つい先ほどまで、0001号艦のドックに向かっておりましたもので!」
「そうだったのか?僕らも今、まさにドックから帰ってきたところなのだが……全然、気づかなかったな」
「それは提督の筋肉が足りないからですよ!鍛えたもの同士ならば、すぐに分かり合えるというものです!」
相変わらずの脳筋思想だな。そんなわけがないだろう。どうやったら、筋肉で互いの存在が分かり合えるようになるというのだ。
「弁当、美味かった!」
と、そこでザハラーが、まるで空気を読まない発言をする。が、それに共鳴する奴がいる。
「おう、ザハラー殿!特にハンバーグ幕の内というやつは、なかなかの絶品であったな!」
「そう!ハンバーグ幕の内、美味い!」
リーナとザハラーは筋肉ではなく、胃袋で語り合っている。我が艦の、いや、我が艦隊の3大胃袋と呼ばれた者同士、分かり合えるのだろう。2人の笑顔が、眩しい。
「で、どうしてドーソン大尉が、0001号艦などに出向く必要があるんだ?」
「はっ!なんでも、魔石暴走に備えて、ブリーフィングを行っていたのですよ」
「ブリーフィング?」
「はっ、私とデネット、それに哨戒機パイロットのサウセド大尉殿を加えて、3人で格納庫にてその手順について議論しておりまして」
ドーソン大尉から、議論という言葉が出ること自体、珍しいことだ。しかし、魔石が暴走した際に、パイロット3人で何ができるというんだ?
「それで、どういう結論になったのだ?」
「はっ!もし魔石が手がつけられないほど暴走した際は、左機関室のシールドを強制排除し、人型重機にて魔石をひっぺがして放り投げよう、ということになりました」
「……大丈夫なのか?」
「はっ!哨戒機にくくりつけて、2分以内に10キロ以上先に投げつければ、多分大丈夫だろうというのが、マリカ中尉の見解でした!」
と、いうことは、マリカ中尉もあそこにいたのか。考えてみれば、デネット大尉がいるくらいだからな。マリカ中尉も同席していたとしてもおかしくはない。ということは、もしかするとここでばったりと顔を合わせてしまうかもしれないということか?
が、あまりに人が多く、とても探し出せるとは思えない。別に、探すつもりもない。ドーソン大尉らと出会ったのだって、ものすごい偶然だ。
そのドーソン大尉が、こんなことを言い出す。
「提督、手羽先の店に行きませんか?」
僕は思わず、聞き返す。
「えっ!?手羽先の店なんて、あるのか!?」
「ありますよ。決まってるじゃないですか」
いや、ある方が異常だろう。ここは地球001、いや、宇宙随一の大戦艦だ。その大戦艦に、手羽先の店などあるというのか?
「手羽先、美味い!」
だが、ザハラーの反応を見る限りは、どうやら本当にその店が存在するのは確かなようだ。だが、僕が調べた限りでは、そんな店なんてなかったはずだが。
「ドーソン大尉よ、一体どうやって、手羽先の店など見つけたのだ?」
「筋肉ですよ!筋肉!」
そんなわけがない。その理屈はおかしい、いや、理屈すらない。論理的に破綻している。
「……というわけではもちろんなくてですね、歩いていたら偶然、見つけたのですよ」
「な、なんだ、そうなのか」
「というか、ザハラーがわずかな匂いを嗅ぎつけて、その店にたどり着いたんですがね」
なるほど、ザハラーの手柄か。しかし、よくこんな込み入った街で、手羽先の匂いなど嗅ぎ分けられたものだ。鳥追い人だった頃の名残か?
「そうか、ここでも手羽先の食える店があるのだな。しかし、よくそんなところを見つけたものだ」
「我、手羽先、好き!絶対見つける!」
リーナの問いに、ザハラーはこう応えるが、好きだから見つけたというのであれば、レティシア辺りが真っ先に見つけていそうなものだ。やはり、野生児の勘というやつが作用したことは、疑いようがない。
で、辿り着いた店だが、僕とレティシアは、その外観を見て驚愕する。
「ほほう……なんとも、独特の外観だな」
リーナがそう評するこの店の外観は、独特なんてものじゃない。これは、どう見てもインド料理の店だ。少なくとも僕とレティシアは、この外観からそう読み取る。
「なあ……本当にここに、手羽先があるのか?」
「ある!ザハラー、嘘つかない!」
いや、嘘をついているとは言っていないが、とても信じられない。ともかく僕らは、その怪しげな店に入る。
「いらっしゃい!お、ザハラーちゃんでねえか!」
「いえーい!」
「おお、本当だ!ザハラーちゃんだ!」
店に入るや、なぜか店員らから熱烈に歓迎されるザハラー。店内に見えるのは、ナンに小さな器に入ったカレー、そして、チャイと呼ばれるミルクティー。
とてもじゃないが、手羽先など見当たらない。だが、ドーソン大尉とザハラーは、臆することなく奥へと進む。
「ええと、ザハラーちゃん、お連れの方は、どちら様なんで?」
店主と思われる人物が、僕の服装を見て、ザハラーに尋ねる。しばらく、僕をじっと眺めた後、ザハラーはこう応える。
「主人!」
それを聞いた店主が、慌てて聞き返す。
「いや、ザハラーちゃんの主人は、こっちの筋肉男じゃなかったんか!?」
「違う!こっち、船の主人!」
艦隊司令官と言いたいのだろうが、そういう単語を、ザハラーは持ち得ていない。そのやりとりを聞いていたリーナが、割って入る。
「ああ、こちらは第8艦隊司令官のカズキ殿と申す」
「えっ!?艦隊司令官!?」
「そうだぜ、こう見えてもこいつ、1000隻の船を率いる偉い奴なんだよ」
リーナとレティシアもフォローするが、なんだか雑なフォローだな。
「いやあ、なんだってそんな偉い人が、こんなところへ?」
「おう、手羽先が食えるって聞いたからよ」
「ああ、なんだ。司令官閣下は、手羽先を食べに来たんか。あるよ、手羽先」
「ほ、ほんとか!?だけどよ、ここはどうみてもインド料理の店じゃねえのか?」
「そうよ、インド料理だけどよ、手羽先もあるんよ」
確かにこの店主、手羽先と言っている。が、どうしてインド料理の店に、手羽先がある?
ともかく僕らは、奥の席に座る。そこで注文を尋ねる店員。
「ええと、何になさいますね?」
「そうだなぁ……手羽先は当然として、他に何があるんだよ?」
「当店のおすすめは、キーマカレーだねぇ。あ、チキンカレーも美味いよ。ザハラーちゃん、大好物だね」
「我、チキンカレーと、手羽先!」
「おう、俺も同じだ!」
鳥三昧な注文をするザハラーとドーソン大尉だが、リーナも負けてはいない。
「それじゃあ私は、手羽先にチキンカレー、ついでにそのキーマカレーというやつもだ!」
「んじゃ俺は、手羽先にキーマカレーかな。ああ、あとサラダも頼むぜ!」
で、僕もレティシアに合わせて、キーマカレーと手羽先を頼む。店員が奥に戻ると、僕は店内を見渡す。
うーん、やっぱりどうみても、インド料理屋だ。察するに、手羽先と言っても、いわゆるナゴヤの手羽先唐揚げではなく、手羽先を使った照り焼きチキンのような料理ではないのだろうか。だが、手羽先に親しんだザハラーが、そんな初歩的な違いを見抜けないはずがないのだが……
と、考えているうちに、その手羽先が届く。
「……ほんとだな、おい。まごうことなき、ナゴヤの手羽先だぜ」
ナゴヤ育ちの魔女が、太鼓判を押すほどの、見事な手羽先だ。僕もそれを手に取る。甘辛く、ゴマの混じった独特のタレに浸されたそれを、僕はいつもの作法で口に入れる。
ああ、間違いない。ナゴヤ風の手羽先だ。その直後に運ばれてくるナンとカレーのセットに違和感を覚えるほど、その手羽先からはナゴヤの香りがする。
「う、うめえ……まさか、こんなところで手羽先に巡り会えるとは、思ってもみなかったぜ」
レティシアがそう絶賛するほどの完成度の手羽先だ。しかしなぜ、手羽先だけがこうも「ナゴヤ」なんだ?
「あの、店主よ。どうしてナゴヤの手羽先があるんだ?」
僕は通りかかった店主に尋ねる。するとその店主は応える。
「ああ、簡単だよ。私、ナゴヤにいたからねぇ」
「えっ!?ナゴヤに!?」
「大須観音のすぐそばで、インド料理の店をやってたんよ。だけど私、この手羽先に出会ってよ、こいつをどうにか作りてぇって思ったから、隣の店に修行に行ったんよ」
「はあ、隣の店に……」
「同業者だもんで、最初は断られたんだけどよ、私が熱心に頼み込んだら、そのうち作り方を教えてくれてよ。んで、それからいろいろあって、この戦艦ゴンドワナに来ることになったんよ」
ナゴヤ、それもオオスで店を構えていた、インド料理屋の店主は、手羽先修行をしていた。情報量が多過ぎて、どこから突っ込んだらいいのか分からない。
「へぇ、てことはあんた、オオスにいたのか」
「なんでぇ、お客さん、ナゴヤの人か?」
「おうよ、俺はナゴヤのオオス育ちなんでぇ。で、ザハラーから手羽先が食える店があるって聞いたからよ。そんで、ここにやってきたってわけだ」
「おお!!ナゴヤの、それもオオスから来たんね、あんた!そりゃあ大歓迎だわね!」
店内は、大いに盛り上がる。それからはもう、ナゴヤ談義で盛り上がる。
「そうなんよ、うちに店の前にも、大須観音の鳩がぎょうさん来とったわ!」
「あいつら、図々しいよな、ほんとに。食えるもんなら、手羽先にして食っちまいたいくらいだぜ!」
「それがよ、油断してるとあいつら、手羽先を食うんですぜ」
「なんでぇ、それは?共食いじゃねえか」
なぜ、鳩の話題で盛り上がれるのか、よく分からないが。レティシアと店主が、意気投合している。
「ほーん、そんであんたは、この大戦艦に来たっていうのか?」
「そうなんよ。宇宙で店を持つってのが夢だったからよ。別れ際に、隣の店の店主が泣いて送り出してくれてよ。だから私、宇宙でその店の手羽先を広めてやるって、宣言したんよ」
「なるほどねぇ、そんなことがあったのかよ。それじゃ今度、ナゴヤに戻ったら、その店に行かねえとな」
一期一会。しかし、この大宇宙の、しかも大戦艦の真っ只中で、まさかナゴヤの話で盛り上がるとは思わなかった。人の繋がりは、7000光年をも超える。そのことを痛感させられる。
「おい!このキーマカレー、おかわりだ!」
「おかわり、いえーい!」
一方で、リーナとザハラーはといえば、あいも変わらずよく食べる。せっかく僕が、この広い宇宙の中での偶然の出会いに接して感無量だっていうのに、どうしてこうもお構いなく胃袋力を振り撒いていられるのか?
巨大戦艦の中の広大な街の一角で食べる手羽先の味は、しばらく離れているナゴヤを思い出させる。そういえばフタバのやつ、元気にしているだろうか?ツンとしたカレーの香りと、その甘辛いタレの手羽肉の唐揚げの匂いを感じながら、僕はふと、故郷に想いを馳せていた。




