#191 アーミーパーク
考えてみればここは、大戦艦の中だった。つまり、バリバリの軍事施設だ。
そんな軍事施設の只中にあるテーマパークが、普通であろうはずがない。
『さあ、君はここから、生きて帰ることができるかな!?ハハッ!』
動物姿に、連合側の標準軍服を着込んだ不可思議な着ぐるみが、物騒なことを口走って出迎える。そう、ここは「ゴンドワナ・ランド」。艦内では別名「アーミーパーク」などと呼ばれているらしい。
なお僕とナイン大尉は、軍服姿でやってきた。出迎えたあのネズミ風のキャラクターは、飾章から察するに少尉のようだ。階級が上の僕らに向かって、敬礼する。僕らも、返礼で応える。
クチコミ通りだな、軍属の男で、中尉以上の男性はここに来る際、軍服は必須だと書かれていた。なお、私服で来た場合は「二等兵」扱いとなるらしい。入場と同時に、いきなり腕立て伏せ100回だ。このテーマパークは、一般客にそんなことをやらせるのか?狂ってやがる。なお、女性の場合は、軍民問わず、ごく普通の扱いをされる。なんという理不尽。
そんなおぞましいキャラの出迎えをクリアすると、そこは華やかな出店が並ぶアーケードに出る。ここだけを切り取れば、ここは地上の……じゃない、宇宙の楽園だ。リーナとカテリーナが、揃ってその店に突撃する。
「ほひ!ほへはうはいほ!」
ケチャップを塗りつけたアメリカンドックに齧り付いtまま、何かを叫ぶリーナ。おいリーナ、赤いケチャップが飛び散っているぞ。なお左手には、チュロスを握っている。
「なんでぇ、アーミーパークなんて呼ばれてるから、どんなところかと思ったけどよ、思ったより普通のテーマパークじゃねえか」
レティシアは若干、拍子抜けのようだ。だが、入り口で腕立て伏せをさせられている男どもの姿を見ただろう。あれが、果たして普通なのか?
「奥、行きたい!」
なぜかいつもよりもテンション高めなカテリーナは、ナイン大尉の腕をグイグイと引っ張る。僕らも、そのカテリーナにつられて奥へと進む。
だが、アーケード街を一歩出ると、このパークの本性が姿を現す。
まず、我々の目の前に現れたのは、レールだ。そしてそのレールの上には、重厚なシートに、太く頑丈そうなベルト、そして禍々しいロールバーが取り付けられた台車が一台、目に飛び込む。
明らかにそれはジェットコースターなのだが、なんだろうか……幾多の戦場を切り抜けてきた僕の感性は、その遊具から漂うただならぬ気配を感じている。
「おう、ジェットコースターじゃねえか」
その尋常ならざるコースターに、関心を示すレティシア。
「なんだ、ジェットコースターとは?」
「あれに乗るとよ、とんでもなく怖え速度ですっ飛んでいくんだ。で、そのスリルを味わうんだぜ」
「ほう、面白そうだな」
リーナが興味津々だ。しかしリーナよ、今の話の、どこら辺に面白いと判断できる要素があるのか?
「おいカズキ、これに乗ろうぜ」
「はぁ!?お前、こんなものに乗るのか!?」
「なんでぇ、男のくせにだらしねえな」
「いや……だらしないとか、それ以前の問題だろう」
僕は当然、拒絶する。だが、ナイン大尉が想定外の発言をする。
「いや、面白そうですね。私も乗ります」
「じゃあ……私も」
カテリーナとナイン大尉が、レティシアに同調する。リーナの心は、すでにあのコースター台車の上にある。
となるともちろん、僕に拒否権はない。
気づけば、そのジェットコースターの乗り場に入っていた。
『さあ!地獄の始まりだよっ!君はどこまで耐えられるかな!?ハハッ!』
嫌なキャラクターだな。こいつ、テーマパークのマスコットキャラのくせして、客を殺しにかかっていないか?どことなく光が感じられないその冷徹な瞳を、僕は恨めしそうに睨む。
そこに、先行する台車が帰ってきた。乗っている乗客は8人。皆、血の気を感じない顔に、脱力した身体、文字通り、地獄を通り抜けて帰ってきた人々が、まるでゾンビのようにそのコースターを降車する。
で、そのコースターがガタガタと音を立てて奥に向かい、奥でぐるりと転回した後、我々の目の前に滑り込んでくる。
そう、今度は我々が、地獄を味わう番だ。
「おっしゃ、乗ろうぜ!」
先ほどの客の瀕死の表情など気に求める様子がないレティシアが、リーナやカテリーナ、ナイン大尉を手招きする。そして、僕も乗り込む。
2人づつ隣り合った座席に、まずレティシアが乗り込む、その隣にはリーナ、すぐ後ろにはカテリーナとナイン大尉……あれ、僕は一人?その後ろには、一般客が乗り込んだ。
『ヘルシェイク・コースターへようこそ!帰ってきた時には、君の心と身体は、そろって帰還できるかなぁ?ハハッ!』
観客に向かって、呪詛のような一言を投げかけるその不吉なるマスコットの一言の後に、台車はゆっくりと動き出す。ベルトが、身体をぎゅっと固定する。
と、真っ暗なトンネルの中に潜り込む。と、その直後に、猛烈な加速度が前進にかかる。
真っ暗だが、ものすごい速度で走っていることが、顔を横切る風から感じ取ることができる。背中に脚、後頭部がシートクッションにめり込む。その加速度に耐えていると、目の前が急に明るくなる。
てっきり、前進していると思っていた。だが、我々が進んでいたのは、前ではなかった。
目の前に見えたのは、この街の天井にある太陽灯。我々はその太陽等に向かって打ち出されている。
そう、いつの間にかこのコースターは上に向かっていた。強烈な加速度が、前後上下の感覚を奪っていた。
「うぎゃーっ!」
悲鳴のような、歓喜のような、不可思議な叫び声が聞こえてくる。あれは多分、レティシアの声だ。しかしこのコースターは容赦無く、我々をあの太陽灯の間近にまで打ち上げる。
その太陽灯の熱を感じられるまでに接近した時、急にぐるりと向きが変わる。一瞬、頭上に地面が見えた。つまり僕らは、逆さまになっている。
おい……まさか、レールから台車が外れて、放り出されたのではあるまいな?そう錯覚するも、ギュンと辺りが回転して、再び太陽灯が視界に飛び込む。
が、すぐさま目の前に、地面が現れる。
その地面に向かって、我々の乗るコースターはフル加速を始めた。
おい、待て……ゴンドワナの街の天井は確か、高さ600メートルだぞ。まさか、そのほぼ600メートルを、真っ逆さまに下ると言うのか?
そのまさかが、僕の目の前で起こる。つんざくような風切り音など気にしている場合ではないほどの本能的な恐怖心が、僕の身体の髄から沸き起こる。
そして地面近くでギュンギュンと音を立てて旋回し、ガタガタと音を立てて急減速する。
ようやく我々は、地上へと戻ってきた……
まさに、地獄を揺さぶるコースター、ヘルシェイク・コースター。ああ、僕は思い出した。これ、航空隊用の訓練装置をほぼそのまま使ったアトラクションだ。
駆逐艦に搭載可能な航空機は2種類ある。複座機と呼ばれる超音速機と、哨戒機という6人乗りの機体だ。そのうち複座機パイロットは、慣性制御の故障に備え、耐G訓練を行う。その初期の訓練用機器が、まさにこれだ。
なんてことだ……軍用の訓練装置に、一般客を乗せるのか?僕は軍大学時代に一度だけ、その装置に乗せられたことがある。失神する者もいるというその過激な訓練装置の体験は、僕に航空隊への志願を思いとどまらせるに十分なほどのインパクトだった。
さすがのレティシアも、こんな過激なものに乗せられて、さぞかし後悔しているんじゃないのか?ホームに戻り、バーが上がってベルトが外れると、僕はすぐに立ち上がる。脚が、ガクガクと震えているのが分かる。
「いやあ、面白かったぜ!最高だなぁ!」
「なんという衝撃!空に投げ出された時、全身からどっと汗が吹き出してきたぞ!」
「……面白い……」
ナイン大尉は僕と同様に、すでに口を開く元気がないようだ。が、あとの3人は嬉々としてこの乗り物の体験をホームの上で反芻している。
なんだ、こいつらは?まさか、あの加速と高度を見せつけられて、まったく平気だというのか?信じがたいことだが、女子どもはどうやらこれが気に入ったようだ。
『どうだい、天国から地獄に叩き落とされた気分は!?けれど、ここはまだ一丁目だよ!ハハッ!』
複数のモニターに表示された、おぞましいセリフを吐くあのマスコットを、僕は殴りつけてやりたい気分だ。だが今はそんな元気すら、残されていない。
歓喜する女子どもの後ろを歩くうちに、僕とナイン大尉は回復していく。が、まだ完全ではない内に、今度はリーナが何かを見つける。
「ん?なんだこれは?」
「どうしたんだ、リーナよ?」
「いや、これは何かと思ってな」
そこにあるのは、古びた屋敷だ。無論これも、何かのアトラクションだろうことは疑いようもない。
そして、ろくなものではないことは疑いようもない。
「おう、面白そうだな。入ろうぜ」
こんなもののどこに面白そうだと思える要素があるんだ?レティシアの感性を疑う。が、3人の女子どもは皆、すでに入る気満々だ。
「いや、レティシア、わざわざ怪しげなところを選ばなくても……」
「このパークのどこに、怪しくねえところなんてあるんだよ。おら、行くぞ」
ある意味で、レティシアの言っていることは正論だ。見渡せば確かに、怪しくないところなど、入り口付近にあるあのアーケード以外はほぼ皆無だ。
ほんの少し向こうに見えるアトラクションは、加速度訓練用の遠心機を使ったものだし、その向こうには、一見するとボルダリング施設だが、登る客を上から狙い撃ちする狙撃手がいて、レーザー光の判定で当たると、そのクライマーの足場が消えて下に叩き落とされるという、えげつない訓練施設だ。もちろん、下には大きなクッションが敷かれているので問題はないが、傍目から見てボトボトと落とされるクライマーの姿を見るに、とてもここがエンタメ施設には思えてこない。
で、そんな場所のすぐ脇にあるこの古びた館がまともであろうはずもなく、嬉々として向かったレティシア達が入り口で渡されたのは、木刀だった。
『さて、諸君。ここから先は、ゾンビが支配する館。一体でも多くのやつらを倒し、無事に館を出られたなら、素敵な景品が待ってるよ!』
半分脅し、残りの半分には希望を匂わせたセリフを吐く、不気味なクマのマスコットの横を通り、その館に足を踏み入れる。ギシギシと軋む床の上を進む我々の前に、不可解な物体が姿を現す。
ほんのりと光る身体、それがホログラフィーであることはすぐに察しがついたが、そんな不気味なものがゆっくりとこちらに迫ってくる。それを見たレティシアが、手に持った木刀を振り上げる。
「要するに、こいつを叩っ斬りゃいいんだろ!」
木刀を振り下ろすレティシア、だがすぐに、レティシアは異変に気づく。木刀は、ゾンビをすり抜けただけで、相手は歩みを止めない。ホログラフィーだから当然なのだが、ならば一体、あのゾンビはどうやって倒せというのか?
おい、クマのマスコットよ、お前、大事なことを伝え忘れているぞ。あれは、どうやったら倒せるんだ。それを教えてくれなければ、対処のしようが……と、そこまで考えて僕は、ふと思い出したことがあった。
この宇宙には、想定外の生物や仕掛けが存在する。ゴーレムなどは、その一つだ。倒し方すら分からない相手に、何の前触れもなく遭遇することだってあり得る。
そうか、この施設はつまり、そういった未知なる存在との遭遇に対処するための訓練シミュレーターなのだろう。だから敢えて、ゾンビの対処法を教えてはくれない。追い詰められた状況下で、活路を見出せということか?
その趣旨は理解したが、そんなものを一般人にやらせるのか?いや、軍属といえど、艦隊司令の僕には、そんな訓練は必要ないだろう。なんてことをさせるんだ。
カテリーナやナイン大尉も、向かってくるゾンビに向かって、持っている木刀を振る。が、手応えがない。さっきまで余裕だったカテリーナの表情にも、焦りが見られるようになる。だが、本当にこのゾンビには、弱点などあるのか?
そして、その一体が僕に迫ってくる。僕は辿々しくも、その木刀を振り上げてこれに向かう。
が、その僕の脇からゾンビを突く一撃が飛び出す。一瞬にして、ゾンビは粉砕され、そして姿を消す。
「カズキ殿、そんな屁っ放り腰では、この連中は倒せぬぞ」
と言うのは、リーナだ。片手で握ったその木刀をさっと引き、すぐ脇に現れたゾンビをひと突き、一撃の下に、そのゾンビも消える。
ならば、僕も……と思い、脇に現れたゾンビを突いてみる。が、消えない。慌てて何度か突いていると、胸を突いたあたりでようやく動きが止まる。倒れるゾンビをもう一度突いて、ようやく粉砕することができた。
「甘いな!弱点に渾身の一撃、これが剣術の基本だ!」
いや、だから、その弱点とやらがどこにあるのか分からないんだよ。だから苦労している。僕だけなのだろうか、こんなに苦戦しているのは?と思い、辺りを見る。
すると、レティシアが青い顔をして木刀を振り回している。すでに3体のゾンビに囲まれて、しかしそれらを倒せず、壁際に追い込まれようとしている。
「ひええぇ!なんだこの気持ち悪いのは!」
そういえばこのアトラクションは、コンセプトはホラーだった。つまり、本来の女子はあのように血の気を失いながら慌てるというのが普通だ。が、それを見たリーナは、颯爽とそのゾンビどもを突く。たちまち消えるゾンビ、解放されるレティシア。
「お、おう、助かったぜ」
「何をいうか、まだそこらに多数いるぞ!ここを抜けるまでが戦いだ!」
考えてみれば、リーナはこれよりももっと厄介な魔物を相手に、幾度も戦ってきたわけだ。動きが鈍く、背丈ほどしかないゾンビなど、恐るるに足らず、といったところか。
カテリーナやナイン大尉も、リーナの戦いぶりを見て、どうにか包囲網を脱することに成功した。なおこのアトラクションは、3度襲われるとそこでゲームオーバー。景品は、貰えない。うーん、シビアだな。
が、我々にはあの生粋の女騎士様がいる。我が艦隊の戦乙女の一人と呼ばれるだけあって、驚異の強さを見せつける。
が、出口付近にて、大量のゾンビが現れる。全部で、20体は下らない。
目の前に出口があるのに、近くて遠いその光への到達を阻むのは、我々の数倍のゾンビ。リーナは奮闘し、我々も自身に襲いかかるゾンビどもを払い除けるが、一向に減る気配がない。
「ふええっ!こ、こっちに来るんじゃねぇ!」
レティシアは、すでに泣き顔だ。そもそもホラーものが苦手だったはずのレティシアが、どうしてここに入ろうと思ったのか?僕も理解に苦しむ。
カテリーナも、心を持たないもの相手の戦闘は苦手だ。それでも、ナイン大尉と共に善戦している。リーナも、次々に襲いかかるゾンビどもをバタバタと突き倒す。
だが、数が多過ぎる。
多勢に無勢、僕もすでに二度やられ、あと一度でゲームオーバー。リーナ以外は、皆同じだ。
考えてみれば、ただのゲームだ。そんなもののために懸命になる必要など……と、半ば諦めかけていた、その時だ。
僕に覆いかぶさろうとするゾンビに、後方から一撃を加える者がいる。
「お待たせしました、提督!」
振り返るとそれは、エリアーヌ准尉だった。そういえば彼女は、僕の護衛役だ。まさかこのタイミングで現れるとは。
「おい、エリアーヌ准尉!」
「はっ!」
「まさか貴官……ここまで、飛んで来たのではあるまいな」
「いえ、それはこのアミューズメントのルールに反します!当然、勝ち抜いてきたのですよ、提督!」
と言いながら、手に持った木刀を迫るゾンビに突き出す。そのコアを捉えたのか、次々に消えるゾンビども。
いや、お前普段、法を守っていないだろう。どうしてこういうどうでもいいところでは、律儀にルールを守ろうとするのか?
「やるではないか、エリアーヌ殿。ならば行くぞ!」
「承知です、リーナ様。コンビネーションプレイです!」
と言いつつ、2人は僕の左右に構える。真っ青な顔で突くレティシアの前にいるゾンビを、エリアーヌ准尉は一撃で倒す。
それを合図に、2人は一斉に飛び出す。バッタバッタとゾンビを倒すその2人の女戦士は、もはや敵なしだ。
エリアーヌ准尉は、特殊部隊の一員だった。地球760には、魔女の能力を活かした特殊部隊が存在し、数々の作戦に従事していると聞く。要人救出、海賊の拠点破壊工作、連盟支配圏内の航路情報奪取など、多くの戦果を挙げたいわば宇宙のエリート部隊としてその名を轟かしている。
あっという間だ、あれだけいたゾンビが、一体残らず消えた。そして僕らは、出口から出る。
「あー……太陽灯の光が、あったけぇ……」
放心状態のレティシアを肩に担いで、僕はそのアミューズメント施設を出る。共に入った他のグループは、ことごとくゲームオーバーだ。無事にクリアできたのは、我々6人だけだ。
そして、晴れてこのゲームをクリアした我々には、記念品が渡される。
それは、入り口で我々を出迎えてくれた、あの不気味なクマのぬいぐるみだった。
うげぇ……あれだけ頑張って、手に入れたのは、たったこれだけ?リーナとエリアーヌ准尉は大喜びだが、僕はげんなりする。
ところがこのぬいぐるみ、あのゲームをクリアしないと入手できないとあって、艦内のネットオークションではかなり高値で取引されていると知る。えっ、そうなの?だったらさっさと売り捌いて、リーナの食費の足しにでもしよう。僕はそう誓う。
さて、しばらく6人で歩くと、何やら異様な集団に出くわす。いや、異様だと言ったらダメだな。その集団が何者なのか、僕はよく存じている。
尖った帽子に、赤い服、黒いマント。カテリーナと同じ姿のその10人の集団は、紛れもなくステアーズ隊に所属するあの女射手ら10人だ。
「セティア、ポーラン!」
カテリーナのこの呼びかけに、その集団は一斉に振り向く。まさにカテリーナのそっくり集団の顔が、ほぼ同時に明るくなる。
「ラーマ ディアク ベタモーン!」
「デゲン ヴァイ!?」
言葉はさっぱり分からないものの、互いに再会を喜び合っていることはよく分かる。しかし、こうなると誰がカテリーナなのか、見分けがつかない。
「うーん、相変わらず、カテリーナと区別がつかない」
「何をおっしゃってるんですか、カテリーナならあそこですよ」
どうしてナイン大尉には見分けがつくんだ?あれと言われても、どれを指しているのかさえ見当もつかない。わらわらと再会を喜び合うカテリーナ集団を前に、僕は戸惑う。いや、僕よりも周囲の人々の方が何倍も戸惑っているかな。
「アヨ ペルギ ディ サーナ!」
「ディ サーナ?」
「オウ ヤ、ディ サーナ!」
「アヨ!アヨ!」
何やら彼女らは、カテリーナをどこかに誘っているようだ。仕切りに指差すその先を、僕は見上げる。
それを見た僕は、背筋に電撃のようなものを感じる。
そこは、射撃訓練施設。2チームに分かれて、互いに撃ち合う。女射手集団は、カテリーナをそこに誘っている。
それを見て、誘いに乗らぬはずもない。すぐに承諾するカテリーナ。そしてぞろぞろと、似た者集団が入っていく。
「なんでぇ、カテリーナのやつ、ここに入ったのか?」
ようやく回復したレティシアは、その建物の外につけられたモニターを眺める。そこには、11人の「カテリーナ」と、屈強の陸戦隊員15人が対峙している。彼らはどうやら、カテリーナの伝説を知らない。さすがにここまではあの話は伝わっていない。
ブザーの音と共に、戦いは始まった。僅か3秒で、油断していた15人の陸戦隊員のうち、4人が狙い撃ちされる。その一瞬で、彼女らの底知れぬ実力を思い知る隊員。
あの時と、同じだ。岩陰などに隠れることなく立つ、とんがり帽子の女射手。だが、今はそれが10人もいる。いくら気配を消そうとも、彼女らの察知能力から逃れることはできない。
しばらくは、1人が飛び出しては狙い撃ちされるを繰り返す。残り6人となったところで、彼らは一斉に飛び出す。
『セカァラン!』
多分、カテリーナと思われる人物が叫ぶ。一斉に狙う11人のカテリーナ。無慈悲な当たり判定音が、辺りに響き渡る。そして、11人の女射手が、屈強の陸戦隊員15人に完全勝利する。
「おお、カテリーナのやつ、また勝ったな」
「飛び道具をあれほど自在に操るとは、さすがはカテリーナだな」
いや、全員カテリーナではないんだが。ともかく、アルテミスの末裔とも言える女射手の集団が、プロ軍人相手にあっさりと勝利する。
そして翌日には、「戦乙女」伝説がこの艦内でも囁かれ始めた。




