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#161 模擬戦

「ああ、くそっ!どうしてこんなにこの艦隊は遅いんだ!そんなはずないだろう、どこか設定がおかしいんじゃないのか!?」


 と叫ぶのは、エルナンデス准将だ。場所はサカエ研修センター。そこでやつは、僕との模擬戦闘を行う。

 そしてたった今、勝敗が決したところだ。


「そんなわけないだろう。だいたいそのシミュレーター機自体、貴官自身が選んだものじゃないか」

「いくらなんでも、我が駆逐艦がこんなに遅いわけないだろう!俺の配下の100隻なら、もっと早く肉薄し、あんな罠に捕まる余裕など与えなかった!」

「だから、さっきから言ってる通り、このシミュレーターの艦艇は、通常機関の艦艇だ。いつもとは、機動性が劣るのは当然だろう」

「だいたいだな、機雷を仕掛けるなど言語道断だろう!正々堂々と勝負しろ!」

「連盟軍ならよく使う手じゃないか。僕に文句を言ったって、それを喝破できなかった貴官にも問題がある。違うか?」


 戦闘の結果はすでに出ているというのに、シミュレーターの外で新たなる戦いが勃発する。

 エルナンデス准将は、猪突猛進型だ。だからその進路上に機雷をばらまき、挑発して上手く機雷原に誘い込めば、あっという間に罠にかかる。

 相手の性格を知っているがゆえに勝てた戦いではあるが、それは相手だって同じ条件だ。別に僕が有利だったというわけでもない。設定も艦艇数も、まったく互角の条件。作戦の差が、無傷かほぼ全滅かの違いにつながった。


「ほほう、さすがは少将閣下ですな。さて、次は私とメルシエ准将殿の番ですな」

「まさか、カンピオーニ准将殿と手合わせすることになろうとは……腕がなりますな。」


 この研修センターでは、我が艦隊の5人の戦隊長の訓練を行っている。で、今日はそれぞれの模擬戦闘訓練をすることになり、まず僕とエルナンデス准将が戦った。

 で、次はカンピオーニ准将とメルシエ准将。そして次に、ワン准将とステアーズ准将が戦うことになっている。


「ではこれより、戦闘訓練を開始する。両陣営とも、通常型駆逐艦100隻、距離70万キロ。通常陣形にて対峙しているものとする。両人とも、かかれ!」


 研修センターを仕切るタカシマ少将の号令で、シミュレーター訓練が始まる。オペレーター役の士官が2人、それぞれメルシエ、カンピオーニ両准将に報告する。


「レーダーに感!艦影多数、0時方向、距離70万キロ!総数100!接敵まで、およそ20分!」


 それを聞いた両人は、まさに真逆の行動に出る。


「よっしゃ、全艦、全速前進!ヒャッハー!」


 ハンドル……ではなく、艦隊を握らせたらまるで人が変わるカンピオーニ准将が、機関全開で艦隊を前進させる。一方のメルシエ准将は、ほぼ動じることはない。通常速度にて、前進を続ける。


「側面に回り込むぜ、全艦、取舵20度!ヒャッハー!」


 なぜ、いちいちああいう叫びをするのかは理解できないが、そのまま100隻を転舵させて、メルシエ隊の右側面に回り込もうとするカンピオーニ隊。

 だが、メルシエ隊は全く動じない。ゆっくりと、前進を続ける。すでに距離は50万キロを切る。だが、カンピオーニ隊は正面にはいない、すでにメルシエ隊右側、3時方向に迫ろうとしていた。

 が、メルシエ隊の陣形は少しおかしい。横一線の横陣形なのだが、右に行くにつれて後方にずれている。やや斜めの斜線陣といった方がよいか?

 そのやや斜線陣を敷くメルシエ隊の右側面目掛けて、カンピオーニ隊が回り込んできた。


「砲撃戦用意!」


 先手を取ろうとするのは、カンピオーニ隊だ。陣形を再編しつつ、その砲身をメルシエ隊に向ける。

 と、まさにその時だ。


「回頭、右90度!」


 メルシエ准将が、一斉に自艦隊を回頭させる。斜線陣のメルシエ隊は、その斜めの陣形のまま、突入するカンピオーニ隊と対峙する。

 が、よく見ると、いつの間にかその斜線陣の軸線は、45度近くまで広がっていた。じわじわと陣形を変えていたため、気づかなかった。側面についたものの、まだ自艦隊の体勢を整えてきれていないカンピオーニ隊は、未だ砲撃できない。


「砲撃戦用意!」


 一方のメルシエ隊も、砲撃戦用意がかかる。すぐさま、メルシエ准将は指令を出す。


「砲撃開始!」


 シミュレーター上の駆逐艦が、一斉に青白い火を吹く。距離はまさに45万キロ。カンピオーニ隊がもたつくわずかな時間に、その砲火を集中させる。


「撃沈12!」


 初弾で、いきなり1割以上を撃沈してみせた。カンピオーニ隊もすかさず、反撃する。

 そこからは、通常の艦隊戦が続く。時間短縮で、30分で戦闘は終わる。だが、初弾でついた差がそのまま残ってしまった。


「いやあ、一本取られましたな」


 シミュレーターから降りたカンピオーニ准将が笑いながら、メルシエ准将に話しかける。応えるメルシエ准将。


「貴官は間違いなく、側面から突っ込んでくると思っていた。だからこそ取れた戦術だ」

「そうか?だが、いつの間にか貴艦隊の斜線陣が大きくなっていたぞ?こちらが砲撃準備に入るまで、てっきりまだ前進しているかと思ってたぞ。どんな魔法を使ったら、ああいう芸当ができるんだ?」

「なんてことはない、人間、ゆっくりと変化するものに、脳が追従できない。その錯覚を利用しただけだ」


 いや、僕もその錯覚とやらに引っかかった。まさしく、艦隊運用の妙だな。メルシエ准尉って、こんな戦い方ができる人物だったのか。


「我ら地球(アース)001艦隊は、粛々と堂々と勝利せねばならない。ただ勝つだけでは、連盟の奴らを圧倒することは叶わぬ。それを実践して見せたまでだ」


 相変わらずの好戦論者だが、その戦術は僕も舌を巻く。うん、今度から攻勢に出る際は、エルナンデス准将ではなく、メルシエ准将を使おう。

 そして、そんな会話の間に、シミュレーター機にはワン准将とステアーズ准将が向かう。


「いよいよ、貴官と戦う日がくるとはな……」


 なぜか、妙な凄みを見せつつシミュレーター機の前に立つステアーズ准将が、ワン准将に向けてこう呟く。


「これも、運命の悪戯か」


 ワン准将も応える。いや、両人よ、これはシミュレーター戦闘訓練だから。まるで大相撲で力士が立ち会い前に睨み合う、あの気迫感あるやりとりの後に、それぞれシミュレーター機に入る。


「それでは両人、かかれ!」


 再び、このセンターの教練長であるタカハシ少将の号令がかかる。


「レーダーに感!艦影多数、0時方向、距離70万キロ!総数100!接敵まで、およそ20分!」


 先ほどと同じ報告が、両者それぞれ向けられて行われる。が、先ほどとは異なり、両者とも通常通りの接近を続ける。

 タカハシ少将が、手元のダイヤルを回す。時間が5倍速で動く、ものの4分で、両者は45万キロ、つまり射程内に入る。


「砲撃開始!」


 ステアーズ、ワン両隊がほぼ同時に砲撃を開始する。ごく普通の、砲撃戦が展開される。

 暫し両者は、45万キロを保ったまま撃ち合う。だがこのシミュレーター訓練では、どちらかを圧倒するまでは終わらないルールだ。互角の戦力での撃ち合いでは、勝負などつかない。このまま撃ち合いで終わるはずがない。


 が、先に動いたのは、ワン准将だ。

 いきなり、全速前進でステアーズ隊に迫る。


 ステアーズ隊はこれをバリアシステムで受け流す。両隊の距離は、徐々に狭まる。

 そして、両者は一時、200キロ程度まで迫る。

 ステアーズ隊の真上を通り過ぎるワン隊。そのままワン隊は大きく迂回し、ステアーズ隊に迫る。だが、その動きを読んでいたステアーズ隊は、うまくワン隊の動きを捉えつつ砲撃を続行する。

 その正確かつ冷静な砲撃に、ワン隊はなかなか陣形を整えられない。反撃を続けるが、陣形が乱れたままでは狙いが定まらない。ワン隊が、じわじわと削られ始める。

 しかし、妙だな……ワン准将が、あれほどもたついた戦いなど、するはずがないのだが。それだけ、ステアーズ隊の狙いが正確なのだろうか?確かにステアーズ隊は、命中精度が高い隊だ。それは練度云々ではなく、極力艦を乱さず狙いを定めることに集中する艦隊運用を心がけているため、砲撃の命中精度をあげることに貢献している。

 その正確な砲撃が、ワン隊を崩している。これはなかなか、いい勝負だ。まさに紙一重のところで、ステアーズ隊に軍配が上がる。

 ……かと、思われた。

 が、直後、ワン隊のあれが、作戦であることを悟る。


「ステアーズ隊、20隻!爆沈!」


 突然、ステアーズ隊の2割の艦艇が爆発する。なんだ、何が起きているんだ?それを受けて、ワン隊が突然、陣形を整える。そして再び、ステアーズ隊に突入をかける。


「な、なんだ!?」


 さらにステアーズ隊の被害は続く。次々に謎の爆発を起こすステアーズ隊だが、どうもおかしい。

 機雷でも仕掛けたのかと思ったが、ステアーズ隊はほとんど、あの場を動いていない。ワン隊の航路を横切ることは、していない。となれば、機雷に追い込んだわけでもない。

 その正体は、すぐに分かる。


「ステアーズ隊後方、哨戒機隊200!」


 いきなり哨戒機の群れが現れた。あれが後方から、ステアーズ隊の艦艇に攻撃を仕掛けていた。そこで僕はようやく状況を理解する。

 そういえばワン隊は、200キロまで接近していた。その際に、哨戒機隊を放ったのだ。しかし、どうしてそれが今さらレーダーにかかる?

 ああ、そうか、そういえば艦隊戦の最中は、その索敵能力のほとんどを前方の艦艇に向けているから、あれに気づかなかったのか。メルシエ准将とは別の盲点を突くワン准将の作戦勝ちだ。

 そのままステアーズ隊を追い込み、哨戒機隊との合流を果たすワン隊。味方をきっちり回収して見せたところで、戦いは終わる。


「あっはっはっ!いやあ、こっぴどくやられましたな!まるで、背中からメイプルシロップをぶっかけられたくらいの衝撃ですわ!」


 さっきとは打って変わって明るく振る舞うステアーズ准将。ワン准将は応える。


「いやはや、こちらも危なかった……哨戒機隊を気付かせないための演技とはいえ、相手がステアーズ隊ですからな。もう少しタイミングが遅れていれば、負けていたのはこちらでしたな」


 そう謙遜するワン准将だが、いやはや、なかなかの策士だと僕は思う。

 こうして、シミュレーター訓練は終わる。僕は、シミュレーター室を出た。


「あら〜、ヤブミ閣下でねぇですか?」


 と、通路に出たところで僕は話しかけられる。それは、下士官用の軍服に身を包んだ女性軍人、エフェリーネだった。


「ああ、エフェリーネか……ワン准将ならまだ、中で今日の振り返りをやっているところだ」

「そうかねぇ、いやあ、うちの人、シューミンは上手くやれとるんでしょうか?心配やわぁ」


 すっかり、ワン准将の奥さんになっているな。一体、どういうやりとりがあって、彼女はワン准将と一緒になろうと思ったのか……僕はエフェリーネに話す。


「エフェリーネ、ここで待つのは退屈だろう。中に入れてもらえるよう、掛け合ってみようか?」

「本当だか!?いやあ、一度でええから見てみたかったんねぇ!うちの人、どないなってんやろう?」


 妙な訛りを植え付けられてしまったエフェリーネだが、その喜ぶ感情はひしひしと伝わってくる。頬を撫でながら、おっとりと微笑むその姿は、とても「神の目」を持つ戦乙女(ヴァルキリー)の一人とは思えないな。

 そんなエフェリーネをシミュレーター室の中にいる士官に任せると、僕は再び通路に戻る。するとまた、別の人物が立っている。


「あ、あの、ヤブミ閣下。うちの……ああ、いや、エルナンデス准将は、どうなってます?」


 汗をべったりかいたまま、僕に話しかけてくるのは、エルナンデス准将の奥さんの、ミズキだ。


「ああ、今ちょうど、シミュレーター室で今日の反省会をやっているところだ」

「ええーっ!?まさかアルセニオったら、また何かやらかしたんですか!?」


 いや、反省会って、そういう意味ではないんだが。顔面蒼白になりそうなミズキに、僕はこう応える。


「心配することなんて、何もないんだがな……なんなら、中に入れてもらおうよう、掛け合ってみようか?」


 それを聞いたミズキは、満面の笑みに変わる。

 で、2人の戦隊長の奥さんを中に導いたのちに、ようやく僕はエレベーターにたどり着く。

 ドアが開くと、中から今度は別の人物が現れる。


「あー、提督!まさかまた、変なことを考えてないでしょうね!?」


 ……なんだ、グエン少尉よ。お前、ナゴヤにいたのか。というか、こんなところで何をしているんだ?

 と思ったところで、僕はその理由を思い出す。


「ええと、グエン少尉。まさかとは思うが、ここで佐官研修中のジラティワット少佐を待つために、わざわざここまで来たのか?」

「いえ、ええと、いや、そういうわけではあるんですが……って、どっちでもいいじゃないですか!私、行きます!」


 なんだってグエン少尉は、僕にああも冷たいんだろうか?僕は、グエン少尉に言う。


「少尉、なんなら……中に入れるよう、掛け合ってみようか?」

「えっ!?ほ、ほんとですか!?」


 これほどの笑みを浮かべるグエン少尉の顔を見たのは、僕はきっと初めてではないかと思う。

 3人目を送り出したのちに、ようやくエレベーターに乗り込む。で、下に降りると、やっと目的の人物に出会う。


「おう、カズキ。やっと来たか。待ちくたびれたぜ」

「カズキ殿、何をしていたのだ?もっと早く来ると思って、待っておったのに」

「ああ、いや、エフェリーネにミズキにグエン少尉がだな……」

「そういやあ、そいつらともさっき、会ったぞ。次から次へと、このビルに入っていったな」

「ところでこのピザまんとやらは、美味いな!このチーズの味がなんとも……」


 ところでリーナは、さっきから何を食べているのかと思ったら、ピザまんか。じっと待つと言うことをしらないな、こいつは。


「ほんとだよぅ!うみゃーよぅ!」


 と、そばでつられてピザまんを味わっているのは、ボランレだ。こいつ最近、誰かににて食欲が上がっているように思うが、大丈夫だろうな?


「それじゃあ、いくか」

「ああ、行こうか」

「行くよぅ!」

「おい、レティシア!行くって、どこだ!?」

「ああ、もう冬のナゴヤだ。となりゃあ、行くところは決まってるだろう」


 いや、決まってるって、どこに行くつもりなんだ?いまいち分からん。冬に行きつけの店なんてあったか?


「おっしゃあ!俺はアフリカンだ!」

「じゃあ、私はイタリアンで」

「辛いのはダメだよぅ!」

「しょうがねぇな、それじゃおめえには、手羽先にエビ団子に……おお、そうだ、おめえの好きな餃子に春巻き、杏仁豆腐もあるぞ!」

「ふぎゃあ!?餃子、食べたいよぅ!」


 なんだ、この店か。寒い時は結局、タイワンラーメンなんだな。にしてもこの店に、唐辛子嫌いのボランレの食べられるものって結構あるんだな。あの耳をバタバタさせて、レティシアにリクエストするボランレ。


 もう11月も半ばに入り、寒い風が吹き付ける。前回来た時は、あれほど暑かったこのナゴヤも、今やすっかり冬の様相を呈している。

 この寒さがより深まったところで、僕らはこの星を離れて再び地球(アース)1010に向かう事になる。再び、戦いの日々に戻ることになりそうだ。

 あ、そうだ。そういえば……地球(アース)1010に行ったら、ボランレのこと、どうしようか?

 連れて行くしか、ないよな。てことは、元の場所に戻すことは、ますます叶わないことになりそうだが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エルナンデスさん、艦隊どころか戦闘部隊の指揮とらせたらまずいのでは…。 [気になる点] ヤブミ少将の艦隊だと、異常なまでの正確な砲撃ですかね? カテリーナ「全員ヴァルハラに送ってやる」 […
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