表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/227

#117 対面

 軍人だというのに高々500メートル程度で目を回したヴァルモーテン少尉と共に、サカエのホテルへとたどり着く。


「ああ、母さん……うん、明日にも顔を出すよ。えっ?フタバも?そうか……」


 明日はカミマエズの実家に立ち寄る。レティシアの顔も見せてやりたいし、それに……まあ、身内ではないとは、とても言いきれない人物も一人いるからな。


「おい、カズキ。ホテルの部屋、取っておいたぜ」

「ああ、済まない」


 ヴァルモーテン少尉は、すでに部屋へと向かったようだ。しかしあの少尉、いろいろな顔を見せてくれたものだ。あんこが好物で、高所が苦手だということが分かった。それが自身の幕僚として、役に立つ知識とは思えないが。


「それじゃ行くか」


 と言って、レティシアはカードキーを見せつつ、エレベーターへと向かう。


「おい、レティシア……キーが一つしかないぞ?」

「あたりめえじゃねえか。3人で一部屋だからな」

「は!?」


 何を言っているんだ、こいつは。どうしてそういう危ういことを平気でするんだ。それがどういうことか、分かってるのか?

 にしてもだ、いつものように部屋を追い出されたら、僕は本当に行くところがないぞ。その時は、どうする?

 エレベーターに乗り込み、部屋へと向かう。60階、高さ300メートルのところにある部屋に泊まることになった。眺めは、とてもいいはずだ。


「おい、レティシア、その部屋っていうのはまさか……」

「おう、当然、寝室は一つ。ダブルベッドが2つ並んだ部屋だな」


 レティシアよ、少なくともここにひと月は滞在するんだぞ?お前もさっきトヨヤマで、技術部からそういう説明を受けたじゃないか。つまりひと月、ここに3人で過ごそうというのか。

 上機嫌なレティシアだが、僕はその不埒なるこれからのホテル生活に、動揺を隠せない。


「おお、ヤブミ殿にレティシアよ!ここはよい眺めだ!」


 はしゃぐ異銀河の皇女様。レティシアもこの眺めに満足している模様。


「いやあ、見慣れたナゴヤも、高いところから見るとまた新鮮だな」


 だが、レティシアよ、お前、以前もここに泊まったじゃないか。何を改めて感動しているんだ?

 窓の外はまだ、日が射している。夕方だが、夏だからまだ日は沈まない。そこでレティシアは、やはりというか、あの店を提案する。


「おい、夕食を食いに行こうぜ」

「……食いに行くということは、やはりあの店か」

「決まっているだろう。歩いてすぐのところにあるとなりゃあ、行くしかあるめえ」


 すると、リーナ殿は反応する。


「もしかして、またナゴヤ飯か!?」


 レティシアに、徐々に染められてきたな。にやりと微笑むレティシアが応える。


「当然だ。さ、いくぞ」


 ということで、再びエレベーターに乗り、地上へと降り立つ。


「日は暮れつつあるが、まだ暑いな」

「この暑さが、ナゴヤにいることを感じさせるぜ。あのゴーレム山にいるときには、寒くて死ぬかと思ったからな」


 まあ、この暑さはナゴヤの風情ともいえるからな。リーナ殿には堪えたようだが、この暑さゆえに楽しめる食べ物もある。

 ……が、まずは、あそこだな。レティシアが先導して、その目的地に向かう。

 ワカミヤ大通りを超えると、まさにその店があった。まわしをつけた、力士風の豚の看板を見て、リーナ殿が叫ぶ。


「おい、どうしてオークがここに!?」


 あ……オークに見えるんだ。いや、それはオークではない、豚だ。


「オーク?何をわけのわかんねえこと言ってるんだ。さ、入るぜ」


 それをレティシアは一蹴すると、店内へと入っていく。やや不安げなリーナ殿も、後に続く。僕もその後に入った。


 その10分後。2色のタレがかかったカツをがつがつ食べるリーナ殿が、そこにいた。


「はぁー……本場の味噌カツは、やはり違うものだな」

「だろ?そうだ、せっかくだからよ、ちょっとオオスにも足を延ばそうぜ」

「は?今からオオスへ行くのか?」

「すぐ目の前じゃねえか。んじゃ、行くぜ」


 上機嫌なレティシアは、ホテルとは反対方向のオオスへと向かう。


「なあ、オオスとはなんだ?」

「うーん、なんていやあいいんだ?まあ、みりゃ分かるぜ」


 見れば分かる。相変わらず、レティシアらしい、雑な説明だな。僕が補足する。


「オオスというのは、大須観音を起点にできた門前町で、今は2層からなる商店街が広がる街だ。サブカルチャーや家具、家電の街として知られる他に、ういろうをはじめとする……」

「なに!?ういろうがあるのか!?」


 僕の補足に、いきなり食いついてくるリーナ殿。


「ああ、そういえばあるな。オオスのういろうの本店があるからな」

「ぜひ行きたい!できればそのういろうを食べてみたい!」


 どこで「ういろう」という言葉を知ったのだ?しかも、あの名を聞いただけで、よく食べ物だと分かったな。

 あ、そうだ、それは分かるか。そういえば、2機の人型重機や駆逐艦0001号艦のコールサインに、テバサキ、ウイロウ、ミソカツと名付けていた。そのうち2つの食べ物をすでに経験済みだから、最後の一つもナゴヤの食べ物と察したのだろう。


「そうか。それじゃ、ういろうの店に行くか」


 というレティシアの一言で、そこへ向かうことにした。

 商店街の入り口に、あの赤いちょうちんが飾られている。それをじっと見つめるリーナ殿。


「真に、ちょうちんが看板として使われておるのだな。しかし、なんという大きさだ……」

「おい、リーナ。そんなもんで驚いてる場合じゃねえぞ」

「あ、ああ、分かった」


 しかし銀河を超えて、わざわざこのオオスまでやってきて、そのオオスで最初に行く店がういろうの本店とは……いや、決して悪いことではない。あれもナゴヤを代表する和菓子には違いない。

 そして、ういろう店にたどり着く。


「……なんだこれは」


 どうやら、リーナ殿の想像とは異なるものだったらしい。まるでスライムのような外観、いや、リーナ殿の星にはスライムというものはいないものの、およそ食べ物には見えないのだろう。


「色に騙されちゃだめだぜ。ほれ、まずはこの辺りを食ってみろよ」

「あ、ああ……」


 そう言ってレティシアが買ってきたのは、ういろうバー。抹茶に桜、そして白の三色をポンと渡す。

 しばらくそれを、訝しげな顔で眺めていたリーナ殿だが、意を決して、まずは無難な白に手を出す。パクッと一口、それを食べる。

 まあ、後は大体予想通りの展開だ。顔の表情が明るくなるところを見れば、ジャストミートしたってことだろう。


「なんと、これは……スイーツだったのか?」


 なんだと思ってたのだ?いや、これがスイーツに見えなくても、仕方ないかもしれないな。


「どうよ、これがオオスのういろうだ」


 どや顔のレティシアに構わず、あっという間にその三本を平らげる。しかしリーナ殿よ、お前さっき、味噌カツを平らげたばかりじゃないか。よく入るな。

 で、そのままもう数本、ういろうバーを買おうとしたとき、ふとその店の外にある看板が目が映る。


「はぁ?ういろうパフェだって?」

「な、なんだと!?ういろうとパフェが、引っ付いたのか!」


 そんなものまであるんだ。僕も知らなかった。すぐ脇にある店で、それが売られていた。


「よし、リーナ。これを食うぞ!」

「承知した!」


 そんなものを見つけて、手を出さぬはずがない。2人とも、そっちの店になびいていった。慌てて僕も後を追う。


「んじゃ、このういろうパフェを3つだ!」


 えっ?僕も食べるの?などと思ったが、にっこにこな満面の笑みで、メニューを眺めるリーナ殿とレティシアを前に、とても断れない。

 レティシアも普段は抑えているが、食べるときは食べる。やはり、怪力魔女だからだろうか?

 で、そのパフェが現れる。中央にクリーム、その下に抹茶とぜんざいをベースとするパフェで、ういろうはそのクリームの周りに配置されている。色からして、抹茶味のういろうだな。

 食べてみると、あのほのかな甘みのういろうを、クリームが補完するといった具合の味だ。が、さすがに多いな、これは。


「なんでぇ、カズキ。もう食えねえのか?」

「いや……さっき、味噌カツを食べたばかりだぞ。お前ら、よく入るな」

「だらしねえなぁ。それじゃあ、ちょっといただくぜ」


 などと言いながら、レティシアが僕のパフェにさじを突っ込んでくる。そしてういろうとクリーム、ぜんざいをごっそり削り取ると、それを口に入れる。


「なんと、もったいない話だな。私もいただくぞ!」


 と、今度はリーナ殿がさじを突っ込んでくる。バクバクとそれを食べるリーナ殿。

 心配など、要らなかったな。僕のパフェはあっという間にこの2人の餌食となった。


「ぷはぁーっ!今日はよく食ったぜ!」

「いや、味噌カツの本場の味もさることながら、ういろうも侮れぬな。さすがはナゴヤだ」


 リーナ殿もレティシアも、ご満悦だな。だがこの2人、食欲が吹っ飛んでやがる。


「そういやあ、明日はおっかさんのところに行くんだろう?」

「ああ、もう連絡してある」

「もう3か月ぶりになるのか?」

「そうだな」

「なんだ、ヤブミ殿の母上は、この近くに住んでおるのか?」

「そうだ。このさらに南にある高層アパートの一室で暮らしてる」

「フタバも、顔を出すんだろうな」

「ああ、バルサム殿を連れていくといっていたそうだ。」

「そうか。ついにおっかさんと、顔合わせか」


 明日はいきなり、異国どころか、異星の者を2人、連れていくことになる。いや、そのうちの一人は銀河すら違う。死んだ父さんも、きっとびっくりするだろう。

 などと話しながら歩くと、ホテルにたどり着く。


 さて、風呂でも入ろうかと思った矢先、レティシアが僕を引き留める。


「おい、カズキ、3人でやろうぜ」

「は!?」


 とんでもないことを言い出したぞ。おい、レティシア、お前の感覚はどうなっているんだ。


「お、おい、3人でやるって、どうやるんだ!?」


 リーナ殿も動揺している。


「そ、そうだ、レティシア!お前、無茶苦茶なことを……」

「何言ってやがる、交代でやりゃあいいじゃねえか」

「は!?交代!?」


 どぎつい提案が、レティシアから飛び出す。


「いや、待て!交代とか、そういう問題では……」

「……致し方ないな。ならば、やるか」


 と、今度はリーナ殿がやる気になってしまったぞ。おい、リーナ殿よ、お前それでいいのか?


「よし、決まったな。それじゃまずは、リーナとカズキからだな」

「はぁ!?」


 もはや僕には、返す言葉を失いかけていた。とんでもない不埒なことが、今ここで始まろうとしている……

 と思ったら、レティシアがなにやら取り出した。それは、小さな箱型の筐体。僕は尋ねる。


「あの、レティシア……これは?」

「ゲーム機だよ。最近、はまってるんだ」


 そのゲーム機には、2つのコントローラーがついている。といっても、ただ握るだけのコントローラー。脳波コントロールのみの、物理ボタンがないタイプのものらしい。


「で、やるって、何をするんだ?」

「これだこれ、格ゲーだ」


 電源を入れるレティシア。すると、空中にホログラフィーで表示されるゲーム画面。部屋の真ん中に浮かび上がる3Dキャラの派手な演出ののち、キャラクター選択画面で止まる。


「よし、リーナ、日ごろの訓練の成果を見せてやれ!」

「し、仕方ない。ではまず、ヤブミ殿から血祭りにあげるとするか……」


 不敵な笑みで、こちらを見つめるリーナ殿。僕はそこで察する。

 レティシアとリーナ殿が2人で過ごしているときは、これをやっていたのか。もっといかがわしいことをやっているものだと想像していた僕は、やはり心が汚れているのだろうか。

 などと考えている間に、リーナ殿はもうキャラの選択を終えていた。慌てて僕も、適当なキャラを選ぶ。


『ラウンド・ワン!ファイッ!』


 と、いきなりバトルが始まってしまった。リーナ殿が叫ぶ。


「先手必勝!」


 よほど扱いなれたキャラのようだ。対する僕は、このゲームのルールをよく知らない。なんとなくは分かるのだが、あの自信満々のリーナ殿を相手に、どう戦えと……

 と思っていたが、あっさりと2勝する。基本は脳波コントロールであり、僕自身は軍のシミュレーターで鍛えられていたせいか、臨機応変でどうにかなってしまった。


「な……なんてことだ……まさか、ヤブミ殿に敗れるとは……」


 あれ、僕、なんかやっちゃいました?唖然とする僕の前で、レティシアが立ちはだかる。


「なんだ、弱いなぁ、リーナは。まさか、カズキに負けるたぁな」

「うう……」


 今まで、何度も一緒に寝ていたから、そのたびに訓練していたんだろうな。それが、全く初心者の僕に敗れてしまった。落ち込むのは当然だろう。

 が、それにしてはちょっと、落ち込み過ぎる気がする。そんなに僕は、悪いことをしてしまったのか?


「ほら、リーナ。ルールだからな」

「うう……し、仕方ない……」


 と、リーナ殿はためらいつつも、なんと服を脱ぎ始めた。


「お、おいリーナ殿!一体何を……」

「ルールでよ、1つ負けたら、1枚脱ぐことになってるんだ」

「はぁ!?」


 なんだそのいかがわしいルールは。おいレティシア、いくら何でも僕がいる前で、なんてことを……


「よし、それじゃあ俺がとどめを刺してやる。今度は俺と、リーナの対戦だ!」

「う……今度こそ、負けるものか!」


 下着姿になったリーナ殿は、なりふり構わず今度はレティシアとの対決に挑む。

 だが、大体想像していたが、僕に敵わないリーナ殿が、レティシアに敵うわけがない。当然、ストレート負けする。

 で、2枚脱がされるわけだが、すでに2枚しか残っていないその下着姿で……


「気合が足りねえなぁ、リーナよ!そら、お仕置きだぜぇ!」

「ひえええぇ!」


 と、一糸まとわぬリーナ殿に襲い掛かるレティシア。ああ、一時は不埒なことから回避できたと思っていたのに、思っていたのにぃ……

 で、ひと暴れした後に、2人で仲良く風呂に入っていく。

 こんなことをやっていたのか、レティシアとリーナ殿は。僕はようやく、この2人の夜の過ごし方を目の当たりにする。

 暴れ過ぎたのと、食べ過ぎたのとで、僕ら3人はすぐに寝てしまう……


 そして、翌朝。


「おう、カズキにレティちゃん。先に来てたよ」

「なんでえ、フタバ。もう来てたのか?」


 高層アパートの実家にたどり着くと、すでにフタバとバルサム殿が来ていた。


「ああ、カズキ。おかえり」

「ただいま、母さん」

「おう、おっかさん、久しぶりだなぁ」


 久しぶりに、フタバも帰ってきたせいか、母さんの表情もいつもより明るい。で、その母さんが、レティシアの脇に立つあの皇女様に目が留まる。


「あれ?この方は?」

「あ、ああ、こちらは先日までいた、銀河を超えたところの地球(アース)1019という星のフィルディランド皇国の皇女様で……」


 僕が紹介しようとすると、レティシアが一言、こう言い放つ。


「ああ、こいつはカズキの2人目の嫁だぜ」


 さっきまで明るかった母さんの表情が、まるでゲリラ豪雨の前触れに現れる黒い雲のように、瞬く間に暗い表情へと変わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] リーナ殿下にか○道楽や○ぼらや、道頓堀のグ○コの看板をみてもらいたいですね〜 [気になる点] うん、おっかさん、そのままカズキを引き裂いて事象は果てに棄てちゃってくださいな(血涙) [一言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ