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#112 引き金

「……現状把握したい!ゴーレム山の映像を送れ!」

「了解!」


 おそらく僕は、その浮き上がった山の中にいるのだろう。それは間違いない。窓の外の風景が、それを物語っている。

 映像はすぐに、艦から送られてきた。僕はそれを見る。

 ……なんだ、これは?

 山の中腹が、ちぎれて浮いている。まるで山型のスポンジケーキの真ん中を、無造作に引きちぎった。そんな感じの岩の塊が、まさに宙に浮いている。

 すでに山頂の高さを超えて浮いている。まだ上昇中なのか?それとも、もう止まったのか?


「ナイン大尉!」

「はっ!」

「ドーソン大尉か、デネット大尉に連絡!人型重機がどうなったのか、確認したい!」

「了解!」

「それから、タナベ大尉!」

「はっ!」

「通路の向こう側がどうなっているのか、確認して欲しい!」

「了解です!」

「あと、フタバにバルサム殿!」

「な、なによ!?」

「……救援は、間違いなく来る。だから、安心してここで待機して欲しい」

「う……分かったわ」


 正直言って、僕が誰かに保証してもらいたい。


「あと、レティシアにリーナ殿」

「なんだよ」

「なんだ?」

「……何というか、巻き込んですまない」

「何を言うか!私は貴殿に救われた命、今も別に、後悔などしておらぬ!」

「そうだぞ、カズキ!夫婦なんだからよ、水臭えことは言うな!」


 考えてみれば、どうしてこの大人数で来てしまったのか、今さらながら後悔している。せめて、レティシアとリーナ殿は置いていってもよかったのではないか。

 などと考えていても仕方がない。そこに、ナイン大尉とタナベ大尉からそれぞれ、報告が入る。


「提督!デネット大尉、ドーソン大尉共に無事です!今も、洞窟の入口付近に待機したままです!」

「なんだと?じゃあ、洞窟の入り口ごと持ち上げられているのか?」

「どうやら、そうらしいです」

「提督!通路は使えます!このまま、脱出を!」

「了解、直ちに入り口まで戻る!」


 幸いなことに、通路は崩壊していないという。僕は直ちに脱出を決める。

 全員で通路を走り、人型重機のところまで戻る。洞窟を出ると、デネット大尉がいた。


「提督!ご無事で!」

「現状報告!周辺は、どうなっている!?」

「それがですね……こちらを」


 デネット大尉が指差す方を僕は見る。それを見た僕は、唖然とする。

 真っ平らな広場が、そこには広がっている。その向こうには、雲が流れている。


「……なんだここは?浮いている岩の上の広場……いや、まるで甲板だな」

「ええ、そうなんです。岩がどんどんと崩れていき、しまいにはこんな具合になってしまって……」


 なんなのだ、この洞窟、いや、この山は?だが、この平らな広場のおかげで、僕は思いつく。


「直ちに駆逐艦0001号艦へ連絡!ここに着陸して、我々を拾ってもらうぞ!」

「はっ!」


 デネット大尉が重機に戻り、0001号艦に連絡している間、僕はその「甲板」の上を歩く。

 一体、こいつはなんだ?どうして急に、浮上した?謎が多過ぎるが、ここにいても何も判明しない。僕はこの場を写真に撮る。


「これは多分、船ですね」


 スマホで撮影していると、マリカ中尉がやってきて、こう呟く。


「……なぜ、そう思う?」

「これだけ真っ平ら甲板を見れば、ここが航空機か小型船用の離発着スペースとしか思えないでしょう」

「いや、そうかもしれないが、何のために、こんなものが?それに、どうして今、浮上したと言うのか?」

「どちらも、応えるのに必要十分な情報がありませんわね。誰か、その情報をいただければありがたいのですが」


 と、僕の顔をちらちらと見るマリカ中尉。いや、そんな仕事は、艦隊司令官にはないなぁ。どちらかといえば、それは技術士官の仕事だと思うぞ。だが、マリカ中尉の言う通り、これはやはり船ではないだろうか?

 だが少なくとも、僕らの技術では作りようがない船だな。山の中腹から、岩を引っこ抜く。そんな非効率的な船の製造法など、思いつきもしない。

 我々が行なっている最も安上がりな造船法は、宇宙に浮かぶ小惑星を使う方法だ。軍船のほとんどが、この方法で作られている。地上の山なんて削って作っても、それを浮上させるのは至難の業だ。それよりも、最初から浮かんでいるものを使った方が断然効率がいい。

 とにかく僕らの常識からは、あまりにも外れたものばかりだ。それが何のためのものかすら、分からないと来た。これが解明される日は、訪れるのだろうか。

 などと考えているうちに、0001号艦が降りてくる。ズシーンという音を立てて、平らな「甲板」上に着地する。

 しかし、空中に浮いている物体の上に着地など、聞いたことがない。が、今はそんなことを考えている場合ではない。


「全員、搭乗!急げ!」


 この場にいる9人は、大急ぎで搭乗口に向かって走る。人型重機2機も、その場を離れる。


「全員、登場したな!?」

「はっ!9人の搭乗を確認!2機の重機に乗った4人も、離脱を完了!」

「直ちに発進!重機は空中で収容!急げ!」


 目の前のハッチが閉じ、けたたましく機関音が鳴り響く。上昇を見届けると、僕はエレベーターへ急ぐ。


「カズキ!俺は機関室へ行くぜ!」


 途中の階で、レティシアを下ろす。カテリーナとナイン大尉も、砲撃管制室へ向かうため、やはり途中で降りる。上昇するエレベーターの中で、僕はダニエラに尋ねる。


「どうだ?」

「ええ、(わたくし)の神の目は、やはり宙に浮いているあれを捉えてますわ」


 やはりそうだった。ダニエラが感じていたのは、まさに今、宙に浮かんでいるあれだったようだ。

 と、いうことは、やはり何かある。あれはただの浮遊岩などではない。

 ダニエラの神の目は、時折、空に浮かんでいる浮遊岩を捉えられない。僕らから見れば不自然ながら、あれが自然由来なものだからだろう。

 しかし、今浮かんでいるあれは、明らかに人の手が入っているもの。ダニエラが捉えられるのは、当然だ。

 いや、待て。それじゃあ何で宇宙に浮かぶあの岩の艦隊は、捉えられないんだ?あれだって、明らかに人が作ったものじゃないのか?

 ただでさえ謎が多いのに、矛盾まで追求し始めると、収拾がつかないな。まあいい、今はとりあえず、この空中に飛び出したこいつのことだけ考えよう。

 僕は、艦橋に入る。窓の外には、僕らがさっきまでいたあの浮遊した山の一部が見えている。

 珍しく、オオシマ艦長が窓際に立って、あれを眺めている。僕は艦長の横に立つ。


「提督、妙なことを言いますが……」


 と、不意に艦長が口を開いた。


「なんです?」

「あの浮かんだ山の部分ですが……どこか、我々の戦艦に似てるとは思いませんか?」

「戦艦?ええ、確かに……」


 上面に平な面を持ち、下側は無骨な岩肌をむき出しにしている。が、先端部は尖り、まるで船体のようにも見える。

 0001号艦は、その「前側」だと思われる方に向かう。尖った先端部は、切り立った崖のように平らな面が見える。

 あれ?これってまさか、主砲が取り付く場所じゃないだろうな?ますます、戦艦のようだ。それも、大型砲が先端につけられた、ちょうど戦艦キヨスのような旧型のタイプの戦艦のようにも見える。

 だが、我々の戦艦とは違う部分もある。

 僕らが入っていたあの洞窟の部分は、平な上面の上にぽっかり飛び出した小さな山のように見える。いや、山というよりあれは、艦橋だ。

 そして、ここ大穴部分を「前」とした場合の、その艦橋の左側に広がる平な面を見渡すと、戦艦というよりは、空母に見えてくる。

 マリカ中尉も言っていたな。あの広場は、航空機か小型船を収容するための甲板のようだと。実際、0001号艦も着陸したくらいだし、そういう用途に耐えられる構造であることは明白だ。

 だが、何のためのものか、よく分からないな。だいたい何で空母なんだ?

 それを言い出したら、あの岩の艦隊も攻撃能力を備え、実際に我々、第8艦隊と砲撃戦も行った。戦闘目的の未知の物体はすでにあるのだから、これも戦闘目的の何かであってもおかしくはない。

 うーん、何なのだろうな、ほんとに。


「提督、どうします?これの後方も見ておきましょうか?」

「そうですね……何かあるかもしれませんし」


 オオシマ艦長の進言を受け、この「空母」っぽい何かの後方に回り込む。やはりというか、そこにはまさに、それがあった。

 おそらく、噴出口だ。6つの四角い大きな穴が、上下2列に並んで存在する。

 やっぱりこいつ、空中船だ。それもおそらく、戦闘艦だろう。前方の主砲台座に、上部甲板、そして6つの噴出口。

 砲と機関までがついているかどうかは分からないが、ともかくこれが、誰かが作った人工物であることは確認できた。

 その大きさも、測定してみる。全長は3200メートルと、我々の戦艦と比べると、やや小ぶりだ。上部にはまだ、岩石の一部が乗っているものの、それを取り払えば2000メートル以上の甲板が現れると推測される。

 しばらく、その浮き上がった山の周りを周回するが、特にそれ以上、得られるものはない。そして一路、皇都へと向かう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 原初の人達は岩で宇宙船を作ったということ? そんな非効率な…、と思ったがそういう人種に心当たりがあります。ガレキや模型改造をする人達の中に、あえて面倒なことする人種がいるじゃないですか! …
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